建設物価調査会

東京国際空港における地下埋設物BIM/CIM モデルについて

東京国際空港における地下埋設物BIM/CIM モデルについて

東京航空局 空港部 空港企画調整課
飯塚 幸司
齋藤 幸博
吉田 大輝
恩田  純

1. 東京国際空港について

 東京国際空港(羽田空港)は、総面積約1,515haの敷地に滑走路4本(A滑走路3,000m×60m、B滑走路2,500m×60m、C滑走路3,360m×60m、D滑走路2,500m×60m)、241スポットのエプロンを有する日本最大の24時間運航している国際空港である。

2.背景・課題について

 東京国際空港は、24時間運航している中で、ターミナルビル延伸・エプロン改良(液状化対策・舗装改良)といったターミナル地区再編事業、鉄道アクセス事業(JR アクセス線・京急引き上げ線)、基本施設(滑走路・誘導路・エプロン)舗装改良事業、基本施設における耐震事業、旧整備場地区再編(用地嵩上げ)事業といった数多くの事業(工事)が空港内でいたるところで行われている。

 他方、東京国際空港の広大な敷地の中の地下には、空港運用する上で必要かつ重要な航空灯火・無線施設の電源ケーブル等の配管、航空機へ燃料や動力を共有するための配管及びライフライン(都市ガス・通信・上下水)、これらを収める共同溝等が多数埋設されている。

 このため、万一、空港内で工事が行われる中で地下埋設物を損傷させてしまうと、空港運用・サービスの低下に繋がるだけでなく、空港運用する上で必要要件を満足できなくなり、最悪な場合は空港機能の停止に至ることになる。

 これまで、東京国際空港内の地下埋設物の位置を図示等した地下埋設物台帳はあるが、その深さ位置に関する情報が無く、現場における実際の埋設物が埋設物台帳に正確に反映されていない場合がある状況にあったことから、空港内工事を実施する際には、まず地下埋設物台帳で施工箇所周辺に支障となる埋設物がないか確認を行い、近接している場合は、地下埋設物台帳に示されている位置において地下埋設物探査(レーダー探査)並びに試掘を行い、工事を実施している。

 空港工事は、滑走路・誘導路等を閉鎖して実施するため、作業できる時間が限られており、埋設物調査等を行うとなると作業効率の低下につながり、整備工事の遅れになる。かつ埋設物を損傷させた場合の空港運用へ影響するリスクを背負った上で施工している。

 上記の課題を解決するためには、地下埋設物の位置の精度を上げ、埋設物・深さの情報を正確に整理する必要がある。このため、地下埋設物の3次元化並びに空港全体を3次元化し、BIM/CIMモデルを構築することを検討した。

3.東京国際空港の地下埋設物について

 東京国際空港の広大な敷地には航空灯火・無線ケーブル、雨水管、共同溝、トンネルといった様々な埋設物が38種類埋設されている。図-2が東京国際空港における地下埋設物台帳であり、空港内に敷設されている埋設物及びその平面位置が概略図とともに示されている。また、地下埋設物の施設管理者は空港を管理している国だけではなく、自治体、道路管理者、ターミナルビル事業者、給油事業者といった19の管理者が存在している。

4.BIM/CIM について

 BIM/CIM は、Building/Construction InformationModeling、Management の略称である。BIM/CIMモデルは図面上にある2次元で示されている構造物等を3次元化(縦・横・高さ)し、さらに3次元化した構造物に対して、構造物の形状、寸法、材質、位置情報といった属性情報を組み合わせたモデルのことである。

 BIM/CIM はBIM/CIM モデルを事業実施する調査・計画・設計の段階から構築し、施工、維持管理においても情報を加えていき、活用していくことである。BIM/CIM モデルを構築することにより、イメージの共有等が容易にできることから、第三者への説明や工事実施する際の施工検討など使用される。また、BIM/CIM は国土交通省では、令和5年4月1日以降に発注する設計・工事については原則適用することになっている。

