建設物価調査会

淀川における舟運の活性化

淀川における舟運の活性化

国土交通省 近畿地方整備局
河川計画課長 西 広樹


1.淀川舟運の歴史

 淀川舟運の歴史は古い。古事記や日本書紀には神武天皇の東征の際に淀川を舟でさかのぼったと記録が残っており、淀川舟運は古来から長きにわたり大阪・京都間の交通を支えてきたことがわかる。明治初期には、従来の木造船より喫水の深い蒸気船(外輪船)の航行を可能にするため、オランダ人技師ヨハネス・デ・レーケの指導の下、淀川において日本初の近代河川工事である淀川修築工事が行われた(図1)。この工事は水制工を整備し、水の流れを流心部に集めるとともに、上流域における砂防工事により流砂の生産を低減することで、流心部の土砂堆積を抑制し水深の確保を図るものであった(図2)。こうした河川事業が実を結び、淀川舟運は近代においても交通の大動脈として京阪地域を支え続けた。しかし、昭和初期頃から陸上交通網が発達したことにより、昭和37年についに淀川における舟運は姿を消した。

2.災害対応に期待される舟運

 平成7年1月に発生した阪神・淡路大震災により、淀川下流域の堤防が被害を受けた際、陸上交通網が寸断されるなか、舟運が復旧資機材等の輸送に活用され、堤防の早期復旧に貢献したことから、災害時における舟運の活用の必要性が認識された。また、平成30年6月に発生した大阪府北部地震では、淀川沿川において、住宅やライフラインに多大な被害が発生し、大阪・京都を結ぶ複数の鉄道が運行を見合わせたため、大阪市内を中心に多くの帰宅困難者が徒歩で移動する光景が見られた。これらの災害の経験から、堤防等の河川管理施設が被災した際の復旧資機材や人員の輸送のため、淀川の高水敷に整備している緊急用河川敷道路と併せ舟運を活用することに期待が寄せられている。

 淀川には、災害時における輸送能力の確保を目的として緊急用船着場を整備しており、令和7年3月には10か所目となる十三緊急用船着場が完成した。これらの船着場は災害時における復旧資材等の運搬の他、平常時の公共工事における資材運搬、巡視等の維持管理などに活用されている。また、国土交通省は、平常時から舟運機能が確保されていることが重要であるとの認識の下、沿川の自治体や民間事業者等と連携した市民参加による平常時利用促進に向けた課題の抽出や淀川舟運の認知向上の取組を行っている。こうした取組を背景に、淀川沿川では民間事業者を中心に、各地域の観光資源と組み合わせた様々な観光舟運が行われており、舟運が沿川のにぎわい創出に貢献している。

3.淀川大堰閘門の整備

 淀川には、河口から約10k地点に塩水遡上の防止、水道取水の水位確保等を目的とした淀川大堰があり、上下流が分断している。近畿地方整備局淀川河川事務所では、災害時に復旧資機材等を積んだ船舶が航行できるよう、令和3年度から、水位差のある水面の間を結ぶ船のエレベータの役割を果たし、船舶による淀川大堰の通過を可能にする淀川大堰に閘門を整備する事業に着手している(図3-1.2)。建設する閘門は、淀川大堰の左岸側に幅約20m、延長約70mの閘室を有するものであり、資機材を運搬する台船であれば500t級が1隻、定員100名程度の大型観光船であれば4隻が同時に通過できる日本最大の閘室を有する閘門である。

4.淀川舟運活性化協議会

 舟運を軸とした淀川沿川のにぎわいづくりに期待が寄せられる中、令和4年3月には、国土交通省、沿川自治体、経済団体、舟運事業者及び鉄道事業者の関係者から構成される「淀川舟運活性化協議会」が設立された。同協議会は、2025年大阪・関西万博を契機に、淀川舟運の復活により「水都・大阪」及び京都府域を含む淀川沿川の魅力を世界に発信すべく、淀川舟運の更なる活性化に向けた取り組みを推進することを目的に協議を行っている。令和5年1月には中間とりまとめとして、(1)沿川地域の資源を活用した観光コンテンツの商品化、(2)「かわまちづくり計画」の登録箇所数増加、(3)船舶航行のための航路確保等及び(4)淀川河口部での川船・海船の円滑な乗り継ぎの4つの目標が定められ、令和7年2月には、万博開催期間中の淀川舟運の取り組み及び万博後の更なる舟運活性化に向けた取り組みの目標についての議論が行われた(図4)。

5.舟運を活かしたかわまちづくり

 淀川では沿川に点在する河川公園やかわまちづくりエリアの一部に河川の利用者がレクリエーション等に利用できる敷高が低く親水性の高い護岸を整備しており、このような親水性の高い護岸においても船舶の着岸が可能である。舟運を活かしたにぎわい創出の取組を背景に、淀川では舟運との連携を前提としたかわまちづくりの取組が各地で行われている。図4に示す淀川河川事務所管内の6箇所でかわまちづくりが行われている(図5)。

(1)淀川河川敷十三エリアかわまちづくり(大阪市)

