建設物価調査会

セメント業界の現況と今後の展望

セメント業界の現況と今後の展望

一般社団法人 セメント協会 調査・企画部門 統括リーダー 佐藤正彦


1.現況

2.今後の展望

3.コンクリート舗装の普及活動



1.現況

 2022年度のセメント生産は51,482千t、前年伸び率▲7.6%と5年連続のマイナスとなった。国内需要は37,280千t、同▲1.6%と4年連続のマイナス、輸出については8,137千t、同▲29.1%となり4年ぶりのマイナス、輸入は16千t、同+51.4%となった。また、セメント系固化材の販売量は7,633千t、同▲2.6%と2年ぶりのマイナスとなった。

セメント需給の推移

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(1)国内需要は3年連続で40,000千t割れ

 2022年度のセメント国内需要は37,280千tと前年に比べ▲602千t、▲1.6%の減少と、3年連続の40,000千t割れとなった。これは増加基調にあった56年前の1966年度と同程度の水準。

 前年比プラスとなったのは、関東二区、近畿、九州の3地区だった。関東二区は原子力発電所耐震工事やリニア中央新幹線、近畿はうめきた2期などの再開発事業や物流倉庫、九州は福岡の再開発事業や熊本の半導体工場関連、佐賀のレジャー施設やホテル建設などが寄与した。一方で、関東一区や沖縄では、物件はあるものの建設労働者の人手不足を起因とした工期の長期化などの影響で、セメントの需要は伸び悩んだ。

 官民別にみると、官需は前年比マイナス。「防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策」もあり、このところ政府建設投資額は一定水準で推移しているものの、労務コスト、資材価格などが上昇していることから実際の工事量は減少していると思われる。

 一方、民需は増加した。都心部では再開発事業が本格化、サプライチェーンの国内回帰で半導体などの大型設備投資も増えた。また、原子力発電所の耐震工事やリニア中央新幹線など民間土木も堅調だった。住宅投資については、建設コストの増加や住宅ローンの金利上昇に対する懸念もあり減少したものの、民需としては増加傾向にある。


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地区別セメント国内販売量

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(2)輸出は大幅な減少
 2022年度の輸出は8,137千t、前年伸び率▲29.1%と4年ぶりのマイナスとなった。

 アジア向けが全体の約60%を占め、4,925千t、同▲37.7%となった。エネルギー価格の高騰、フレートの高止まり等による採算悪化や、コスト増加によって近隣輸出競合国との競争が激化したことなどが影響した。一方、オーストラリア向けは2,084千t、同+12.3%となり、全体の約26%を占め、2022年度最大の輸出先国となった。

 輸出は2015年度以降、7年連続で10,000千t超の高水準を維持していたが、一転、2022年度は大幅な減少となった。

仕向地別輸出量

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(3)輸入は減少傾向
 2022年度のセメント輸入は16千t、同+51.4%で、全量韓国品となっている。このところのセメント輸入は、低調な国内需要を反映し、低水準で推移している。


(4)セメント系固化材は高水準を維持
 2022年度のセメント系固化材の販売量は7,633千t、同▲2.6%となった。2年ぶりのマイナスとなったが、国の国土強靭化対策もあり、引続き地盤改良工事は増加傾向にあると思われ、セメント系固化材の販売量は一定水準を維持している。



2.今後の展望

(1)2023年度セメント需要見通し

 国内需要は前年比プラスの38,000千tと見通している。

 官需は前年並みの見通し。国の公共事業予算は当初と補正(防災・減災、国土強靭化のための5か年加速化対策)の予算で、それぞれ前年度と同水準確保されており、低下傾向にあった予算執行率にも下げ止まりの動きが見られる。

一方で労務費や建設資材価格のさらなる上昇が懸念されることから、前年並みと想定する。民需については、住宅投資において新設住宅着工戸数は建設コストと住宅金利の上昇懸念から減少すると予想。設備投資は都市部の再開発工事が継続するとともに、事務所や倉庫が増加すること、サプライチェーンの国内回帰による工場建設も高水準を維持する。

また、原発関連工事やリニア中央新幹線工事など土木工事も堅調に推移するとみており、民需全体としては、2022年度を上回ると想定している。

 輸出は7,000千t、前年伸び率▲15.7%と見通した。引き続き世界情勢の不安定要素が多いなか、エネルギー価格の変動が続くことが予想され、減少すると想定している。

(2)中期的なセメント需要見通し
 コロナ禍からの回復が進むなか、国の国土強靭化対策、都市開発事業、2025年大阪万博関連工事、サプライチェーンの国内回帰による工場建設、リニア中央新幹線及び沿線地域での直接投資など、中期的には一定水準の需要を維持すると期待している。

 一方で、工期の長期化、コスト上昇による実工事量の減少など、近年の人手不足に起因する工事環境の変化は引続きセメントの需要動向に影響を与えるだろう。2024年4月からは建設、物流業界に働き方改革関連法による労働時間の上限規制が適用されるため、この影響はさらに拡大するものと思われる。




3.コンクリート舗装の普及活動

 コンクリート舗装のメリットとして、ライフサイクルコストの低減、高い耐久性、ヒートアイランド対策(路面温度の低減)、大型車の燃費向上などに寄与することが挙げられる。

 政府のカーボンニュートラルの実現に向けた動きのなかで、トラックからのCO2排出量を減らすことが求められている。一手段として積載量の最大化あるいは車両の大型化を目指すとき、道路の耐久性を求められることになるだろう。コンクリート舗装は地球環境問題を考えた時にも有効な手段である。

 日本国内の道路は、そのほとんどがアスファルト舗装となっており、コンクリート舗装はわずか5%程度である。セメント協会として、道路工事の発注元の国や都道府県へ、引き続き採用を働きかけていく。








建設物価2023年7月号

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