建設物価調査会

「単品スライド条項」対象品目の市況動向と本誌の調査方法について

「単品スライド条項」対象品目の市況動向と本誌の調査方法について

建設物価調査会 調査部門



はじめに

 2020年半ば頃から、鉄鉱石、銅、亜鉛などの鉱物資源や原油の国際相場上昇にともない、原材料費や物流コストが増加し、建設資材価格の上昇気運は表れはじめていた。こうしたなか、ウクライナ情勢の悪化は、国際的なサプライチェーンの混乱、輸入資源の更なる高騰を引き起こし、建設資材の値上げへの取り組みが一層強まることとなった。 

販売側の強い危機感の高まりに加え、適切な価格転嫁を求める行政、需要家の意識変化が重なったことで、値上げの勢いは原材料費の影響が大きい一次製品から二次製品へと移りながら拡大している。
建設工事で使用される資材の総合的な価格動向を示している建設資材物価指数(8月)は、建設総合全国平均で134.8と前月比0.8Pt 増加(図表-1)。2020年8月から25カ月連続プラスとなり最高値を更新している。

 ここでは、今回の単品スライド条項の対象品目として例示された鋼材類、燃料油、コンクリート類、アスファルト類について、東京地区の市況動向(図表-2)と本誌の調査方法等について概要を述べる。

図表-1 建設資材物価指数(全国平均)2011年平均=100(クリックで拡大)

1.市況動向(2022年8 月末現在)

1)鋼材類
 鋼材類は、新型コロナウイルス感染症対策の影響で世界的に需要が停滞していたが、経済活動の再開により世界の鋼材需要が急回復したことにともない原材料需給はひっ迫。2020年半ば頃より主原料である鉄鉱石、原料炭や鉄スクラップの価格が上昇した。原料価格の上昇を背景としたメーカー値上げにより、鋼材市場は上昇相場へ転換した。2022年に入るとウクライナ情勢の悪化や円安進行から原料価格がさらに上昇し、鋼材急騰局面を迎えた。

 異形棒鋼は、鉄スクラップ価格の高騰を背景に、6月号でトン当たり121,000円と過去最高値を更新。しかし、海外相場の軟化をうけて国内の鉄スクラップ価格が大幅に下落した影響から、9月号では118,000円と下落に転じている。H形鋼は、流通がメーカー値上げを段階的に反映しており、9月号では過去最高値である2008年の127,000円に迫る122,000円と1年間で20,000円の値上がりとなった。その他鋼材類も直近1年間の価格推移において、鋼矢板(ひも付き)+29.0%、鋼板(ひも付き)+36.0%、コラム(BCR295)+28.6% となるなど鋼材類全般で上伸となった。

 2022年上期に鋼材急騰要因となった原料の鉄鉱石や原料炭は、足元で下落に転じている。鉄スクラップにおいても直近で反発しているものの、ロシアのウクライナ侵攻前の水準を下回っている。こうしたなか、異形棒鋼が下落するなど鋼材類は全般的に上昇基調が一服し天井感が台頭しており、先行きの動向が注目される。

(2)燃料油
 ウクライナ情勢の緊迫や主要産油国による減産継続などから、需給ひっ迫懸念が強まり原油相場は上昇。しかし、7月以降、中国のロックダウン後の内需不振や欧米の景気減速懸念を受け世界的に原油需要の減退観測が強まり、原油相場の高騰は一服している。 一方、国内の燃料油市況は1月末から始まった政府の燃料油価格激変緩和対策事業により販売価格の大きな変動は抑えられているものの、高値圏での推移が続いている。 ロシアのウクライナ侵攻を発端とするエネルギー資源の供給不安や世界経済の動きが今後も相場を左右するとみられ、原油相場はなおも不透明な状況が続く見通し。

(3)コンクリート類
 レディーミクストコンクリート(東京17区)は、都心部の大型再開発事業向けの出荷が需要をけん引し、昨年10月以降、出荷量が前年同月を大幅に上回る水準で推移している。協組は、セメントや骨材などの値上げに加え、輸送コストの増加を背景に売り腰を強め、2月号で㎥当たり300円、7月号で200円値上がりし、15,000円と過去最高値を更新した。協組が6月受付分から3,000円の値上げを打ち出して以降、駆け込み注文の反動で交渉機会の乏しい状況が続いたが、ここにきて引き合いが増え始めている。10月以降、セメントの再値上げが表明されていることから、協組はさらなる製造コスト増による採算悪化に危機感を募らせており、今後の交渉の行方が注目される。

(4)アスファルト類
 ストレートアスファルトは、2020年半ば頃から断続的に値上がりしていたが、ウクライナ情勢の緊迫による原油相場の上昇や円安進行でさらに騰勢を強め、8月号でトン当たり123,000円と過去最高値となった。 再生アスファルト混合物(東京14区)は、ストレートアスファルト価格の高騰による製造コスト増に危機感を強めたメーカー各社が、価格転嫁に注力し交渉を続け、4月号でトン当たり200円、7月号で700円値上がりし、9,600円となった。メーカー各社は価格転嫁が製造コスト増に追いついていないとし、今後も値上げ交渉を進める構えにあり、先行きの動向が注目される。

