建設物価調査会

鉄スクラップリサイクルの現状と課題(2023年版)

鉄スクラップリサイクルの現状と課題(2023年版)


株式会社鉄リサイクリング・リサーチ 林誠一


22年の鉄鋼生産は,コロナ禍からの回復途上にあるものの,2月のロシアのウクライナ侵攻により,EU,CIS 諸国主体に世界に影響を与えた。
 一方,50年カーボンニュートラル(CN)を目標とする動きは少しづつだが,具体的な取り組みが発表されてきた。製鋼原料となる鉄スクラップ使用の現状と課題について世界,東アジア3ヵ国,日本について述べる。


1.世界

 

(1)22年の粗鋼生産

 世界の粗鋼生産は18億8,500万tとなり,史上最高を記録した前年を4%下回った。しかし近代製鉄が始まった1870年から152年間の推移を見ると,中国が牽引する③の急成長期にあることに大きな変化は起きていない(図表1)。

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 国(地域)別では,中国は10億1,300万tとなり,前年比2.1%減に留まった。世界シェアは53.9%となり約1%ポイント上昇した。他はインド5.5%増を除いてほとんどの国々で前年を下回った(図表2)。インドは2018年に日本を抜いて世界第2位の位置にあり,インド鉄鋼省は人口の増大に合わせて2027年には粗鋼生産能力に3億tが必要と計画している。

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(2)製鋼法別にみた特徴

 鉄鋼生産は鉄鉱石を原料とする高炉―転炉法と鉄スクラップを主原料とする電炉法が主力であり,22年の世界の生産構成は転炉法71.5%,電炉法28.2%,その他に平炉0.3%がある。最大生産国中国は,高炉―転炉法が90.5%を示しているため,中国を除いて世界全体を集計し直すと,高炉―転炉法は49.2%,電炉法50.1%となり,初めて電炉法が転炉法を上回った。2000年当初では電炉法は37%だったので,過去22年で13%ポイント増加した(図表3)。電炉法は高炉―転炉法に比べて付帯設備が少なくて済み,かつ生産鋼材はインフラ整備に必要な条鋼類が主となることから,発展途上国を中心に発展してきた。今後はCN 対策で先進国の電炉化が進むことから,なおシェア増大の方向に進むと予想される。

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(3)鉄スクラップ使用量ー鉄源の31%ー

 18億8,500万tの粗鋼生産に使用された鉄スクラップは6億4,700万tと推定される。鉄源には他に銑鉄,還元鉄(DRI)が使用されており,スクラップの使用率は31%である(図表4)。

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前年の32%と比べ大きな変更は起きていない。一方,還元鉄は拡大方向にあり,22年の生産量は前年比5%増の1億2,510万tとなった。2年連続して過去最高を更新した。世界では還元鉄に注目が集まっている。

(4)鉄スクラップの使用品種

 鉄スクラップを発生3形態別に分けると,1970年代までは,鉄鋼工場で発生するリターン屑(=所内くず)が60%近くを占めていたが,徐々にその割合は減少し90年代以降,老廃スクラップの使用比率が増加してきている。22年ではリターン屑14.6%,製造業で発生する加工スクラップ28.5%,様々な鋼構造物が更新期を迎えて錆化した老廃スクラップは57%と推計され,過去60年でリターン屑と老廃スクラップの使用割合が入れ替わった(図表5,6)。

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老廃スクラップは非鉄など付帯物が多く,形状もさまざまなスクラップであり,溶解段階では,中間処理が必要なスクラップである。いわば使いにくいスクラップの使用割合が世界的に増加してきている点に注目したい。

(5)世界の鉄鋼備蓄量推計

 使用中を含む全てを鉄換算した「鉄鋼蓄積量」(=鉄鋼ストック量)は,社会に排出された鉄鋼製品からその年に鉄スクラップとして使用されたものを引いたフロー値を累計することで求めている。データがアベイラブルな1870年を起点にすると22年末は356.5億tと推計される。
 蓄積量は老廃スクラップ発生の原資と見なされ,前出の老廃スクラップ使用量を分子にした回収率は1.0%と算定される。長期の発生見通しを展望する上で指標としている。
 22年のフロー蓄積量増分は12億1,560万tであり,2012年以降毎年10億t台の増加が続いている。堅調な増加は中国の生産に支えられており,中国内には11億t近く(世界の1/3)が蓄積されていると推計される。しかし生産がキャッチup した2005年以降の蓄積分が全体の80%近くを占めることから,鉄鋼製品の平均耐用年数から推察して,本格的な屑化は2040年前後から始まると予想される。

