建設物価調査会

【後編】教育機関とスモールファーム向けBIMプラットフォームのコストマネジメントシステムの概念設計と実装

【後編】教育機関とスモールファーム向けBIMプラットフォームのコストマネジメントシステムの概念設計と実装

工学院大学建築学部・教授    遠藤 和義
工学院大学建築学部・教授    岩村 雅人
工学院大学建築学部・非常勤講師 尾門 智志



下記については、本記事の【前編】を参照してください
1.研究の背景と目的
2.BIM を用いた基本設計の初期段階にお期とコストマネジメント




3.BIM を用いた基本設計の初期段階におけるCO2排出量削減とコストマネジメント

(1)本章の背景
 近年、世界的に想定を超える気象災害が発生し、気候変動に伴う環境問題が多発している。

 この状況下で、CO2排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」は国内外において喫緊の課題となっている。

 カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みは、世界共通の長期目標として130以上の国と地域が「2050年までにカーボンニュートラルを実現させる」5)ことを宣言している。建設分野において、CO2排出量の割合は全世界の総発生量の約50%を占め、環境に配慮した取り組みは急務である。

 GDP(国内総生産)とCO2排出量の関係は正の相関が見られ6)、CO2排出量削減を検討する上で、経済活動の状態やコストは切り離せない要因である。

 プロジェクトの確定度が高くなるにつれ、コスト削減を目的とした検討の優先度が高くなり、CO2排出量削減を目的とした検討は困難となる。よって、CO2排出量削減を実現するため、基本設計の初期段階からコストを考慮した検討が重要であると考えられる。

 第2章において、基本設計の初期段階から各部位のモデリングを包含することが可能となるBIM を導入し、コスト検討について建物の各部位に関する検討を導入する可能性や具体的な手法の検討に取り組んだ。BIM は、生産プロセスの検討に順応する建築構法、BE の分類に基づいており、各部位の数量を出力可能であり、得られた数量をコストと連携する一連の手法を示した。


(2)本章の目的
 本章では、第2章の成果を拡張し、基本設計の初期段階におけるコストを考慮したCO2排出量算出の検討手法を明らかにする。具体的にはBIMソフトウェアとして、Autodesk 社のAutodeskRevit2023を用い、Revit と連携しCO2排出量を可視化するEC3(Embodied Carbon in ConstructionCalculator)ツールを用いる。EC3は、エンボディドカーボンのデータベースであり、CO2原単位等の外部データベースとの紐付けにより、CO2排出量の算出と可視化を行う。

 CO2排出量削減とコストの両立を実現する為、多目的最適化の検討にGenerative Design を用いる。Generative Design は、計算処理能力を駆使した多目的最適化技術である。目標や機能等のパラメータを入力すると全ての解決案と各案のパフォーマンスが提案され、多目的な最適案の検討を行う。検討対象とするBIM モデルは、第2章で用いたものとする。
 
 
(3)EC3ツール
 EC3は、Autodesk BIM360(以降BIM360とする)クラウドベースの共通データ環境と連携し、BIM モデルをインポートし、建築資材に内包されるCO2排出量を算出するツールである。 本項では、以下の概要を示す。
 
① BIM360の概要
② EC3ツールの概要
③ BIM モデルとEC3連携の概要

a)BIM360の概要
 BIM360は、Autodesk が提供するクラウド型ワーキングプレイスであり、図−25に示すように図面、文書、3D データ等が共有、管理される。
 BIM360はウェブブラウザ上で動作するため、専用のソフトウェアを必要とせず、インターネット環境さえあればどこからでもアクセスすることができる。また、BIM モデルの作成において、ワークシェアリング機能を活用した。ワークシェアリングとは、図−26に示すひとつのファイルデータを複数人が同時アクセスし、同時編集可能な機能である。

図−25 BIM360の概要
図−26 クラウドワークシェアリングの概要



b)EC3ツールの概要
 EC3はオープンアクセスプラットフォームであり、建築物に使用される部材のCO2排出量を算出するツールである。EC3において、CO2排出量を算出する際に用いる部材の原単位は、データベースとして内包されており、Building Transparencyが用いられる。Building Transparency は建設業界がエンボディドカーボンに対処するために必要なデータとツールを提供する団体で、EPD 認証製品からエンボディドカーボンのデータを抽出し、要求仕様を満たす入手可能な部材の炭素強度を比較することで、CO2排出量の削減目標が支援される。