図表-2 価格推移(東京地区)(2020年10月号=100)(クリックで拡大)

2.調査方法等について

(1)掲載価格の概要

『建設物価(Web 建設物価含む)』には、約7.3万規格、53万単価(2022年9月号時点)を掲載している。掲載価格は、表記されている調査対象都市・地域において、メーカー又は商社、問屋、特約店等から、民間企業(工事業者等)に販売される価格(実勢価格)である。

① 調査段階
 調査対象とする取引段階を資材ごとの特性に応じた流通経路図で示している(図表-3)。

図表-3 一般的な商流形態イメージ(クリックで拡大)

② 荷渡し場所
 都市内現場持ち込み価格を原則としている。これによらない場合には、工場渡しや現場車上渡し等と別途表示している。

③ 取引数量
 大口需要家を対象とした継続的な取引において、最も一般的とみなされる取引数量又は取引金額を示している。ただし、価格は資材を購入する企業の信用度や、ある期間における取引数量の多寡等によっても左右されることから、取引数量は一つの目安としている。

④ 決済条件
 現金取引を原則としている。ただし、2カ月後払いは、現金決済と同等とみなす。

(2)調査の実施手順

 正確な情報を迅速に発信するためにISO9001の品質マネジメントシステム等により品質に関する活動の基本を定め、効果的な運用と継続的な改善を図っている。

① 調査員
 「能力開発管理規定」を定め、調査員の能力開発・人材育成に努めており、教育された調査員が調査を実施している。品質マネジメントシステム以外でも、価格変動が多い資材または、建設工事等における使用頻度が比較的多い資材等については独自取引基準や商習慣などの特性をまとめた「資材等調査マニュアル」を作成しており、調査の補助資料として活用している。


② 調査の実施手順
 「資材価格調査基準」を定め、これに基づいて調査を実施している。調査開始から公表までの具体的な調査の実施手順は図表-4のとおりである。なお、調査条件、調査方法等の詳細は、『建設物価』「本誌の見方」(P12~15)に公表している。

図表-4 調査実施手順(クリックで拡大)

③ 情報管理
 「個人情報保護規程」「情報セキュリティ管理規程」に基づき厳重に管理している。正確な情報を継続的に収集・提供するために調査対象者及び調査対象者の協力により得られた個々の情報は外部に公表しない。

④ 中立性・公平性
 「従業員倫理規程」、「調査員の規範」などを定め徹底することで、調査の中立性・公平性を確保している。

(3)調査の実施期間

 調査は、月間を通して計画的に行っているが、毎月10日までに得られた最新の調査結果を翌月号に掲載している(図表-5)。なお、Web 建設物価での公表日は毎月18日(18日が土日祝日にあたるときは公表日が前後する場合がある)、会誌は毎月25日頃発行している。

図表-5 調査期間(クリックで拡大)

(4) 掲載価格の性格とタイムラグ

 市場における建設資材の取引価格は、取引数量、納入時期、荷渡し場所、決済条件等の取引条件が同じであっても、取引相手(信用度、継続性等)や経営戦略等によって異なっているのが実態である。つまり、取引価格は、取引者間の交渉によって決まるもので、絶対的な価格があるわけではなく、実際の取引価格には値幅がある。また、価格はとらえる時点の違いにより、一定の期間(タイムラグ)を要するのが一般的である。ここでは、メーカーの値上げ表明から公共工事の入札、工事契約後の調達までの一般的な流れを基に、各段階におけるタイムラグについてとりまとめた(図表-6)。

図表-6 値上げ表明から調達までの一般的な流れ(クリックで拡大)

 

Ⅰ市場のタイムラグ:メーカーが値上げ表明して市場で浸透するまでの期間

Ⅱ調査のタイムラグ:市場調査で値上げを確認して「建設物価」に掲載するまでの期間

Ⅲ積算のタイムラグ:「建設物価」掲載価格を工事積算で反映し入札するまでの期間

Ⅳ調達のタイムラグ:工事契約後、実際に資材を調達するまでの期間


 Ⅰについては、当該製品の需給状況、競合他社の動向など市場メカニズムにより値上げの浸透に要する時間が決まる。Ⅲについては、多くの公共工事の発注機関が、最新の資材価格を使用して予定価格を定めるなどの取り組みを進めている。Ⅳについては、工事契約後の大幅な価格変動に対応するため、国土交通省が単品スライド条項の運用ルールの変更などを行っている。このように複数のタイムラグが各時点で発生しているなか、Ⅱについては当会の範疇であり、これまでも確実な調査の実施、Web 媒体での情報発信などでタイムラグ短縮に努めてきたところではあるが、社会資本整備の一翼を担っている事を常に念頭におき、今後とも正確な情報をより迅速に発信するという基本方針の下、現下の資材価格の高騰にもしっかり対応していく。


建設物価2022年10月号

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