(6)鉄スクラップ貿易

 22年の世界の鉄スクラップ貿易量は9,800万tだった。中国が内需不振で生産したビレットを海外に輸出した2015年~16年に8,000万t際まで落ち込んだことがあったが,2000年後半よりほぼ1億t前後で推移している。
 国(地域)別では,先進製鉄国から発展途上国へ流通し,その形態は鉄鉱石がオーストラリア等の産地から先進製鉄国へ流通しているのに対して,薄板の世界流通と似ている。22年の最大輸出国はアメリカ1,750万tであり,日本630万tがこれに続く。EU28は4,350万tだが,域内流通が主体である。
 一方,最大輸入国はトルコであり,22年は2,110万tを世界から輸入した。2位に韓国470万tが挙げられる(図表7)。

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過去を辿ると輸出国アメリカ,輸入国トルコの位置に変わりは起きていない。しかし,長期では輸出側に所属する先進製鉄国でカーボンニュートラルを目指して自国の電炉化が促進されることから,供給ソースや世界流通量に変化が起きる可能性がある。

(7)輸入地域に高炉建設の計画

 世界の主要鉄スクラップ輸入地域であるASEAN に,中国系を主とする新高炉建設の動きが起きてきている。現在判っているだけで,6ヵ国15カ所,合計生産能力は約1,000万tに及び,概ねは2027年稼働を目指す(図表8)。

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中国は生産した半製品(ビレットなど)を自国へ輸出し,自国で圧延して内需に対応させるとしているが,ASEAN 周辺国への流通も予想されよう。その結果,周辺地域の電炉生産を抑制し,スクラップ輸入の縮小に繋がる。また,日本の高炉メーカーの主要な鋼板市場となっていることも影響を与えるだろう。東南アジア鉄鋼協会は,設備能力過剰とCO2発生増を問題としている。

(8)世界の鉄鋼需要

 23年4月世界鉄鋼協会が行った直近の需要予測では,21年は新型コロナウイルスの影響受けた前年から回復を見せたが,コロナ以前の水準には至らなかった。22年はロシアのウクライナ侵攻の影響が加わり,世界全体が低迷した。23年は進攻の継続や,原料高など不透明部分多いが,ASEAN地域の回複を見込んで2.3%増と予測している(図表9)。

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2.東アジア3ヵ国

 スクラップ需給の現状について近隣の中国,韓国,台湾3ヵ国について述べる。この3ヵ国は日本のスクラップ輸出向先の主力となっているが,近年では変化が起きている。

(1)中国

 1)鉄鋼生産

 22年の粗鋼生産は10億1,800万tとなり,昨年に引き続き前年を下回った。生産量は20年をピークに減少方向にある。内需を維持し,鋼材輸出を抑制する政策が採られている。鉄鋼業は鋼材市況低迷,不動産需要不振などから,業績悪化が続いており,電炉生産拡大の実施に繋がっていかない。電炉比率も9.7%と伸び悩み状況となっている。
 23年1-6月累計は前年同期比1.3%増だが,年全体では微減が予想されている( 図表10)。

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 2)スクラップ需給

 中国廃鋼鉄応用協会は,10億1,800万tの粗鋼生産に2億1,800万tのスクラップが使用され,輸入くずは56万t,輸出は2,000t 程度であり,スクラップ自給率は99.7%であると発表した。市中スクラップの加工,老廃の区別はデータとしてない。また蓄積量は21年末100.5億tに対する老廃スクラップ回収率は1.1%(日本は1.6%)である(図表11)。

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 政府は今後の発生増加に備えて更なる加工処理技術の高度化や精緻な管理が必要としており,扱い規模の大型化も進められている。
 21年1月に再開された,「再生鋼鉄原料」に限る鉄スクラップ輸入量の22年は55.9万tであり前年とほとんど変わっていない。うち日本のシェアは63%である。23年はやや増加の60万t程度が見込まれている(図表12)。国としては,高級くずに限る現在の方針を緩和し,輸入量を高める動きがある。

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韓国

 1)粗鋼生産

 22年粗鋼生産は6,590万tとなり,前年より6.5%減少した。電炉シェア31.5%は前年とほとんど変わっていない。内需は建設主体に需要減が持続している。23年も回復方向になく6,510万tと予測している(図表13)。

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 2)スクラップ需給

 22年の粗鋼生産6,590万tに使用したスクラップは2,680万tだった。輸入470万tを除く自給率は83.4%である。うち市中くずは1,730万t使用した。加工,老廃の区別ないため,日本と同様に3対7で想定すると,21年末蓄積量7億9,600万tに対する老廃スクラップ回収率は,1.7%となり,ほぼ日本と同率となる。
 22年のスクラップ輸入量は470万tとなり,うち日本は66.8%を占める。鉄鋼蓄積は順調に増加中であり,スクラップの自給率は堅調に増加していると推察される。
 カーボンニュートラル実現のため,高炉メーカーの一部電炉化が計画されており,蓄積増による老廃くず発生増は輸出ドライブとなるのでなく,国内高炉の新規電炉に使用すると表明している。スクラップの供給体制などの改革が進行中である(図表14,15)。

