土木工事標準歩掛(以下、「標準歩掛」という)は、土木工事に広く使用されている工法について、施工合理化調査等の実態調査に基づき、土木施工に必要とされる標準的な機械、労務、材料等の所要量を工種毎に設定したものです。
この標準歩掛は「中央建設業審議会(中建審)」の建議を踏まえて、昭和58年3月に整備・公表し、その後、改定や制定を重ねて現在に至っており、土木工事費の積算の基礎資料として、国、県、市町村の発注官庁をはじめ、民間でも標準的な指標として広く活用されています。
標準歩掛は、使用機械の機能向上、新技術・新工法の開発、あるいは各種施工制約などの社会情勢の変化など、施工形態の変化に対応した適正なものとする必要があります。
今回、令和5年度に施工合理化調査等を実施した標準歩掛工種の121工種のうち、令和6年度に施工実態を分析した結果、14工種の改定を行うこととしました。
その14工種の改定概要について、以下のとおり紹介します。
(1)排水材設置工
① 工法概要
排水材設置工(水平排水層)は、盛土(路体盛土等)内の浸透水の排除を目的に帯状の排水材(帯状シート・全透水型(立体網状体等))や、フィルター材(砕石等)を設置する工法です。
② 制定概要
1)適用範囲
盛土(路体盛土等)内の浸透水の排除を目的に設置する帯状の排水材(帯状シート・全透水型(立体網状体等))を設置、およびフィルター材(砕石等)を敷設する作業に適用する。
適用できる範囲は以下のとおりである。
【水平排水材】・ 現地発生土および鉄丸釘等を用いて固定する方法を標準とし、排水材規格は幅100㎜以上600㎜以下、厚50㎜以下の場合
・帯状シートおよび全透水型の場合
【フィルター層】
・ フィルター層(水平排水層)およびフィルター層(基盤排水層)の場合
・厚300㎜以上500㎜以下の場合
2)施工歩掛
・ 水平排水材は幅100㎜以上600㎜以下、厚50㎜以下の帯状シートおよび全透水型の歩掛を、フィルター層は厚300㎜以上500㎜以下の水平排水層および基盤排水層の歩掛を新規制定。
・ ただし、切盛境や構造物背面のコンクリート面に設置する場合、帯状排水材の全透水型(メッシュチューブ型)および半透水型の水平排水材、排水層内に暗渠排水管を埋設する場合や軟弱地盤処理工の場合のフィルター層には適用できない。
(2)中層混合処理工(ICT)
① 工法概要
中層混合処理工(ICT)は、粘性土、砂質土、シルトおよび有機質土等の軟弱地盤をICT建設機械によるスラリー噴射方式の機械撹拌混合にて安定した状態にするための工法です。
ICT施工技術を活用した施工実績が増えており、新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
ICTによる地盤改良工のうち、粘性土、砂質土、シルトおよび有機質土等の軟弱地盤を対象として行う中層混合処理工(ICT)に適用する。
適用できる範囲は以下のとおりである。
・スラリー噴射方式の機械撹拌混合
・改良形式は全面改良
・改良深度2mを超え13m以下の陸上施工
2)機種の選定
3)編成人員
4)施工歩掛
(3)切削オーバーレイ工(ICT)
① 工法概要
アスファルト舗装路面の切削作業(複数の路面切削機による並列切削作業を除く)から舗装までを即日で急速施工する工法です。
ICT機器を搭載した路面切削機による施工実績が増えており、新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
路面切削機(ICT)によるアスファルト舗装路面の切削作業から概ね切削した舗装厚分を即日で急速施工する作業に適用する。
適用できる範囲は以下のとおりである。
・アスファルト混合物が購入方式
・施工箇所が車道・路肩部
・ 切削作業がストレートアスファルト、改質アスファルト
適用できない範囲は以下のとおりである。
・アスファルト混合物がプラント方式
・複数の路面切削機による並列切削作業
・施工箇所が歩道部の場合
・ 排水性舗装(ポーラスアスファルト、開粒度アスファルト)の切削、又は特殊結合材(エポキシ樹脂)および特殊骨材(エメリー)を含むアスファルト舗装の切削
