建設物価調査会

信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換

信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換

2つの『メリハリ』と2つの『見える化』による下水道管路マネジメントの転換について

国土交通省 大臣官房参事官(上下水道技術)付
(上下水道審議官グループ)
係長 長谷川 智明



1 .はじめに

 令和7年1月28日、埼玉県八潮市の県道松戸草加線(中央一丁目交差点内)において下水道管路の破損に起因する大規模な道路陥没が発生しました。陥没の規模は、幅30メートル・深さ最大10メートルとなり、陥没箇所にトラック運転手が車両ごと落下しお亡くなりになりました。加えて、約120万人の市民が約2週間にわたり下水道の使用自粛を求められるなど、重大な事態となりました(写真1)。

 陥没箇所では、埼玉県流域下水道の下水道管路(内径4.75m、1983年供用開始)が破損し土砂を引き込んでおり、埼玉県の「八潮市で発生した道路陥没事故に関する原因究明委員会」において公表された報告書(令和8年2月19日)では、今回の陥没は「硫化水素によって腐食した下水道管に起因するものであると考えられる」と報告されています。

 現在(令和8年2月時点)も、現地では県道の交通を規制し、県による下水道管路の復旧工事が行われています。


2 .大規模陥没対策に関する有識者委員会の概要

 国土交通省は、事故を踏まえて令和7年2月21日に有識者委員会を設置しました。委員長は、政策研究大学院大学の家田仁特別教授に就任していただき、下水道分野に加え、地質・地盤、トンネル、経営などの有識者に参画していただきました。

 検討内容としては、今後、下水道等の劣化の進行が予想される中、同種・類似の事故の発生を未然に防ぐため、地下管路の施設管理のあり方などを専門的見地から検討することとしており、主に以下の論点について議論を行ってきました。



・ 安心・安全確保の観点から差し当たってとるべきアクション(全国特別重点調査)

・重点的な点検・調査のあり方

・ 道路管理者など他の管理者とのリスク情報共有のあり方

・下水道施設の再構築のあり方

・ 下水道等のインフラマネジメントを推進する仕組みのあり方

・ 八潮市道路陥没事故からみたインフラ全般に共通する課題    など

 有識者委員会では、八潮市の陥没箇所や下水道管の全国特別重点調査の現場視察を行うとともに、議論のテーマに応じて道路・トンネル・鉄道等の実務専門家も加えてさまざまな観点から集中的に議論を行い、3月17日に第1次提言を取りまとめ、全国特別重点調査に着手するとともに、5月28日に第2次提言を取りまとめ、第1次国土強靱化実施中期計画(6月6日閣議決定)に内容を盛り込みました。

 さらに、管路マネジメントの具体的な方策とともに、「インフラ全般のマネジメント」のあり方について議論を進め、12月1日に第3次提言として最終の取りまとめを行い、国土交通省では上下水道分野の重要管路の更新や複線化などの財政支援制度の拡充や、点検・調査の重点化や構造基準などに関して、法令を含む諸制度の見直しの具体化を図っています。

 また、インフラ全般については、社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会で新たに「インフラマネジメント戦略小委員会」を立ち上げ、令和8年1月30日より今後のインフラのマネジメントのあり方について議論を始めたところです。


3.第3次提言について

 9回に及ぶ議論を経て令和7年12月1日に、第3次提言「信頼されるインフラのためのマネジメントの戦略的転換」を取りまとめ、家田委員長及び桑野委員(地盤)、足立委員(公共経済)から金子国土交通大臣に内容を報告いただきました(写真2)。

 第3次提言は、2部構成としており、第Ⅰ部では第2次提言で示した基本的な考え方等を基に全国特別重点調査(優先実施箇所)から得られた知見と課題等も踏まえ、「2つの『メリハリ』と2つの『見える化』による下水道管路マネジメントの転換」として以下の3つの項目について具体的方策の考え方を示しています(図1)。


① 下水道管路の点検・調査の2つの『メリハリ』と2つの『見える化』

② 下水道管路の戦略的再構築(メンテナビリティ及びリダンダンシーの確保)に向けた『メリハリ』と『見える化』の重要性

③ 下水道管路の点検・調査技術の高度化・実用化

 また、第Ⅱ部については、34ページの「新たなインフラマネジメントに向けた5つの道すじ」において解説されているためご参照ください。

 5月にまとめた第2次提言においては、令和7年3月7日の男鹿市における下水道管路補修工事での死亡事故の重大性に鑑み、作業安全の確保を最重要の前提条件として、「全国特別重点調査の実施にあたっても安全確保に最大限留意」するよう全国の下水道管理者に要請したところであったが、8月2日に、埼玉県行田市において全国特別重点調査中に作業従事者4名が亡くなる事故が発生しました。