 BIM/CIM を実施する背景としては、少子高齢化・人口減少が進んでおり、将来の担い手の確保・育成が求められているところである。将来の事業を行う担い手(=作業者)が今後減っていくことから、現在の業務のやり方について、効率化・省人化・省力化といった見直しをすべき時期に直面している。加えて、建設分野においても、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が喫緊の課題となっている。この課題に解決策として、デジタル化した属性情報等をとりまとめたBIM/CIM モデルを構築し、現場・現実と同じ環境を仮想空間のモデル上で再現(デジタルツイン)することで、工事プロセスの試行や条件変更シミュレーションの実施、維持管理のモニタリング可視化が有益である。

5.地下埋設物BIM/CIM について

 今回、地下埋設物の損傷を未然に防ぐために東京国際空港における地下埋設物BIM/CIM モデルを構築する業務を行ったことから、構築した地下埋設物BIM/CIM モデルについて紹介する。

 業務名: 東京国際空港地下埋設物3次元管理検討調査業務
 発注者:東京航空局 空港部 空港企画調整課
 受注者:株式会社 日本空港コンサルタンツ
 履行期間: 令和4年8月24日~令和5年3月17日

 業務内容としては、現地調査、既存データ収集整理、地下埋設物BIM/CIM モデル作成(地形モデル・構造物モデル・統合モデル作成)、空港における地下埋設物の3次元管理のあり方検討を行った。具体的な作業内容としては、既存の地下埋設物台帳に示す各種地下埋設物の関する情報を設置管理者から収集・3次元化整理し、地下埋設物管理するため詳細度(Level of Detail:LOD)100のBIM/CIM モデルを作成し、管理者のあり方を検討した。

 まずは、3次元化するために地下埋設物の基礎データを整理する必要がある。そのために設置管理者より、完成図等から埋設物に関する情報の収集を行った。また、BIM/CIM モデルに反映するための属性情報の整理も行った。BIM/CIM モデルを構築する上で必要な属性情報に関する設定の仕方がなかったことから、表-2で示す地下埋設物を確認する上で最低限必要な情報とした。

 設置管理者からの収集データ数は約16,786ファイル(約28.4GB)になった。このデータ数を人力でモデル化すると莫大な時間を要してしまうことから、 今回のモデル化する作業は、RPA(Robotic Process Automation)という手法を用いた。

 RPA は、作成したシナリオに基づいて動作するロボットにより業務を自動化し、ルーティン業務などを自動化することである。今回の作業は、業務効率化、省人化・省力化を行った事例となる。

 次に、地下埋設物BIM/CIM モデル作成するにあたって必要な地形モデル・構造物モデル作成し、作成したモデルを統合させた統合モデルの作成を行った。なお、ここで言う地形モデルは、BIM/CIM 対象用地における地形情報の標高などを構築したモデルのことである。

 今回の地形モデルでは、東京国際空港の既存測量成果(動態観測調査・MMS(モービルマッピングシステム))をベースに構築していった。加えて、国土地理院から公表させている基盤地図情報の航空レーザー測量データを用いて、5mメッシュごとの標高データ並びに市販されている道路MMS データの成果を入れ込んだ。

 さらに、今回は位置関係を明確にするために、建物に関する情報も採り入れることにし、国土交通省主導で進めている3D都市モデルProjectPLATEAU の成果も取り込んだ。

 構造物モデルは、基礎データで収集したデータに3次元化した構造物に付加情報を取り入れた。

 構造物の詳細度については、まずは位置情報がわかるくらいのレベルである詳細度100とした。そして、構築したモデルの統合を行い、地下埋設物BIM/CIM モデルの構築を行った。

 構築した地下埋設物BIM/CIM モデルは図-6のとおりである。地下埋設物台帳に示されている38種の埋設物の3次元化を行った。

 地下埋設物台帳と比較したところ、地下埋設物の深さ情報や近接している状況が容易にわかるようになった。

 3次元化されたことにより従来では、地上からでしか見ることができなかったが、BIM/CIM モデル化したことにより、360度任意の方向から好きな角度から見ることができるようになった。これにより、図-8のとおり地下埋設物の位置がより詳細に確認することが可能となり、損傷リスクの低減に繋がると考えている。

