建設物価調査会

【建設時評】不動産価値の触媒

【建設時評】不動産価値の触媒

明海大学 不動産学部 教授 中城 康彦

 英米法の国では建物に単独の所有権はなく、土地の所有権に含まれる。これに対して日本の民法は土地と建物を別々の不動産と規定し、それぞれに所有権が存在する。英米法の国では土地価格に建物価格が含まれることから、土地部分と建物部分の価格を論ずる必要性は高くない。他方日本では、建物は減価償却するが土地は減価償却しない、建物の売買には消費税が課税されるが土地の売買には消費税が課税されないなど、適用される制度に相違があり、土地価格と建物価格を明確に区分することが求められる。

 土地や建物を入手するために必要な金額と課税評価額に開差があることも知られており、これが節税に利用される問題もしばしば指摘される。代表的なものは土地の所有者が借金で賃貸用不動産、たとえば賃貸アパートを建築して相続税を節税する例である。1億円の現金を残して被相続人が死亡すると遺産額1億円として相続税額が計算される。これに対してその1億円で土地を購入し、土地上に1億円を借り入れて賃貸アパートを建設したのちに相続が発生すると、時価1億円の土地が貸家建付地として65%~70%程度に、建設費1億円の建物が貸家として40%程度に評価され、1億円の借金は同額が負の財産として控除される。結果として1億円の現金で相続するよりも不動産で相続すれば節税が可能なうえに、賃貸すれば一層の節税となる。

 土地と建物を別の不動産とする日本でも例外的に土地と建物を一体の不動産としてとらえ、かつ、不動産の価格として建物部分を重視する英米法に近いものに、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」という。)の適用を受ける区分所有建物がある。区分所有建物では専有部分の区分所有権、建物共用部分の共有持分、および、敷地部分の土地所有権の共有持分の三つが一体化して専有部分の使用・収益・処分が可能となる。そこでは土地は単独で抵当権を設定することはおろか売買することもできず、独立の不動産としての地位を失う。代表的な区分所有建物である分譲マンションの価値は、土地の価値も含めて住戸部分、つまり、専有部分の価値に集約される。

 区分所有マンションにかかる節税について争われた裁判で(令和4年4月19日付判決(最高裁判所第三小法廷)相続税更正処分等取消請求事件)、最高裁判所は相続税更生処分等の取消しを求めた納税者側の上告を棄却した(令和2年(行ヒ)第283号)。納税者は広く利用される相続税の路線価を利用して納税申告していることから正当性を主張したが、国税と裁判所は、“手続きの瑕疵”ではなく“動機の不適切”を重視した。つまり、路線価方式によって納税申告した手続きそのものではなく、路線価方式を利用して意図的に過度の課税回避を行ったことを問題視した。

 具体的には、被相続人は相続人から借金してマンションを購入している、相続人は相続後1年もたたないうちに相続したマンションを高額の時価で売却しているなど、90歳前後の被相続人に近い将来相続が発生することを見越しながら、路線価方式の評価額と実勢価格(時価)の差や実勢価格(時価)で購入するための高額な借入金を組み合わせれば、相当額の節税が可能であることを承知して、意図的、かつ、過度に納税回避を行ったものであり、課税の公平の観点から看過できないとした。

 最高裁判所まで争われた訴訟にかかる不動産は超高層マンションである。超高層マンションが過度の節税に用いられていることがかねて問題視され、仕組みの一部が見直された経緯がある。区分所有法の規律(不動産法)と分譲マンションの価格(不動産市場)と相続税評価(税法)の間のミスマッチが大きくなっていることが背景にある。つまり、①分譲マンションの価格は上階ほど高額になる(不動産市場)、②区分所有法は土地の共有持分を専有面積比とすることを念頭においている(不動産法)、③相続税では建物分(家屋)は固定資産税評価額を用いるところ、各住戸の税額負担は専有面積比とする。また、④土地分は路線価を用いるところ、各住戸の税額負担は専有面積比とする(税法)

 以上の制度を背景として、不動産市場で高額な超高層マンションの上層階を借入金で購入して負債を大きくする一方、相続税評価では土地も建物も相対的に評価額が安く、二重、三重に節税が可能となる。

 過度の節税を是正するには上階の住戸について相続課税で負担を重くする必要があるとして制度の見直しが行われたが、実現したのは、固定資産税の税額配分において一定の傾斜率で税額負担を調整するものであった(平成29年度税制改正)。要約すると以下の通りである。①相続税の見直しには及ばず固定資産税の見直しにとどまった。②見直したのは評価額ではなく、税額の負担方法で調整した。③相続税の評価額は固定資産税の評価額を利用するものの、評価額は見直さなかったために相続税の節税対策とはならなかった。見直しは極めて中途半端にとどまったといえる。

 建物の固定資産税は建築費に対して課税するため、同一資材、同一仕様であればその建物が所在する場所に拘わらず評価額は同一である。分譲マンションの建設費についても子細に見れば柱が太い、梁成が高い、耐震壁が多いなど下階の建築費が高い面はあるものの、それらは上層階を含め建物全体を支えるために必要な共用部分とみなせば、隣接する専有部分の建築費に加算することは妥当ではない。結局のところ、同一面積であれば下層階でも上層階でも建築費は同額と評価する。

 分譲マンションの高層階は高額な一方、固定資産税も相続税も税額は専有面積比で按分されることから“割り勘勝ち”するが、この矛盾を解くのは容易ではない。分譲マンションの売買価格の比率で負担するという考え方もあるが、売買価格は変化することから、基準としての規範性や持続性に欠ける面がある。昨今、分譲マンションの建替えが現実味を帯びてきており、様々な検討や制度整備が進んでいる。建替えに際しては専有面積比による土地持分の問題が顕在化する。上層階の高額な資産を持っていた区分所有者も下層階の区分所有者と権利割合が同じであるために、高層階の所有者が建替え時に自動的に高層階を入手できる保証はない。このことによる問題の顕在化は容易に想像できる。

 高層階、さらには南東の角部屋などの市場価格が高いのは“場所の利益”である。一般に“場所の利益”は土地に起因するが、分譲マンションではそれを土地に帰着させることも建物に帰着させることもできない矛盾がある。あえて言えば、マンション存続期間にわたって償却する資産価値ということになるが、土地は償却しないから、結局“場所の利益”は建物に起因するというほかない。なお説明が循環するが、建物が価値を生み出す触媒と理解することは可能である。


 



建設物価2023年2月号

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