建設物価調査会

3次元データやCIMを活用して、現場の悩みを解決



株式会社 シー・アンド・エヌ ネクスト

株式会社 シー・アンド・エヌ ネクスト 営業統括リーダー 小谷泰樹さん


鳥取県米子市にある株式会社 シー・アンド・エヌ ネクストは、3次元モデル作成やBIM/CIM活用支援、電子納品代行、ドローンスクールの運営など、建設ITサポート事業を手掛けている。現場の困りごと、相談ごとを解決していくなかで仕事の幅が広がっていったという。同社の小谷さんに現場の課題や取り組みについてお話をうかがった。


現場の困りごとを解決する

 PC が本格的に導入され始めた30年ほど前に前身の会社が事業を開始し、PC やCAD、建設業関係のPC ソフトの販売やサポートをしていた。その社長が亡くなり、当時いた社員で事業を承継し、2016年にシー・アンド・エヌ ネクストを設立した。ICT 化が進み、現場の技術者から相談を受ける機会が増え、電子納品代行や住民向けの説明資料作成のサポートなどを行ってきた。

「まだCIM という言葉が知られていない時代でしたが、現場のマネジメントの中でいろんな相談をいただくようになり、その解決方法の一つが3次元モデルの作成でした。我々も勉強しながら一緒にレベルを上げていきました」と小谷さんは当時を振り返る。

3次元モデルの作成や活用は、住民説明会の資料をわかりやすくしたいという現場の声からスタートした。10年ほど前から3次元モデリング・ソフトウェア、SketchUp を使い完成予想の3次元モデルを作成し、さらに施工ステップの動画などを使いながら住民や発注者の説明するためのサポートをしている。


米子市にある株式会社 シー・アンド・エヌ ネクスト



忙しい現場所長をサポート

 「現場所長は、お金の管理から、発注者をはじめとした工事関係者への連絡や書類の作成、住民説明会のための資料作成など、とにかくやることが多く忙しいのです。もちろん技術者としての仕事もあり、マルチタスクが求められます」と小谷さんはいう。

さらに「公共事業は国の政策がダイレクトに反映されるので、働き方改革による週休2日制の実現、DX やICT、i-Construction など、取り組むべきことが次々と増え、その上で利益を出さなければいけない。現場所長は、スーパーマンでないと務まらないほどの仕事量です」。小谷さんには、新たな発想や技術で現場所長の仕事を効率化し、役に立ちたいという思いがある。

 現場に行くと「新しい情報はある?」と聞かれる。所長1人の現場も多く、1年近く現場事務所で作業していると外との接点が少なくなる。同じ会社でも現場によって書類のつくり方が違うなど、ノウハウや情報が共有されていないケースも多い。クラウドサービスや社内の掲示板機能を使って情報共有を行っている会社もあるが、まだまだ少ないという。「花粉を運ぶミツバチのように、現場をまわって新しい情報をお伝えすることも我々の役目だと思っています」と小谷さん。


作業土工(床掘)のICT 化

 ICT 施工やCIM 対象工事の増加により、3次元データ作成や活用に関する相談や依頼が増えている。2021年度の高松町地区第2工区電線共同溝工事では、地上型レーザースキャナーを用いて起工測量を行い、ICT 建機による施工までをトータルにサポートした。

「電線共同溝の管を埋設するためにバックホウで穴を掘りますが、既存埋設物の破損事故を防ぎ、安全に迅速に施工をするために3次元データをうまく使えないかというご相談を弊社にいただきました。現況の3次元データに設計データを重ねて位置の確認と設計照査を行った。

 従来の作業は、建機のオペレーターと補助員の2人体制だが、ICT 施工では、オペレーターがモニターを見ながら1人で作業できる。さらに、これまでは建機のフロントカバーを外して操縦席から身を乗り出すような姿勢で確認しながら作業をしていたが、カバーを付けたまま作業ができ、安全性や快適性も向上した。

最初は慣れない感じだったオペレーターも、1時間ほどでスムーズに掘り進められるようになり、ICT 施工の良さを実感したという。作業土工(床掘)をICT 施工で行う事例はそれほど多くなく、発注者からも、作業効率や安全性の向上が大きく評価された。

元請け会社は、今後も小規模の土工でのICT 活用を行っていくという。CIM の活用は規模の大きい現場の出来形管理が主になっているが、小さな規模の工事でもさまざまなメリットがあることが実証された。




床掘の設計データ



令和3 年度 高松町地区第2 工区電線共同溝工事

地上型レーザースキャナーを用いた起工測量
3 次元データの活用
ICT 建機による施工

電線共同溝工事でのAR 活用

 CIM 活用の一環として、2021年度の国道9号浜田地区電線共同溝工事では、AR を活用した。国土交通省から工事を受注した戸田道路から3次元データを使って新しいことできないかと相談を受け、電線共同溝の設計データ作成を手伝う中でAR を提案した。スマートフォンとGNSS の位置情報を連動させ、サイトビジョンを使って3次元モデルを現場に重ねて、ひと目で設計が理解できるようにした。操作もスマートフォンで簡単に行えるため、経験の浅い社員も現場の理解度が深まったと高く評価され、千葉県木更津市の現場でも同じ技術が使われた。