 このことを踏まえ、第3次提言では改めて、「作業安全の確保はインフラマネジメントの基本中の基本であり、安全管理に関しての関係法令や指針類に基づく安全対策を徹底した上で、発注者と受注者が一体となって、下水道作業特有の危険と安全確保について共通の意識を全国隅々まで徹底しなくてはならない。」としています。

 具体的には、秋田県男鹿市における事故を踏まえた秋田県の安全対策検討委員会 (委員長:加藤裕之 東京大学大学院特任准教授)において示された以下の改善策が、全国の発注者・受注者により徹底して実行されなくてはならないと示され、国土交通省としても、必要な再発防止の対策に全力で取り組んで参ります。

・ 発注者は「法令遵守の徹底」「リスクアセスメントの実施」「監督・確認の仕組みの構築と実践」を基本方針とし、PDCA サイクルを継続的に回し、持続的な監督体制の強化を図る。例えば、作業前のリスク共有、巡視・立ち会い、ヒヤリハット・トラブルの共有、民間企業向けの研修機会の提供や教育支援策の推進などである。

・ 受注者は再委託先も含めた関係者全体に対し、実効性をもった安全衛生体制の構築に向け、特に下水道においては硫化水素中毒などのリスクを伴うことから、法令遵守に留まらず、作業者一人ひとりへ的確な教育を徹底する。例えば、安全パトロール等の安全体制の強化、関係団体等が主催する講習会の受講や、安全衛生に関するセルフモニタリングの実施などである。


 全国特別重点調査では、9月末時点で、対象813km(調査済み延長666km)のうち約1割の75km で直ちに改築が必要(緊急度Ⅰ)と判定され、空洞は7カ所確認された。特に、都道府県としての調査対象30団体のうち、緊急度Ⅰ判定は19団体に及んでおり、一部の地方公共団体だけの例外的な事象でない重大な事態として捉えるべきであるとされています(写真3、4)。


 さらに、引き続き分析が進められているが、以下の状況が確認されました。


・ 同じ緊急度Ⅰにおいても異状の程度に差が見られること

・ 管路内の硫化水素濃度と腐食の程度に相関がありpH や硫化水素濃度の計測等の重要性

・ 管路内の水位や流速などの条件で点検・調査や修繕・改築が容易でない箇所があること

・ 目視調査で把握できない劣化を打音調査等で補足的に把握した事例など、複数の手法を組み合わせる点検方法の高度化の必要性を改めて確認

・ ドローン、船体式カメラにおけるカメラ性能・位置情報の把握、曲線部での飛行など技術の精度向上の必要性

 上記の知見を踏まえ、管路の点検や構造に関する具体的な基準等を検討するように示されている。さらに、明確になった技術的課題を解決すべく、技術の高度化・実用化に向けた取組も進めるべきとしています。


 第3次提言においては、管路マネジメントにおいて『メリハリ』と『見える化』を最重要のキーワードとしてまとめており、その基本的考え方を以下のとおり整理しています。

○ リスクの高い箇所・事項をチェック対象から外さず確実・正確に把握するとともに、センシング・モニタリング技術などの新技術も積極的に駆使し、「(本来)見るべきものを(きちんと)見えるようにする」ことが点検・調査の基本中の基本である。

○ このためには、管理者や担い手にとってのテクニカルな『見える化』が基本であるが、これを厳しい執行体制のもと着実に実行するためには、管路の損傷リスクや事故時等の社会的影響の大きさを踏まえ『メリハリ』の効いた点検・調査を徹底すべきである。

○ これにより得られた点検・調査結果の市民への『見える化』を図り、使用料を通じて、下水道事業への費用負担や、点検・調査及び再構築の『メリハリ』などに対する市民の理解や協力を得ることが必要である。

○ これまでの下水道の点検・調査の具体的な実施方法は各自治体で決定する制度設計がなされていたが、今後は、社会的に重大な影響を及ぼすおそれがあるものについては、国の責任で具体的・合理的な基準を設けることを基本とすべきである。また、これらが全国の隅々まで徹底されるよう、技術的支援を行うための国の組織体制を強化すべきである。

 この考え方を踏まえ、これら2つの『メリハリ』と2つの『見える化』のそれぞれについて、表1の具体的方策を提示しています(表1)。

 下水道管路マネジメントの転換の実現にあたり、実行する人材確保が難しい状況や、全国特別重点調査等も踏まえ確認された硫化水素の発生など下水道の過酷な環境や点検調査技術の課題を改めて鑑みると、各種技術の高度化・実用化が必須となります。さらに将来的には、人が管路内に入らなくても精度の高い点検を行うことが出来る「管内No Entry」を長期的な目標において進めることが求められるとされています。