 加えて、地下埋設物がBIM/CIM モデル化されたことにより、地下埋設物の状況確認以外にも土被り・任意断面の縦横断・支障物件の確認等が設計・計画の情報として使用することができるという新たな付加価値を生み出せた。このモデルを有効活用すれば、施工時の空港特有の制限表面への影響についても容易に確認することが可能となり、業務効率化の最適なツールになると考えている。

 東京国際空港における地下埋設物BIM/CIM モデルを概成したことにより、上述のような様々な付加価値を生み出したが、一方で現時点では以下の問題点がある。

Ⅰ.データ容量が大きい
 様々なデータを数多く複数種類で統合(マッシュアップ)して構築していることから、データ容量が膨大である。そのため、BIM/CIM モデルを閲覧するために一般的な業務用ノートパソコンでは、起動させるだけで約5~10分かかってしまうことから、データを開いても直ぐにフリーズしてしまう。そのため、スムーズに閲覧するためには、CPU、GPU、メモリ等が高性能・潤沢なパソコンが必要となる。もしくは閲覧できるプラットフォームの構築が必要と思われる。

Ⅱ.データの維持管理
 東京国際空港は常に整備工事が行われていることから、その都度新たな地下埋設物が設置されているため、毎年、追加・更新が必要であり、これら数多くのBIM/CIM 統合モデルの統合化が継続的に必要である。

Ⅲ.セキュリティー管理
 東京国際空港の地下埋設物の中には、空港運用、セキュリティー上重要なインフラが存在していることから、不特定多数の人が見ることができないように対策が必要である

 また、各ステークホルダーにどこまでの属性情報等を開示できるかといった運用上の取り決めが必要であり、セキュアな閲覧環境(空港BIM/CIM プラットフォーム)も不可欠となる。

6. 今後のBIM/CIM モデルのアクションプラン・今後の課題について

 今後の東京国際空港地下埋設物BIM/CIM モデルについては表-3のアクションプランに沿って検討等を進めることとしている。

 まず、構造物の詳細度や地形情報の更新をしていく必要がある。理由としては、令和5年4月1日以降BIM/CIM 原則適用になり、工事や設計などで作成する構造物モデルがLOD300(詳細設計レベル)、LOD400(維持管理等レベル)といった現在のBIM/CIM モデルの詳細度より高いことから、段階的にあげていく必要があるからであり、こうした更新等は地下埋設物BIM/CIM モデルを有効活用できるようにしていくために欠かせないと考える。

 また、今後の課題として、地下埋設物BIM/CIM モデルに地質・土質モデルを統合することが考えられる。理由としては、空港全体で図-10のとおり、一般財団法人 国土地盤情報センターが公表されている土質調査・地質調査データにおいて、東京国際空港には数多くのデータが確認でき、この情報を有効活用すべきであると考えるためである。

 さらに前述Ⅰ~Ⅲの問題点への対応としてBIM/CIM モデルを容易に閲覧ができ、データを取り込み、自動更新が可能となるプラットフォームの整備を実施していくべきであると考えている。

7.まとめ

 地下埋設物BIM/CIM モデルを作ることができたことにより、工事における地下埋設物の損傷事故が低減することが可能であることが確認できた。今後、BIM/CIM モデルをさらに利活用するためには、共通データ閲覧環境の構築(クラウド型プラットフォーム化)や、運用・情報セキュリティリスクの問題を精緻にクリアすることが重要であると考えられる。

 また、空港全体のBIM/CIM モデルは、施工検討(4D)や工事積算(5D)、空港計画(6D)等、地下埋設物の確認以外にも多岐にわたり、使用することができることもわかった。

 こうしたことから、BIM/CIM モデルを有効活用することにより、業務効率化・省力化に繋り、ワークライフバランス向上や魅力ある職場環境の醸成に繋がると考える。今後も継続して、DX、デジタル技術とデータの力の胆となるBIM/CIMを活用したスマートインフラマネジメントを目指していく所存である。

建設物価2024年6月号

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