1.需要の官民比率
「建設工事施工統計調査」(国土交通省)によると、2022年度の造園工事完成工事高は5,354億円、前年度比22.3%と大幅な増加となっている。このうち、造園工事業種が元請で受注している金額は2,672億円とこちらも前年度に比べ9.6%増加している。元請比率は49.9%を占め、前年度に比べ5.8ポイント下がっている(図1)。
また、2022年度の元請完成工事高を発注者別にみると、公共は1,254億円(46.9%)、民間は1,418億円(53.1%)となり、民間の発注額が公共を6.2ポイント上回っている(図2)。なお、造園工事業を含む総合工事業8業種全体の完成工事高は前年度に比べ5.4%増となっていることから、造園工事業の完成工事高の増加が際立っている。
2.公共需要
(1)公共工事の動向
公共工事の全体的状況を、「公共工事前払金保証統計」(北海道・東日本・西日本建設業保証㈱)によって検討する。2023年度の件数は221,804件、前年度に比較し1.1%の減、請負金額は14兆7,405億円、前年度に比べ5.3%増となっている(図3)
発注者別では、市区町村が最も大きく件数で48.1%、請負金額で34.7%を占めている。2番目は都道府県が各々40.3%、29.2%となる。地域別には、関東のウェイトが大きく件数で22.1%、請負金額で26.2%を占める。造園植栽工事に結びつきの強い公園および道路工事の請負金額について、道路部門は3兆9,334億円、対前年度比102.5%と増加、公園部門は5,355億円、対前年度比104.2%とやはり増加している(図4)。
(2)屋上・壁面緑化
「全国屋上・壁面緑化施工実績調査」(国土交通省)によると、2022年に約15.6ha の屋上、約4.4haの壁面が新たに緑化された。これまでの累積で、屋上は約597ha、壁面は約119ha が整備された。建物用途別にみると、累積で屋上は住宅/共同住宅(116.4ha、19.6%)、商業施設(79.4ha、13.4%)、教育文化施設(77.4ha、13.0%)が上位を占めている。壁面は商業施設(32.7ha、27.5%)、工場・倉庫・車庫(19.0ha、16.0 %)、 教育文化施設(12.7ha、10.7%)の順となる。
屋上緑化に使用される植栽材料の形態別累積面積をみると、セダムを主に植栽26.7%、芝生を主17.2%、その他草本10.4%などである(図5)。一方、壁面緑化の累計面積は、やはりツル性植物を主73.2%(86.4ha)、ツル性を除く草本を主8.2%(9.7ha)、ツル性を除く樹木を主4.2%(5.0ha)となる。
(3)臨海副都心の緑の充実
東京都は今年4月から都市開発諸制度を改定、ベイエリアの立体的な緑の整備を促す。緑化率を40%から50%に引上げ、算定にあたり、低層部のテラスなどに建物利用者が体感できる緑を設ける場合は緑化面積を割増する。道路、公園、水域など、公共的な空間に面する壁面等(高さ20mまで)の10%以上の緑化を義務付ける。脱炭素、景観に配慮する緑の充足が期待できる。
3.民間需要
「建設工事受注動態統計調査(大手50社)」(国土交通省)をもとに、民間の建築・土木工事の動向を把握する。2023年度の受注高は12兆5,360億円、前年度比7.7%増、製造業は2.2%減、非製造業は11.6%増となる(図6)。
工場緑化の情勢に関連のある「工場立地動向調査」(経済産業省)によると、2023年の製造業等の新設工場の立地件数は745件で、前年(922件)と比較すると19.2%の減、立地面積は1,451ha、前年(1,280ha)に比べ13.4%増となる。立地件数を敷地面積規模別にみると、工場立地法による一定の緑地面積整備を求められ、「全国緑の工場大賞」(緑化優良工場等表彰制度、(一財)日本緑化センター)の対象となる敷地面積9,000㎡以上の工場は、少なくとも3割を上回る数(敷地面積1万㎡以上の257件、34.5%)を見込める(図7)
1.緑化樹木の供給可能量
2023年度の供給可能量は3,665万本となり、対2022年度比(3,767万本)97.3%と5年連続の減少となっている。形態別内訳は、グラウンドカバープランツ(GCP) が最も多く全体の5 割弱(48.1 %)、 次にコンテナ樹木がおよそ2 割強(21.1%)、3番目に低木常緑樹が2割弱(18.1%)の順となる( 図8)。露地栽培物のシェアー30.8 %に対し、コンテナ栽培物のシェアーは69.2%、3対7を維持している。高中木本数の形態別内訳は、常緑広葉樹5、落葉広葉樹3、針葉樹2の割合を保っている。
主な形態について種類別の内訳をみると、GCPでは、タマリュウ324万鉢(GCP 全体の18%)、シバザクラ類204万鉢(同12%)、コグマザサ113万鉢(同6%)、さらに、フイリヤブラン85万鉢(同5%)、フッキソウ56万鉢(同3%)の順となる。
コンテナ樹木は、シャリンバイ36万鉢(コンテナ樹木全体の5%)、マホニア・コンフューサ26万鉢(同3%)、セイヨウベニカナメモチ23万鉢(同3%)、シラカシ18万鉢(同2%)、ハマヒサカキ16万鉢(同2%)が上位を占めている。低木常緑樹ではサツキ225万本(低木常緑樹全体の34 %)、オオムラサキツツジ105万本( 同16%)、ヒラドツツジ82万本(同12%)、キンメツゲ29万本(同4%)、ボックスウッド22万本(同3%)が上位5樹種を構成している。サツキは2018年度まで400万本台19・20年度に300万本台、21年度より200万本台へ供給力を下げている。
