1.はじめに
国が発注する営繕工事に関する積算基準については,各府省庁が官庁営繕事業を実施するための「統一基準」として位置づけられており、「公共建築工事積算基準」、「公共建築工事共通費積算基準」、「公共建築工事標準単価積算基準」、「公共建築数量積算基準」、「公共建築設備数量積算基準」、「公共建築工事内訳書標準書式」及び「公共建築工事見積標準書式」により構成されています。
また,国土交通省では,統一基準の運用等にかかる資料として、「公共建築工事積算基準等資料」及び「営繕工事積算チェックマニュアル」を作成しています(図1 )。
更に国の統一基準である公共建築工事積算基準とその運用にかかる各種取組みをセットにした『営繕積算方式』を解説した『営繕積算方式』活用マニュアルを作成し、公表しています。「公共建築工事内訳書標準書式」及び「公共建築工事見積標準書式」により構成されています。
これらの公共建築工事積算基準類について,主な内容と主な改定内容を以下に紹介します。
2.公共建築工事積算基準類
2-1 統一基準
(1)公共建築工事積算基準
公共建築工事の工事費の適正な積算に資することを目的として、発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算に関する総括的な事項を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・工事費の種別、区分等
・直接工事費及び共通費算定の基本的内容
・各積算基準類の適用
(2)公共建築工事共通費積算基準
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、共通費に関する事項を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・ 共通費の区分(共通仮設費、現場管理費及び一般管理費等)と計上内容
・共通仮設費の算定方法
・現場管理費の算定方法
・一般管理費等の算定方法
(3)公共建築工事標準単価積算基準
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、単価及び価格に関する事項を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・ 単価の種別(材料価格等、複合単価、市場単価、見積単価等)
・ 複合単価の算定に用いる標準歩掛りの構成(材料、労務、機械器具、その他)
・単価及び価格の適用に関する一般的事項
・ 建築工事,電気設備工事、機械設備工事及び昇降機設備工事に関する項目毎に適用する単価の種別(市場単価、標準歩掛り、見積単価等)及び各標準歩掛りの具体的内容
(4)公共建築数量積算基準
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、建築数量に関する事項を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・数量の計測・計算における有効桁の取扱い
・ 数量の計測・計算、区分方法について、仮設、土工・地業、躯体、仕上、屋外施設等、発生材毎に詳細を規定
(5)公共建築設備数量積算基準
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、建築設備数量に関する事項を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・数量の計測・計算における有効桁の取扱い
・数量の計測・計算,区分方法について,共通事項,電気設備工事,機械設備工事毎に詳細を規定
(6)公共建築工事内訳書標準書式
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、工事費内訳書の標準書式を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・内訳書の構成(種目別内訳書、科目別内訳書、中科目別内訳書、細目別内訳書)
・内訳書の記載内容
・内訳書の標準書式
(7)公共建築工事見積標準書式
公共建築工事の工事費の積算に際し参考とする製品及び専門工事価格について、製造業者や専門工事業者から適正な見積価格を得ることを目的として、見積取得における標準書式を定めたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・見積依頼時に必要な書類,見積書の構成
・各書類の主な記載項目等
・見積項目毎の標準書式
2-2 運用にかかる資料(国土交通省資料)
(1)公共建築工事積算基準等資料工事積算基準
公共建築工事積算基準、公共建築工事共通費積算基準、公共建築工事標準単価積算基準等を円滑かつ適切に運用することを目的として、必要な事項をとりまとめたものです
主な内容は以下のとおりです。
・工事費について
・共通費について(共通事項,共通仮設費,現場管理費,一般管理費等)
・ 単価,価格等について(共通事項、建築工事、電気設備工事、機械設備工事、昇降機設備工事)
(2)営繕工事積算チェックマニュアル
発注者が設定する予定価格の基となる工事費の積算における、積算数量の拾い忘れや違算を防止し、精度向上を図ることを目的として、積算業務の各過程においてチェックすべき項目や数量確認のための数値指標をとりまとめたものです。
主な内容は以下のとおりです。
・チェックマニュアルの構成(積算基本情報チェックリスト、積算基礎チェックリスト、数量算出チェックリスト、積算数量調書チェックリスト、数量チェックシート)
・積算作業におけるチェックフロー(各チェックリストやチェックシートの使用方法)
・チェック項目及び内容(建築工事、電気設備工事、機械設備工事)
3.『営繕積算方式』活用マニュアル
国土交通省では,改正品確法を踏まえ、公共建築工事の円滑な施工を確保する観点から,『営繕積算方式』を解説した『営繕積算方式』活用マニュアルを平成27年に作成し、公表しました。