 そのためには新技術が確実に現場で実装されるためのビジネスモデルの構築と、国と関係団体が連携して技術指針・マニュアルなどの図書・基準類を体系的に整備するといった普及促進環境の整備が必要と提言されました。さらに、新技術など民間の創意工夫・ノウハウを活用し、必要な技術者確保の点から、長期契約で維持管理と更新を一体的に実施する手法の促進も必要と示されています。


 第Ⅱ部においては、第Ⅰ部の内容やこれまでの提言や議論、今般の事故から得られる教訓が下水道分野に限られるものではなく、あらゆるインフラにおいても共通する課題があるとの考えの基、社会インフラ全般に対して言及され、


・2つの『見える化』の徹底

・2つの『メリハリ』が不可欠

・現場(リアルワールド)に『もっと光を』

・統合的『マネジメント』体制の構築

・改革推進のための『モーメンタム』

の5つの道すじが示されました。


4 .提言を踏まえた国土交通省の取組について

(国土強靱化実施中期計画への反映)

 国土交通省では、有識者委員会の提言もしっかりと踏まえ、安全性確保を最優先とする管路マネジメントへの転換を図るため、社会的影響の大きい上下水道管路の更新や、多重化・分散化によるリダンダンシー確保の施策などを、第1次国土強靱化実施中期計画(6月6日閣議決定)に新たに盛り込みました(表2)。


(国の重点的な財政支援)

 令和7年度補正予算においては、八潮市での事故を踏まえて、事故発生時に社会的影響が大きい上下水道管路の更新について、下水道ストックマネジメント支援制度等を拡充し、下水道では全国特別重点調査で緊急度Ⅰと判定された管路の更新を全て補助対象として支援を行っている。さらに、事故発生時に社会的影響の大きい上下水道管路のリダンダンシー確保に向け、修繕・更新や災害・事故時の迅速な対応が容易でない上下水道管路について複線化等によりリダンダンシーを確保する事業を支援するため、新規制度を創設しています。

 令和8年度予算案においても、同様に、事故発生時に社会的影響が大きい上下水道管路の更新とリダンダンシーの確保等を推進するため、事業を重点的に支援できるように個別補助制度の創設を盛り込んでいます(図2)。


(国による基準化や技術の高度化・実用化に向けた検討)

 提言等を踏まえて下水道管路に関する点検や構造の具体的な基準等を検討するため、「下水道管路マネジメントのための技術基準等検討会(委員長:森田弘昭氏 日本大学生産工学部教授)」を昨年8月21日に立ち上げ議論を進めており、本年1月20日に中間整理を公表し、本年秋頃に最終の整理を行うことを予定しています。

 加えて、第2次提言では地下空間の安全性の確保を目的とした技術や点検・調査等を自動化する技術についても言及されており、管路メンテナンスの高度化に資する技術の現場実装・普及に向けて、各関係機関が連携して、技術的課題に基づく開発目標の設定を行うとともに、開発された技術が確実に現場実装されるためのビジネスモデルと図書・基準類の検討を行うため「下水道管路メンテナンス技術の高度化・実用化推進会議(委員長:加藤 裕之 東京大学大学院工学系研究科特任准教授)」を10月8日に立ち上げ議論を進めており、令和7年度内目処に技術的課題の見える化と検討対象技術に対する開発目標の設定、その後、調達環境の整備に向けたロードマップの策定を予定しています。

これらの検討会・推進会議では管路マネジメントの転換に向けた具体的な重要事項を議論しており、内容については国土交通省HPからご参照ください。


5.さいごに

 国土交通省では、八潮市のような事故を二度と起こしてはならないという強い決意の下、新しい管路マネジメントへの転換が全国隅々まで徹底されるよう、引き続き、支援の充実や、法令を含む制度改正の早期具体化に向けて取組み、「強靱で持続可能な下水道の構築」に全力で取り組んでいく所存です。

全国の産学官の下水道等インフラ関係者におかれては、引き続き、御理解御協力をお願いいたします。

※ 本稿で紹介しきれなかった有識者委員会の資料や提言本文、前述の各種検討会等のほか、執筆時点以降の国土交通省での取組に関しては、国土交通省のHP をご参照ください。


[参考文献]

下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000987.html

インフラマネジメント戦略小委員会
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s204_management02.html

内閣官房 第1次国土強靱化実施中期計画
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/dai1_chuukikeikaku/index.html

上下水道関係予算について
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000845.html

上下水道政策の基本的なあり方検討会
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000914.html

下水道管路マネジメントのための技術基準等検討会
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_001028.html

下水道管路の全国特別重点調査について優先実施箇所の調査結果を公表
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo13_hh_000676.html

下水道管路メンテナンス技術の高度化・実用化推進会議
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_001033.html


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