・ 排水性舗装の舗設、又は橋面防水工を同時に施工する橋面舗装
・シックリフト工法、QRP工法等特殊工法
・ 路面切削機を使用しない道路打換え工のための舗装版とりこわし
・平均切削深さが12㎝を超えるもの
2)機種の選定
3)編成人員
4)施工歩掛
① 工法概要
地盤中にセメント系および石灰系固化材をスラリー状(セメントミルクまたはモルタル)で圧送・注入し、撹拌翼で原地盤と撹拌・混合することにより均一な混合処理改良体(コラム)を造成する工法です。
② 主な改定概要
・ 二軸施工(変位低減型)の杭径1,600㎜・打設長10m以下における施工機械の規格見直し
・ 施工形態の変動に伴う日当たり編成人員の見直し
・ 諸雑費に含む機械の追加および排出ガス対策区分、保有区分の変動に伴う諸雑費率の見直し
(5)全回転式オールケーシング工
① 工法概要
オールケーシング工法は、ケーシングチューブを建込み、ケーシングチューブを押し込みながらハンマグラブによって土砂および岩砕を搬出、支持層に達したことを確認した後、孔内清掃(スライム処理)、鉄筋建込を行い、さらにトレミー管によりコンクリートを打設しながらケーシングチューブを引き抜くことによって杭を施工する工法です。
② 主な改定概要
・施工機械の適用範囲および規格の改定
・諸雑費率改定およびビット等損耗費率設定
・ 杭頭処理の日当たり施工量の変動に伴い、施工歩掛を見直し
(6) 残存型枠工
① 工法概要
残存型枠工は、砂防工事(本堰堤、副堰堤、床固め、帯工、水叩き、側壁、護岸)において、薄肉プレキャスト・セメントコンクリート製の型枠製品と組立部材および支持材を使用し、コンクリート打設後の脱型作業を必要としない型枠工法です。
② 主な改定概要
・ 型枠重量の適用範囲の拡大
・ 適用範囲の拡大による施工歩掛および日施工量の見直し
・ 使用機械(ラフテレーンクレーン25t 吊)の排出ガス対策型区分の見直し
(7)締切排水工
① 工法概要
締切排水工は、構造物構築のために鋼矢板等を用いて水中締切、地中締切を行った場合、締切現場内の水を掘削底面より一段深い所に設けた場所に集水しポンプで排水する工法です。
② 主な改定概要
・ 排水量区分の適用範囲を、1,300m3/h未満から1,800m3/h未満に拡大
・ 排水量区分見直しに伴い排水ポンプ、発電機の規格拡大
・ 使用機械(バックホウ)の排出ガス対策型区分の見直し
(8)雪寒仮囲い工
① 工法概要
積雪寒冷地の冬期における土木構造物の施工において、屋根梁、屋根受け梁部材として、単管パイプ・既製ビーム・I形鋼・H形鋼等の仮設材を使用する、平均設置高15m以下の「雪寒仮囲い」を設置・撤去する工法です。
② 主な改定概要
・ 設置撤去作業時間の変動に伴う設置撤去歩掛の見直し
・ 仮囲い仮設材の費用計上を率計上から計算式による賃料計上に見直し
・養生作業時間変動に伴う養生歩掛の見直し
・ 仮囲い屋根部の除雪作業における適用区分の見直し
(9)大型土のう工
① 工法概要
大型土のう袋に土砂を詰め、河川の仮締切、軟弱法面の保護、工事用道路等における仮設材として施工される工法です。
② 主な改定概要
・ 大型土のうの製作に使用するバックホウの規格、排出ガス対策型区分の見直し
・ 使用機械の変動および工場製作品の製作枠使用に伴う日当たり施工量、諸雑費率の見直し
・既設大型土のうの移設歩掛を新たに制定
(10)断面修復工(左官工法)
① 工法概要
コンクリート構造物の劣化により欠落した部分の修復や、中性化、塩化物イオンなどの劣化因子を含むかぶりコンクリートを除去した後の断面復旧を目的とした工法です。
② 主な改定概要
・コンクリート殻積込み・運搬歩掛の新規制定
・ 移動時間等の施工実態を反映した労務歩掛の見直し
・ 諸雑費対象の使用器具、雑材料の対象品目の見直し
(11)切削オーバーレイ工
① 工法概要
アスファルト舗装路面の切削作業(複数の路面切削機による並列切削作業を除く)から舗装までを即日で急速施工する工法です。
② 主な改定概要
・ 使用機械の規格、排出ガス対策型および騒音対策型区分の見直し
・ 移動時間等の施工実態を反映した日当たり施工量の見直し
(12)油圧圧入引抜工
