この価格調査は、「建設物価」等で掲載していない緑化樹木、 グラウンドカバープランツ(GCP)のうち、需要者ニーズの高いものについて情報提供し、需給の円滑化に資することをねらいとしている。
実施主体は、緑化樹木調達難易度判定会議((一財)日本緑化センター・(一社)日本植木協会)で、全国の調査モニターによる市場価格調査結果をもとに、判定会議による確認にもとづき行うものである。
調査対象は、緑化樹木、GCP および庭園樹木とし、樹種の内訳は、表1に示すとおりである(調査結果の詳細は後掲「掲載価格の見方」を参照)
2023年度の供給可能量のうち露地栽培樹木の高中木と低木を対象に、現在、建設物価に価格が掲載されていない樹種について、供給事情を明らかにする。通常、露地栽培樹木は複数の形状寸法で取引される。価格未掲載の樹種とは、ある樹種の1つの寸法も掲載されていない樹種を言う。
本調査で露地栽培による高中木と低木の調査対象は305樹種、このうち価格の掲載は198樹種(65%)、一方、未掲載は107樹種(35%)となり、おおむね4割程の樹種は価格を公表されていない(表2)。
これらの樹種について、高中木と低木に分けて本数階層別に検討する。
高中木214樹種のうち、価格掲載数は127樹種(59%)、未掲載数は87樹種(41%)となる。各々について、供給可能量の本数階層別の樹種数のグラフを作成する(図1)。
図1の掲載種を見ると、供給可能量1万以上5万本未満の範囲に含まれるものが最も多く49樹種、この階層を上回る5万本以上は13樹種(10%)、下回る1万本未満は65樹種(51%)となり、半数の樹種は1万本に満たない。
一方、未掲載種の方をみると、千本未満が最も多く34樹種(39%)、残りは、1万以上5万本未満を除き、おおむね本数階層区分が大きくなるほど樹種数は少なくなる。
低木91樹種のうち、価格掲載数は71樹種(78%)、未掲載数は20樹種(22%)となり、ほぼ8割が掲載種である。掲載種は供給可能量1万本以上5万本未満が目立って多く27樹種(38%)、残りの階層はおおむね10樹種前後となる。未掲載種は千本以上5千本未満の9樹種(45%)が主となり、残りはわずかとなっている(図2)。
次に、同じ本数階層区分の中で掲載種と未掲載種の実際の本数を比較してみる。
千本未満の一番下の階層は除き、表3は高中木の千本以上5千本未満の階層における、価格未掲載種の順位を整理している(青字は未掲載種)。表の上段は掲載種と未掲載種を合わせた本数のベスト10を示し、青字で表記しているアオハダ(株立もの)が4位、5位にケヤキ‘ムサシノ’、10位にトドマツが含まれる。下段は残りの未掲載種だけを順位とともに10樹種まで抽出し記載している。
表4は5千本以上5万本未満の2つの階層をまとめて整理している。ベスト10にはトキワマンサク(赤葉アカバナ)が掲載種を抑えて第1位となり、シラカシ(株立もの)が4番目に登場する。下段の10樹種にはコニファーが6樹種含まれる。
本数階層の上2つ、5万以上10万本未満と10万本以上をまとめたものが表5となる。ベスト10には第2位にその他サザンカ類が登場し、残りの未掲載種には、シマトネリコ(株立もの、66,624本)、オリーブ(63,561本)、イロハモミジ(含ヤマモミジ)(株立もの、63,120本)の3樹種が含まれる。
低木については、件数が少ないことから、階層別に未掲載種のみを記載する(表6)。
以上、価格掲載種に対する未掲載種の供給事情を概観した。およそ4割程価格情報が提供されていない樹種に関しても、あくまで供給可能本数を目安とするものであるが、掲載種の供給水準に匹敵する、あるいは十分肩を並べることができる未掲載樹種があることを理解する必要がある。
植物ではなく、昆虫を優先するガーデニングの台頭
全世界の既知の総種数は約175万種で、昆虫は約95万種となり、その過半数は生きた植物を餌とする植食性昆虫と考えられる。世界のガーデナーに生まれつつある新たな哲学「植物を昆虫に食べさせる庭」へのトレンドを紹介する。
植物を餌とする多くの昆虫¹
植物を餌とする昆虫は、あるガーデナーには呪いともなるが、他の人にとっては、生態系がどのように働いているのか、自然の一部を理解する手立てとなる。英国王立園芸協会(RHS)の研究者Jones は、植食性昆虫を受入れると言うガーデナーがますます増えていると言う。多くの人たちは、スズメガ科のガ(Deilephila elpenor)の毛虫が、フクシア属(Fuchsia)を好んで食べるのを楽しんでいる。その毛虫は象の鼻のように見えて、頭の方に2つの大きな黒い眼玉模様を持ち、捕食者が近寄るとこれを膨らませて追い払う。注目に値するこの特技のために、人々はフクシアが食べられるのをむしろ望んでいる。
欧州のガーデナーが楽しんで見ているものに、花の咲くモウズイカ属(Verbascum)やフジウツギ属(Buddleia)を食べるヤガ科のガ(Cuculliaverbasci) の毛虫、 キク科の2 年草(Seneciojacobaea)を食べる、非常に人目を引く黒とオレンジ色のストライプのあるヒトリガ(Tyriajacobaeae)の毛虫がいる。
