はじめに
土木工事標準歩掛(以下、「標準歩掛」という)は、土木工事に広く使用されている工法について、施工合理化調査等の実態調査に基づき土木施工に必要とされる標準的な機械、労務、材料等の所要量を工種毎に設定しています。
この標準歩掛は「中央建設業審議会(中建審)」の建議を踏まえて、昭和58年3月に整備・公表し、その後、改定や制定を重ねて現在に至っており、土木工事費の積算の基礎資料として、国、県、市町村の発注官庁をはじめ、民間でも標準的な指標として広く活用されています。
令和5年度標準歩掛の改定概要
標準歩掛は、使用機械の機能向上、新技術・新工法の開発、あるいは各種施工制約などの社会情勢の変化など、施工形態の変化に対応した適正なものとする必要があります。
今回、令和3年度に施工合理化調査等を実施した標準歩掛工種の124工種のうち、令和4年度に施工実態を分析した結果、10工種の改定を行うこととしました。その10工種の改定概要について、以下のとおり紹介します。
施工状況の変動に伴い新規制定、及び改定を行った工種(10工種)
近年の工事現場や施工条件、社会情勢の変化等により、現場実態を反映した歩掛の制定及び改定を行いました。
① 浚渫工(バックホウ浚渫船)(ICT)(写真1 ~ 4 参照)
1)工法概要
浚渫工(バックホウ浚渫船)(ICT)は、河川等の河床に堆積した土砂等を浚渫するため、マシンコントロール又はマシンガイダンスを装備したバックホウ(ICT)をスパッド付台船等に搭載したバックホウ浚渫船(ICT)により施工する工法です。掘削された土砂は、土運船等に積込み、引船により曳航し、海上処分または陸上の処分地に揚土します。
ICT 機器を搭載したバックホウ浚渫船による施工がみられたため新たに制定しました。
2)制定概要
⑴ 適用範囲
・ 河川におけるバックホウ浚渫船(ICT)による浚渫工の施工に適用する。また、適用する土質は、粘性土、砂質土及び砂、レキ質土等とする。
⑵ 施工歩掛
・ 浚渫のほか、繋船、浚渫土の運搬、浚渫土の揚土作業までの一連作業の施工歩掛を設定。
・ 施工歩掛として、掘削深度を考慮して機械を2規格設定し、施工能力は土質、作業状況を考慮したサイクルタイムで設定。
② 砂防土砂仮締切・砂防大型土のう仮締切 (写真5 ~ 8 参照)
1)工法概要
砂防土砂仮締切・砂防大型土のう仮締切工は、砂防工(本・副堰堤、床固め等)の施工に伴い、現地土砂を用いた盛土、もしくは大型土のうで河川等の仮締切りを行う工法です。
砂防工での施工実績が得られたことから新たに制定しました。
2)制定概要
⑴ 適用範囲
砂防工(本堰堤、副堰堤、床固め、帯工、水叩き、側壁、護岸)の施工に伴う現地土砂を用いた土砂及び大型土のうによる仮締切工に適用する。
⑵ 施工歩掛
・ 砂防土砂仮締切は、設置及び撤去の歩掛を設定
・ 砂防大型土のう仮締切は、製作、設置、撤去の歩掛を設定
・ 各作業における日当り施工量を設定し、日当り歩掛化
③ 橋梁検査路架設工(写真9 ~11参照)
1)工法概要
鋼橋やPC 橋の橋台・橋脚、支承部等の橋梁各部の点検や保守を行うため、橋梁検査路を設置する工法です。
橋梁検査路について、施工箇所及び材質に変動が見られたため、新たに制定しました。
2)制定概要
⑴ 適用範囲
鋼橋・PC 橋の橋台・橋脚・桁間へ橋梁検査路を設置する作業に適用する。
⑵ 施工歩掛
・ 鋼橋及びPC 橋の新規及び更新工事の設置作業に適用する歩掛を新規に設定。
ただし、工場における鋼橋製作に検査路が含まれる場合や、旧検査路撤去に関する作業は含まない。
・ 検査路の材質は鋼製、アルミ製、FRP 製に適用。
・ 足場の有無によるアンカーボルト設置、検査路架設歩掛を設定。
④ 原動機燃料消費量(表1 、写真12~14参照)
1)工法概要
原動機燃料消費量は、建設工事に使用する建設機械等の燃料消費量の算出に使用するもので、建設機械等の運転に必要な燃料・油脂類・消耗品等を機種別に機関出力1kW 当りに換算し、運転1時間当たり燃料消費率で示したものです。
2)主な改定概要
⑴ 施工歩掛
