建設物価調査会

【前編】教育機関とスモールファーム向けBIMプラットフォームのコストマネジメントシステムの概念設計と実装

【前編】教育機関とスモールファーム向けBIMプラットフォームのコストマネジメントシステムの概念設計と実装

工学院大学建築学部・教授    遠藤 和義
工学院大学建築学部・教授    岩村 雅人
工学院大学建築学部・非常勤講師 尾門 智志



下記については、本記事の【後編】をご覧ください
3.BIM を用いた基本設計の初期段階におけるCO2排出量削減とコストマネジメント
4.本研究チームの所属大学における教育での試行
5.研究の総括




1.研究の背景と目的

 BIM 元年と言われた2009年から10年以上経過したが、わが国におけるBIM(Building InformationModeling)の普及、取り組みの状況は諸外国に遅れをとり、その生産性向上等の導入効果が建築界全体に認識されているとは言い難い。そうした状況を踏まえ、2019年には国土交通省が「建築BIM 推進会議」を設置し、建物のライフサイクル全体にBIM を活用する提言も示された。

また、普及に向けた制約の一つである生産システムの前線に位置する小規模設計事務所、中小建設業、専門工事業者等のスモールファームを対象とした「中小事業者BIM 試行型」の提案募集も行われている。

 こうした動向に対応して、大学等高等教育機関においても、BIM の本質を理解し、BIM をプラットフォームとした生産システム全体の協働をマネジメントする能力の開発、教育が求められる。しかし、予備的な調査によれば、この先端技術に対応した教育の定型は未整備で、本格的な技術習得の機会は、この分野で先端を走る企業への入社を起点とせざるを得ず、先行する企業とそうでない企業との格差が広がり、それが生産システム全体への普及の足かせになるという構造的問題を抱えている。

 本研究では、建築学とくに助成申請者が専門とする積算、コストマネジメントの教育に対して、BIM の実践的プラットフォームを導入したコストマネジメント教育の標準的カリキュラムを確立し、BIM ソフトと積算・工程管理等の連携ソフトを用いてマネジメントプロセスの実体験を可能とする。さらにこのBIM 実践的プラットフォームは、大学教育での試行を経たのち、スモールファームや社会に向けて適宜公開する予定である。



2. BIM を用いた基本設計の初期段階における工期とコストマネジメント

(1)本章の背景

 現在、建築プロジェクトの複雑、高度化に対応して、クライアントは設計者に基本設計の初期段階から、その与条件を基にした確度の高い工事費の概算(以降、概算)と工期を求める。

 基本設計の初期段階では、敷地条件、建物用途、グレード、床面積、階数、構造種別等の検討を行なう。概算と工期の検討に必要なパラメータは、建物のボリュームに加えて、各部位の仕様、数量が当然影響し、その精度には一定の限界がある。概算、工期算出のために各部位について仮に設定するにしても、数量算出に必要な検討項目が多く、それに要する手間や時間を考慮すると、基本設計初期段階の検討フローに組み込む事は困難である。

 こうした課題に対し、本研究の成果である既往研究1)において、基本設計の初期段階から、各部位のモデリングを包含することが可能となるBIM を導入し、工期算出について建物の各部位に関する検討を導入する可能性や具体的な手法の研究に取り組んだ。

 BIM におけるオブジェクトの考え方は、コストや生産プロセスの検討に馴染む建築構法、BE(Building Element)の分類に基づいており、各部位の数量を簡便に出力可能である。 本研究では、それによって得られた数量をプロジェクトマネジメントツールに連携する一連の手法を示した。

(2)本章の目的

 本章では、既往研究1)の成果を拡張し、仮設計画を考慮したより確度の高い工程計画の手法と、数量と刊行物単価の紐づけにより、確度の高い概算手法を明らかにする。

 具体的にはBIM ソフトとして、Autodesk 社のAutodesk Revit2022(以降Revit とする)を用い、同ソフトに同包されたビジュアルプログラミングツールDynamo を用いて、仮設足場と山留計画の自動化を図る。得られた数量をRevit と連携するTrimble 社のVICO office(以降VICOとする)を用い、仮設工程の検討を行なう。