 一般に、CO2排出量算出に用いる原単位データベースは、「積み上げベース」と「産業連関表ベース」がある。表-2に示す通り、産業連関表ベースは製品の平均的な単位生産額から作成されているため、EPD の算定方法とは異なる。一方、積み上げベースは、現実のプロセスに対応しており、データの代表性も高く、高精度な数値である。
 
 EC3に内包されている原単位は、積み上げベースである。本章では、EC3に内包されている「Building Transparency」を用いた積み上げベースの原単位と、産業連関表ベースの原単位を用い、CO2排出量の算出方法のプロセスと結果を明らかにすることとする。

表−2 積み上げベースと産業連関表の比較7)



c)BIM モデルとEC3連携の概要
 BIM モデルとEC3の連携は図−27に示すBIM360クラウドベース上で行われる。
 EC3のウェブブラウザページよりBIM360上のBIM モデルを指定しEC3へインポートすると、BIM モデルのカテゴリ毎に項目が分類される。BIM モデルは、建築構法と同様の分類体系を備えたオブジェクトベースであり、EC3において、CO2排出量算出の根拠となる原単位は部材毎であるため、オブジェクトと原単位の紐づけは容易に行うことができる。次章において、図-28に示すBIM モデルのインポートからCO2排出量の算出までの具体的な手法を明らかにする。

図−27 Revit とEC3の連携


(4)CO2排出量の算出
 RevitとEC3を連携し、CO2排出量の算出を行った。
 EC3へBIM モデルのインポートし、CO2排出量の算までは、以下の手順により行った。

① BIM モデルのインポート
② 部材の数量をBIM モデルから抽出
③ 積み上げベースの原単位の紐づけ
④ 産業連関表ベースの原単位の紐づけ
⑤ CO2排出量の算出

本章では、基本設計の初期段階を想定してBIMモデルを作成しているが、検討対象範囲は、基礎、柱、梁、床、屋根、外壁、カーテンウォールとした。


図−28 CO2排出量算出までの流れ
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a)BIM モデルのインポート
 EC3とBIMモデルを連携する際、BIMモデルはBIM360クラウドベース上に保存されている事が前提となる。ウェブブラウザ上のEC3ページにおいて「IMPORT FROM AUTODESK」からBIM360上にアップロードされたBIM モデルのプロジェクトファイルを選択し、特定の3Dビューを指定する。よって、基本設計の初期段階においては、CO2排出量の検討を行う要素のみを分類・整理した3Dビューを作成し、EC3と連携することが有効な検討方法であると考えられる。


 基本設計の初期段階においては、プロジェクトの確定度が低いため、複数案の検討が想定され、3Dビュー単位でBIMモデルをインポートするため、複数の3Dビューを作成し、EC3上でCO2排出量の比較検討にも活用することができる。データの更新は、BIM360上のBIMモデルを「パブリッシュ」して行うこととなる。

図−29 BIM360上でBIM モデルをインポート


b)部材の数量をBIM モデルから抽出
 EC3において、BIMモデルをインポートするとモデルカテゴリ毎、オブジェクトタイプ毎に項目が分類される。各部位の根拠数量は、BIMモデルから継承されるため、EC3上での数値入力は不要である。結果を図−30に示す。

 BIMは建築工法と同様の分類体系を備えたオブジェクトの集合体であるため、オブジェクト毎の数量算出が可能となる。EC3において、モデルカテゴリ毎、オブジェクトタイプ毎に項目が分類されるため、部材毎のCO2排出量の算出を行うことができる。

図−30 モデルカテゴリ毎に分類された項目
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c)積み上げベースの原単位の紐づけ
 積み上げベースの原単位は、EC3に含まれるエンボディドカーボンデータベースを用いた。図−31に示す通り、部材毎、製品毎に分類されている。

 BIM モデルの各部材に紐づける製品の選択は、図−32に示す製品の仕様、地域などからフィルタリングすることができる。検索結果は、グラフなどで視覚的にCO2排出量が把握し易く、比較検討しながら選定することができる。

