土木工事標準歩掛(以下、「標準歩掛」という)は、土木工事に広く使用されている工法について、施工合理化調査等の実態調査に基づき、土木施工に必要とされる標準的な機械、労務、材料等の所要量を工種毎に設定したものです。
この標準歩掛は「中央建設業審議会(中建審)」の建議を踏まえて、昭和58年3月に整備・公表をし、その後、改定や制定を重ねて現在に至っており、土木工事費の積算の基礎資料として、国、県、市町村の発注官庁をはじめ、民間でも標準的な指標として広く活用されています。
標準歩掛は、使用機械の機能向上、新技術・新工法の開発、あるいは各種施工制約などの社会情勢の変化など、施工形態の変化に対応した適正なものとする必要があります。
今回、令和4年度に施工合理化調査等を実施した標準歩掛工種の123工種のうち、令和5年度に施工実態を分析した結果、9工種の改定を行うこととしました。
その9工種の改定概要について、以下のとおり紹介します。
(1)排水材設置工
① 工法概要
排水材設置工は、構造物(橋台、擁壁、ボックスカルバート等)埋戻背面のコンクリート面等において、湧水及び浸透水等の排水を促すために設置する帯状の排水材を設置する工法です。
擁壁等の構造物背面において、排水材設置の施工実績が得られたことから新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
構造物(橋台、擁壁、ボックスカルバート等)埋戻背面のコンクリート面に帯状の排水材〔全透水型(立体網状体及びメッシュチューブ型等)〕を設置する作業に適用する。
なお、コンクリート釘、接着剤、固定金具等を用いて固定する方法を標準とし、排水材規格
は幅200㎜以上600㎜以下、厚20㎜以上50㎜以下の場合に適用する。
2)施工歩掛
・ 構造物背面への排水材の設置作業に適用する歩掛を新規に設定。
・ 排水材の固定方法がコンクリート釘、接着剤、固定金具のいずれの方法でも適用できる。
・ ただし、構造物埋戻背面の補強土壁に帯状の排水材を設置する場合や土砂部及び岩盤部
(土工面)に設置する帯状の排水材の場合には適用できない。
(2)泥水運搬工
① 工法概要
泥水運搬工は地盤改良工事等の施工に伴って発生する泥水を、吸入・運搬・排出する工法です。
地盤改良及び基礎工事等において、側溝清掃車を使用して、泥水を吸入し、運搬し、排出する施工実績が得られたことから、新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
地盤改良及び基礎工事等の施工に伴い発生する泥水及び汚泥を、側溝清掃車を使用して運搬する場合に適用する。
なお、泥水運搬には吸入管設置、吸入、吸入管撤去、運搬、排出、現場に戻る作業を含み、DID 区間の有無に関係なく適用できる。
2)施工歩掛
・運搬距離別の日当り運搬量を設定。
・運搬距離が80㎞以下の場合に適用。
・ ただし、吸入管の設置または撤去が50m以上の場合は適用できない。
・ 運搬距離が、80㎞を超える場合は、別途考慮する。
③ 機種の選定
機械・規格は、表2.1を標準とします。
(3)仮締切工(砂防コンクリート締切)
① 工法概要
仮締切工(砂防コンクリート締切)は、砂防工(本堰堤、副堰堤、床固め、帯工、水叩き、側壁、護岸)の施工に伴うコンクリートにより仮締切の設置・撤去を行う工法です。
砂防工事での施工実績が得られたことから、新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
・型枠工:外部型枠、内部型枠に適用する。
・ 足場工:高さ2m以上で、外部型枠、内部型枠の設置・撤去用足場(キャットウォーク)を設置する場合に適用する。
・ コンクリート打設:ラフテレーンクレーンによる打設量140m3/日未満及び平均打設高30m以下のコンクリート打設の施工に適用する。
2)施工歩掛
・ コンクリート仮締切設置から撤去までの一連作業の施工歩掛を制定。
・ 木製型枠設置・撤去、ケレンはく離剤塗布、足場設置・撤去、コンクリート打設、コンクリート仮締切撤去等の作業種別毎の歩掛を制定。
③ 制定概要
機械・規格は、表3.1を標準とします。
(4)舗装版削孔工
① 工法概要
舗装版削孔工は、刃先にダイヤモンド砥粒が埋め込まれたダイヤモンドビットを高速回転させることでアスファルト舗装版をせん孔し、ガードレールの支柱を建て込むための孔あけ等を行う工法です。
