建設物価調査会

【建設時評】資材・労務・建設コストのインデックス上昇率の三カ国比較

【建設時評】資材・労務・建設コストのインデックス上昇率の三カ国比較

一般財団法人 建築コスト管理システム研究所 総括主席研究員 岩松 準

 最近日本では建設資材の高騰や人手不足から労務費の上昇に見舞われているが、他国ではどうなっているのか?――ある問合せに即答できなかった事情があり、手近のデータをまとめてみた。3枚の図がその回答となるが、後で詳しくみていきたい。

 資材コストの上昇に対しては、契約時の価格がスライドするなど、比較的手厚い仕組みがある一部の公共工事はともかくとして、多くの工事で価格転嫁が進まず建設会社の経営を圧迫しているという報道がされている。直近では一部の建築資材についての上昇テンポが鈍る動きもあるようだが、労務費については上がる要因ばかりとなっている。労働基準法の一般則適用(残業規制による時短)が来年4月に迫るほか、政策的な労務費上昇の動きが継続している。その一方では、昨年の首都圏新築マンション平均価格が6,288万円だったという報道もあった。

平均年収が上がらない中で投資目的以外にどれほどの需要が続く見込みというのだろうか。首都圏ではここ数年はオフィスの大量供給があって空室率も上昇が続いている。一方的なコスト上昇圧力が、今後、建設投資意欲の減退に向かい、ゆくゆくは業界に跳ね返ってくるのではないのか?という危惧はある。

 図1~図3 に示したように、建設コストの上昇は主要国の統計データにも端的に表れている。その背景には2020年に始まるコロナ・パンデミックによる経済の混乱や2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻のショックがあった。前者を起因とした各国の生産活動の人為的な停滞とその後の経済活動の再開に供給が追い付かない問題。そして後者の戦争によって徐々に及ぶことになった世界貿易の不振。これに加えて、こうしたショックに伴い、人々の行動様式に大きな変化が生じたことなど、複雑な要因によって経済循環がうまくいかなくなって、需要と供給のバランスが崩れたことで、世界的なインフレが進行したと考えられている(参考文献)。

図1  日本の各種インデックスの対前年同月比(%)の推移

(注) 凡例数値は各インデックスの最新月の値であり,大きさ
順に並べた。以下の図も同様。
(各指数の最新は2022/10~2023/1)
図2  米国の各種インデックスの対前年同月比(%)の推移

(注) Engineering News-Record 社の指数(最新は2023/1)
図3  英国の各種インデックスの対前年同月比(%)の推移

(注) ONS:Office of National Statistics(最新は2022/9~11月)

経済活動の一端を担う建設部門にもそれが波及したために、資材高騰の影響がみられるようになったと言えよう。とかく土着的な産業と言われる建設業だが、建設資材の一部は外国から直接調達したもので出来ている。その状況を表1 、表2 に整理した。



表1  建設部門の中間投入に占める輸入の比率(2015年)
表2  各部門輸入計における「建設部門輸入誘発額」の構成比




2015年の産業連関表によると、建設部門が自らの生産活動で他の産業から調達した資機材費(内生部門の中間投入の費用)約32.3兆円のうち、2.57兆円、7.9%分は輸入だ(表1 )。因みに前回2010年が1.63兆円、5.7%分だったから建設生産における国際貿易への依存は拡大している。

一方、2015年の建設生産活動が間接分を含めて、各産業の輸入をどれだけ誘発したかを示す「輸入誘発額」の計は約7.04兆円で、日本全体の輸入102兆円の6.9%を占める。産業部門毎に建設業に依存する割合は違っている(表2 )。このように、日本の建設業も産業間の商取引を通じて、直接・間接に国際関係の中に存在するのである。

図1~図3 は日米英三カ国の統計情報からとった建設分野のインデックス(指数)情報を元に作成した。少なくとも資材費、労務費、建設コストの3つを含み、各国を代表するような指数を数種類採用した。各インデックスの基準年、対象、最新月等は様々であるから、生の数値は使えないが、対前年同月比(%)の値に変換することで、一律に比較可能となる。各指数がもつ特質を踏まえつつ、三カ国を比較してみよう。

大きな変動幅を持つのは資材Material 関係のインデックスである。米と英は2020年の後半から、日本はやや遅れて2021年夏頃から急激な上昇が始まった。当時のウッドショック、鋼材高騰が思い出される。日本の資材インデックスの動きをみると、外国依存度がより強い「建築資材」が2021年12月~2022年7月に16%~18%水準での高騰を続けたが、最新の昨年12月には8.6%で落ち着きを見せ始めている。「土木資材」は今が最も高い12.7%であり、その動向には注意が必要であろう。

米国の資材指数は2021年央から約1年にわたり30%前後の高率を続けたが直近では15%付近にある。なお、この指数は木材・鋼材・セメントの単純な価格指数であって、実体的なウェイト情報を加味する日英の資材指数とは性格が異なる点には気を付けたい。日米英ともピークが2022年4、5月頃に見られるが、ロシアのウクライナ侵攻(2月~)に反応したのではと思わせる動きである。

労務費指数では、日本の毎勤統計賃金指数と米国Skilled Labor はほぼ同じ約2.5%水準の一方、英国の週平均賃金指数は5%強が続くなど、強い上昇圧力があるようだ。建築や土木の生産コスト指数は、三カ国とも資材と労務の中間を動くが、若干の水準差がある。



参考文献
渡辺努『世界インフレの謎』講談社現代新書2679、2022.10.20


建設物価2023年3月号

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