 BIM モデルは、建築構法の分類体系に馴染むオブジェクトベースであるが、積み上げベースの原単位と馴染まないオブジェクトも存在することが明らかとなった。本研究の対象建物は鉄筋コンクリート造であるが、柱、梁、床、屋根がそれに該当する。例えば、柱オブジェクトには鉄筋の情報は含まれていないため、柱の数量に歩掛りをかけて鉄筋数量を算出することなる。鉄筋の項目はEC3上で追加し、柱数量に歩掛りをかけて鉄筋数量を算出した。

 資材の選定後、オブジェクト項目との紐付けを行い、オブジェクト毎の CO2排出量が算出され、合計値も算出される。現在、EC3のEPDデータベースには日本の建築資材の登録が少ない点が課題として明らかとなったが、積み上げベースの原単位については主に米国の原単位を採用した。

図−31 エンボディドカーボンデータベース分類
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図−32 EPD データの選択
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d)産業連関表ベースの原単位の紐づけ
 産業連関表ベースの原単位は「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出量等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」8)を用いた。

 産業連関表ベースにおいても積み上げベースと同様に、鉄筋コンクリート部分の根拠数量がコンクリートと鉄筋の合算値となっているため、歩掛りをかけて鉄筋量を算出した。産業連関表から必要な原単位を抽出し、EC3の「My imports」から数値を読込み、各項目と原単位を紐づけた。

図−33 産業連関表ベースの原単位の読み込み


e)CO2排出量算出
 各部材と製品の紐づけを行うと、モデル全体での CO2排出量が算出される。積み上げベースの原単位を用いた CO2排出量と産業連関表ベースの原単位を用いた CO2排出量の算出結果をそれぞれ図−34、35に示す。それぞれ、延床面積、階数、高さ等の建物の基本情報を EC3へ入力する事で、図−34、35に示す。

 それぞれ、延床面積、階数、高さ等の建物の基本情報を EC3へ入力する事で、図−34、35に示すようなグラフとして、BIM モデル各部位や各部材の CO2排出量が算出されると同時に、BIMモデル全体の CO2排出量が算出される。また、サマリーチャートには、建物全体や各部位のプロジェクトのベースライン推定値と削減目標が明示される。

積み上げベースを用いた場合と産業連関表ベースを用いた場合ともに、コンクリートと鉄筋が占める CO2排出量の割合はそれぞれ90%を超える結果となった。積み上げベースを用いた場合と産業連関表ベース用いた場合で、コンクリートの CO2排出量と鉄筋の CO2排出量の割合に差が見られたが、要因は、用いた原単位の差によって生じたものと考えられる。

図−34 積み上げベースを用いたCO₂排出量
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図−35 産業連関表ベースを用いたCO₂排出量
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 本章の検討範囲は、基礎、柱、梁、床、屋根、外壁、カーテンウォールの躯体と外装であったため、建物全体の CO2排出量の算出までは至らなかったが、既往研究7)によると、本研究の検討範囲が建物全体の CO2排出量の約90%を占める事が明らかとされている。基本設計の初期段階における CO2排出量の検討は躯体と外装程度に止め、得られた結果に割増係数などをかけることによって、建物全体の CO2排出量の概算値を把握する手段も考えられる。

 BIMモデルのインポートから原単位の選定、BIMモデルから継承された各部材項目と原単位の紐づけ、CO2排出量の算出までの流れは非常に明快であり、瞬時に CO2排出量の算出、結果のグラフ化ができることから、基本設計の初期段階において十分実用可能なツールであると考えられる。

 これらの検討結果やEC3上のプロジェクト情報はXLSX 形式やCSV 形式で出力可能である事から、エビデンスとしてデータ蓄積可能なフォーマットとして活用できる。LEED 等とのフォーマットとも親和性があることから、今後は実務において各種手続きへの活用も期待される。


(5)多目的最適化の検討
a)多目的最適化の検討範囲
 ここまでCO2排出量の検討手法について示したが、CO2排出量の検討を行う上でコストは切り離せない要因である。コストを考慮した検討に必要なパラメータを抽出し、多目的最適化を行った。本章4項の結果より鉄筋が占めるCO2排出量の割合が90%を超えることから、検討範囲は、基礎、柱、梁、床、屋根の外壁のコンクリート躯体部分とした。

b)最適化検討項目の抽出
 多目的最適化の検討はGenerative Design を用いた。Generative Design では、目標、定数、拘束、変数を定義する必要があるが、図-36に示す入力値として、下記項目を抽出した。

