建設物価調査会

鳥取県における建設産業の担い手の確保・育成の取組

鳥取県における建設産業の担い手の確保・育成の取組

~とっとり建設DX と連携した広い世代への魅力発信~

鳥取県県土整備部技術企画課 企画・県土強靱化担当係長 木山 高志

1. はじめに

 鳥取県の建設産業は、人口減少社会の中でもインフラ整備と機能確保により他産業を含む地域経済を支える不可欠なものであるとともに、県内GDP 約7%、県内就労者数約8%を占める基幹的な産業となっている(令和2年度)。しかし、建設産業人口は建設投資のピーク時の平成12年から令和2年までの近年20年間に44%減少している。
 このため、人口減少の中においても建設産業を持続的に発展させるため、人材の確保・育成に向けて、建設業、行政、教育の関係者が連携する協議会において活動を行っている。

2. 鳥取県建設分野担い手確保・育成携協議会の発足

 鳥取県の建設産業が抱える課題となる、「既就労者の早期離職率の上昇」、「小中学生が抱く建設産業のイメージ不明瞭」、「専門高校生の雇用ミスマッチの顕在化」、「大学生の県内就職の減少」については、次のとおり対策を分類できる。

① 『魅力発信』…産業イメージの向上
② 『技術力向上』…技術人材確保
③ 『資格取得支援』…専門高校からの入職安定

 これらを実施し、次代の担い手を確保・育成するため、地域の関係者が連携するコンソーシアムとして、「鳥取県建設分野担い手確保・育成連携協議会」(図-1)を発足し、活動を開始した。

(1)発足日 平成29年1月12日
(2)参加者
  ○ 民 間  一般社団法人鳥取県建設業協会、一般社団法人鳥取県測量設計業協会、公益財団法人鳥取県建設技術センター
  ○行 政  鳥取県県土整備部、鳥取県立産業人材育成センター、鳥取県市長会、鳥取県町村会
  ○教 育  鳥取県教育委員会、国立大学法人鳥取大学

3.活動の内容と成果

(1)魅力発信(対象:子どもと保護者)

 建設産業を身近な産業として、また将来のシゴトとして認識してもらうため、子どもとその保護者に向けて、絵本の読み聞かせ、建設学習、職場体験、フォトコンテストを実施している(H29からの参加人数:延べ2,457人)。

1)建設絵本の読み聞かせ
 建設業界の女性で構成する「とっとり建設☆女星じょせいネットワーク」が、建設に関係する絵本の読み聞かせによって、親しみを持ってもらうための活動を行っている(写真-1)。

2)小中学生への産業教育
 令和4年11月に、若桜町立若桜学園5年生12名を対象に、土木遺産「若桜橋」を3D 化した技術を解説し、身近にくらしを支える、土木インフラに興味を持ってもらうきっかけ作りを行った(写真-2)。学習の中で「立体的に橋が観察できることがわかった」と新たな気づきが得られた。

 令和5年6月には,湯梨浜町立湯梨浜中学校2年生約150名を対象に,「橋の町医者マツ」こと松永昭吾氏をお招きして,わかりやすく建設産業の楽しさを伝えていただくとともに,地域住民ボランティアによる土木インフラを支える活動を紹介した(写真-3)。
 生徒からは「建設業は私たちの生活に欠かせない産業だと分かった」と好評いただき,様々な取組により産業イメージの向上につながった。

(2)技術力向上(対象:専門高校生,大学生)

 実践的な研修を実施し、技術人材の確保につなげる取組を行っている(H29からの参加人数:延べ1,709人)。

① UAV 測量演習
 専門高校では、UAV 測量を体験し新技術に触れることで、飛行操縦を楽しむだけでなく、効率化された測量技術を体験してもらった。

② 現場見学会
 専門高校生や大学生を対象に、建設現場を見学し、そこで働く人の話を聞くことで、進路としての建設産業を明確にイメージしてもらった。

③ インターンシップ支援
 県による「インターンシップ研修受入企業支援事業」の補助金を創設し、専門高校生が企業へインターンシップする際の受入企業を支援している。

④ 土木積算講座
 専門高校生を対象に、建設業界へ入職後の積算感覚を身につけるため、一般財団法人建設物価調査会の協力を得て土木積算の講座を実施した(写真-4)。

(3)資格取得支援(専門高校生、既就労者)