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台湾

 1)粗鋼生産

 22年粗鋼生産は2,080万t(前年比10.5%減)。転炉11.8%減, 電炉8.5%減。輸出比率の高い転炉の減少率が大きい。電炉シェアは40.3%。16年35.8%から徐々に増加方向にある。23年1-6月の粗鋼生産は前年同期比10.5%減で推移しており,23年は更に22年を下回る可能性高い(図表16)。

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 2)スクラップ需給

 22年のスクラップ消費量は1,010万t だった。輸入290万t を除く自給率は68%であり,未だ輸入が必要な国と推察される。 市中くず使用量は570万t と推計され, 別に推計した蓄積量約4億tに対する回収率は1.6%である(図表17)。

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 日本のスクラップ輸入シェアは,20年に米国コンテナ輸送費が高謄して30%まで増加したが,21年は19%に戻り,22年は20%である(図表18)。

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 台湾は高雄1号高炉を150万t電炉に転換し30年稼働を目標にするが,品位面からも輸入は当分必要と推察される。



3.日本

 1)粗鋼生産

 22年(暦年)の粗鋼生産は8,923万tとなり前年に比べ7.4%下回った。製鋼法別は転炉-9.1%,電炉-2.3%となり,転炉は輸出不振や自動車部品調達等内需減の影響受け落ち込みが電炉より大きかった。電炉シェアは前年の25.3%から26.7%となり,徐々に増加してきている。23年1-6月累計は4.7%減であり,下期に回復が期待されているがロシアのウクライナ侵攻継続や,原料価格高により不透明部分多く,年計は22年と同様程度と見込まれる(図表19)。

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 2)スクラップ需給

 製鋼に使われた22年のスクラップは3,275万tであり,自給率は99.7%である。日本は90年代央に輸出国に転じており輸入は殆どない。
 21年3月末の鉄鋼蓄積量は14.1億tと推計されており,老廃スクラップ回収率は1.8%である。前年の1.66%から少し回複した。マクロの経済環境や価格改善が背景にあると推察する(図表20)。

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製鋼用に使用されている鉄スクラップの品種別を日本鉄源協会の「鉄源流通量調査」により分析すると,20年前と比べてヘビーくずが全体の60%前後とあまり変わりは起きていないが,このうちH3,H4等の下級くずの占める割合が12%から20%へ増加してきている。国内の鉄鋼需要が,インフラ整備のための重厚長大系の鋼材使用から,家電や情報通信機器などの薄板類を主とする軽薄短小系鋼材にかわってきていることを反映していると推察される(図表21)。

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 3)スクラップ輸出入

 22年のスクラップ輸出は630万tとなり前年を約100万t低下した。内需回復により輸出が抑制されたと推察される。日本は永い間スクラップ輸入国だったが,現状の輸入量は10万t程度であり殆どない。
 輸出向け先は,韓国50 %,中国5.7 %,台湾10%であり,東アジア3ヵ国計は65%だった。
 2010年当時は98%であり,近隣3ヵ国市場への依存が高かったが,その後各国で自給化が進み,遠隔地化,多様化が進んでいる。今後も更なる競争力確保をめざし石狩港で大型船着岸のためのハード面の整備に着手している(図表22,23)。

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 4)中間処理内容と設備

 市中スクラップは,建物の解体や老朽化した機械類,使用済み自動車,家電類などが回収されて,中間処理を行うためにスクラップ事業者に持ち込まれる。中間処理には,サイジングを行うギロチンシャー,使用済み鋼板製品を拳大に破砕するシュレッダー,缶などを箱状に固めるプレス,大型プラント物のガス切断の4種類の設備があり,150年の歴史のなかで社会の発達とともに,ガス溶断→プレス→ギロチンシャー→シュレッダーの順に発展してきた。これらは主に製鋼時の溶解効率を上げることが目的であり,現状ではギロチンシャーは全国に1,530基(県あたり33基),シュレッダーは243基(同5基)存在し,中間処理の主力となっている(図表24)。ギロチンシャーでサイジングされたスクラップはヘビー屑,シュレッダーではシュレッダースクラップと製品名がついて流通する。

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しかし一定の係数により平均稼働率を試算すると,ギロチンシャーは50%前後,シュレッダーは45%前後と算定され,いずれも出荷量の倍以上の設備過剰である。また,後継者難や発生するダストの処分費,輸送費などの課題に加え,最近では中国系業者が参入し,集荷過当競争も起きている。騒音や火災問題など地域の安全性を脅かす事から,千葉県や市では条例を制定する動きが起きている。
 建物配線や廃自動車に含まれる小型モーターなど鉄スクラップに付帯したままの銅等の非鉄は,製鋼や鋼材を圧延する上で不純成分となっており,JIS でも一部が規定されている。
 カーボンニュートラルをめざして,高炉メーカーの新電炉や転炉でスクラップを使用する場合,製鋼側の技術開発も検討されているが,供給サイドの中間処理段階での選別強化(使いやすいスクラップの供給)も今後重要性が増してこよう。





 


建設物価2023年10月号

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