建設物価調査会

公共工事設計労務単価、12年連続の引き上げ

公共工事設計労務単価、12年連続の引き上げ

5%以上の高い伸び率は2年連続

株式会社日刊建設通信新聞社 谷戸 雄紀

 国土交通省は、2024年度の公共工事設計労務単価を決定した。全国・全職種の単純平均は前年度に比べて5.9%上昇し、令和5年平均の物価上昇率(消費者物価指数)である前年比3.2%を上回った。必要な法定福利費相当額の反映を目的に単価算出手法を大幅に変更した13年度以降、12年連続の引き上げとなっている。伸び率は過去10年で最大。5%以上の高い伸び率を示したのは2年連続となる。加重平均(都道府県別・職種別の単価を標本数に応じて重み付けした平均)では日額2万3,600円に上り、設計労務単価の公表を始めた1997年度以降の最高値を6年連続で更新した。国交省は、ゼロ国債などの発注が始まる3月から前倒しで直轄工事に適用している。

技能者約8万人の賃金支払い実態を調査

 設計労務単価は、「基本給相当額」、「基準内手当(当該職種の通常の作業条件と作業内容の労働に対する手当)」、「臨時の給与(賞与など)」、「実物給与(食事の支給など)」の四つを合計したもので、国や地方自治体などが公共工事の予定価格積算に使用する。基本給相当額と基準内手当は所定労働時間内8時間当たり、臨時の給与と実物給与は所定労働日数1日当たりで算出する。

 公共事業労務費調査で把握した労働市場の実勢価格をベースとし、建設業を取り巻く状況変化への対応に必要な経費なども反映した上で、47都道府県別・51職種別に毎年度設定している。

 公共事業労務費調査では、労働基準法で使用者に調製・保存が義務付けられている賃金台帳から、請負業者(元請け、協力会社)が転記するなどして作成した調査票を基に、建設労働者らへの賃金支払い実態を把握する。23年度調査で賃金支払い実態を確認した有効標本数は、国交省と農林水産省が所管する直轄・補助事業などの工事9,472件で7万8,241人だった。十分な有効標本数を確保できなかった建築ブロック工を除く50職種の設計労務単価を24年度分として設定している。

主要12職種平均は6.2%上昇

 公共工事で広く一般的に従事され、現場労働者の8割以上を占める主要12職種の設計労務単価と伸び率(金額は加重平均値、伸び率は単純平均値)は、6.2%上昇の2万2,100円となり、2年連続で金額が2万円を超えた。主要12職種平均の伸び率が5%以上になるのも2年連続で、6%を上回るのは16年度以来8年ぶり。

 職種別は、特殊作業員=2万5,598円(6.2%上昇)、普通作業員=2万1,818円(5.5%上昇)、軽作業員=1万6,929円(6.3%上昇)、とび工=2万8,461円(6.2%上昇)、鉄筋工=2万8,352円(6.6%上昇)、運転手(特殊)=2万6,856円(6.3%上昇)、運転手(一般)=2万3,454円(7.2%上昇)、型わく工=2万8,891円(6.6%上昇)、大工=2万7,721円(4.9%上昇)、左官=2万7,414円(5.0%上昇)、交通誘導警備員A=1万6,961円(6.4%上昇)、交通誘導警備員B=1万4,909円(7.7%上昇)となっている。

 運転手(一般)と交通誘導警備員Bが7%を超える高い伸び率を示した。伸び率が最も低い大工でも4.9%上昇となっており、主要12職種は全体的に前年度より伸び率が高い。

 現行の単価算出手法になる前の12年度に比べると、全国・全職種平均は75.3%、全国・主要12職種平均は75.7%の引き上げになっている。

単価引き上げから賃上げへの好循環に

 国交省は、24年度設計労務単価の設定に当たり、4月から建設業に適用される時間外労働の上限規制を踏まえ、過去2カ年以上に、受注者が規制に対応するために必要な経費を考慮した。「インフレ手当」など、昨今の急激な物価上昇を受けて従業員の生活支援を目的に支給する手当の記入欄を23年度公共事業労務費調査で新たに設けたが、この部分が設計労務単価の引き上げに寄与した割合は小さいとする。