なお、GCP のタマリュウは鉢径7.5cm、5芽立の規格の他に、マット栽培による供給(露地5,700㎡、コンテナ24,990㎡)も行われている。2023年度の総数は前年度に対し2.7ポイント減少となり、対2022年度比は露地物96.8%、コンテナ物97.5%とどちらも減退している(図9)。2023年度コンテナ栽培物の対前年度比の内訳は、樹木95.5%、GCP98.4%となっていることから、コンテナ栽培物の主にGCP の減産が全体の動きに影響している。
都市の住民は植物がその場所に根を下ろせるように、不必要なコンクリートやアスファルトの舗装を取り除いている。世界の諸都市に起こっている、自然を取り戻す新たなアクションを紹介する。
舗装を剥ぎ取る¹
舗装を剥ぎ取る(depaving;ディペイビング)というのは簡単で、コンクリート、アスファルトなどの舗装材を取り除き、植物と土に置き換えることである。このアイデアが生まれたのは米国ポートランド市で、Depave と名付けられたNPOの設立された少なくとも2008年以降のことである。depaving は水が地面に染み込むようにすることで、豪雨時の洪水を減らすため、都市の“スポンジ性” を高めるもの。都市空間で自生植物は野生生物の拠り所として役立ち、木を植え日陰を増やし、居住者を熱波から守る。都市の街路を緑化することは、人々のメンタルヘルスを改善するものとなる。気候危機の深刻化が進む中で、都市や地域が気候適応戦略の1つとしてこの手法を採用し始めている。Depave の理事によれば、2008年以降、ポートランド市だけで33,000㎡以上、ほぼフットボールピッチ4.5個分に等しい面積のアスファルトが取り払われた。その結果生み出された地面は、排水管に取って代わり毎年およそ2,450万ガロン(約9,300万リットル)の雨水を吸収する受け皿となっている。
カナダ・オンタリオ州の環境NPO・GreenVenture はポートランド市のこの取組に触発された。NPO は地元の町Hamilton の荒廃した地区に自生の樹木を植えたミニチュア・ガーデンを誕生させた。以前、人々はそこを素早く通り抜けようとしていたが、今では誰もが足を止め、おしゃべりをする場所となり、腰かけて新聞を読む人もいる。さらに、洪水が発生すると下水と表面流出水とが混ざって、町の飲料水源であるオンタリオ湖へ流入する可能性がある。NPO は洪水を減らす手段として、depaving を主要な戦略と見なしている。2016年の研究は、庭にあるコンクリートなど不浸透性の表面は都市域における洪水リスクを増加することを実証²)している。気候変動によって、異常な降雨が増加しつつあるので、depaving が“あるといい” ではなく、“必要なもの” とNPO は強調する。
depaving と自然回復¹
ヨーロッパにおいて、いくつかの自治体はdepaving を真剣に受け止め始めている。ベルギー・ルーヴェン(Leuven)市において、市のLife Pact 気候適応プロジェクトの担当者は次のように試算する。2023年だけで、硬い舗装6,800㎡を取り払うことで、地中に170万リットルの水を浸透させることができる。市内のSpaanseKroon 地区では、市が先頭に立って住民約550人とともに、「depaving と復元のイニシアティブ」を目標の1つに掲げている。計画では居住地域から相当量のアスファルトを取り除き、道路を車と歩行者やサイクリストが共用できるように改修する。
事業は次第にスケールアップし、今やdepavingに専念するチームが配置されている。視覚障害や移動に問題を抱える人たちを支援するために、使われていない道路や歩道から舗装を除き、幅を1m以上にすることで、歩行者は十分余裕のある歩道を利用できる。既存の舗装は凸凹や起伏がないように新設ないし補修される。歩道が完全に取り除かれた場合、交通量の少ない地域では車道の共用を行い、そこには車の速度を落とす方法を導入する。このイニシアティブでは、“タイル・タクシー”と呼ばれる車両が運行している。職員が小型トラックで各家庭を回り、住民は庭から取り除いたコンクリートタイルや舗装用の小さな丸石を積み込む。資材は廃棄せず回収後に再利用される。市ではプロジェクトの基金造成のため、数百万ユーロを確保している。
さらに、2024年1月以降、市内のディベロッパーは新築またはかなりリフォームされた家屋に降る雨は、現場で再利用するか敷地の庭に浸透させるか、どちらか可能であることを実証しなければならない。もしディベロッパーの設計が極端な降雨にも備えられることを証明できなければ、それは承認されない。
フランス政府は都市緑化に5億ユーロ(約171.3億円) を予算化している。これにはdepaving や壁面や屋上の緑化も含まれる。これらの措置は、近年、フランスが大きな影響を受けている夏の熱波に対して、町や市の回復力をさらに高めるモチベーションとなる。