アマドコロ属(Polygonatum)の植物はハバチの仲間(Phymatocera aterrima)の毛虫に食べられると、あっという間に落葉することがあるものの、正常に回復し翌年には元気に成長する。この植物は極端な落葉もあまり苦にならず生き残り、どうやら、ハバチは大目に見られているようだ。
オオカバマダラ(Danaus plexippus)は、秋になるとロッキー山脈の西側のチョウはカリフォルニアに、東側はメキシコに移動して集団で越冬し、春になると北に渡っていく。オオカバマダラの幼虫は唯一多年草のトウワタの仲間(英名:CommonMilkweed / Asclepias syriaca など)を好んで食べる。幼虫が食べるトウワタの毒カルデノライド(cardenolide)が体内に蓄えられるため、成虫になっても鳥などから捕食されにくい体質となる。米国内には約115種のトウワタが生育する。この驚くほど美しい渡りを行うチョウは以前よりもはるかに希少となり、絶滅の危機にある。成虫にとって花の蜜は繁殖期、渡り、越冬に必須なため、チョウが通過する地域では、年間の適切な時期に出現するようにトウワタを育てる必要がある、と専門家は指摘する。
都市の庭は生物多様性を温存する
2016年の調査²⁾では、都市にある庭の局地的要因(樹木の花数、植物タイプ毎の被覆状態・花数、地面の被覆率)と庭の周囲2km 内の景観的要因(National Land Cover Database による土地被覆データをもとに作成した自然ハビタットエリア、オープンエリア、都市エリア、農業エリアの4変数)が、ハチの個体数と種の豊かさに関連があるかどうかを検討した。
米国カリフォルニア州セントラル・コーストにある19か所の庭を対象に、55種のハチを採取して、営巣タイプ(空洞、地中)と体の大きさにもとづき分類した。ハチのコミュニティの特徴と局地的および景観的要因とを比較した結果、両者に関連があることを明らかにした。一般に、ハチはより大きい庭、より多い花数、マルチのより少ない、裸地のより多い、イネ科植物のより多い庭で、一層個体数が多く、種が豊富になる。
研究者は、局地的要因がハチの個体数と豊かさのより重要なけん引役となる事実は、これまで行われてきた一般的な庭の管理方法を改めることにより、個々のガーデナーがハチの保全を促進できる可能性を示す。とりわけ、花の個体数を増し、マルチの使用を減らし、裸地を提供することは都市の庭にハチを呼び込むことにつながる、と指摘する。
ポリネーターに優しい植物を植える
2022年に全国野生生物連盟(National WildlifeFederation:NWF)が全国ガーデニング協会(National Gardening Association) に委託して行った調査³⁾は次のことを明らかにした。
・ 米国成人の3人に1人(34%)は野生生物に役立つ植物を購入する。その割合は2020年の26%から8ポイント増えている。
・ 4人に1人(25%)はとくに自生植物を購入する。こちらも2020年の17%から増加している。
・ 芝生の一部をワイルドフラワーによる自生種の景観に置き換えることを計画する人たちの数は
2019年の9%から2021年19%へ2倍に伸びている。
・ 回答者の3人に1人(32%)は概ねあるいは全て有機製品の購入を選択していると答えた。
この調査は、より多くの人たちが自生植物を購入し、危機にあるチョウ、ハチ、鳥のようなポリネーターに役立つ植物を植栽することによって、野生生物のためのガーデニングをめざしているという実態を報告した。
NWF が取り組む活動の1 つ、Garden forWildlife™ の代表は、「庭や野生に育つ自生植物は、野生生物の生存と人々の健康と満足できる生活状態に必須のものである。年を追うごとに自生植物や自然な造園に移行する人たちの数が増えていることは、将来的に、野生生物の危機を反転させることに期待を持たせる。さらに、私たちの推奨する自生植物とこの分野の先導的な研究者とのパートナーシップをもとに、誰でもワイルドライフ・ガーデンを簡単に作り、人々、野生生物、地球にとって健全な生態系を創り出すことができる。」と述べる。
Garden for Wildlife™ のあらまし⁴⁾
NWF は野生生物向けのガーデニングを振興するため、「野生生物の庭」(Garden for Wildlife™)というプログラムを実施している。
●野生生物向けガーデニングのポイント
・植栽のためのサイトを準備する
・庭にある花壇や区画に対するフォーカルポイントを決める
・庭の各要素は“自然な見映え” となるように調和させる
・一年中多様性をもたらす植物を選ぶ
・類似の植物種をまとめて植える
・小さ目な植物の後ろには常緑や背の高い植物を背景とする
・ 持続可能な活動でワイルドライフ・ガーデンと生態系を維持する
・隣人に優しいガーデニングを実践する
・認証を得てサインを掲示することで活動を広める
●自生植物を検索する
全米のどこに住んでいても、自分の庭に植えることが望ましい自生植物検索サイトが準備されている。(参照https://nativeplantfinder.nwf.org/)