 その上で、労働市場の実勢価格上昇が労務単価引き上げの最大要因と指摘する。その背景には、担い手の確保・育成に向け、斉藤鉄夫国土交通相と建設業4団体トップ(宮本洋一日本建設業連合会長、奥村太加典全国建設業協会長、土志田領司全国中小建設業協会長、岩田正吾建設産業専門団体連合会長)が23年3月に「おおむね5%」を23年技能者賃上げ目標に設定することを申し合わせて、その達成に向けて官民一丸で取り組んできたことを挙げる。実際に、24年度設計労務単価の全国・全職種平均5.9%上昇は、申し合わせた賃上げ目標のおおむね5%を上回る。

 デフレからの完全脱却を目指し、政府全体で物価上昇に負けない賃上げに取り組んできた結果、社会全体の賃上げ機運が高まったことなども追い風になったと、国交省は受け止める。
 斉藤国交相は24年度労務単価を発表した2月の記者会見で、時間外労働の上限規制適用を踏まえて設定したことを説明し、「今回の引き上げを受け、建設業界に対し、時間外労働規制の導入に向けた準備を着実に進めるよう強く促す」と強調した。設計労務単価の引き上げが技能者の賃上げに結び付き、それが翌年度の設計労務単価引き上げへとつながる“ 好循環” を実現し、国民生活や社会経済を支える建設業の賃金を全産業平均の水準まで引き上げていくことが重要とも説き、「各社の賃上げを強く働き掛けていきたい」と力を込めた。

建設業法改正で処遇改善を推進

 また斉藤国交相は、政府として今通常国会に提出を予定している建設業法改正案に言及。「国が適正な労務費の基準をあらかじめ示した上で、民間企業間の取引や下請取引も含めた個々の工事において、これを著しく下回る積算見積もりや請負契約を禁止すること、資材高騰の際の契約変更方法をあらかじめ明確化すること、価格・工期に関するダンピングを禁止することなどの新たなルールを導入する」と改正案の内容を説明し、「これらの処遇改善策に取り組むことで、建設業の担い手確保と持続可能な建設業の実現に全力を尽くしていきたい」と意気込んだ。

 国交省は、適正な労務費確保を主な狙いとする建設業法改正案について、公共発注者の取り組みなどを規定する入札契約適正化法改正案とのセットで提出し、会期が6月23日までとなっている今通常国会での成立を目指す。

設計労務単価引き上げに業界から歓迎の声

 24年度設計労務単価の公表を受け、主要建設業団体のトップから歓迎の声が上がった。日本建設業連合会の宮本会長は、「今回の引き上げは、最近の労働市場の実勢価格の適切・迅速な反映と、『構造的賃上げ』を重点分野にデフレ完全脱却を進め、日本経済再生を目指す岸田内閣の姿勢を踏まえたものと考える。われわれは、この引き上げを技能者のさらなる賃金引き上げにつなげていかなければならない。日建連としても引き続き、『労務費見積もり尊重宣言』に基づき、適切な労務賃金の支払いを進めるなど、技能者の賃金引き上げにつながる努力を続けていく」とコメントしている。

 全国建設業協会の奥村会長は、「建設技能者の処遇改善は、地域建設業が担い手を確保し、『地域の守り手』として社会的使命を果たしていくための重要課題の一つ。全建としては引き続き、地域建設業のさらなる発展に向けて積極的な取り組みを展開していく」と力を込める。

 全国中小建設業協会の土志田会長は、「労務単価の引き上げは、建設技能者の処遇改善や若者の担い手確保に直結する」と指摘した上で、「中小建設業界で働く多くの人々が、生きがいとやりがいのある業界を目指すとともに、新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)およびワーク・ライフバランスを重視した働き方改革を進め、若者から選ばれる業界となるよう、適正な労務賃金の支払い、労働環境の改善に努め、会員団体と傘下企業が一丸となって取り組んでいく」との決意を表明した。

 適正な労務費の確保に向けて建設業法改正案で措置される予定の仕組みを生かし、発注者(公共、民間)の理解と協力を得ながら、元請けと下請けを合わせた建設業界が一丸となって賃上げに取り組めるかが、今後の注目ポイントとなる。

建設物価2024年4月号

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