① コンクリート1m2当たりのCO2排出量
② 鉄筋1t 当たりのCO2排出量
③ 工区分割数

 鉄筋とコンクリートが占めるCO2排出量の割合が90%を超えることから、入力値として設定した。また既往研究1)において、単工区における工期と2工区分割における工期を算出していることから、工区分割数を入力値として設定した。 出力値として下記項目を抽出した。① コスト② CO2排出量 コストはコンクリートと鉄筋のCO2排出量から算出され、CO2排出量はコンクリートと鉄筋のCO2排出量と工区分割数から算出される。

 

図−36 多目的最適化における入力値と出力値


c)Generative Design による多目的最適化の検討
 Generative Design による多目的最適化は下記手順により行った。
①  入力値の設定から出力値までのプログラムをDynamo へ実装
②  Dynamo のプログラムをGenerative Designへ書き出し
③  多目的最適化の検討条件と目的を設定し、最適化を実行

 多目的最適化を実行した結果、コストを抑えた検討結果が図−37に、CO2排出量を抑えた検討結果を図−38に示す。

 本章では、Generative Design を用いて多目的最適化の検討を行ったが、コストとCO2排出量の相関関係を検討した。基本設計の初期段階において一般的に想定される検討項目を考慮した解析は今後の検討としたい。

 具体的には、構造種別、階高、階数、スパンといった検討項目を盛り込むことである。また、すでに示した通り、基本設計の初期段階において、鉄筋とコンクリートが建物全体のCO2排出量において90%程度を占めるため、躯体数量とその他の部分のCO2排出量の関係について、データの蓄積によって、基本計画段階で計数処理も可能である。



図−37 コストを抑えた検討結果
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図−38 CO₂排出量を抑えた検討結果
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(6)本章のまとめ
 本章では、第2章の成果を拡張し、基本設計の初期段階におるコストを考慮したCO2排出量の検討を行う具体的な手法を明らかとした。BIM モデルとEC3をBIM360上で連携し、CO2排出量算出までのプロセスは非常に明快であり、多忙な基本設計の初期段階においても実用性の高いツールであると考えられる。

 本章では、CO2排出量の算出に用いる原単位は、積み上げベースと産業連関表ベースを用いた。積み上げベースの原単位はEC3内のデータベースを用いることで、各項目と容易に紐づけることが可能であり、産業連関表ベースを用いる場合でも、EC3へ原単位をインポートすれば、紐づけは容易であった。本検討範囲は躯体と外装にとどまったが、それらは建築全体のCO2排出量の約90%が占められる5)ことから、計画の早期から躯体と外装について検討することが有効と考えられる。

 本研究では、鉄筋コンクリート造を検討の対象としたが、既往研究7)における鉄骨造の場合や、基本設計の初期段階に想定される、スパン等の変更によるCO2排出量の算出についても今後、検討する予定である。多目的最適化の検討ではGenerative Design を用い、CO2排出量や工区分割数を入力値として検討した。

4. 本研究チームの所属大学における教育での試行

(1)本章の背景
 我が国の大学におけるBIM教育の遅れを指摘する声は少なくないが、「実践に基づいた建築学教育におけるBIM活用可能性の考察」3)で示した通り「BIMを使うためにBIMを学ぶ」のではなく、「建築を学ぶためにBIMを使う」方針のもと構成したシラバスは、現状有効に機能し、本研究チームの所属大学におけるBIM教育の基盤は整いつつある。

 本章では、第2章、第3章の研究成果を本研究チーム所属大学のBIM 教育へ導入し、その効果について考察する。

(2)「3DCAD・BIM 演習」における活用
a)概要
 本章で扱う「3DCAD・BIM 演習(以降本演習とする)」は、建築学部、建築学科3年生後期に実施される。BIMソフトウェアのAutodeskRevit と連携ソフトであるDynamo、VICO office、Lumion を用いて、週1回90分×2コマ、全15回からなる。
 15回の講義は表-3に示す以下の3つのカテゴリに分類して実施した。
① ごく簡単なモデル入力による基本操作の習得
② 一つの建物を入力しながら各部構法の理解
③ 数量、コスト、施工計画を連携する為の関連ソフトウェアを併用したBIMデータの活用

