建設物価調査会

「建設物価」等未掲載樹種の価格調査

「建設物価」等未掲載樹種の価格調査

緑化樹木調達難易度判定会議






はじめに

 この価格調査は、「建設物価」等で掲載していない緑化樹木、 グラウンドカバープランツ(GCP)のうち、需要者ニーズの高いものについて情報提供し、需給の円滑化に資することをねらいとしている。

 実施主体は、緑化樹木調達難易度判定会議((一財)日本緑化センター・(一社)日本植木協会)で、全国の調査モニターによる市場価格調査結果をもとに、判定会議による確認にもとづき行うものである。

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 調査対象は、緑化樹木、GCP および庭園樹木とし、樹種の内訳は、表1に示すとおりである(調査結果の詳細は後掲「掲載価格の見方」を参照)。

表1 別掲の価格調査結果に示す調達難易度
(本誌の造園樹木と同じ5段階評価による)
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緑化樹木をめぐる最近の動き

  供給可能量の中でグラウンドカバープランツ( 以下、GCP) の数量は全体のおおむね半分(48%)を占める。2015年以降、そのシェアは安定している。以下にGCP の最近の供給動向を検討する。

(1)GCP 供給の推移

 2022年GCP 総数は1,793万鉢、内訳は木草本類が全体の8割以上(1,482万鉢)を占め、タケ・ササ類、ツル性類はともに1割未満(160万鉢と151万鉢)である(図1)。2014年から2年毎の推移をみると、いずれも減少傾向にある。

 木草本類をさらに2つに分けると、木本類22%(320万鉢)に対し、草本類はほぼ4 倍の78 %(1,162万鉢)を占め、2014年以降、おおむね木本2:草本8の割合は変わらない。


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(2) GCP 種類数と供給規模

 GCP の調査種類数は248、木本類49、草本類130(球根類11を含む)、ツル性類60、タケ・ササ類9の内訳となる。GCP は樹木のように1樹種多規格の供給とは異なり、1種類1規格がほとんどであり、一部2~3規格によって供給されているものも見られる。

 2022年の複数規格を含めた289件のデータをもとに、鉢数階層別に集計すると図2となる。供給可能量5千鉢未満の種類が半数近く(46%)を占め、5万鉢未満までで全体の8割(82%)の種類が含まれる。50万鉢以上の最上位クラスに含まれる種類を表2に示す。タマリュウ(5芽立、径7.5cm)1種類で5分の1を占め、ヒメイワダレソウまでの7種類で、GCP 全体の半分以上を占めていることがわかる。

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(3)最近3年間のGCP 増減傾向

 2020~2022年の3 年間のデータをもとに、2021/2020年と2022/2021年の鉢数増減を計算し、2期とも増加、2期とも減少、増加ないし減少の3グループに分けて種類数を示すと図3となる。6割以上の種類が増加から減少またはその逆の傾向を示す。2期とも減少している種類は4分の1(62)となる。2期とも増加しているおよそ1割(25)について表3に掲載する。

 参考に、「全国屋上・壁面緑化施工実績調査」(国土交通省)から屋上緑化の植栽タイプ別面積を見る。植栽タイプは「芝生・セダム・コケ・その他草本・低木」主体、および複合となり、セダムから低木までの4区分を図4に示す。

 直近2020年では、メキシコマンネングサ、オノマンネングサなどセダム類が主体となり、最近5年間は6~8万㎡台を推移している。その他草本は1.5~3万㎡台、低木は7千~1万7千㎡の範囲を増加・横這いと動き減少に転じている。コケ類は減少傾向を辿っている。

 GCP は都市の暑熱環境の改善や豪雨による水害防止対策として、屋上緑化における雨水貯留・排水機能を高める。さらに、生きものの生息場所を創り出す重要な役割を発揮できる植栽材料であることから、今後の利用拡大を期待したい。


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トピックス

アムステルダムの都市洪水を減らす「賢いブルー・グリーン屋上緑化」 1 )

 世界気象機関(WMO)によれば、ヨーロッパの都市の気温は過去30年間の世界平均の2倍以上と世界中のどの大陸よりも暑くなっている2)。それと同時に、ヨーロッパ北部の冬の気象は一層極端な降雨量と洪水を起こす傾向にある。アムステルダム市は今後30年以内に地所の4分の1以上が洪水による深刻な影響を受けるリスクに晒されている3)。

 そこで、市はRESILIO プロジェクト注)を立ち上げ、2018から2022年に、水害の起きやすい市内4地区に「賢いブルー・グリーン屋上緑化」(SMART BLUE-GREEN ROOFS、以下BG 屋上緑化)を14か所導入した(写真1表4)。




BG 屋上緑化は雨水の貯排水を巧みに制御する

 BG 屋上緑化は、図5に示すように、植栽層の下に雨水を貯留するいくつかの構造を設けて、雨水が短時間に一挙に排水路へ流れ込みオーバーフローすることを防ぐ。“賢い” と言われる訳は、何層にもわたる構造と雨水の貯留と排水を制御するバルブの働きにある。

