建設物価調査会

緑化樹木の需給概況

緑化樹木の需給概況

一般財団法人 日本緑化センター 理事 瀧 邦夫


Ⅰ 需要の動向
 1.需要の官民比率
 2.公共需要
 3.民間需要
Ⅱ 供給動向
 1.緑化樹木の供給可能量
トピックス: ヒューストン市が巨大な公園で高速道路の姿を変えた
 ・陸橋で1つになったメモリアルパーク
 ・干ばつを契機に動植物相を再生する
 ・橋は荒廃した自然を癒す  

Ⅰ 需要の動向

1.需要の官民比率

 「建設工事施工統計調査」(国土交通省)によると、2021年度の造園工事完成工事高は4,174億円、前年度比40.2%と大幅な減少となっている。このうち、造園工事業種が元請で受注している金額は2,323億円とこちらも前年度に比べ39.4%と同様に減少している。2020年度分より集計に欠測値補完が行われたこともあり大幅な伸びを記録したものの、一挙に2018年度までの水準に戻っている。元請比率は55.7%を占め、前年度に比べ0.8ポイントわずかに上がっている(図1)。


図1 造園工事完成工事高の推移
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 また、2021年度の元請完成工事高を発注者別にみると、公共は1,084億円(46.7%)、民間は1,239億円(53.3%)となり、民間の発注額が公共を6.6ポイント上回っている(図2)。

 なお、造園工事業を含む総合工事業8業種全体の完成工事高は前年度に比べわずか0.4%減となっていることから、造園工事業の完成工事高の減少が際立っている。

図2 発注者別元請完成工事高の推移
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2.公共需要

(1)公共工事の動向
 公共工事の全体的状況を、「公共工事前払金保証統計」(北海道・東日本・西日本建設業保証㈱)によって検討する。2022年度の件数は224,197件、前年度に比較し3.2%の減、請負金額は13兆9,937億円、前年度に比べ0.4%減となっている(図3


図3 公共工事請負金額の推移
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発注者別では、市区町村が最も大きく件数で47.8%、請負金額で34.7%を占めている。2番目は都道府県が各々40.8%、30.0%となる。地域別には、関東のウェイトが大きく件数で21.7%、請負金額で26.1%を占める。

 造園植栽工事に結びつきの強い公園および道路工事の請負金額について、道路部門は3兆8,356億円、対前年度比93.9%と減少、公園部門は5,138億円、対前年度比109.6%と増加している(図4


図4 公園と道路の請負金額の推移
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(2)屋上・壁面緑化
 「全国屋上・壁面緑化施工実績調査」(国土交通省)によると、2021年に約14.4ha の屋上、約2.8haの壁面が新たに緑化された。これまでの累積で、屋上は約578ha、壁面は約114ha が整備された。建物用途別にみると、累積で屋上は住宅/共同住宅(113.4ha、19.7%)、教育文化施設(75.4ha、13.1%)、商業施設(76.8ha、13.3%)が上位を占めている。壁面は商業施設(31.9ha、28.0%)、工場・倉庫・車庫(17.9ha、15.7%)、教育文化施設(12.3ha、10.8%)の順となる。

 屋上緑化に使用される植栽材料の形態別累積面積をみると、セダムを主に植栽26%、芝生を主18%、その他草本10%などである(図5)。一方、壁面緑化の累計面積は、やはりツル性植物を主74%(83.2ha)、ツル性を除く草本を主8%(9.2ha)、ツル性を除く樹木を主4%(4.5ha)となる。

図5 屋上緑化の形態別植栽面積の内訳(2000~2021年)
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3.民間需要

 「建設工事受注動態統計調査(大手50社)」(国土交通省)をもとに、民間の建築・土木工事の動向を把握する。2022年度の受注高は11兆6,357億円、民間工事は、製造業、不動産業、金融業、保険業等が増え、2年連続で増加している(図6)。


図6  民間建設工事受注高の推移
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 工場緑化の情勢に関連のある「工場立地動向調査(速報)」(経済産業省)によると、2022年の製造業等の新設工場の立地件数は922件で、前年(864件)と比較すると6.7%の増、立地面積は1,280ha、前年(1,284ha)に比べ0.3%減となる。立地件数を敷地面積規模別にみると、工場立地法による一定の緑地面積整備を求められ、「全国緑の工場大賞」(緑化優良工場等表彰制度、(一財)日本緑化センター)の対象となる敷地面積9,000㎡以上の工場は、少なくとも3割程度(敷地面積1万㎡以上の303件、32.9%)を見込める(図7


図7 敷地面積規模別の立地件数内訳(2022年)
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Ⅱ 供給動向

