建設物価調査会

緑化樹木の需給概況

緑化樹木の需給概況

一般財団法人 日本緑化センター  理事 瀧 邦夫

Ⅰ 需要の動向

1.需要の官民比率

「建設工事施工統計調査」(国土交通省)によると、2020年度の造園工事完成工事高は6,981億円、前年度比35.2%と大きな増加となっている。このうち、造園工事業種が元請で受注している金額は3,834億円とこちらも前年度に比べ51.2%の飛躍的な増となる。

ただし、2020年度分より集計に欠測値補完が行われている。最近10年間では2018年度までの4千億円台から7千億円台に一挙に近づいている。元請比率は54.9%を占め、前年度に比べ5.8ポイント上がっている(図1 )。

また、2020年度の元請完成工事高を発注者別にみると、公共は2,023億円(52.8%)、民間は1,811億円(47.2%)となり、両部門ともに昨年度実績を大きく上回っている(図2 )。

なお、造園工事業を含む総合工事業8業種全体の完成工事高は前年度に比べ3.1%減、造園工事業は8業種の中で18.6%と1番高い伸び率を示している。

図1  造園工事完成工事高の推移
図2  発注者別元請完成工事高の推移

2.公共需要

(1) 公共工事の動向

公共工事の全体的状況を、「公共工事前払金保証統計」(北海道・東日本・西日本建設業保証㈱)によって検討する。2021年度の件数は231,514件、前年度に比較し5.2%の減、請負金額は14兆503億円、前年度に比べ8.6%減となっている(図3)。

発注者別では、市区町村が最も大きく件数で45.9%、請負金額で33.8%を占めている。2番目は都道府県が各々41.9%、31.7%となる。地域別には、関東のウェイトが大きく件数で21.3%、請負金額で25.6%を占める。造園植栽工事に結びつきの強い公園および道路工事の請負金額について、道路部門は4兆867億円、対前年度比98.7%と減少、公園部門は4,687億円、対前年度比90.2%でやはり減少となる(図4)

図3  公共工事請負金額の推移
図4  公園と道路の請負金額の推移

(2) 屋上・壁面緑化

「全国屋上・壁面緑化施工実績調査」(国土交通省)によると、2020年に約19.9ha の屋上、約5.8haの壁面が新たに緑化された。これまでの累積で、屋上は約535.8ha、壁面は約108.5ha が整備された。建物用途別にみると、累積で屋上は住宅/ 共同住宅(110.6ha、20.0%)、教育文化施設(73.5ha、13.3%)、商業施設(71.3ha、12.9%)が上位を占めている。

壁面は商業施設(30.1ha、27.5%)、工場・倉庫・車庫(17.3ha、15.8%)、教育文化施設(12.1ha、11.1%)の順となる。屋上緑化に使用される植栽材料の形態別累積面積をみると、セダムを主に植栽25.6%(137.0ha)、芝生を主17.7%(94.9ha)、その他草本10.6%(56.6ha)などである(図5 )。一方、壁面緑化の累計面積は、やはりツル性植物を主73.5%(79.8ha)、ツル性を除く草本を主8.8%(8.1ha)、ツル性を除く樹木を主4.1%(4.4ha)となる。

図5  屋上緑化の形態別植栽面積の内訳(2000~2020年)

3.民間需要

「建設工事受注動態統計調査(大手50社)」(国土交通省)をもとに、民間の建築・土木工事の動、向を把握する。2021年度の受注高は10兆9,267億円、民間工事は、製造業、サービス業、運輸業、郵便、業等が増え、前年度比8.2%の増、3年ぶりに増加した(図6 )。

工場緑化の情勢に関連のある「工場立地動向調査(速報)」(経済産業省)によると、2021年の製、造業等の新設工場の立地件数は858件で、前年(831件)と比較すると3.2%の増、立地面積は1,283ha、前年(1,155ha)に比べ11.1%増となる。立地件数、を敷地面積規模別にみると、工場立地法による一、定の緑地面積整備を求められ、「全国みどりの工、場大賞」(緑化優良工場等表彰制度、(一財)日本、緑化センター)の対象となる敷地面積9,000㎡以上の工場は、少なくとも3割程度(敷地面積1万㎡以上の261件,30.4%)を見込める(図7)。

なお、立地面積の増加要因はとくに10万㎡以上の面、積規模で大きく増えたことによる。

図6  民間建設工事受注高の推移
図7  敷地面積規模別の立地件数内訳(2021年)

Ⅱ 供給の動向

1.緑化樹木の供給可能量

 2021年度の供給可能量は3,990万本となり、対2020年度比(4,362万本)91.5% と3年続けて減少し、4千万本台を割り込んでいる。形態別内訳は、グラウンドカバープランツ(GCP)が最も多く全体のおおむね半数(46.4%)、次にコンテナ樹木がおよそ5分の1の22.3%、3番目に低木常緑樹が19.4%の順となり、コンテナ樹木シェアーの第2位は2017年度以降安定している(図8 )。露地栽培物のシェアー31.3%に対し、コンテナ栽培物のシェアーは68.7%、ほぼ3対7を維持している。高中木本数の形態別内訳は、常緑広葉樹5、落葉広葉樹3、針葉樹2の割合を保っている。