現在進行中のプロジェクトの1つは、パリ地域にある森林近郊の元駐車場で、45,000㎡のアスファルト、歩道、通路などハード・ランドスケーピングが消え去り、平らな地面は水を捉えるくぼみや水路を導入するために形を整え、エリア全体はまもなく植物で覆われる。
都市の潜在的スペースを見つけ出す⁴
2022年の研究は、都市の街路上に設置された駐車スペースの活用に注目した。研究者は豪州メルボルン市内にある街路駐車スペース23,500か所について、市内のガレージ193,500か所のうち空いている所にスペースを再配置することを検討した。12のシナリオにもとづき、街路の駐車スペースをガレージに振り替えるさまざまな組み合わせを試行した。その結果、3,146~11,668か所の余って使われていない街路駐車スペースを特定した。最大で11,668か所のスペースは市内にあるすべての街路駐車スペース24,745か所の47%、面積はおよそ50ha を占める。こうして算定された街路面積に緑地を創り出すプロセスを図1に示す。
樹冠形成に優れた12種の街路樹が成木となった時に産み出す樹冠被覆面積は31~59ha と推定される。これは公共部門における既存の樹冠被覆面積254ha に対してかなりの貢献となる。緑地を利用する代表的な生きものは、ハナバチの仲間(Amegilla 属) とオーストラリアの固有種Phylidonyris 属の鳥であり、ハビタットを連結させることを考慮している。
メルボルン市の至る所における樹冠被覆、生態的連結性、雨水流出の遮断と処理、不浸透性アスファルトの除去がもたらす新たな土地利用の恩恵は、Nbs の観点から高く評価されている。
土を取り戻す市民のアクション⁵⁾
英国ロンドン市は2019年7月、正式に世界初の「国立公園都市(National Park City)」となった。国立公園都市の理念は、より環境に優しく、健康で、自然豊かな都市を作り、人々が戸外で過ごす時間を増やそうというもの。ロンドンの土地面積の約4分の1は庭が占めているものの、緑化されているのは60%にとどまり、近年、パティオ、デッキ、舗装の面積が増えている。
市長は2050年までにロンドンの半分を緑にする目標を掲げ、庭やバルコニーにもっと緑を増やす4つの方法を提案している。その中で「1枚の舗装スラブを持ち上げる」というのは、パティオからたった1枚の舗装スラブを取り除き、ミニガーデンに変えることからも始められると提唱する。また、「前庭をDe-pave しよう」、すなわち、前庭の舗装された駐車スペースを植物がある雨水を染み込ませる庭として併用するものである。市は「灰色を緑に コミュニティ先導DEPAVING プロジェクトガイド」を作成⁶)し、市民の行動を奨励している。
NPO・Depave の理事は、世界を変えるために、「depaving」を市全体、国全体でさえも完全に受け入れなければならない。そこに到達するために、これこそ自分たちが求めているものというコミュニティの意思を伝えなければならない。ささやかな話を地元から始めること、それが根を下ろす方法であり、政府を後押しすることにつながる、と強調する。
参考文献
1)Chris Baraniuk(2024):The cities stripping out concrete for earth and plants,
https://www.bbc.com/future/article/20240222-depaving-the-cities-replacing-concrete-with-earthand-plants
2)D.A. Kelly(2016):Impact of paved front gardens on current and future urban flooding,
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jfr3.12231
3)Leuven:Ontharden en vergroenen in de Spaanse Kroon,
https://www.leuven.be/vergroenenspaansekroon
4)Thami Croeser & others(2022):Finding space for nature in cities: the considerable potential of redundant car parking,
https://www.nature.com/articles/s42949-022-00073-x
5)City of London:De-pave your garden,
https://www.london.gov.uk/programmesstrategies/environment-and-climate-change/parks-green-spaces-and-biodiversity/make-ourcity-greener-healthier-and-wilder/de-pave-yourgarden
6)City of London:GREY TO GREEN A GUIDE TO COMMUNITY-LED DEPAVING PROJECTS,
https://www.london.gov.uk/sites/default/files/grey_to_green_guide.pdf