(3)BIM モデルの概要
a)設計ステージ
 本章では、既往研究1)を継承し、基本設計の初期段階に相当する図−1に示すBIM モデルを作成した。

b)対象建物の概要
 本章に用いるサンプル建物は、実際の計画建物を基とした都心の狭小敷地における、地上5階建て、鉄筋コンクリート造のオフィスビルとした。建物の概要を表−1に示す。

図−1 対象建物のBIM モデル
表−1 対象建物の概要


 

(4)仮設足場概略の自動化
a)実務家へのヒアリング
 仮設足場工事における留意事項と概略の自動化フロー構築のため、実務家へのヒアリングを実施した。結果を以下に示す。

① 枠組み足場の製品規格が定められている
② 労働安全衛生法における基準に則して計画する
③ 仮設階段の配置にあたって、作業上支障のない位置に配置する
④ 足場は建物形状に沿うように配置し、施工上必要な建物とのクリアランスは一般的に300mm 程度としている

b)ファミリの作成
 仮設計画について、本章では枠組み足場について検討を行った。枠組み足場の構成部材を3つに分類し、ユニット化したものを、図−2に示すファミリとして作成した。
 
 枠組み足場ファミリは、建枠部材の重複を防ぐため、門型タイプとL型タイプに分類した。枠組み足場ファミリには図−3に示すタイプパラメータを設定し、製品の規格サイズごとにタイプを分類した。

図−2 枠組み足場ファミリ
図−3 枠組み足場ファミリのタイプパラメータ
(クリックで拡大)

c)Dynamo によるファミリの配置
 Dynamo を用いて、枠組み足場ファミリを建物外形に沿うよう自動的に配置した。Dynamo の処理の概略手順は以下となる。

① 壁カテゴリのオブジェクトを指定
② 壁の中心線を読み込む
③ 壁の中心線をオフセットし施工上必要な建物とのクリアランスを確保したラインを生成
④ 製品サイズにより配置点を割付
⑤ ファミリを配置

 本章に用いたサンプル建物は、都心の狭小敷地であり、施工者への受け渡しの段階において、足場や搬入計画との擦り合わせに窮する事も起こり得る条件である。具体的な仮設計画が、基本計画段階から視覚化されることで、建築生産システムの一貫性を高めるものにもつながる。

図−4 枠組み足場を自動的に配置するDynamo
図−5 足場モデルを配置した結果


d)数量の算出
 枠組み足場ファミリの数量算出を、Revit の初期機能である集計表により行った。数量はファミリ単位で集計し、ユニット部材数量を把握した。集計表の作成において抽出したパラメータは、初期値のファミリタイプ名と数量とし、枠組み足場ファミリに面積パラメータを付加した。これは、本章(6)にて概略工期を算出する際に用いる根拠数量となるため算出した。

図−6 枠組み足場ファミリの集計表


(5)山留計画概略の自動化
a)ファミリの作成
 本章では、親杭横矢板工法について検討を行った。サンプル建物は地階を有さず、掘削深さも比較的浅いため、山留は土留壁のみでの検討とした。
 親杭横矢板工法を構成するファミリは、ワンスパンの親杭と横矢板をひとつのユニットとして扱い作成した。
 
b)部材サイズの検討
 横矢板の板厚について、板厚パラメータ及び検討に必要なパラメータを付加し、それらに計算式を設定し、検討を行った。
 従来は、計算を伴う検討と図面による検討は異なるツールを用いて行っていたが、Revit モデルに情報を集約し、管理することで、検討経過や検討根拠を一元管理することができる。