・ 排出ガス対策型(オフロード法2014年規制)の普及・拡大に伴う燃料消費率の見直し
・ 燃費基準達成建設機械認定制度の対象機種(ブルドーザ・バックホウ等)の普及による燃費効率の実態を反映
・ 排出ガス浄化装置の普及に伴い、高品位尿素水の使用量を見直し
・ 使用が見られなかった機種の廃止を含め87機種を改定
⑤ 深礎工(写真15、16参照)
1)工法概要
深礎工は、地中に基礎杭を作るために円形の堅抗を掘削する方法であり、ライナープレートで土留めをしながら、内部の土を除去しつつ必要な深さまで掘り下げ、これにコンクリートを充填して基礎とする工法です。
2)主な改定概要
⑴ 施工歩掛
・ 施工機械の排出ガス対策型基準値の変動による見直し
・ 余掘り幅見直し(8→10cm)に伴い、グラウト使用量等の見直し
⑥ 足場工(写真17、18参照)
1)工法概要
足場工は、高所作業を行うための仮設の床及びその支持構造物を設置・撤去する工法です。一般的な土木構造物では、支柱足場の手摺先行型枠組足場、単管足場、単管傾斜足場が広く用いられています。
2)主な改定概要
⑴ 施工歩掛
・ 足場材設置・撤去における使用機械の規格(排出ガス対策型基準値等)に変動が見られたため、規格を見直し
・足場材設置・撤去の労務数量を改定
⑦ 浚渫工(バックホウ浚渫船) (写真19、20参照)
1)工法概要
浚渫工(バックホウ浚渫船)は、スパッド付台船等に搭載されたバックホウで河床等の土砂を掘削し、掘削された土砂を土運船等に積込み、引船により曳航し、海上処分または陸上の処分場に揚土する工法です。
2)主な改定概要
⑴ 施工歩掛
・ 浚渫土の揚土における使用機械の規格(排出ガス対策型基準値)に変動が見られたため規格を見直し
⑧ ポストテンション桁製作工 (写真21、22参照)
1)工法概要
スパンが45m以下の橋梁で、断面がT字形をしたプレキャスト桁を現場製作する工法です。現場製作したプレキャスト桁を架設し、上部フランジ及び横桁部に現場打ちコンクリートを打設、PC 鋼材で横締めして一体化させることで橋梁となります。
2)改定概要
・ 就業形態の変化(4週8休)に伴い、桁製作工に使用する緊張ジャッキ ・ポンプ、門型クレーン、鋼製型枠等機械の供用日数を見直し
⑨ プレキャストセグメント主桁組立工、⑩ PC橋片持架設工(写真23、24参照)
1)工法概要
〔プレキャストセグメント主桁組立工〕
工場又は現場近くで製作したプレキャストセグメント(主桁を基数分割されたもの)を接着剤で圧着した後にPC ケーブル緊張を行いグラウトを注入し主桁を製作する工法です。
〔PC 橋片持架設工〕
主桁を橋軸方向に2~5mのブロック分割し、架設用移動作業車を用いて、橋脚から片持ち梁を張り出す工法です。
2)改定概要
⑴ 施工歩掛
・ PC ケーブルの長期耐久性や施工性向上等を目的に、高粘性グラウトから超低粘性グラウトへ使用するグラウト材の変動が見られたため、グラウト材及び使用機器等を変更。
※ プレキャストセグメント主桁組立工、PC橋片持架設工とも同じ内容です。
おわりに
公共事業を円滑に執行するためには、各工種の施工実態や資機材の需給状況など、変化する事象を的確に把握し、現場の準備や後片付けなどの作業のほか、工事の品質及び安全確保、環境の保全等に十分な配慮がなされているかにも着目したうえで、標準歩掛を整備していくことが必要です。
引き続き、必要な標準歩掛の制定・改定を行い、適正な予定価格が積算できるよう努めてまいります。なお、標準歩掛は実際の施工における工法や施工機械を規定するものではなく、あくまでも標準的な施工を想定した予定価格を算出するためのツールです。このことを正しく理解し、適切な運用をお願いします。
本稿で紹介した改定の概要については、国土交通省ホームページ「土木工事標準歩掛」に掲載していますのでそちらもご参照ください。
【参照ホームページ】
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/constplan/sosei_constplan_tk_000024.html