 「全国の道路埋設管の調査技術は進歩していますが、現状、3次元データ化までされているところは少なく、そのまま現場では使えません。3次元できる技術はあるので、それを設計データと重ねることで、干渉の確認もしやすくなります。既存データの3次元化はこれから期待されるところです」と小谷さんは示唆する。

令和3 年度 国道9 号浜田地区電線共同溝工事




CIM を自分事化する

 公共工事のBIM/CIM 原則適用が進む中で、基準を満たすことはもちろん重要だが、工事関係者の情報共有、安全確保といった現場の課題解決に3次元モデルを活用することでBIM/CIM を自分事化できるようになり、普及につながっていく。

 若い人は新しい技術に抵抗感がなく、むしろ、それを自分の武器にしたいという人も増えているという。その一方で、ベテランの技術をどう継承していくかが課題になっている。3次元モデルを活用することで可視化して、誰でも理解できるようになれば、会社の能力の平準化が図れる。新しい技術を使って会社のスキルを担保することも必要だという。

 同社のユニークなところは、単に3次元データ作成を請け負うだけでなく、現場の人と一緒に考えて、現場に役立つ面白いことをしようという発想だ。新しい端末やソフトは、できる限り自分たちで使ってみる。ドローンも早い時期に購入して、自社で操作性を検証し、完成写真をきれいに撮りたいという要望に応え、導入した。今はJUIDA認定の「ドローンの学校Ⓡ鳥取校」の運営をしている。

 同社のメンバー全員が建設技術者やコンサルタントといった業界出身者ではないという。技術を習得し、3次元モデルも自社で作成し、必要があれば、現場経験がある協力者にアドバイスを受ける。北海道から九州まで全国に協力者のネットワークがあるのも強みだ。小谷さんは「いつでもオンライン上でデータのやりとりができ、コミュニケーションがとれます。

そういったバックボーンが我々の財産です」。また小谷さんは地元の経済団体に所属しており、異業種の人たちとの交流から刺激を受けることも多いという。「大事なのは、好奇心をもって新しいことやってみようという気持ちを持ち続けることです。そういった意識をスタッフみんなが共有しています」。



社会に役立つ価値をつくりたい

 新しい発想で異なるものを組み合わせることで、社会に役立つ新しい価値が生まれる。

 同社では、10年ほど前から、障害のある人の就労支援施設と連携して名刺作成も行っている。その土地の名所旧跡や特産品などのイラスト入りの名刺は、受けとった側も印象に残り、地域のPRにもなる。「イラストやデザインのクオリティも高く、仕事の対価をお支払いすることで就労支援になります。発注者からも新しい社会貢献活動として評価いただいています」といって小谷さんは名刺のサンプルを見せてくれた。

現場が変わるたびに名刺を依頼する現場所長もいるという。同様にイラストを主体にした横断幕もある。自分の描いたイラストが大きな横断幕になり、現場の人や通行する人たちが見てくれることは誇らしく、仕事を通じて社会や人とつながることができる。

新しい障害者支援としての名刺作成

 

 最近は、新人や若手の研修について相談を受けた。「地元の会社では、同期社員も少なく、現場に1人ずつ配属され、ベテラン社員と組むパターンが多い。彼らにとって悩みを共有できる仲間がいないことが一番つらいのです」と小谷さん。そこで、若手だけを集めて話す機会をつくった。逆に、ベテランがどう若手に接していいかわからないので研修をしたいという相談もあるという。

 このように相談事は、BIM/CIM や3次元データ活用のみならず多岐にわたるが、「困ったことは、シー・アンド・エヌ ネクストに相談しようと便利に思ってもらえばいい」と小谷さんはいう。現場で働く人、施工会社、発注者、さらに地域といったすべてのステークホルダーがハッピーになることが大切だという。コロナ禍を契機にWebやクラウドサービスが浸透し、仕事がしやすい環境になってきた。今後はオンラインを活用して全国の現場とつながり、仕事を広げていきたいという。

 またBIM/CIM が普及すれば、3次元モデル作成業務が増え、人材不足が懸念されている。小谷さんは、その解決策として女性活用を考えている。実際、社内には早く正確に3次元モデルを作成できるパートタイマーの女性スタッフがおり、今後は子育てや家庭との両立をしながら仕事をしたいという人が活躍できるチャンスをつくっていきたいという。在宅でもできるので、県内のみならず全国どこからでも仕事ができるようになる。現在、その計画を進めている。

 新しいことを取り入れなければいけないという意識はあっても、日々の仕事に追われ、なかなか取り組めないという会社は多い。BIM/CIMの普及には、同社のような現場目線で業務の課題を一緒に考えて解決するサポートが必要だといえる。

建設物価2022年8月号