建設物価調査会

官民連携で、土木は地域のワン・チーム!

官民連携で、土木は地域のワン・チーム!

~「藤枝どぼくらぶ」の取り組み~

静岡県藤枝市 都市建設部基盤整備局
働き方改革プロジェクトチーム





〇 藤枝市の紹介

 藤枝市は、県庁所在地静岡市から西へ約20キロメートルの静岡県のほぼ中央に位置しており、北は南アルプスを望む赤石山系の森林地帯から、南は江戸時代「越すに越されぬ」と言われた一級河川大井川まで、東西16キロメートル、南北22キロメートルに広がる豊かな自然に恵まれた、歴史と文化の香りあふれる、人口約14万1千人のまちです。

 江戸時代から東海道五十三次の21・22番目の宿場町「岡部宿」「藤枝宿」として本陣や多くの旅籠が設けられ、東海道の交通の要衝であったことから、政治・経済の拠点、教育の中心でもありました。現在もJR 東海道本線、新幹線、国道1号バイパス、東名高速道路、新東名高速道路といった日本の大動脈が走っています。また、2009年6月に開港した富士山静岡空港へのアクセスも充実し、交通の要衝として発展しています。

 藤枝市を一言で表すと「ほどよく、都会。ほどよく、田舎。」コンパクトシティを目指す中心市街地の賑わいと自然豊かな中山間地域が調和する魅力あふれるまちです。令和元年度には、JR 藤枝駅周辺の中心市街地における官民連携によるまちづくりが評価され、第1回コンパクトなまちづくり大賞(総合戦略部門)で最高賞の国土交通大臣賞を受賞しています。

 藤枝市の特産品には、市内にある4つの地酒(酒蔵)や日本三大玉露の産地の一つでもあり古くから発展してきたお茶があります。また、朝一番の茶仕事を済ませた藤枝人が食べたことから生まれた“朝ラーメン文化” も有名で、市内には朝から営業しているラーメン店が多数あり、あっさりスープの温と冷のラーメンを朝から食べることが通とされています。

 また、「サッカーのまち」としても知られており、この起源は大正時代に現在の藤枝東高校が校技としてサッカーを取り入れたことに始まり、今年J2に昇格した藤枝MYFC などが活躍を見せており、これまでに元日本代表主将の長谷部誠選手など多数の優秀な人材を輩出しています。このため、市民のサッカーへの関心も非常に高く、スポーツの枠を超えた市の文化として根付いています。

 藤枝市は2024年にサッカーのまち100周年とともに、市制70周年を迎えます。

藤枝市の位置






〇 土木建設業の人手不足、市町村土木職員の現状について

 いま全国的に土木建設業の人材不足は深刻なものとなっており、本市においても就業者数は年々減少傾向にあります。

 国や地方公共団体も同様で、役所は待っていれば採用候補者が集まるというのは、ひと昔前の話となっています。藤枝市においても土木技術職員の不足は喫緊の課題であり、特に職場の中心的存在として、後輩の指導や育成にも重要な役割を担う中堅職員~係長職(30代~40代前半)が全体の1割程度と非常に少ない状況にあり、若手職員への指導・育成に手が回らない状況やコミュニケーション不足を生み出し、結果的に業務が滞るという悪循環に陥りつつあります。

 土木建設業や市町村の土木技術職員は、地域インフラの整備やメンテナンスを行い、都市の未来を創造するだけでなく、災害時には地域の最前線で住民の安全・安心の確保を担い、暮らしや地域経済の基盤を支える重要な役割を担っており、土木技術者が減少し続ければ土木建設業の将来やまちづくりに大きな影響が出かねない状況となっています。

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〇 藤枝市の人財確保の取り組み“働き方改革とドボカフェ”

 将来への強い危機感を抱いた本市の都市建設部・基盤整備局は若手の提案に基づき、人財の確保と育成、土木技術の継承に向け、まずは技術職員の働き方を改革し職場の魅力をアップしようと、平成30年度に「働き方改革プロジェクトチーム(以下、「PT」という)」を立ち上げました。PTは職員自らが職場環境などの改善を図るため、まず初めに職員(特に、若手職員)の意見を聴くことから始めることにしました。

そこで、若手職員に思っていることを率直に発言してもらうため、市役所庁舎内の会議室ではなく、職場とは違う環境でリラックスしながら話し合う場として、「ドボカフェ(=土木+カフェ)」を開催し、ここでの意見をベースに改革方針を定め、改善の取り組みに着手しました。

 「ドボカフェ」では若手に加え、部・局のトップである部・局長も参加し、職員の率直な意見を聴いて、対話を深めました。発言者に否定的なことを言わないとのルールを設け、職員の本音を聞き出すなか、部・課を越えて技術職員、上司を交えたコミュニケーションの場として非常に有効なものとなっています。

この「ドボカフェ」では今の職場環境を振り返り、理想の職場を冷静に思い描くことで課題が抽出され、それが自らの業務や職場環境を見直すきっかけとなり、改善提案は職員だけでなく職場や組織の活性化、ひいては本市土木行政の成長にもつながる起爆剤となると考えています。これまでに技術職員のオフィス環境の改善や非効率な業務の見直しなど、約30件の取り組みを実施し、改善効果を職員が肌で感じられるようになってきました。

ドボカフェ



 