① 工法概要
土留めや締切を目的として、油圧式杭圧入引抜機による鋼矢板の圧入(Nmax ≦600)および引抜きを行う工法です。圧入には、対象地盤の固さ(最大N値)により単独圧入、ウォータジェット併用施工、硬質地盤用工法といった施工方法があります。
② 主な改定概要
・ 適用範囲の拡大、鋼矢板45H 型および50H 型を新規設定
・使用機械の排出ガス対策型区分の見直し
・ 移動時間等の施工実態を反映した日当たり施工量の見直し
(13)床版補強工
① 工法概要
床版補強工は、炭素繊維接着(1橋当たりの補強対象面積50m2以上、格子貼りで貼付けを行う場合)により、鉄筋量不足の補強や床版耐荷力を向上させることで、既設橋梁のRC 床版の補強を行う工法です。
② 主な改定概要
・ 鋼板接着工法、増桁架設工法および炭素繊維接着工法(全面貼り)歩掛廃止
・ 移動時間等の施工実態を反映した施工歩掛の見直し
(14)鋼橋架設工
① 工法概要
工場製作された鋼製の桁部材を移動式クレーン又はケーブルクレーン等で架設する工法です。
② 主な改定概要
・ クレーンの移動時間を考慮した日当たり施工量の見直し
・ 架設用機械設備および工具の供用日数等の見直し
・足場工、防護工の歩掛係数の見直し
●ワイヤーブリッジ防護工
(ワイヤーブリッジ転用足場としない場合)
ワイヤーブリッジ防護工費(円)
={229+59T10+0.05y(設置)+0.021y(撤去)}×A
T10:防護工(ワイヤーブリッジ)供用月数(月)
y :橋りょう特殊工単価(円/人)
A :橋面積(m2)
A=全幅員(地覆外縁間距離)×橋長
●ネット防護工
(架設に先立ち、パイプ吊足場とは別途に設置する場合)
ネット防護工費(円)
={128+44T11+0.019y(設置)+0.015y(撤去)}×A
T11:防護工(ネット)供用月数(月)
y :橋りょう特殊工単価(円/人)
A :防護工必要橋面積(m2)
A= 全幅員(地覆外縁間距離)×必要長(支間長)
●登り桟橋工費
登り桟橋工費(円)
={5,116+2,917T12+0.474y(設置)+0.341y(撤去)}×H
T12 :登り桟橋を供用している月数(月)
y :橋りょう特殊工単価(円/人)
H :登り桟橋の高さ(m)
予定価格の算定に用いる標準歩掛は、施工実態を的確に反映したものとなるよう、現場の実態調査に基づき制定しています。準備や後片付け等は、一日の就業時間に含まれるものであり、これまでも標準歩掛へ反映してきたところです。
実態調査では、令和4年度には調査項目として実作業のほか、資材基地等からの移動時間等をより詳細に把握するように調査表の見直しを行い、令和5年度の歩掛分析に反映、現場移動等により作業時間が短くなり、日当たり施工量が減少している工種について今回改定を行っております。
また、令和6年度は、鋼橋架設のベント設備にかかる工種において、移動式クレーンが日々回送することで実作業時間が短くなり、日当たり施工量が減少している傾向が見られたことから、これを適切に反映しております。
公共事業を円滑に執行するためには、各工種の施工実態や資機材の需給状況など、変化する事象を的確に把握し、現場の準備や後片付けなどの作業のほか、工事の品質および安全確保、環境の保全等に十分な配慮がなされているかにも着目したうえで、標準歩掛を整備していくことが必要です。
引き続き、必要な標準歩掛の改定・制定を行い、適正な予定価格が積算できるよう努めてまいります。
なお、標準歩掛は実際の施工における工法や施工機械を規定するものではなく、あくまでも標準的な施工を想定した予定価格を算出するためのツールです。このことを正しく理解し、適切な運用をお願いします。
本稿で紹介した改定の概要については、国土交通省ホームページ「土木工事標準歩掛」に掲載していますので、そちらもご参照ください。
【参考ホームページ】
土木工事標準歩掛
https://www.mlit.go.jp/tec/constplan/sosei_constplan_tk_000024.html
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