1.緑化樹木の供給可能量

 2022年度の供給可能量は3,767万本となり、対2021年度比(3,990万本)94.4%と4年連続の減少となっている。形態別内訳は、グラウンドカバープランツ(GCP)が最も多く全体のおおむね半数(47.6%)、次にコンテナ樹木がおよそ5分の1の21.5%、3番目に低木常緑樹が18.3%の順となる(図8)。露地栽培物のシェアー30.9%に対し、コンテナ栽培物のシェアーは68.7%、3対7を維持している。高中木本数の形態別内訳は、常緑広葉樹5、落葉広葉樹3、針葉樹2の割合を保っている。

図8 形態別の供給可能量
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 主な形態について種類別の内訳をみると、GCPでは、タマリュウ367万鉢(GCP 全体の21%)、シバザクラ類217万鉢(同12%)、コグマザサ115万鉢(同6%)、さらに、リュウノヒゲ60万鉢、フッキソウ59万鉢の構成となる。

 コンテナ樹木は、シャリンバイ40万鉢(コンテナ樹木全体の5%)、マホニア・コンフューサ29万鉢(同4%)、セイヨウベニカナメモチ25万鉢(同3%)、シラカシ21万鉢、ハマヒサカキ18万鉢が上位を占めている。

 低木常緑樹ではサツキ230万本(低木常緑樹全体の33%)、ヒラドツツジ104万本(同15%)、オオムラサキツツジ102万本(同15%)、キンメツゲ31万本、ボックスウッド24万本が上位5樹種を構成している。サツキは2018年度まで400万本台、19・20年度に300万本台、21年度より200万本台へ供給力を下げている。

 なお、GCP のタマリュウは鉢径7.5㎝、5芽立の規格の他に、マット栽培による供給(露地7,000㎡、コンテナ約21,600㎡)も行われている。

 2022年度の総数は前年度に対し5.6ポイント減少となり、対2021年度比は露地物93.3%、コンテナ物94.9%とどちらも減退している(図9)。2022年度コンテナ栽培物の対前年度比の内訳は、樹木90.8%、GCP96.9%となっていることから、コンテナ栽培物の主に樹木の減産が全体の動きに影響している。

図9 露地・コンテナ栽培の推移
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トピックス: ヒューストン市が巨大な公園で高速道路の姿を変えた 


 米国ヒューストン市では高速道路MemorialDrive が1950年代に市内にあるメモリアルパークを2つに分断した。現在、双方のエリアをつなぐ橋が人々と小動物の往来を復活させている。米国の高速道路は各地で公園内を通過して深い溝を掘り、近隣住民をばらばらにすることで悪名高い。

 近年、ダラス市のKlyde Warren 公園がWoodallRodgers フリーウェイを改修して建設され、サンフランシスコ市では、高速道路と一体化した公園緑地Presidio Tunnel Tops(事例①)が誕生している。最近10年間で、市や都市計画者は高速道路を、あるいは少なくともその一部を、公園に置き換えることを求める良識に対して徐々に屈服しつつある。


陸橋で1つになったメモリアルパーク

 ヒューストン市は、高速道路の何本かが常に混雑した道路チャートの上位にランクされる、交通事情の悪い都市である。陸橋と大草原のプロジェクト(Land Bridge and Prairie project)に基づいて、2022年5月Memorial Drive に2本のトンネルが完成し、その上部を覆う土と植物のマウンドに陸橋が通じている。2022年までに更新された40.5ha(100エーカー)の中には、芝生、湿地、トレイル、湖などが配置され、芝生はニューヨーク市マンハッタンのセントラルパークにある有名なSheep Meadow(6.1ha)の2倍の大きさを持っている。

 橋でつながる新生メモリアルパークは2023年2月に一般公開された。訪れた人たちは1950年代以来初めて、Memorial Drive を歩いて渡り、メモリアルパークの途切れない、連続している全体でおよそ607ha(1,500エーカー)の緑地を楽しめるようになった。これは6車線の高速道路をまたぐ緑の公園が、巨大な高速道路により引き起こされた分断を、それを取り壊すことなしに修復できることを示す最新の事例となる。


干ばつを契機に動植物相を再生する

 ヒューストン市は2011年に森林林冠層のおよそ80%が枯損する激しい干ばつの被害を被った。このような干ばつと闘うための方策の1つとして、自生の動植物相を再導入することを決めた。市が委託した造園設計会社は、敷地の複雑な生物多様性の修復を目指した。ヨーロッパの入植者の時代まで遡り、古地図を解析し、考古学者に意見を求め、修復すべき動植物相の正しい種類に関するデータ収集のため約40人の生態学者と共に作業をした。

 プロジェクトでは希少となっている自生の湾岸大草原とサバンナ生態系の保全に力を入れる。これらは森林生態系よりも復元性が高く、植物や野生生物種の多様性を促進し、洪水を吸収して水の浄化にも役立つ。さらに、公園建設に伴い移植する必要のある既存樹木は、相当の本数を2011年の干ばつで荒廃した森林エリアで活用する。

成長を見込める大径木を移植することで、10年かそれ以上で森林の林冠層を再生することが期待できる。すでに190本の樹木を再配置している。また、他の用途として相当量は護岸安定のための材料(toewood)に使われる。これは自然な護岸を再現するために河道に沿って使われる自生の木本材料であり、安定性を高め、ハビタット面積を増やし、浸食防止に役立つ 3)。