 バルブは意志決定支援システム(DecisionSupport System:DSS)と呼ばれる、精巧なコンピュータシステムで管理される。アムステルダム自由大学環境学研究所の説明によれば、バルブが閉じられていると屋上に貯えられている雨水は植物の生育を維持するために使われる。

バルブはリアルタイムでヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)の降雨予報に接続され、一定量の降水量が予測される時に開き、ゆっくりと市の下水道に水を流す。これによって、市の排水システムのオーバーフローを防ぎ、氾濫に起因するインフラへの損害を回避する。BG 屋上緑化の貯留層は空になり、次の豪雨を受け入れる準備をする。

 DSS は導入する地区の特性、季節による降雨量の違いなどの要因も考慮に入れている。例えば、病院の近くでは、道路が水浸しにならないことを最重要事項とする。それ故、バルブは降雨予報に一層敏感に、頻繁に開くよう設定することで、流入する豪雨を貯えるために、常に十分な収容能力を発揮できるようにする。研究結果によれば、従来型の屋上緑化では極端な降雨量の通常約12%捕捉するのに対し、70~97%を捕捉できることを明らかにした4)。

 このシステムは、60~70mm の雨水貯留を可能とするように設計されている。この雨量は非常に強い豪雨を想定したものであり、オランダでは50年かそれ以上に一度発生する規模である。


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水の広い用途は資産価値を高める

 暑く乾燥が続く時期に、屋上で集められた水は多目的に供給される。緑地を灌水し、余分な水の層がもたらす断熱性は建物の冷房を維持する。また、このシステムは街路において気温を下げる可能性があり、都市ヒートアイランド効果を減らすことに役立つことが期待できる。

アムステルダム大学(Amsterdam University of Applied Sciences)の水管理・都市気候の研究者は、もっと植物の蒸発散を活用することで全体として都市を涼しくできると言う。従来型の屋上緑化が30%蒸発散量であるのに対し、BG 屋上緑化はおよそ70%を示し、都市の熱ストレスを減らす効果があると指摘する4)。

 さらに、BG 屋上緑化は従来型の屋上緑化より広範な種類の植物の生育に適する。従来型では耐乾性の植物種を必要とするものの、BG 屋上緑化では水利用の可能性が大きく、生き残れる植物の範囲を拡げている(表5)。在来の植物は最長4週間渇水に持ちこたえられると言う。

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 このことは、昆虫など生きもの多様性を高め、屋上に創出された緑の空間は野生生物(マルハナバチ、チョウ類、クモ類、鳥類、コウモリなど)に休息や食餌の場所を提供する。また、人間の活動や構造物によって分断された野生生物の個体群にとって生態的回廊としての役割も果たす。

 Resilio プロジェクトは公的資金を導入することができた。民間にとっては、導入コストが一つの障害となる。しかし、過密な都市景観の中で、あらゆる屋外空間は十分に高い価値があり、非常に希少である。眺望やレクリエーションエリアの得られる、アクセスし易い庭園を備えるBG 屋上緑化は最大で21%資産価値を高めると推定される5)。まさに、BG 屋上緑化が民間の建物に投資するインセンティブとなる可能性がある。

 BG 屋上緑化と同様のコンセプトにもとづく取組がニューヨークなどの諸都市、ヨーロッパ、南アジア、カナダの多くの地域で規模を拡大している。自然に根ざした解決策(NbS)にもとづく雨水を賢く貯留する仕組みは、今後新たな標準となるべく成長しつつあるコンセプトといえる。



(注) RESILIO プロジェクト アムステルダム市が水関連の民間企業など8事業体と提携してBG 屋上緑化を推進するもの。RESILIO とは「賢く革新的な気候適応屋上の弾力性ネットワーク(ResiliencenEtwork of Smart Innovative cLImate-adapativerOoftops)の頭字語である。

アムステルダム市は2018~2022年の5年間に屋上緑化面積1万㎡以上を実現している。本件はEU の都市革新行動イニシアティブ(Urban Innovative Actions Initiative)に基づき、 地域開発基金(European RegionalDevelopment Fund)から480万ユーロ(約7億2千円)、パートナー事業体から120万ユーロ( 約1億8千円)の資金拠出をもとに実施された。

Resilio プロジェクト: https://resilio.amsterdam/en/smart-blue-green-roofs/


参考文献
1)Katherine Latham(2023)Amsterdam's ‘Smart’Blue-Green Roofs Reduce Urban Flooding, 
https://reasonstobecheerful.world/amsterdam-bluegreen-roofs-smart-flooding/

2)World Meteorological Organization(2022)Temperatures in Europe increase more than twiceglobal average,
https://public.wmo.int/en/media/press-release/temperatures-europe-increase-more-twice-globalaverage

3)RISK FACTOR Flood Risk Overview Does Amsterdamhave risk?, https://riskfactor.com/city/amsterdam-newyork/3602066_fsid/flood

4)Tim Busker & others(2022) Blue-green roofswith forecast-based operation to reduce the impactof weather extremes,
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S03014797210181205)RESILIO(2022)RESILIO Final report A roofjourney h t t p s : / / r e s i l i o . a m s t e r d a m / w p – c o n t e n t /uploads/2022/03/Final-Report-RESILIO.pdf

















建設物価2023年8月号

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