図−7 親杭横矢板ファミリ
図−8 親杭横矢板ファミリのパラメータ
(クリックで拡大)


c)Dynamo によるファミリの配置
 Dynamo を用いて、親杭横矢板ファミリを根切り面に沿うよう、自動的に配置した。Dynamo の処理の概略手順は以下となる。
① 根切り底面を指定
② 根切り外形形状を読み込む
③ 横矢板により配置点を割付
④ ファミリを配置

図−9 親杭横矢板を自動的に配置するDynamo
図−10 親杭横矢板ファミリを配置したモデル


d)数量の算出
 親杭横矢板ファミリの数量算出を、Revit の初期機能である集計表により行った。数量はファミリ単位で集計し、ユニット部材数量を把握した。
 集計表の作成において抽出したパラメータは、初期値のファミリタイプ名と数量で、親杭横矢板ファミリに親杭長さのパラメータを付加した。これは、本章6項にて概略工期を算出する為の根拠数量となるため算出した。

図−11 親杭横矢板ファミリの集計表

 

(6)工期の検討
a)実務家へのヒアリング
 仮設足場と山留計画について、概略工期の算出を行う上で、根拠と数量などを把握するため、実務家へのヒアリングを実施した結果、以下の事項が明らかとなった。

① 枠組み足場の根拠数量:立面の面積
② 枠組み足場の労務歩掛:900枠の場合45㎡/人工、1200枠の場合40㎡/人、ただし、各現場の諸条件を考慮して、実務においてはそれらの数値を8掛けして用いる。
③ 山留計画の根拠数量:打込む親杭の長さ
④  山留計画の労務歩掛:打込む地盤の固さにより異なる。

 それぞれの根拠数量は、本章4項、5項で作成した集計表により、自動的に集計可能な数量であるため、それらを用いてRevit とVICO を連携して概略工期の検討を行った。
 
b)Revit とVICO の連携
 Revit とVICO の連携は、既往研究1)で示した通り以下の手順で行った。

① Revit モデルのエクスポート
② Revit モデルのインポート
③ データの適応と更新
④ 根拠数量の抽出
⑤ 工種の設定⑥ 工事タスクの設定
⑦ 工事タスクと根拠数量の紐づけ
⑧ 工事順序の設定

図−12 VICO による根拠数量と工種の紐づけ


c)工程表と施工アニメーションの作成
 既往研究の成果を拡張し、仮設足場と山留計画を含んだ工程表と施工アニメーションを作成した。結果、山留から枠組み足場組みまで115日となった。既往研究1)では、地上部の外装と躯体についての日数算出にとどまったが、本研究では、仮設計画をと山留を考慮した、より確度の高い工程計画の検討を実践した。

図−13 工程表
図−14 施工アニメーションの一部


(7)コストマネジメント
 コストマネジメントについて、既往研究1)により得られた数量を、刊行物単価へ紐づける。各オブジェクトと単価の紐づける手法は、以下の2通り考えられる。

パターン①: オブジェクトのタイプ名及びパラメータ項目ならびにパラメータバリューによる紐づけ
パターン②: パラメータ項目ならびにパラメータバリューから推定して紐づけ

 パターン①はオブジェクトのパラメータ項目やパラメータバリューを検索項目とし、合致したものをデータベースの情報と紐づける方法である。
 
 パターン②は、基本設計の初期段階において、モデルを入力するとき、作業性を優先し、本来入力すべきカテゴリとは異なるカテゴリで入力されたオブジェクトについての紐づけである。それらを手動で発見し、適切なカテゴリへ変更するといった作業は、実務では実施が困難である。そうした場合、オブジェクトのパラメータバリューから推定して紐づけを行う方法である。


a)パターン①による紐づけ
 本章では、CSV 形式の刊行物単価とRevit オブジェクトの紐づけについて、以下の2通りの方法が考えられる。

①  紐づけに必要なオブジェクトの情報をExcelに書出し、CSV 形式の刊行物単価とExcel 間で連携する。
②  紐づけに必要なオブジェクトの情報を用いて、直接CSV 形式の刊行物単価を検索し、目的の単価を抽出し転記する。

