建設物価調査会

令和6年度下水道工事積算基準の改定について

令和6年度下水道工事積算基準の改定について

国土交通省 水管理・国土保全局 下水道部 下水道事業課
 事業マネジメント推進室


  1. はじめに
  2. 下水道用設計標準歩掛表
  3. 令和6年度の主な改定内容
  4. おわりに


1.はじめに

 下水道事業における標準歩掛は、各地方公共団体に参考送付されている国土交通省土木工事積算基準(以下「土木工事積算基準」という。)を基本としている。合わせて、下水道事業特有の現場環境や施工条件等で行われる工種については、国土交通省下水道部(以下「下水道部」という。)が中心となり、下水道用設計標準歩掛表(以下「白本」という。)により補足している。

 白本は、第1巻管路、第2巻ポンプ場・処理場、第3巻設計委託で構成され、老朽化施設の増加や情報通信技術の活用による生産性向上等の社会環境の変化、施工技術の向上・省力化等の現場の施工実態に対応するため、適宜改定を行っている(写真-1)。

 下水道事業の最も特徴的な工種として、管路掘削が挙げられる。土木工事積算基準に掘削に関する標準歩掛は掲載されているが、家屋や地下埋設物などと近接する道路上の施工では、使用機械、作業効率等が異なることから、管路掘削の標準歩掛を策定し、白本に掲載している。

 本稿では、白本に掲載されている標準歩掛の新規制定・改定までの流れとともに、令和6年度の主な改定内容を紹介する。

写真ー1 下水道用設計標準歩掛表

 


2.下水道用設計標準歩掛表

(1)標準歩掛の検討体制

 地方公共団体における下水道事業の円滑な事業運営の一助として、白本を作成・発刊している。

 白本の作成・発刊にあたっては、地方公共団体の要望・提案を反映するため、下水道事業積算施工基準適正化会議(以下「適正化会議」という。)などを活用している(図-1)。

 適正化会議では、新工法等に対応した標準歩掛の新規制定や、適用範囲の拡大に関する要望、積算基準に関する考え方などについて、議論・意見交換を行っている。近年では、耐震化、耐水化及び改築更新に関する議題・要望が多くなっている。

 地方公共団体からの要望・提案のほか、建設業における働き方改革や生産性向上に関する取組等の社会環境の変化を踏まえ、標準歩掛の新規制定・改定が必要と判断された場合には、下水道用歩掛検討委員会(以下「歩掛検討委員会」という。)に検討を指示している。

 歩掛検討委員会には、専門の歩掛等検討小委員会(以下「小委員会」という。)を設けており、小委員会において、標準歩掛に関する具体的な検討を行っている。

 小委員会は、委員である政令指定都市、事務局である下水道部・下水道協会などにより構成され、委員には多忙な通常業務の中、多大な協力をいただいている。

 小委員会における検討の結果、標準歩掛の新規制定や改定が必要と判断された場合には、歩掛検討委員会での審議を経て、最終的に下水道部から各地方公共団体に対して改定内容等について参考送付・情報提供している。


図ー1 設計積算基準の適正化に関する全体構造図

(2)検討内容・方法

 白本には、施工合理化調査の結果に基づき定められた労務、材料、機械などの規格や所要量などが記載されており、設計積算の参考図書として、下水道工事の積算担当者に広く活用されている。

 施工合理化調査は、標準歩掛の新規制定や改定の要望を受けた工種や、前回の調査や改定から一定期間経過した工種などを対象に実施している。

 標準歩掛の新規制定・改定に向けた具体的な作業・検討内容は,以下のとおり。
 ① 検討する標準歩掛を想定し、調査すべき労務・材料・機械などに関する調査票を作成
 ② 作成した調査票は、施工合理化調査として、下水道部から地方公共団体に記入依頼
 ③ 施工合理化調査の結果を作業内容別などに集計し、統計的解析を実施
 ④ 解析結果とともに、現場の施工実態を勘案した上で、規格や所要量、適用範囲などを設定

 前記の施工合理化調査以外にも、下水道機械・電気設備工事においては、共通仮設費や現場管理費等の実態を確認するための諸経費実態調査を実施し、その調査結果をもとに諸経費の改定検討も合わせて行っている。

3.令和6年度の主な改定内容

(1)第1巻 管路

 第1巻管路においては、以下の工種について、前回の改定から一定期間経過したことから、施工合理化調査を実施し標準歩掛を改定した。

 ① 管きょ工(小口径推進)
 管きょ工(小口径推進)における坑口工は、推進工事に伴い、立坑内への土砂等の流入防止用の止水器を発進部及び到達部に取り付ける作業である。また、鏡切り工は発進部及び到達部の立坑の側面に開口部を設けるため、土留めを切断する作業である(写真-2、3)。