表−3 3つのカテゴリに分類した内容



b)コロナ禍に対応したシラバスの変更
 本演習は、対面とオンラインを同時双方向に行うハイフレックス型授業の併用により実施した。2コマの配分を実習形式と演習形式に分類した。
 
1コマ目: 全員一斉のハンズオン形式を中心とした実習講義であり、全員が提出必須の通常課題に取り組む。
2コマ目: 全員一斉の課題実施を中心とした演習で、主にファミリ作成やプログラミング作成を扱い、全員が提出必須の通常課題に取り組む。

通常課題を終えた場合、チャレンジ課題に取り組む。課題の内容は実務レベルの高度なものである。

c)ハイフレックス型授業の運用
 ハイフレックス型授業の運用として、ビデオ会議システムであるGoogle meet を活用した。2DCAD と比べ、複雑なBIM の操作をオンラインで行う工夫として、毎回の講義において図-39に示す4つのビデオ会議を立ち上げた。概要は以下となる。
 
ビデオ会議1: メイン解説用。授業開始時は教員、ティーチングアシスタント(TA)含め全員この会議に入り、ハンズオン操作を行う。質疑がある場合は主にチャット機能を用いる。

ビデオ会議2: アドバンス用。受講者が一定数通常課題を終えた場合は、チャレンジ課題の概要説明を行う。

ビデオ会議3、4: 質問専用。主にTA2名による対応。チャットによる応答が困難な場合、オンライン通話及び画面共有により対応する。


d)本演習における実践概要
 本演習に用いるサンプル建物は、地上3階建て、鉄骨造のオフィスビルとした。建物の概要を表-4、図-40に示す。
 BIM モデルと刊行物単価の紐づけについて実施した。Dynamo を用いてBIM モデルとCSV 形式の刊行物単価を直接紐付けた。対象部位は以下とした。
① ECP と単価の紐づけ
② ガラスと単価の紐づけ

表−4 対象建物の概要
図−40 対象建物のイメージ

e)ECP と単価の紐づけ
 対象建物のEPC部について、「カーテンウォールオブジェクト」として入力した。これは、実際の生産プロセスに馴染む分類体系とする為である。これにより、EPCのパネルの種類、サイズ、サイズ毎の数量を把握することができる為、ECPパネルを4種類へ分類し、それらをランダムに置き換えた。ECPパネルの種類を置換え後、刊行物単価表の中から該当する単価を紐づける事とした。尚、刊行物単価表は教育用として、簡略化したものを用いることとした。

図−41 ECP パネルと刊行物単価の紐づけの概要
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 手順を以下に示す。
① BIMモデルのオブジェクトの中からECP を抽出
② 4種類のECP パネルと枚数のリストを作成
③ 4種類のパネルリストをランダムに並び替えモデルへ反映
④ 刊行物単価表(Excel)を読込み、製品名と単価を抽出
⑤ ECPオブジェクト中の「製品名」パラメータと刊行物単価表の「製品名」が一致するものを検索し、一致するものを取得
⑥ 「価格」パラメータへ単価情報を転記

 結果として、各ECPパネルのタイプパラメータである「価格」パラメータへ、刊行物単価が転記される。図−43のように集計表を作成する事で、ECPパネルサイズ毎の金額も把握した。

図−42 ECP パネルと刊行物単価を紐づけるDynamo
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図−43 ECP パネル集計
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f)ガラスと単価の紐づけ
 対象のモデルについて、予め3種類のガラスタイプを分類し、タイプパラメータである「ガラス種別」パラメータにガラス種別とガラス厚の情報を入力した。ガラス部について、ガラス種別が一致し、かつ、ガラス面積が刊行物単価の条件と一致するものを抽出し、単価を紐づける事とした。

図−44 ガラスと刊行物単価の紐づけの概要
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手順を以下に示す。
① BIMモデルのオブジェクトの中からガラスを抽出
② ガラスのタイプパラメータである「ガラス種別」と「面積」パラメータを抽出
③ 刊行物単価表(Excel)を読込み「ガラス種別」、「ガラス面積」、「価格」を抽出
④ ガラスオブジェクトのインスタンスパラメータである「面積」と刊行物単価表の面積を比較し、条件を満たすものを抽出
⑤ 「ガラス面積」と「ガラス種別」の両方の条件を満たすものを検索し、一致するものを取得
⑥ 「価格」パラメータへ単価情報を転記 

