1.はじめに
国土交通省では、実態調査等に基づき、必要に応じて直轄土木工事に適用する積算基準等を改定している。今般、令和5年度から適用する新基準等として、時間外労働規制の適用への対応や円滑な施工体制の確保など、現場実態を踏まえた各種改定を行った。本稿では、これらの主な基準改定の概要を紹介する。
2.時間外労働規制の適用への対応
(1)週休2日の「質の向上」に向けた施策パッケージ
令和6年4月の改正労働基準法適用に向け、これまで取り組んできた直轄土木工事における週休2日モデル工事の実施率は90%超に到達した。
今後は、月単位での週休2日の確保など、休日の「質の向上」に向けた施策をパッケージで推進する。
具体的な施策パッケージの内容は、以下の通りである。
① 週休2日を標準とした取組への移行【令和5年度から適用】(図1 )
共通仕様書、監督・検査等の基準類を、週休2日を標準とした内容に改正した。
② 工期設定のさらなる適正化【令和5年度から適用】(図2 )
天候等による作業不能日や猛暑日等を適正に工期に見込めるよう、工期設定指針等を改正した。
③ 柔軟な休日の設定【令和5年度に一部工事で試行】
出水期前や供用前など閉所型での週休2日が困難となった場合に、工期の一部を交替制に途中変更できるようにする工事を、一部で試行する。
④ 経費補正の修正【令和5年度に検討】
月単位での週休2日工事で実際に要した費用を調査し、現行に代わる新たな補正措置を立案できないか検討する。なお、令和5年度は現行の補正係数を継続する。
⑤ 他の公共発注者と連携した一斉閉所の取組を拡大【令和5年度から実施】(図3 )
各地域の発注者協議会等を通じて、他の公共発注者と連携した一斉閉所の取組を促進する。上述と併せて、直轄事務所と労働基準監督署との連絡調整の強化を図る。
これらの取組を進めることで、令和5年度は、月単位の週休2日への移行期間と位置づけたうえで、全ての工事を発注者指定で週休2日工事(閉所型・交替制のいずれか)を実施するとともに、令和6年度以降、月単位での週休2日の実現を目指す(図4 )。
(2) 時間外労働規制の適用に向けた工事積算等の適正化(図5 )
朝礼や準備体操、後片付け等の実態を把握し、標準的な時間を分析する等により、標準歩掛等に反映した。
来年度以降も、実態調査結果を基に、順次、実態を標準歩掛に適切に反映するとともに、移動時間を考慮した積算にするための方法を多角的に検討する予定である。
(3) 工事積算における熱中症対策の充実
前述の通り、猛暑日を考慮した工期設定となるよう、「工期設定指針」を改定した。
また、官積算で見込んでいる以上に猛暑日が確認され、かつ、作業を休止せざるを得なかった場合には、工期延長日数に応じて精算することとした。
3.円滑な施工体制の確保
(1) 大規模災害の被災地における復興係数・復興歩掛(図6 )
平成23年東日本大震災(岩手・宮城・福島県内)、平成28年熊本地震(熊本県内)、平成30年西日本豪雨(広島県内)の被災地では、工事に必要な資材等の不足や作業効率の低下が発生していた。
このため、実態調査結果等に基づき、一部数値を見直した上で、歩掛の日当り標準作業量を補正するとともに(復興歩掛)、間接工事費(共通仮設費、現場管理費)を補正する措置(復興係数)を継続することとした。
(2) 総価契約単価合意方式(後工事の間接費の調整について)(図7 )
前工事契約後、後工事契約までに間接費(共通仮設費、現場管理費、一般管理費等)の率式を改定した場合に対応するため、それらを反映する「調整率」を新たに導入した。
4.共通仕様書等の改定
土木工事共通仕様書、施工管理基準、電気通信設備工事共通仕様書について、改正された各種基準類との整合を図るとともに、ICT 技術の全面的な活用を推進するため、一部改定した。
また、前述の通り、「施工計画書」「工事完成検査」「既済部分検査」等の各段階において、週休2日の取組状況を確認することを新たに規定した。
5.その他の現場実態を踏まえた改定
(1) ICT 施工における積算基準の当面の運用(図8 )
地域を地盤とする企業でのICT 施工の取組が拡大しているほか、3次元データを活用した設計・施工の内製化も進んできた。
このため、3次元出来形管理、3次元データ納品等の経費については、より実態に即した積算となるよう、当面、補正係数により算出される金額と見積りとを比較し、適切に費用を計上する運用とした。
(2) 鋼橋製作工関係(図9 )
鋼橋製作工の歩掛、副資材費について、製作現場の実態を踏まえ、改定した。また、桁輸送費について、燃料費などの輸送費用の実態を踏まえ、改定した。
6.おわりに
災害が頻発化・激甚化する中で、国民の安全・安心の確保を担う建設業の役割は増加している。建設業で働く人が希望を持つことができ、責任を持って活躍できる仕事とするためにも、また、持続可能な建設産業を実現するためにも、建設業の働き方改革や円滑な施工体制の確保などの取組を進める必要がある。
そのうえで、発注者の責務として、実態を的確に反映した積算を行うこと等を通して、建設産業の魅力を一層高め、夢が広がり、若い人に選ばれる新3K(給与が良く、休暇が取れ、希望が持てる)に「かっこいい」が加わった建設業を目指していく所存である。