写真ー2 坑口工の施工状況

 白本における坑口工の適用範囲(呼び径)は250~700㎜、鏡切り工の適用範囲(呼び径)は250~500㎜である。

 令和4年度に行った施工合理化調査の解析結果と現行の施工歩掛を比較すると、適用範囲(呼び径)の拡大が見受けられたため、施工歩掛の改定を行った(図-2、3)。

写真ー3 鏡切り工の施工状況
(クリックで拡大)
図ー2 坑口工の標準歩掛の改定

 ② 管きょ更生工
 管きょ更生工における注入口取付工は、製管完了後、裏込め注入を実施するため、施工スパン両端部の既設管と更生管の隙間を粘土モルタルでシールするとともに、裏込注入用のパイプ等を取り付ける作業であり、本管口仕上工は裏込注入完了後、本管口部の更生管をマンホール内壁面にあわせて切断し、モルタルで仕上を行う作業である。また、仮設備設置・撤去工は製管工に必要となる更生管材のドラムや動力ユニット等を地上に設置及び撤去する作業である(写真-4、5)。

写真ー4 注入口取付工の施工状況

 白本における注入口取付工、本管口仕上工、仮設備設置・撤去工の適用範囲(既設管径)は共通となっている。

 令和4年度に行った施工合理化調査の解析結果と現行の施工歩掛を比較すると、作業熟度の向上により小口径での作業効率が向上し、口径別の作業効率の差異が明確になったため、口径別の歩掛へ改定した(図-4、5、6)。

その他にも、仮製管工に使用する発動発電機の規格や換気設備工に使用する発動発電機の燃料消費量を改定した。

写真ー5 本管口仕上工の施工状況
図ー4 注入口取付工の編成人員の改定
図ー5 本管口仕上工の編成人員の改定


(2) 第2巻 ポンプ場・処理場

 第2巻ポンプ場・処理場については、以下の工種について、前回の改定から一定期間経過したことから、施工合理化調査を実施し標準歩掛を改定した。

 ① 散気設備
 散気設備は、汚水処理を行う際に、処理槽内に空気を送る設備であり、適正な放流水質を確保するために重要な役割を果たしている。

白本においては、平成30年度、散気設備にメンブレン式散気装置、高密度配置式散気装置等の据付歩掛を新規策定した。

 令和2年度から令和4年度までに行った施工合理化調査の結果と現行歩掛を比較すると、各機器の高度化や多様化により作業効率の低下が確認されたことから、設置に係る労務を改定した(図-7)。

図ー7 散気装置据付け歩掛の改定

 ② ITV 装置

 工業用テレビ(ITV カメラ)のシステムは、監視カメラ、伝送装置(ネットワーク)、監視制御装置等により構成されている。従来はアナログ方式が主流だったが、カメラ画質向上によるデータ量の増大をふまえ、高画質データを伝送できるネットワーク方式が主流となっている。

 また、ITV 監視操作卓とITV 制御装置の代わりにITV監視操作端子(パソコン)を使用し、パソコン上で動作するブラウザ画面にてカメラ映像を表示している。

 令和2年度から令和4年度までに行った施工合理化調査の結果と現行歩掛を比較すると、従来のアナログ方式のカメラに加えてネットワーク方式の施工例が増えてきたことから、従来のアナログ方式の歩掛改定及びネットワーク方式の歩掛を追加した(図-8)。
 

図ー8 ITV装置据付け歩掛の改定

(3)第3巻 設計委託

 第3巻設計委託については、以下の業務について標準歩掛の新規制定の要望があったことから、実態調査を実施し標準歩掛を新規に制定した。

 ① 雨天時浸入水対策方針策定業務

 分流式下水道において、降雨時に下水の流入が増加し、汚水管からの溢水や宅内への逆流などが発生している。このような状況に対処するため、令和2年1月に国土交通省より「雨天時浸入水対策ガイドライン(案)」が公表された。

 令和5年度に実態調査を実施し、当該ガイドラインに則り、雨天時浸入水対策方針を策定するための標準歩掛を新規に策定した(図-9)。

 詳細な改定内容については、下水道部のHP(新旧対照表を掲載)や、今後発刊される白本において確認していただきたい。

https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000466.html

図ー9 雨天時侵入水対策方針策定業務の標準歩掛対象範囲


4.おわりに

 積算基準・標準歩掛は適正な予定価格を算出するための手段であることから、客観性・公平性・経済性の観点などにおいて、現場の施工実態を反映するとともに、建設業を取り巻く社会環境の変化に的確に対応したものでなければならない。

 そのためには、施工合理化調査や諸経費実態調査などの調査票に高い精度で記入いただくことが重要になってくることから、地方公共団体の皆さまにおかれましては、多忙な日常業務の中、引き続き各種調査にご協力いただきたい。

 また、設計積算を行う際には、現場状況と用いる標準歩掛の適用条件・範囲などを十分確認の上、適正な設計積算に努めていただきたい。

 特に、改築工事の設計にあたっては、現場条件に制約が多く新設工事と比較して標準歩掛に馴染まない現場も多いことから、適用に当たっては事前に調査や検討を行っていただきたい。また、施工後に、当初設計時に想定していた現場状況に差異が生じた際は、設計変更を行うなどして柔軟に対応する必要がある。

 下水道部としては、今後も地方公共団体と意見交換や情報共有を図りながら、不調・不落の防止や工事品質の確保などの観点を踏まえつつ、工事費積算の適正化と積算業務の効率化に努めていきたい。

 最後に施工合理化調査等に協力いただいた皆様、標準歩掛の改定に向け協力いただいた各種委員の皆様に感謝申し上げる。


建設物価2024年5月号

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