建設物価調査会

日本のインフラの今

日本のインフラの今

国土交通省 総合政策局 社会資本整備政策課





1.はじめに

 私たちの暮らしを支える「社会資本整備」について、事業の流れ、関連する予算・契約の仕組み等を含めた整備の進め方、現状やその効果等をわかりやすくお伝えするため、国土交通省のホームページに「日本のインフラの今」のページを公開しました。本稿では、同ページで取り上げている内容についてご紹介します。



2.どうやって社会資本整備は進むのか?


(1) 社会資本整備とは

 社会資本の定義には様々な見解がありますが、主に、間接的に生産資本の生産力を高める機能を有する社会的間接資本としてとらえる考え方、市場機構によっては十分な供給を期待し得ないような財としてとらえる考え方、事業主体に着目し、公共主体によって整備される財としてとらえる考え方があります。

 国土交通省では、道路、鉄道、空港、港湾、公園、下水道、河川、砂防などの事業を社会資本整備事業と定め(社会資本整備重点計画法第2条第2項各号)、これらの事業を重点的、効果的かつ効率的に推進するため、社会資本整備重点計画を策定し、取組を推進しています。


(2)社会資本整備の流れ

 道路、治水施設、港湾等の社会資本は、計画の段階から合意形成を行いながら具体化され、その後、設計・工事等を経て供用されます。

 また、これらの過程において、個別事業(※)ごとに、計画段階、採択(事業費の予算化)段階、実施段階、完了後の各段階において、評価を行うことで、事業の効率性及びその実施過程における透明性の一層の向上を図りながら進めています(図1)。
(※)維持・管理及び災害復旧に係る事業等を除く。


<図1 社会資本整備(公共事業)の流れと関連する事業評価の流れ>
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(3)社会資本整備を進めるための予算と契約の仕組み

<予算について>
 社会資本の整備を進めるための予算は、公共事業関係費といいます。政府が定める「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)等に沿って、国土交通省等が8月末までに、社会資本整備の推進に必要な経費について概算要求を行い、財務省が年末に政府予算案として取りまとめた上で、例年1月から始まる通常国会での審議を経て、成立します(※1)。

 また、当初予算作成後の事情の変更(災害の発生や経済社会情勢の変化等)によって、「経済対策」の策定が行われるなど、予算を支出する緊要性が認められた場合等には、補正予算が編成されることとなります(※2)(図2)。

 実際の事業を実施する際には、予算の成立後に、限りある予算の中で、地域の実情や要望、事業の必要性や緊急性に基づき、優先度の高いものから配分を行い、事業実施箇所の決定を行った上で、個々の事業を進めていくこととなります。

<契約について>
 公共工事の発注者は、入札手続きにより、最新の単価や基準に基づいて経費を見積もって作成した予定価格の範囲内で受注者を特定し、契約を締結します(一般的には入札公告から契約締結まで1~数か月)。このように、一般的に、予算成立、契約締結を経て、工事の着工に至るまでには、一定の期間を要することになります。

 また、公共工事は、着工のタイミングで、受注者の求めに応じて、発注者から受注者に対し、資材、人材等の確保のための着工資金として、原則として契約額の4割に当たる前払金が支払われますが、残額は、工事完了後、発注者の完了検査をもって受注者に支払われるのが一般的です(完成前に部分払いや中間前払金の支払いが行われる場合もあります)。このため、「契約」と予算の「支出」のタイミングにはずれが生じます(図3)。

<図2 社会資本整備に係る予算編成スケジュールの例(令和3年度)>
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<図3 社会資本整備に関する工事の入札
~供用開始までの流れ(イメージ)~>
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(4)財政に占める公共事業関係費の推移

 一般会計(当初予算)に占める公共事業関係費の割合は、2000年頃までは10%台で推移していました。その後、公共事業関係費は減少し、2022年度の公共事業関係費の割合は、約5.6%となっています。

 他方、社会保障関係費は少子高齢化の進展等に伴い増加を続けており、国の予算の約半分が社会保障費と国債費(国債の償還と利払いのための経費)に充てられています(図4)。こうした厳しい財政状況にあっても、国民の安全・安心、経済成長、地域社会を支えるような、真に必要性の高い公共投資は的確に進めていく必要があり、国土交通省としては、中長期的かつ明確な見通しの下で必要な事業量が確保できるよう努めているところです。


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(5)公共事業の財源

 国の公共事業の財源は、政府が発行する建設国債で賄われています(図5)。これは、社会資本が整備されると将来にわたり広く国民が利用できるという観点により認められているものです。地方公共団体においては、地方債の発行が、交通、上下水道などの公営企業の経費のほか、建設事業費の財源の調達を行う場合等に認められています。

民間企業でも、商品を生産したり新商品を開発したりするのに必要な機械、設備などの固定資産の取得、整備を借入金で賄っていることと同様に、社会資本のために発行した公債額は、世代を超えて共有する資産としての裏付けを持っているものです。

<図5 国債発行額に占める建設国債発行額の割合>
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普通国債残高の内訳(令和3年度)
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3.日本の社会資本整備の状況は?

 我が国は、諸外国と比較して、急峻な山脈を多く有し、海岸線が複雑で可住地が少なく、地震や豪雨など自然災害が数多く発生するなどの脆弱な国土条件下にあります。これにより、耐震対策がより必要となったり、トンネル等の構造物の比率が高くなったりするなど、諸外国よりインフラ整備が高コストになります。

 特に近年は毎年のように全国各地で自然災害が頻発し、甚大な被害が生じています(図6)。地球温暖化により、100年に一度の大雨が50年に一度になり、将来はさらに洪水発生頻度が高まることが見込まれる中、国民の生活や経済活動を守るためには、事前防災を含めた防災・減災、国土強靱化が急務です。

 また、高度経済成長期以降に整備された社会資本の老朽化が加速度的に進行しており、不具合が生じてから対処する「事後保全型」から不具合が生じる前に措置を講じる「予防保全型」のインフラメンテナンスへの本格転換をはじめとする老朽化対策は待ったなしの課題です(図7)。


<図6 近年の自然災害発生の状況>
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<図7 インフラ老朽化の状況>
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4.戦略的・計画的な社会資本整備とは?