橋は荒廃した自然を癒す

 都市の景観は人々のために設計されると同時に、マウンドの優しく傾斜した自然は小動物が高速道路を横切ることも同様に考慮している(地下の水路を使って水生動物が道路の下を移動する)。

 造園設計チームは米国北西部のクーガーのために州間高速道路90号線を横断する野生生物回廊(事例②)に啓発されていた。このコンセプトをメモリアルパークに用いる可能性を詳しく調査した。確かに、メモリアルパークはオレゴン州のような自然豊かな所ではなく、ヒューストン市の真ん中に位置する。彼らは橋が主要な野生生物回廊になるという幻想を抱いてはいない。しかし、トンネルが土で覆われた後に用地を訪れた時、泥の中に小動物の足跡を見つけた。“まさに人間のためでなく、あらゆる種類の野生生物のために” 自然を癒している橋の働きを実感した。


事例① Presidio Tunnel Tops(サンフランシスコ市)

 1993年、サンフランシスコ市の湾岸地区代表者、都市計画者、市民は地震により安全でなくなった高速道路Doyle Drive を置き換える必要に直面した。この道路は1936年にニューディール政策により建設され、ゴールデンゲートブリッジへ誘導するためPresidio 地区の公園を2つに分断していた。トンネルの中を高速道路が走り、その頂上部を覆う新たな土地を生み出すことで、切り離された公園を再び結び付けるという構想が提案され、Presidio Tunnel Topsプロジェクトが誕生した。

地元コミュニティの1万人以上の人たちの意見をもとに最終計画案がまとめられた。プロジェクトは約160億円(1億1,800万ドル)の資金を調達した。ニューヨーク市のHigh Line を手掛けたJamesCorner Field Operations 社が設計パートナーに選ばれた。2022年7月の開園時、広さ5.7haのPresidio Tunnel Tops に植えられた合計約20万本の植物、うち半数は自生植物が人々を迎えている。

 公園はPresidio の近隣住民を市の臨海部に再びつなげることになり、およそ100年を経て歩行者はようやく向こう側に渡ることが可能になった。



事例② I-90を横断するクーガーの交差路

 ワシントン州西部のオリンピック半島に生息するクーガーは本土のクーガーと比べて、同系交配のために遺伝的多様性が低い。クーガーはアンブレラ種と考えられ、高速道路を渡る橋の建設により、クーガーはもとより、シカ、エルク、地域の多くの他の種を救うことになる。西海岸沿いを南北に走るカスケード山脈を横断している州間高速道路90号線(I-90)では、このような構造物の建設がすでに26か所以上進行している。カリフォルニア州サンタモニカ山脈には、世界最大規模の野生生物陸橋が2022年春に着工した。

 米国の総延長約644㎞(4百万マイル)におよぶ道路網には約1,000か所の野生生物交差路が点在する。この数字はバイデン政権のインフラ法案で成長が見込まれ、橋やアンダーパスのような動物に優しいインフラ整備に3億5千万ドル(約505億円)を割り当てている。2021年発表の研究によると、高速道路は1マイル(1.6㎞)毎に“生態的交差路” を持つべきであると提案している。

実際に、I-90では15マイル(24㎞)の区間にこれまでおよそ11の構造物(大部分はアンダーパス)が造られている。さらに、2021年、ワシントン州運輸局はキーチェルス湖交差路(Keechelus Lake Overcrossing)を完成させた。これは6車線の高速道路に架かる2本のアーチ型橋で、動物を保護する高さ2.4mの遮音壁が側面に設置された。2021年11月時点で、14,000頭の動物がI-90沿線のさまざまなアンダーパスとキーチェルス湖交差路を使っている。出所5)



参考文献

1)Elissaveta M. Brandon(2023)Houston just covered part of its highway with a massive park,
 https://www.fastcompany.com/90849419/houstonjust-covered-part-of-its-highway-with-a-sprawlingpark

2)Presidio Trust & National Park Service(2022)
Press Release
 https://www.presidiotunneltops.gov/press/presidio-tunnel-tops-free-world-class-national-parkdestination-opens-to-public

3)Memorial Park Conservancy Land Bridge and Prairie Project, Land Bridge and Prairie FAQs,
 https://www.memorialparkconservancy.org/discover/master-plan/land-bridge-prairierestoration- project/

4)Memorial Park Conservancy the Healing POWER of PARKS 2020 Annual Report
https://www.memorialparkconservancy.org/wpcontent/uploads/2022/03/memorial_annualreport-FY20-FINAL_081821.pdf

5)Elissaveta M. Brandon(2022)Why Washington state wants to spend millions building bridges for cougars,
 https://www.fastcompany.com/90718164/whywashington-state-wants-to-spend-millions-buildingbridges-for-cougars


建設物価2023年8月号

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