建設物価調査会

国土交通省地方整備局の動向

国土交通省地方整備局の動向

2022年度グッドデザイン賞 受賞

グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン]にも選出
~景観や自然環境に配慮した塔の島河川整備事業~

国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所






グッドデザイン賞受賞

 宇治川塔の島地区では、洪水時の流下能力を向上させるため、平成21~30年度にかけて河道掘削や護岸整備等を行いました。当地区は平等院等の文化遺産が点在することから、学識経験者や地元の方々にご意見を伺いながら、歴史的・文化的景観及び自然環境と調和する河川整備を行いました。今般、その景観等が高く評価され、2022年度グッドデザイン賞(主催:公益財団法人日本デザイン振興会)を受賞するとともに、グッドフォーカス賞[防災・復興デザイン](日本デザイン振興会会長賞)にも選出されました。なお、本事業は土木学会デザイン賞2022[優秀賞]も受賞しました。


受賞対象名  :河川整備 [景観や自然環境に配慮した塔の島河川整備事業]te

事業主体名  :国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所

分類     :ランドスケープ、土木・構造物

受賞企業   :国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所

概要     : 宇治川塔の島地区は琵琶湖から淀川に繋がる治水上重要な区間であるが河積が小さく、洪水時の流下能力の向上が課題となっていた。
 当地区は世界遺産の平等院をはじめとした歴史的文化遺産が点在し、文化庁の重要文化的景観にも指定され、地元市民や観光客にも親しまれているため、歴史的・文化的景観と調和する河川整備を行った。

プロデューサー:国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所

ディレクター :東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 宮城俊作

デザイナー  : 株式会社東京建設コンサルタント 田中亨介

場所     :京都府京都市宇治塔川

審査員の評価 : 河道掘削、護岸整備、合流堰整備といった土木スケールの整備ながら、歴史的文化遺産が点在する地域に相応しい品格を持ち、遠景からディテールまで美しい 現れとなっている。 (後略)



記念式典

 グッドデザイン賞受賞を記念し、京都府立宇治公園内2箇所に記念碑(メモリアルベンチ)を設置するとともに、地元関係者の方々で、宇治川塔の島河川整備事業グッドデザイン賞受賞記念式を行いました。





1.塔の島河川整備事業の概要

(1)事業概要

 宇治川は琵琶湖から流れ出す唯一の河川で、塔の島地区は天ヶ瀬ダムと合わせて琵琶湖から淀川につながる重要な区間となっています(図‒ 1 )。また、宇治川は豊かな自然と文化がはぐくまれ、世界遺産平等院(1053年建立)・宇治上神社(1060年頃建立)等は京都南部観光の名所となっており、そこに位置する塔の島地区(塔の島・橘島)も四季折々の景観と歴史文化遺産は多くの市民・国内外の観光客に親しまれています。

塔の島は元来中洲であったと考えられ、1286年高僧叡尊(尊号 興正菩薩)が宇治橋修築と殺生禁断目的に中洲の上流部に十三重石塔を建立し、その中洲が塔の島として後世に伝わっていると言われています。

 塔の島地区の河川整備前の流下能力は、淀川水系河川整備計画の目標とする流量1500㎥/s に対し、890㎥/s と流下能力が不足していました。そこで平成21年度より「塔の島河川整備事業」に着手し、景観や自然環境に配慮した最小限の掘削および護岸整備により、洪水を安全に流下させる河川整備を行いました。



(2)整備方針(中洲イメージの再生)
 塔の島地区河川整備事業の方針は、平成17年10月~平成19年3月の計6回開催された「塔の島地区河川整備に関する検討委員会」にて審議。従前の塔の島地区は自然な形状の中洲でしたが、現在では直線的な印象で人工的な景観であるため、本事業では景観・環境に配慮し、歴史的趣のある整備として、基本的なテーマを立案しました。



(3)合意形成
 塔の島地区は重要文化的景観に選定された観光地であることから、豊かな観光資源を後世に渡って継承して行く必要があります。そのため、地域住民はもとより、来訪者への広報としても国(近畿地方整備局 淀川河川事務所)・府(京都府)・市(宇治市)が連携し、地元観光業関係者と協力して事業を進めるものとしました(図‒ 2





2.具体的な整備内容

(1)全体計画
 流下能力を向上させるために河道掘削を行い、掘削に伴う護岸改修は景観に配慮した自然石の野面石積護岸としました。また、中洲イメージの再生は橘島の下流部を切り下げ、宇治川側の護岸勾配を1:2.5の緩傾斜型としました。派川では鵜飼い・遊船が行われており、河川内の水質改善や落差工からの越流による流れや景観確保のため、塔の島上流部に流量制御のため導流堤を設置しました。



(2)河道形状
 河道形状は、派川を掘削することで宇治川を最小限の掘削とし、洪水を安全に流下させる河道形状としました。



(3)護岸構造
 護岸構造は、河川整備前の護岸が石積(写真‒4 )であったことを踏まえ、歴史・伝統・文化の 継承として自然石の野面石積護岸とし、宇治川側は中洲の再生として緩勾配の1:2.5とし、派川は遊船環境に配慮し、できるだけ川幅を確保できる勾配1:0.5としました。