令和3年4月には,公共建築工事の円滑かつ着実な施工に有効と考えられる工事費積算上の対応や新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止対策など、新たな課題に対する対応を整理し、適正な予定価格の設定、適切な契約変更等についての解説を充実させる改訂を行いました。
また,令和3年6月には、『営繕積算方式』活用マニュアルの要点をまとめた【概要版】を作成し、公表しております。
公共建築工事(復旧工事を含む)の円滑な施工確保のための主な取組みとして以下を解説しています。
・実勢価格や現場実態を的確に反映した単価及び価格の設定
・現場実態を反映した共通費の算定及び条件明示
・現場実態を考慮した適切な工期の設定
・施工条件の変更に伴う適切な設計変更
・物価変動等に伴うスライド条項の適切な運用
・設計図書に基づく数量の適切な算出
・営繕工事における「入札時積算数量書活用方式」
・熱中症対策に係る費用
・新型コロナ対策の対応及び工事の一時中止に伴う増加費用
・労災補償に必要な保険契約における保険料の費用等の計上
・営繕工事における週休2日促進工事(積算関係)
本マニュアルについては,官庁営繕工事において適切に活用を図るとともに、地方公共団体等に対して、各種会議等を通じて情報提供を行っております。
4.積算基準類の改定
(1)公共建築工事共通費積算基準(以下,「共通費基準」という)
共通仮設費率及び現場管理費率については、平成23年の改定以降、11年が経過しております。毎年モニタリング調査を実施し、実態の把握を行っておりましたが、実態との乖離傾向が確認されたため、共通費実態調査の分析結果を踏まえて、各工事の共通仮設費率及び現場管理費率の算定式等の見直しを行っています。
改定概要は以下のとおりです。
・共通仮設費率及び現場管理費率の算定式の見直し
・実態調査結果を踏まえて,共通仮設費及び現場管理費に含まれる項目の見直しとして、台風等災害に備えた災害防止対策費のうち率に含む内容を明確化
・生産性向上を図るi-Construction の取組への対応として,システム・アプリケーションに要する費用の計上先として情報システム費の項目を共通仮設費に作成
・建築工事において、共通仮設費率に含まれる試験費の内容を明確化
・現行基準で適用している「その他工事」(造園工事等)を建築工事等に含めて発注する場合に別途共通仮設費等を算定するとしていた規定を実態に合わせて削除
(2)公共建築工事標準単価積算基準(以下,「標準単価基準」という)
主な改定内容は,現場実態を踏まえた歩掛りの改定,公共建築工事標準仕様書(以下,「標準仕様書」という)等の他基準との整合及び表現の適正化を行っています。
改定概要は以下のとおりです。
・打放し面補修の労務職種を「特殊作業員」から「左官」に変更
・給水設備、給湯設備及び消火設備の総合調整の歩掛りを追加
・配管塗装の材料歩掛りの見直し
(3)公共建築数量積算基準建築工事標準単価積算基準(以下,「標準単価基準」という)
主な改定内容は、今まで木造建築物に関する数量積算基準については、数量算出に関する統一的な基準が示されていませんでしたが、今回新たに低層で小規模な軸組工法を対象とした基準を定め追加しております。追加にあたって、実際の設計業務で試行を実施し、試行結果と現場の実態を踏まえた規定として、現行の数量基準の仮設、躯体、仕上の各編に木造関連の内容を追加しております。
改定概要は以下のとおりです。
・設計数量の算出にあたり、部材長さを新たに定義し、接続する部材の内法長さに仕口・継手を加えた長さとして規定
・内訳書に計上する数量として、製材の所要数量等で算出する方法として、定尺寸法の製材から必要な部材を挽き出す「木取り※」の考え方に基づく方法を新たに追加
※ 木取りとは、規格長さの製材から1本又は複数の部材を挽き出すことをいう。
(4)公共建築設備数量積算基準
主な改定内容は、現場実態を反映した項目の追加及び標準仕様書等の他基準類との整合を行っています。
改定概要は以下のとおりです。
・ 機械設備の総合調整の項目に給水設備、給湯設備及び消火設備を追加
(5)公共建築工事内訳書標準書式,公共建築工事見積標準書式
軸組工法の木造建築物に関する数量積算基準の追加に対応し、従来仕上を対象としていた書式に新たに木躯体の書式を追加しました。また、製材の所要数量を内訳に計上する際に、所要数量の算定の元とした部材長さと部材本数の合計を摘要欄に明し、算定の根拠が明確となるような書式として定めております。木仕上については、木造建物を構成する部材の実態を把握した上で部材名称を規定するなど、計上内容の見直しを行っております。
その他木造関連以外では、業界へのヒアリング結果を踏まえ、エスカレーター設備の書式の見直しを行っています。
(6)公共建築工事積算基準等資料建築工事内訳書標準書式,公共建築工事見積標準書式
共通費基準、標準単価基準等、積算基準類において今回改定された内容が、円滑かつ適切に工事費の積算に反映されるよう国土交通省の運用の見直しを行っています。
(7)営繕工事積算チェックマニュアル
積算業務の各過程において、チェックを効率的に行えるよう書式の見直しを行っています。
改定概要は以下のとおりです。
・複数の項目で同様な確認を行っていた内容について,確認項目を集約
・数量チェックシートについて,手入力としていた確認数量の入力・計算について,計算式等を設定し,省力化に対応
5.おわりに
今回紹介した図1に示している基準類及び『営繕積算方式』活用マニュアルについては、国土交通省官庁営繕部のホームページに掲載しています。
これらは、地方公共団体等に周知しており、引き続き公共建築相談窓口における個別相談対応等を通じて普及に努めて参ります。
【参考ホームページ】
○公共建築工事積算基準類:
・https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000017.html
○『営繕積算方式』活用マニュアル:
・https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000009.html
○公共建築相談窓口:
・https://www.mlit.go.jp/gobuild/gobuild_tk2_000016.html