サイトには、「自生植物を見つける」と「チョウを見つける」の2つの情報源がある。まず、「自生植物を見つける」を選ぶと、地域を特定するために、郵便番号を尋ねてくる。
例えば、Washington DC のコード:20001を入力すると、草本と木本に分けて、該当する複数の植物が属毎に表示される。この表示画面の例はアキノキリンソウ属のもので、13種の植物名とこれを毛虫の寄主植物として利用するチョウとガ63種の画像が見られる。
もう1つの「チョウを見つける」を選ぶと、チョウとガおよび毛虫の段階で寄主として食べる自生植物を表示する。
●野生生物ハビタットガーデンの認証を受ける
NWF はガーデナーに野生生物ハビタットとなる庭の認証を受けることを奨励している。認証を得るためには、次の3つのカテゴリーのうち少なくとも2つを実践する必要がある。野生生物により良く役立つために、各カテゴリーから1つ以上の項目を実践するよう推奨している。
① 土壌と水の保全:川岸/水辺の緩衝・屋根から雨水を捕捉・ゼリスケープ(賢い水の造園)・灌水用ドリップまたは浸透ホース・水利用制限・浸食の低減(例えば、グラウンドカバー、テラス)・マルチ利用・レインガーデン
② 外来種の抑制:IPM 実践・非自生動植物の除去・自生植物の利用・芝生面積の削減
③ 有機実践:化学殺虫剤の除外・化学肥料の除外・コンポスト使用
この認証を受けたガーデナーは、CertifiedWildlife HabitatⓇのサインを庭に掲示し、地域の人たちへの情報発信に協力している。
昆虫を優先するガーデニングの台頭は、幼虫の寄主植物となる自生植物の新たな消費者ニーズを生み出すことが期待できる。
参考文献
1)Chris Baraniuk (BBC):Why you should let insects eat your plants,
https://www.bbc.com/future/article/20240503-whyyou-should-let-insects-eat-your-plants
2)Robyn Quistberg & others (2016):Landscape and Local Correlates of Bee Abundance and Species Richness in Urban Gardens,
https://www.researchgate.net/publication/267289149_Landscape_and_local_correlates_of_bee_abundance_and_species_richness_in_urban_community_gardens
3)Caitlyn Fallo (National Wildlife Federation):Consumer Gardening Report Finds One in Three
People Turning to Native Plants, Gardening for Wildlife,
https://www.nwf.org/Home/Latest-News/Press-Releases/2022/5-02-22-Consumer-Gardening-Report
4)National Wildlife Federation:Certify To Show Your Commitment To Wildlife!,
https://www.nwf.org/Garden-for-Wildlife/Certify
写真でみる緑化樹木等の一例(1)
[緑化樹木調達難易度判定会議]
~新樹種~
写真解説 ①樹種名 ②撮影地 ③提供社園
①イヌマキ(匝瑳)
②千葉県 ③川繁園
①ガクアジサイ(安行四季咲)
②埼玉県 ③ワイズプランツ
①ツツジ(吉野)
②岩手県 ③小岩井農牧
①モクレイシ
②埼玉県 ③ワイズプランツ
写真でみる緑化樹木等の一例(2)
[緑化樹木調達難易度判定会議]
~ GCP ~
写真解説 ①樹種名 ②撮影地 ③提供社園
①カレックス(エバーゴールド)
②三重県 ③ NURSERY YAMADA
①クリスマスローズ
②秋田県 ③田村山林緑化農園
①ヒューケラ(パレスパープル)
②秋田県 ③田村山林緑化農園
①フイリフッキソウ
②神奈川県 ③飯田園芸
①ブルースター
②三重県 ③ NURSERY YAMADA
①ベニシダ
②神奈川県 ③飯田園芸
①ユキノシタ
②埼玉県 ③グリーファーム・アンドウ
①リシマキア ヌンムラリア(オーレア)
②埼玉県 ③グリーファーム・アンドウ
写真でみる緑化樹木等の一例(3)
[緑化樹木調達難易度判定会議]
【令和5年度 認定「特別庭園樹木(名木)」】
写真解説 ①樹種名 ②規格 ③推定樹齢 ④撮影地 ⑤提供社園
①クロマツ ② H7.21m C1.43m W6.5m
③400年 ④秋田県 ⑤北日本菅与
①クロマツ ② H5.71m C0.96m W4.0m
③180年 ④秋田県 ⑤北日本菅与
①アカマツ ② H5.84m C1.28m W7.0m ③250年 ④秋田県 ⑤北日本菅与