ガードレールの支柱建込用の孔あけ等を目的とした、アスファルト舗装版の削孔作業の施工
実績が得られたことから新たに制定しました。
② 制定概要
1)適用範囲
アスファルト舗装版の削孔(ガードレールの支柱建込用の孔あけ等)において、削孔径60㎜を超え200㎜以下、削孔深400㎜以下の場合に適用する。
2)施工歩掛
・ コンクリート穿孔機(電動式コアボーリングマシン)による施工単位当りの削孔歩掛を設定。
③ 機種の選定
機械・規格は、表4.1を標準とします。
(5)薬液注入工
薬液注入工は、地盤改良工法の一種で、薬液を粘土、シルト、砂質土等の地盤に注入し、地盤の透水性の減少及び地盤の強度(固結度)の増加を図る工法です。
② 主な改定概要
1)施工歩掛
・ 諸雑費計上の使用機械・機材の規格及び保有区分等の変動に伴い諸雑費率を見直し。
・ 二重管ストレーナ工法(単相)は施工実績が少なくなったことから廃止。
(6) 鋼管・既製コンクリート杭打工(中掘工)
① 工法概要
鋼管・既製コンクリート杭打工(中掘工)は、埋込み杭工法の一種で、あらかじめ杭中空部にオーガスクリュを挿入、杭建込を行った後、削孔と同時に杭を圧入していく工法です。杭打設後は、モンケンなどにより杭を打撃し支持層に打ち込む方法と、グラウト材を支持層に注入し杭と一体化させる方法があります。
② 主な改定概要
1)施工歩掛
・ 杭吊込・杭建込作業等に使用するクローラクレーンの排出ガス対策区分を見直し。
・ 掘削土の処理作業に使用するバックホウの 規格、排出ガス対策区分を見直し。
・ クローラ式アースオーガの日当り運転時間の変動に伴い、施工歩掛を見直し。
(7)かごマット工(多段積型)
① 工法概要
かごマット工(多段積型)は、河岸の浸食防止等を目的に、長方形に組み立てられた鉄線かごに栗石・割栗石等を詰めたかごマットを多段積に設置する工法です。
② 主な改定概要
1)施工歩掛
・ 詰石作業に使用するバックホウの規格、排出ガス対策区分を見直し
・ 使用機械(規格)の変動による施工歩掛の見直し。
(8)集排水ボーリング孔洗浄工
① 工法概要
集排水ボーリング孔洗浄工は,地すべり防止施設においける横ボーリング孔及び集水井内での集排水ボーリング孔(φ30㎜~φ150㎜,延長130m/本)を高圧洗浄機により洗浄する工法です。
② 主な改定概要
1)施工歩掛
・ 洗浄作業に使用する高圧洗浄機の規格,保有区分を見直し。
・使用機械の変動による日当り施工量の見直し。
(9)トンネル照明器具清掃工
① 工法概要
トンネル照明器具清掃工は、高所作業車を使用して、トンネル内に設置されている照明器具の表面及び内面を人力施工により、清掃する工法です
② 主な改定概要
1)施工歩掛
・ 人力施工で使用する高所作業車(トラック架
装)の規格、保有区分を見直し。
・ 使用機械の変動に伴う施工単位当り清掃作業歩掛の見直し。
・ 機械施工歩掛は施工実績が少なくなったことから廃止。
予定価格の算定に用いる標準歩掛は、施工実態を的確に反映したものとなるよう、現場の実態調査に基づき制定しています。準備や後片付け等は、一日の就業時間に含まれるものであり、これまでも標準歩掛に反映してきたところです。
現場実態調査では、令和4年度には調査項目として実作業のほか、資材基地等からの移動時間等をより詳細に把握するように調査表の見直しを行いました。これを令和5年度の歩掛改正に反映、現場移動等により作業時間が短くなり、日当り施工量が減少している工種について今回改定を行っております。
公共事業を円滑に執行するためには、各工種の施工実態や資機材の需給状況など、変化する事象を的確に把握し、現場の準備や後片付けなどの作業のほか、工事の品質及び安全確保、環境の保全等に十分な配慮がなされているかにも着目したうえで、標準歩掛を整備していくことが必要です。
引き続き、必要な標準歩掛の改定・制定を行い、適正な予定価格が積算できるよう努めてまいります。
なお、標準歩掛は実態の施工における工法や施工機械を規定するものではなく、あくまでも標準的な施工を想定した予定価格を算出するためのツールです。このことを正しく理解し、適切な運用をお願いします。
本稿で紹介した改定の概要については、国土交通省ホームページ「土木工事標準歩掛」に掲載していますので、そちらもご参照ください。
【参考ホームページ】
土木工事標準歩掛