 本章では、Revit モデルとCSV 形式の刊行物単価を直接紐づける②について検討を行った。

 キーワードの検索はDynamo を用いた。キーワード検索に必要なパラメータをオブジェクトに付加し、入力されたパラメータ値に該当するものをCSV 形式の刊行物単価から抽出し、オブジェクトに転記した。以下、ガラスを例として手順を示す。

①  ガラス面積、ガラス種別、価格のパラメータ項目をオブジェクトに付加
②  ガラス面積は自動的計算されるよう数式を設定、ガラス種別には想定するガラス名称を入力
③  Dynamo でデータ検索を行うオブジェクトとCSV 形式の刊行物単価を指定
④  データ検索の結果、該当する単価情報を抽出し、オブジェクトのパラメータへ転記

図−15 パターン①による紐づけのイメージ
図−16 ガラスオブジェクトのパラメータ
図−17 CSV 形式の刊行物単価
図−18 データ検索に用いたDynamo


b)パターン②による紐づけ
 オブジェクトのパラメータバリューから推定する方法について、例えば、オブジェクトの形状パラメータバリューから「500×1,500×6,900(=長さ)」といった情報が読み取れたとすれば、「壁」カテゴリで入力されていたとしても、「梁」であることは明白である。実際、実務において基本設計の初期段階では、基礎梁は、作業性を優先し「壁」カテゴリで入力される事もある。 本章に用いたサンプルモデルにおいても、基礎梁を「壁」カテゴリで入力している。「壁」カテゴリの中から、基礎梁として入力されたものを抽出し、適切な刊行物単価と紐づける方法にはDynamo を用いた。以下はその手順である。

① 「壁」カテゴリのオブジェクトを指定
② 特定の高さ以下のオブジェクトを抽出
③ データ検索を行うオブジェクトとCSV 形式の刊行物単価をDynamo で指定
④ 代表的な強度のコンクリートと鉄筋を当てはめ、該当する単価情報を抽出し、オブジェクトパラメータへ転記

図−19 「壁」カテゴリで入力された基礎梁の例
(クリックで拡大)
図−20 データ検索に用いたDynamo


c)単価の集計
 ガラスの面積、数量、単価について、Revit の初期機能である集計表を用いて行った。
 ガラス面積と単価から、Revit のモデル内で基本設計の初期段階からコストをリアルタイムに確認出来る。単価情報については、調査時点を記録するためのパラメータを付加した。

図−21 単価を転記した集計表
(クリックで拡大)
図−22 価格情報の調査時点を記録した例
(クリックで拡大)


(8)本章のまとめ
 本章では、既往研究1)の成果を拡張し、仮設計画を考慮したより精度の高い工程計画の手法と、数量と刊行物単価の紐づけによる初期概算算出方法を示した。工程計画に用いる山留と足場のモデリングは、Dynamo を用いて自動化を図った。工程計画の検討は、Revit とVICO を連携し、仮設計画も考慮した。

 コストマネジメントについては、本研究ではオブジェクトと刊行物単価の紐づけを2通りの手法で検討した。今後の展望として、データマイニングを用いた図−23に示す方法を検討したい。

 基本設計の初期段階において、刊行物単価との連携に必要な仕様名称を正確に記すことは困難である。そこで、オブジェクトに仕様をメモするパラメータを付加し、そこに例えば、「ジェットバーナーt30」といった文言をメモし、インターネット検索エンジンと連携すると、「御影石」といった仕様名称が抽出される。それを、本来仕様を入力するパラメータに転記できれば、パラメータ値の最適化につながる。図-23に示す①の部分まで実装したので、以降については今後の検討としたい。

図−23 データマイニングによる連携イメージ
図−24 インターネット検索エンジンとの連携



後編】へ続きます
3.BIM を用いた基本設計の初期段階におけるCO2排出量削減とコストマネジメント
4.本研究チームの所属大学における教育での試行
5.研究の総括




建設物価2024年2月号

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