主な形態について種類別の内訳をみると、

GCPでは、タマリュウ411万鉢(GCP 全体の22%)、シバザクラ類209万鉢(同11%)、コグマザサ113万鉢(同6%)、さらに、ヒメイワダレソウ61万鉢、リュウノヒゲ51万鉢の構成となる。

コンテナ樹木は、シャリンバイ42万鉢(同5%)、セイヨウベニカナメモチ27万鉢(コンテナ樹木全体の3%)、マホニア・コンフューサ22万鉢(同3%)、シラカシ19万鉢、ハマヒサカキ16万鉢が上位を占めている。

低木常緑樹ではサツキ271万本(低木常緑樹全体の35 %)、オオムラサキツツジ116万本( 同15%)、ヒラドツツジ104万本(同13%)、アベリアgra.34万本、クルメツツジ類23万本が上位5種を構成している。サツキは2018年度まで7年間400万本台を維持していたが、19・20年度の300万本台をさらに下回っている。

なお、GCP のタマリュウは鉢径7.5㎝、5芽立の規格の他に、マット栽培による供給(露地約1,200㎡、コンテナ約153,000㎡)も行われている。2021年度の総数は前年度に対し8.5ポイント減少となり、対2020年度比は露地物92.7%、コンテナ物90.9 %とどちらも減退している( 図9 )。2021年度コンテナ栽培物の対前年度比の内訳は、樹木98.9%、GCP87.5%となっていることから、主にGCP の減産が全体の動きに影響している。

図8  形態別の供給可能量
図9  露地・コンテナ栽培の推移

トピックス: 熱帯雨林で進む森林破壊のゆくえ

 熱帯雨林は地球の陸地の約12%を覆い、面積にしておよそ18億4千万ha の広さを有する。そこでは少なくとも2,500億トンの炭素を貯蔵し、陸生の生物多様性の推定50%は熱帯雨林に見出される。一方、熱帯雨林の森林減少(森林の土地利用転換等による森林面積の減少)と劣化(天然林の過剰な抜き切り等による森林の質の劣化)、いわゆる森林破壊は、人間活動による世界の温室効果ガス排出のおおよそ10%の原因となっている1)。地球温暖化を止める対策の中で、さらには、地球の生物多様性の維持にとって、熱帯雨林の盛衰は重要な鍵を握る。森林破壊から熱帯雨林を守る試みを紹介する。

熱帯雨林の事実

 熱帯雨林を有する主要な国を図10に示す1)。世界最大の熱帯雨林はアマゾンであり、ブラジルは地球で最も大きな熱帯雨林を保有し(25%)、ほぼアマゾンの3分の2を占める。5番目のペルーまでを合わせると、上位5か国で全体の半分の面積(52%)を占めている。

熱帯雨林は重要な生態的サービスを提供する。すなわち、膨大な量の炭素の蓄え、洪水や干ばつに対する緩衝、土壌の安定、降雨パターンに与える影響、野生生物や先住民へのすみかの提供など。さらに地元コミュニティが依存する多くの有用な生産物の源である。一方、熱帯雨林は人間の活動により急速に破壊されつつある。

図11に示す熱帯諸国では2001-2019年の間に天然林約5,400万ha の森林減少が進み、ブラジルがおよそ2分の1(45.8%)を占める1)。森林減少の最大要因は林地の農業への転換であり、モノカルチャーと畜産の生産が世界中で熱帯雨林減少の強力なけん引役となっている。あわせて、山火事は2015年に地球全体でおおむね9,800万ha の森林に影響を及ぼし、熱帯雨林面積の約4%に損害を与えた2)

図10 熱帯雨林面積の国別内訳(2020年)
図11 熱帯諸国における天然林面積の減少2001-2019年

地球の森林現況

 熱帯雨林を含め地球全体の森林はどのような状況に置かれているのだろうか。FAO の2020年資料3)によると、森林は4つの主要な領域(亜寒帯27%、温帯16%、亜熱帯11%、熱帯45%)に分布し、総森林面積は40億6,000万ha(世界の陸地の31%)となる。FAO は森林を「樹高が最低5mに達する樹木の樹冠の面積割合が10%、面積が0.5ha を超える天然林または人工林で、他の土地利用が優先しない地」と定義している。

 FAO2022年資料2)で、これらの森林は6,620億トンの炭素を貯蔵し、地球全体の土壌と植生の中にある炭素蓄積量の半分以上を占める。また、私たちの社会は森林から恩恵を受け、高度に依存している。すなわち、世界のGDP の半分以上は生態系サービスに大いに依存していると推定され、森林部門の貢献は世界のGDP の1.52兆ドル(約197兆円)以上に達し、3,300万人の人たちを雇用している。

 森林減少を止め、森林の生態系サービスを維持することは、気候、生物多様性、健康、さらに長期的な食糧安全保障に寄与する。森林減少を抑えるための取組を強化することは、気候変動を和らげる将来的に最も可能性のある費用対効果の高い行動の1つと言える。