 社会資本の整備効果は、「フロー効果」と「ストック効果」とに分けられます。フロー効果とは、公共投資により、生産、雇用および所得等の経済活動が派生的に創出され、経済全体が拡大する短期的な需要創出効果のことをいいます。公共投資額から中間投入額を除いた付加価値額とその派生効果が直接GDP に反映されます。ストック効果とは、社会資本が整備され、それらが機能することによって継続的に得られる効果のことをいいます。

例えば、経済活動における効率性・生産性の向上が図られたり、国民生活における衛生環境の改善、防災力の向上、快適性やゆとりが創出されたりする効果などが当てはまります。GDP を直接的・間接的に押し上げる効果のほか、快適性、ゆとりなど金銭価値で測れない効果もあります(図8)。

 景気が長期低迷していた時期等に、景気刺激対策としての公共投資がさかんに行われた時期はありますが、近年では、規模ありきではなく、ストック効果を発揮する観点から、中長期的・安定的な公共投資を着実に行っていくことがより重視されています。

<図8 社会資本への投資がGDPに与える経済効果イメージ ※1(2021年度/令和3年度)>
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5.公共事業の予算執行の最新状況は?

(1)公共事業関係費の執行状況

 足元での国土交通省の公共事業関係費の執行は、当初予算・補正予算ともに順調に推移しています。公共事業は、天候や用地交渉などの外部事情で予定どおり進捗しないこともあるため、あらかじめ国会の議決に基づき、翌年度に予算を繰り越すことが認められています。近年の実績でも、繰越制度の適切な活用も含め、最終的にはほぼ全額が執行されており、使い残していたり未消化であったりということはありません。

 なお、補正予算は、年末から年度末に成立することが多く、特に公共事業については、工事着手から完了まで相応の工期を要することになるため、年度末までに完了せず、多くが翌年度に繰り越されて執行される傾向にあります。

近年、公共事業関係費の繰越が増加傾向にあるのは、防災・減災、国土強靱化などの重要課題に対し、災害の発生状況や事業の進捗状況などを踏まえ機動的に対応する観点から、年度末近くに成立した補正予算を活用して対策を進めていることが背景にあると考えられます。(防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策の例:123対策に対し、政府全体で概ね15兆円程度の事業規模を目途等)

 新・担い手3法でも位置付けられている通り、繰越制度や国庫債務負担行為の適切な活用によって、余裕をもって工期が確保できたり、仕事の閑散期となりがちな年度前半に事業量を分散できたり、出水期が始まる前に治水関連工事を終わらすことができたりするなどのメリットもあります。

 公共事業については、当初予算・補正予算ともに、限られた予算を有効に活用するため、必要な施策の裏付けがあり、計画や設計などを経て、適宜適切に予算計上していますので、「規模ありき」ということではありません(図9~11)。

<図9 公共事業関係費の推移>
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<図10 公共事業の執行状況について>
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<図11 公共事業の執行状況について(令和2年度予算>
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(2)繰越と不用の違い

 国の予算では、各年度の経費をその年度の歳入で賄う「会計年度独立の原則」があります。しかし、予算成立後の事由に基づき、年度内に支出が終わらない場合に、予め国会の議決を得て次の会計年度に持ち越す「繰越」が可能となっています。公共事業関係費は、ほとんどが国会の議決を経て、あらかじめ翌年度に繰り越して使用できる経費(繰越明許費)に指定されています。

 一方、繰り越してもなお使用し終わらなかった金額については、「不用」となり、国庫に返納されます。公共事業関係費で不用になっている金額は、予算額の1%程度です。


(3)債務負担行為の活用

 国庫債務負担行為とは、財政法第15条に基づき、予め国会の議決を経て、次年度以降(原則5年以内)にも効力が継続する債務を負担する行為です。公共工事の場合の適用としては、複数年にわたる場合の次年度以降の負担に活用されるほか、契約はその年度内に行うが、予算の計上と支出は翌年度以降にする、いわゆる「ゼロ国債」などに活用されます。国と同様に、地方公共団体においても、地方自治法第214条に基づき、議会の議決を経て債務負担行為を行っています。

 令和3年度予算より、補正予算からスタート・支出する複数年度事業についても、債務負担行為が活用できる「事業加速円滑化国債」という制度が創設されました。これにより、補正予算も柔軟に活用して、機動的に複数年度の事業を執行できることになりました。

 債務負担行為により、施工時期や工事量の平準化を図ることができ、建設業者の働き方改革や生産性向上に効果があるため、公共工事の品質確保の促進に関する法律等により、積極的に活用することとされています(図12)。

<図12 繰越明許費・国庫債務負担行為の適切な活用>
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6.おわりに

 自然災害から国民の命と暮らしを守り、我が国の経済成長や地域社会を支えるために必要なインフラについては、未来への投資として確実に整備していくことが不可欠です。

 国土交通省としては、引き続き、中長期的な見通しの下、安定的・持続的な公共投資を推進しつつ、戦略的・計画的に社会資本整備を進めてまいります。

 また、国土交通省の「日本のインフラの今」のホームページにおいては、社会資本整備を進めるための公共事業の予算執行の最新状況についても、随時情報を更新し、発信していきます。

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/infra/







建設物価2023年10月号

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