〇 藤枝市の人財確保の取り組み“藤枝どぼくらぶ”

 市役所内では働き方改革の取り組みは活発になってきましたが、土木技術の担い手確保や継承という課題の解決にはなかなか至りませんでした。

 休暇が取りにくい、長時間労働が続く、時には危険も伴うなど、他の産業に比べて厳しい労働環境のイメージが強く、業界の技術者全体が高齢化する中、若者の土木離れが進行しています。行政としても、適正な公共施設の維持管理、改修や災害復旧などを進めるには、着実な将来の担い手確保と育成が急務となっています。しかし、官民がバラバラに取り組んでも効果は限定的であるため、市内建設業者と連携して土木建設業界全体を盛り上げる必要があると考えました。

 そこでPT は、地域の民間企業とともに業界全体として対策を講じ、官民連携による業界のイメージアップを推進するプラットフォームとして「藤枝どぼくらぶ」を2022年11月18日の“土木の日”に発足させました。発足に際しては、建設業だけではなく、市民にも親しみや愛着を持ってもらえるよう、「藤枝どぼくらぶ」のロゴマークを市民投票により決めました。

 「藤枝どぼくらぶ」は、官民の垣根を越えた土木建設業のワン・チームとして、一体的、戦略的な広報と連携による多様な事業を展開するとともに、人財を確保し丁寧に育てることで持続可能な「土木技術立市」の実現をもくろんでいます。活動の3つの柱には、①戦略的な広報・PR、②担い手の確保・育成、③建設産業のイメージアップを掲げ、具体的には、市内の若者・子供たちに土木の仕事と魅力を伝える、地域社会の啓発とつながりの担い手をつくる、建設産業の情報を広く発信し業界イメージを変えることです。

 「藤枝どぼくらぶ」は、国や県をはじめ、地域に近い基礎自治体の強みを活かし、小学校・中学校などの教育機関、地域経済を支える団体等と密接に連携しながら事業を展開していきます。



発足式



連携イメージ
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〇 藤枝どぼくらぶの取り組み“まちづくり講座”

 藤枝どぼくらぶの発足から間もなく、進路選択前の若い世代に土木技術の大切さや仕事の魅力を伝えるため、市内の小学校・中学校を対象に「まちづくり講座」と題した出前講座を開催しました。市内の2校で講座と現場見学会を実施し、2日間で小学6年生79名、中学1年生87名が参加しました。

 講座では国土交通省中部地方整備局静岡国道事務所、静岡県、市内測量設計会社と連携し、トンネルの仕組みの解説や実験、測量機器やドローン等を用いた測量体験、インフラの重要性と魅力の説明など分かりやすい内容としました。講座では、真剣な眼差しで話を聞く子供たちの姿がありました。特に、トンネルの実験やドローンの操作体験では子供たちは大変興味を持ち、目を輝かせていました。

 現場見学会では、静岡国道事務所の「国道1号藤枝バイパス4車線化事業」や藤枝市の「藤枝総合運動公園サッカー場改修工事」を見学し、普段立ち入ることのできない建設現場を体感しました。現場で働く建設会社の担当者からは、事業の説明や土木建設業の仕事の魅力ややりがいを伝え、仕事体験として、ボルトの締め付け作業も体験してもらいました。

 参加した子供たちからは、「すごく勉強になった」「とても興味が湧いた」「将来、絶対にこの仕事に就きたい!」など、希望に満ち溢れた感想が多く寄せられ、中には、「絶対にここで仕事をするから!」と言って、現場監督と握手をしていた子供もいました。

 子供たちからは、後日、お礼の手紙や「将来住みたいまち」をイメージした絵などが届き、メンバーも大いに感銘を受けました。子供たちが“想像” する「将来住みたいまち」は、自由な発想と希望に満ち溢れるものばかりでしたが、描いてくれた子供たちが将来、“創造” する側にいたいと思ってくれれば嬉しいかぎりです。進路を考える前の世代をターゲットに土木建設業の魅力ややりがいを伝える啓発活動を行うことは、大きな意義と手応えがあり、また、子供たちだけではなく、応援してくれる保護者や周りの大人たちも巻き込んでいくことが重要であると考えています。

まちづくり講座





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〇 今後の展望

 藤枝どぼくらぶの取り組みは、まだ始まったばかりです。土木への誇りと愛着を持った仲間たちを増やす活動として、引き続き小・中学生を対象としたまちづくり講座等の事業を進めるとともに、県との連携や女性技術職員の交流会など、新たな企画も実施していきます。戦略的に活動の幅を広げながら土木の魅力と重要性を地域の内外に発信し、オール藤枝で盛り上げていきます。

 土木建設業の人手をどのように確保していくか。本市のような地方都市では、地域の強みを活かしてできることがあるはずと考えており、地方だから、土木だからできることもあるはずです。外から人を呼び込むことも重要ですが、まずは地域の総力で地域の中で人財を育てること、そして、それが“まち” を成長させることにもつながると考えます。そのためには、わがまちへの愛着やシビックプライドを醸成させ、“自分たちのまちをつくる”、“インフラをまもる” という意識を育むことが重要です。

 取り組みは未来への種まきの段階ですが、活動が豊かに実を結び、次々に新たな花を咲かせてくれるものとメンバーは確信しています。

記念フラッグ
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建設物価2023年9月号

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