 また、宇治川側の水際部は絶滅危惧Ⅰ類(環境省)のナカセコカワニナの生息環境に配慮した緩傾斜の捨石構造(図‒ 4 )とし、護岸の施工は工期短縮に配慮して背面アンカー一体型工法を採用しました。(写真‒ 5








3.景観・環境に配慮した空間デザイン

 本事業の実施にあたっては、整備の基本テーマをもとにデザインコンセプトを掲げ、遠景・中景・近景にポイントを置きながら進めました。具体の内容を以下に示します。



(1)遠景スケールのデザイン
 遠景スケールのデザインでは、自然流下で形成された中洲の再生をコンセプトに護岸勾配を緩やかにし、自然な河川景観の形成を目指しました。写真‒ 6 に宇治橋から見た整備前の状態を示します。コンクリートの急勾配の護岸や水面から立ち上がった人工的なシルエット、水辺から切り離された公園的な緑が見られます。

 一方、写真‒ 7 は河川整備後の状態を示します。石積みと捨石による緩勾配の護岸は、河道と水際に柔らかくつながりつつ自然なシルエットをつくりだし、中洲に近い景観と水辺の植生回復と生き物をひきつける環境が再生されています。



(2)中景スケールのデザイン
 中景のスケールでは、水辺になじむ護岸のデザインを目指しました。写真‒ 8 に朝霧橋から見た整備前の状態を示します。護岸は切り立った形状で水辺と護岸が独立した印象を受けます。

 一方、写真‒ 9 に河川整備後を示しますが、下流に向かって緩やかに切り下がるランドフォームのもとで、多様な形状・寸法・色の石材をセレクションした石積みと捨石による柔らかな護岸形状を形成し、転落防止柵も対岸からはほとんど見えないようにしました。

 整備前の派川上流端は締切堤が設置されており、鵜飼いや遊船は締め切られた派川の中で行われていました。(写真‒10

 そこで、宇治川の河道掘削を最小とするために派川も掘削するものとし、併せて締切堤を撤去することとしました。また、派川では鵜飼い・遊船が行われているため、写真‒11に示す導流堤を設置し、派川の水の流れを安定させる環境を整備しました。この時の空間デザインとして、上流に向かって開放的となるように護岸をなめらかな曲線形状とし、周辺の山並みや宇治川の流れと調和するように石積護岸として中景スケールでの水と馴染む景観を実現しました。





(3)近景スケールのデザイン
 近景のスケールでは、親水性の高いしつらえを目指しました。写真‒1213は宇治川左岸の護岸ですが、こちらは石積み上部のラウンディングによる護岸の滞留スペースを、川の流れに向かって腰をおろしたくなるような勾配でしつらえ、併せて川への眺望を阻害しない鍛鉄の転落防止柵を配置しました。






 写真‒14は派川右岸側ですが、目立ちにくい色調の鍛鉄の転落防止柵を配置しました。   写真‒15は、派川の船着場ですが、ここでは、河道断面を確保しつつ、水際へのアクセスを石積護岸と切石階段の組み合わせのバランスによって達成し、併せて遊船の接岸長と一般利用者の安全性を確保しました。






(4)塔の島最上流部のデザイン
 写真‒16は塔の島最上流部の導流堤ですが、水理模型実験で得られた蛇行する線形と変化する幅員の形状を基に、河道と背景の谷筋に対する奥行き感を形成し、護岸と同じ石材を用いて景観的な連続性と一体感を実現しました。





(5)橘島最下流部のデザイン
 橘島最下流部のデザイン(写真‒17)は、川中にある中洲の下流部に近似する造形を目指し、下流端部に向かって緩やかに切り下げたランドフォームとしました。また、捨石と礫の間に堆積する土砂によって植生の自然発生が促されています。


(6)転落防止柵のデザイン
 意匠と位置のデザインは、周辺の景観および眺望を意識しました。柵の意匠は、細い鍛鉄の線材とフラットバーによるシンプルな衣装で、周辺の景観にとけこむ低い彩度・明度の塗装色を採用しました。これにより、対岸の石積み護岸と街並みに視覚的に同化する景観的効果を実現しました。(写真‒18



 また、宇治川側転落防止柵(写真‒19)は、緩勾配の石積み護岸斜面の中に設置することで、対岸に広がる国指定名勝・宇治山への眺望を阻害しない存在感を実現し、この位置への設置によって、対岸からの眺望においては、転落防止柵自体が石積み護岸に同化しています。



4.おわりに

 本事業の推進にあたっては、長年にわたり地元宇治市・宇治商工会議所、宇治市観光協会ならびに京都府、委員会・検討会を支えて頂いた学識経験者など数多くの関係者の協力により実現したものであり、この経験を活かして、今後も水辺を活かした更なる観光振興・地域活性化に取り組んでまいります。




建設物価2023年6月号