 入職安定と入職後の離職防止対策として、専門高校生や既就労者への資格取得を支援している(H30からの参加人数:延べ約400人)(図-2)。

① 測量士補
 専門高校へ試験問題集を配布し、学校の授業及び自学による試験対策を実施している。

② 土木施工管理技士(1・2級)
 専門高校へ出向き試験対策講座を実施している。また、既就労者向けに県職員による1・2級の二次試験の論文対策講座を実施している。

 継続して取り組んでいることで一定数の受験者の確保ができているとともに合格者も多く出てきている。

(4)建設業界で働く人の交流会)

 建設業界で働く人(建設会社、建設コンサルタント、県土木職)が、職業の垣根を越えて仕事の効率化、品質向上に繋げるため、関係する技術者がどのようにつながり働いていくのがよいかを意見交換した。
  普段感じる職場内や受発注者間の垣根などを率直に話し合い、立場を越えて、将来の地域の建設生産の体制づくりに向けて、語り合う貴重な機会となった(写真-5)。
  参加者からは「交流会に参加して良かった」「コミュニケーションをしっかり取ることが大切だと感じた」など、好評いただくとともに、改めて課題を認識することができた。

(5)取組の成果 

 協議会による継続した実践的な技術研修やインターンシップによって、県内企業への入職についてのマッチングが促進されたことにより、高校から建設産業への県内就職数とその割合が増加している(図-3)。

4.協議会の発展

 平成29年から取り組む中で、新型コロナウイルス感染症の流行(R1~)、国の「規制改革実施計画」によるICT、新技術推進(R2)、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進(R3)の社会変革を受け、「とっとり建設DX」として、鳥取型建設生産体制を構築し、より効率的に働き方を改革することとしている(図-4)。

① 限られた人員で運営できる『業務システム刷新』
② 新技術による『地域イノベーションの創出』
③ 持続的な発展に必要な『地域人材の確保・育成』

(1)業務システムの刷新 

 産業人口が減少する中において、時間外労働をめぐる上限規制が厳格化される「2024年問題」や労働者が1100万人不足する「2040年予測」は、建設産業においても働き方の改革に向けて待ったなしの状況となっている。このため、「とっとり建設DX」をさらに推進するとともに、「工事資料作成の自動化」の民間が運営する業務支援サービスの活用なども図ることとしている。

(2)地域イノベーションの創出  

 建設分野における新技術導入を推進するため、令和5年7月7日に鳥取大学と鳥取県が共同で「鳥取イノベーション実装フィールド」を開所した(写真-6)。年間を通して計画的に既就労者向けの技術講習会(R5年度、延べ21回、319人を対象に実施)を開催し、先端技術の導入による生産性の向上を目指す企業支援や、それらの技術を活用できる地域の担い手の確保・育成を継続して行う予定である。

 また、橋梁やトンネルの点検及び補修に関する先端技術の検証と導入を、開発企業と地元企業の交流を増やしながら進めていく。
 鳥取大学においても、産官学が連携する組織体制をつくり、技術導入、人材育成及び、さらなる学術研究を進めていく予定である。

(3)地域人材の確保・育成 

 今後も、協議会を通じて大学生はもとより、小中学生や高校生にも先端技術に触れてもらい、広い世代を対象に建設産業の魅力と役割を発信していくこととしている。
 さらに、地域の魅力や建設産業の価値を共有し、建設産業に対する評価を引き上げ、若年層をはじめ、地域人材の確保を進めていく。

5.今後の課題

継続的な取組
 将来の課題である人材不足に対して入職者を確保・育成するため、若年層や専門高校生・大学生への魅力発信や技術力向上に向けた実践的な研修支援を行い建設産業への入職を促すとともに、入職した後も継続した技術支援を通じて人材の定着を図っていく所存である。

建設物価2024年4月号

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