最近の推定によれば、森林破壊を止めることで2020-2050年の間に1年当たり最小1.6、最大5.6、平均で3.6GtCO2e(ギガトンCO2換算)の排出を避けることができる(この数値には1.5℃より低く地球の温暖化を維持するために2030年までに削減の必要な14%を含む)。REDD+の枠組み(森林を保全・回復して温室効果ガス排出を減らす途上国は先進国から資金を受け取ることができる)をうまく利用することで、これらの行動の実現と資金調達を円滑に進めることが可能となる2)

森林破壊を2030年までに終わらせる

 2021年11月のCOP26で、世界の100を超える国は、2030年までに森林破壊を終わらせる文書に署名した。署名国には、アマゾン川流域の熱帯雨林で大規模な森林伐採を進めているブラジルも含まれた。森林破壊を終わらせる取組には、発展途上国に提供される土地の修復や山火事への対処などを含め192億ドル(約2兆1,800億円)近い公的資金と民間資金の投資が盛り込まれている。

会議の終了後に公表されたブラジル国立宇宙研究所(INPE)の最新報告書は、2020~2021年にかけ、アマゾンで132万3,500ha の森林が失われ、2006年以降で最大を記録したことを報じて、世界を驚かせた4)

ところで、国連によれば、熱帯雨林における伐採の90%までは違法であるという。熱帯雨林の現場で今起こっていることを直接捉えようとする試みがある。米国にある非営利の技術スタートアップ:レインフォレスト・コネクション(RC)は、森林伐採の兆候をリアルタイムで把握するユニークなアプリを開発し、現地のパートナーと連携して、熱帯雨林の監視に目を光らせている5)

このRFCx モニタリングシステムは、チェーンソー、トラック、自動車などの発する音を、森林内へ侵入する兆候と捉え、リアルタイムに警報を発することで違法伐採を阻止する。また、主要な保護地域における野生動物の密猟者の活動パターン(使われるトラック、自動車、オートバイの発する音や動き)に対して警報を発する。密猟者に使われる主要道路のモニタリング・データをもとに、日没後や週末に保護地域での車両や密猟に関連する活動パターンを解析し、毎月の密猟活動が非常に活発になる有力な時間や日付を統計的に割り出し、限られたマンパワーをターゲットに振り向ける。さらに、世界中の熱帯雨林から収集した鳥や昆虫などの発する加工していない生体音(音響データ)を蓄積しつつある。前月や前年データとの比較から生態系の変化を解析し、土地管理、政策変更、限られた資源配分などに利用できる世界中の熱帯雨林を閲覧する生体音プラットフォーム創設をめざしている。

無料アプリ:RFCx app をダウンロードすれば、熱帯雨林の息吹をリアルタイムで聞くことができる。

熱帯雨林のゆくえ

 COP26では温室効果ガス削減量の国際取引ルールがようやく完成した。先進国が発展途上国に技術や資金を支援し、温室効果ガスの排出量を減らせた場合、削減量の一部を「クレジット」として移転し、自国の削減目標達成に計上が可能となる。支援を受けた国が削減量を移転した際、その分を自国の削減量から差し引く「相当調整」を行うことも決まった。気温上昇を1.5度に抑える目標達成の鍵を握るのが削除量の国際取引「市場メカニズム」である。排出量の国際取引により、2030年までに世界全体で削除量を90億トン上乗せできると試算されている。

 ブラジル先住民連合代表のソニア・グアジャジャラは、ボルソナロ政権によるアマゾン熱帯雨林とともに先住民の土地を破壊しようとする試みに反対する闘争の最前線に立っている。ソニアはCOP26へ参加し、土地と森林を劣化から守ることへの認識を広め、先住民と地元コミュニティのための17億ドル(約2,270億円)の基金造成に奔走している。ウクライナのゼレンスキー大統領とともに、ソニアは米国タイム誌「2022年世界で最も影響力のある100人」に選ばれた6)。

 熱帯雨林の森林破壊を止める手段として、世界は森林の土地利用を変えるのではなく、森林のまま利用する経済政策を選択しようとしている。

参考文献

1)Rhett A. Butler(2020)RAINFOREST INFORMATION,
 https://rainforests.mongabay.com/
2)FAO(2022) The State of the World’s Forests2022,
 https://www.fao.org/documents/card/en/c/cb9360en
3)FAO(2020)Global Forest Resources Assessment2020: Main report,
 https://www.fao.org/3/ca9825en/ca9825en.pdf
4)BBC(2021)Brazil: Amazon sees worst deforestationlevels in 15 years,
 https://www.bbc.com/news/world-latin-america-59341770
5)Rainforest Connection How Our System HelpsPreserve Rainforests,
 https://rfcx.org/
6)Time(2022)The 100 Most Influential Peopleof 2022 Sônia Guajajara,
 https://time.com/collection/100-most-influentialpeople-2022/6177858/sonia-guajajara/


建設物価2022年8月号

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