図−45 ガラスと刊行物単価を紐づけるDynamo
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 結果として、各ガラスのタイプパラメータである「価格」パラメータへ、刊行物単価が転記される。図−46のように集計表を作成する事で、ガラスサイズ毎の金額も把握可能となる。

 ここまでの操作は、BIM初心者であっても週1回2コマを11回受講することで習得可能な内容であり、スモールファームでの展開や活用もハードルは高くない。

図−46 ガラスの集計結果
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(8)本章のまとめ
本章では、第2章、第3章の研究成果を本研究チームが所属する大学のBIM教育へ導入し、その効果について確認した。題材として、ECPパネルとガラスを取り上げた。BIMモデルと刊行物単価の紐づけは、Dynamoによった。
 
 Dynamoなどのプログラミング教育における問題は、「nodeを言われたまま並べているだけで、何をやっているのかわからない」や、「プログラミングの思考についていけない」などがあるが、本演習においては、図−47に示す全体プログラムを幾つかのカテゴリに分類して解説した。
 
 これによって、プログラミングが意図する内容が明確となり、nodeの意味の理解も深まる事が明らかとなった。実務において、この手法を活用する事で、BIMやプログラミングに関する知識が浅くとも情報共有が可能であることが確認出来た。
 

図−47 カテゴリに分類されたプログラム
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5.研究の総括

 BIM普及時の建築プロジェクトの望ましい姿とは、単なる意匠表現の拡張にとどまらない。企画から解体に至るプロジェクト全体のワークフローを効率化し、各フェーズでの検討をシームレスに建築物の最適化につなげねばならない。
 
 本研究は、その全体像を描くためのスタディとして、BIM がデータベース化するオブジェクトの数量をベースとしたコスト、施工計画、工期、環境負荷について検討したものである。
 
 研究の成果を以下に整理する。
①  BIMプラットフォームに建築学の知識体系を移植する試みとして、具体性を持たせるのが難しかった仮設計画を関連法規、仕様書等の内容をプログラミングして自動化した。
②  BIMと連携ソフトによって、コスト、工期と環境負荷について、基本設計の初期段階で自動的に発生させた組合せをもとに、多目的最適化が検討可能であることを確認した。
③  本研究では、上記①、②の開発の一部を初学者である卒論生が担い、講義・演習において学生がそれを使いこなせることを実証し、今後はスモールファームでの開発、活用の可能性も確認した。

謝辞 
 本研究は一般財団法人 建設物価調査会の研究助成を受けた。また、講義での試行に際して、コスト情報の提供も受けた。記して謝意を表したい。

 また、卒業論文のテーマとして取り組んだ皆さん、講義中の試行に真摯に取り組んだTA、受講者の貢献も大きい。


参考文献
1)尾門智志、遠藤和義、岩村雅人:「BIMを用いた基本設計の初期段階における工期検討に関する研究」、日本建築学会 第36回建築生産シンポジウム、2021.8
2)尾門智志、遠藤和義、岩村雅人:「BIMを用いた基本設計の初期段階における工期とコストマネジメントに関する研究」、日本建築学会 第37回建築生産シンポジウム、2022.8
3)岩村雅人、遠藤和義:「実践に基づいた建築学教育におけるBIM活用可能性の考察、日本建築学会大会学術講演梗概集、2020.9
4)小笠原正豊:「わが国における仕様分類体系の標準化についての考察-「建築工事標準分類」「共通建築コードインデックス」を事例として-」、日本建築学会 第37回建築生産シンポジウム、2022.8
5)環境省:「カーボンニュートラルとは」
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/
6)環境省:「社会経済活動と環境負荷」
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h24/html/hj12010103.html
7)池沢真琴、中村恵、柳井崇、加藤晃敏、木野内剛、宮崎淳:「積み上げベースの排出原単位を活用したエンボディドカーボン評価に関する考察 その1 共通原単位データベースの作成」、日本建築学会大会学術講演梗概集、2023.9
8)総務省:「排出原単位データベース」、排出量算定について
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html




下記については、本記事の【前編】を参照してください
1.研究の背景と目的
2.BIM を用いた基本設計の初期段階における工期とコストマネジメント





建設物価2024年2月号

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