 付近で図書館・住宅・専門学校・スーパー等の複合施設の整備が進められるなど、十三エリアの一体的な魅力向上が図られる中で、河川敷地における民間事業者の参入によるにぎわいの創出を目指して、昨年3月に河川のオープン化の指定が行われ営業活動を行う事業者による河川敷地の利用が可能となった。これを踏まえて、十三緊急用船着場を活用したかわまちづくりの期待が高まっている。

(2)淀川河川敷枚方エリアかわまちづくり(枚方市)

 淀川舟運の中継港として栄えた歴史を有する枚方宿を起点とし、観光客が滞在、周遊できる魅力ある観光まちづくりを推進しており、街近・駅近の広大な自然空間で気軽にアウトドアアクティビティを楽しめる空間の整備が行われており、令和7年2月には、新たに移動式トイレが整備され、また、大型車両が進入可能な園路の整備が完了した。

(3)八幡市かわまちづくり(八幡市)

 舟運を核とした広域連携を進めるとともに、桜の名所であり多くの観光客で賑わう背割堤やサイクリストが訪れる「さくらであい館」を拠点としたにぎわい創出の取組が行われている。

(4)伏見地区かわまちづくり(京都市)

 全国で唯一の「川のみなと(内陸河川港)」として「みなとオアシス」に登録された伏見港周辺エリアの整備とにぎわい創出を推進するため、三栖閘門や三栖閘門資料館の更なる有効活用を図るとともに淀川舟運復活の動きとも連携し、親水護岸及び親水空間の整備やにぎわい拠点の機能整備を行うことで伏見のまち全体の活性化を図っている。

(5)宇治市天ケ瀬ダムかわまちづくり(宇治市)

 宇治川を軸とする豊かな自然と重層的な歴史を活かしたにぎわいづくりと安全・安心なまちづくりを目指しており、淀川舟運の復活を見据えた宇治川での体験型川下りの実施等により下流の自治体と連携したにぎわい創出に向けたかわまちづくりが行われている。

(6)和束町木津川かわまちづくり(和束町)

 木津川の舟運の歴史を活かし、親水護岸を整備し、カヌー、SUP 等の水辺のアクティビティを推進する他、和束町の特産品である和束茶や地元特産品等の販売、イベント等による観光振興の促進を図る計画である。

6.万博開幕前に活性化する舟運の取組

 令和6年10月には、万博開幕6か月前イベントとして、淀川沿川各地のイベントを観光船や水上アクティビティにより淀川の上下流を一気通貫で繋ぐ「淀川クルーズFESTIVAL」が開催され、昭和37年以来62年ぶりに下流から伏見港までの航路が復活した(図6)。伏見船着場に近接する伏見港公園ではキッチンカー等による飲食販売、テントブースによる展示、ステージイベント等が行われにぎわいを見せた他、沿川のかわまちづくりエリアや船着場周辺において様々なイベントが開催された。

 令和7年3月には、万博開幕1か月前イベントとして、淀川大堰閘門の初通航、十三緊急用船着場の完成を祝い、京都から大阪十三へ新たな航路を観光船が航行する「淀川クルーズOSAKABAY 新航路OPEN FESTIVAL」が開催された。同イベントの一環として開催された「淀川大堰閘門及び十三船着場利用開始記念報告会」では、淀川大堰に整備した閘門を大型観光船の初めての通航の様子が船内から会場に中継される中、同閘門の名称「淀川ゲートウェイ」が発表され、十三船着場のテープカットが実施された他、十三船着場から淀川を周遊する観光船が出港するなど、会場の淀川河川敷十三エリアはにぎわいを見せた(図7、図8、図9)。

 淀川河川事務所は、淀川大堰閘門の運用開始を前に、令和7年2月に地元小学生家族を対象とした淀川大堰閘門通水記念プレイベントを開催した。このイベントでは、地元大阪市都島区の小学生児童及びその保護者が、淀川大堰や淀川大堰閘門の役割について学ぶとともに、注水前の閘室内に立ち入り、底版に記念ペイントを行った(図10)。こうした地元住民と一体となった取組により、淀川舟運への愛着醸成に結びつくことが期待される。

 これらのイベントを通じて淀川大堰閘門の運用開始により、大阪湾から伏見までが舟運で繋がったことから、淀川沿川のかわまちづくりやその他の賑わい拠点において、一層の連携が図られている。

7.結び

 明治8年に淀川修築工事に着工して以来、令和6年で百五十年の節目を迎えた。

 古来から京都と大阪をつなぐ主要な航路であった淀川が、日本初の近代河川工事によって改めて航路として整備されてから百五十年の節目に、淀川沿川では淀川大堰閘門の運用開始により舟運の一層の活性化が期待されるとともに、大阪・関西万博の開催を前に舟運復活を軸とした新たなにぎわい創出の機運が高まっている。

 古来から舟運で栄えた淀川沿川に一層のにぎわいが生まれるよう、舟運を活かした魅力溢れるかわまちづくりに向けて取組を続けたい。


建設物価2025年6月号

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