建設物価調査会

第9期北海道総合開発計画について

第9期北海道総合開発計画について

国土交通省 北海道局 参事官


はじめに

 我が国は、北海道の豊富な資源や広大な国土を利用し、国全体の安定と発展に寄与するため、明治2年の開拓使設置以降、計画的に北海道開発を進めてまいりました。北海道開発法(昭和25年法律第126号)制定後は、同法に基づき「北海道総合開発計画」を策定し、その時々の国の課題の解決及び地域の活力ある発展に寄与しています。

 令和2年以降、新型コロナウイルス感染症拡大による社会経済活動への影響、ウクライナ情勢等を背景としたエネルギーや食料の供給不安の顕在化、2050年カーボンニュートラルに向けた国の政策展開等、我が国や北海道を取り巻く社会経済情勢に急速かつ大きな変化が生じたことから、新たな計画策定の必要性が高まりました。このため、令和3年10月の国土審議会北海道開発分科会( 以下、「分科会」という。) において、2050年までの長期を見据えた北海道開発の方向性と施策の内容を示す新たな計画の策定について議論が開始されました。

審議経過等

 新たな計画の具体的な検討は、分科会のもとに設置された計画部会において行われ、令和5年7月まで9回にわたり委員の方々に活発な議論を重ねていただきました。

 また、道内の地方公共団体及び経済団体等と北海道が目指すべき将来像や新たな計画の内容などについて意見交換を実施するとともに、道内各地の様々な分野で御活躍の方々から多様な視点からの計画に関する御意見をいただきました。令和5年10月には、パブリックコメントを行うなど、多くの方々からいただいた貴重な御意見を踏まえながら計画の検討を行ってまいりました。

 このようにして、第9期目となる北海道総合開発計画の案は分科会にてとりまとめが行われ、令和6年2月国土審議会から国土交通大臣に答申、3月12日閣議決定に至りました。

第9期北海道総合開発計画のポイント

 北海道の農業産出額は全国の約15%を占め、多くの農畜産物で全国最大の生産地となっており、水産物でも全国一の生産量を誇る我が国最大の食料供給基地です。また、雄大な自然や美しく個性豊かな景観に恵まれており、観光地として国内外旅行客から高い人気を誇っています。さらに、風力、太陽光、地熱等の再生可能エネルギーが豊富に賦存しているとともに、広大な面積の森林があることから、我が国の脱炭素化を先導することが期待されています。第9期計画では、従来からの北海道の強み・価値である「食」と「観光」に加えて、北海道に豊富に賦存する「再生可能エネルギー」のポテンシャルを活かした「脱炭素化」を新たな価値として位置付け、これら北海道の価値を最大化することで、豊かな北海道を実現するとともに現下の国の課題解決を先導するとしています。

 さらに、これら北海道の価値である「食」「観光」「再生可能エネルギー」は、いずれも主に北海道の地方部にある「生産空間」(※1)において生み出されています。生産活動はリアルな人の営みによって支えられていますが、生産空間は、広大な面積に広域に分散しており、かつ、その集落内の住居は散在・散居形態にあるという特殊な地域構造となっており、人口減少が全国に先行して進むなかで生産空間の定住環境をいかに維持していくかが重要となっています。

 このため、第9期計画では、「我が国の豊かな暮らしを支える北海道~食料安全保障、観光立国、ゼロカーボン北海道(※2)」、「北海道の価値を生み出す北海道型地域構造~生産空間の維持・発展と強靱な国土づくり」の二つの目標を掲げ、生産空間を維持・発展させ、北海道の価値の最大化を図ることとしています。この二つの目標を実現するため、計画では、11の主要施策を掲げ、北海道開発を推進することとしています⁽¹⁾⁽²⁾。

目標1「我が国の豊かな暮らしを支える北海道~食料安全保障、観光立国、ゼロカーボン北海道」に係る主要施策
1 .食料安全保障を支える農林水産業・食関連産業の持続的な発展
2 .観光立国を先導する世界トップクラスの観光地域づくり
3 .地球温暖化対策を先導するゼロカーボン北海道の実現
4.地域の強みを活かした成長産業の形成
5.自然共生社会・循環型社会の形成
6.北方領土隣接地域及び国境周辺地域の振興
7.アイヌ文化の振興等

目標2「北海道の価値を生み出す北海道型地域構造~生産空間の維持・発展と強靱な国土づくり」に係る主要施策
1.デジタルの活用による生産空間の維持・発展
2.多様で豊かな地域社会の形成
3 .北海道型地域構造を支え、世界を見据えた人流・物流ネットワークの形成
4 .生産空間を守り安全・安心に住み続けられる強靱な国土づくり

 次に目標1・目標2の施策について、いくつか御紹介します。

地球温暖化対策を先導する「ゼロカーボン北海道」の実現

 直近数年で世界の潮流となった2050年カーボンニュートラルの実現は、世界の国々が利害を超えて一体となって取り組まなければ達成できない課題です。これに対し、北海道は、陸上風力、洋上風力、太陽光等の再生可能エネルギー賦存量が全国1位であるとともに、全国の約22%を占める広大な面積の森林を有しています。

 また、北海道においては、令和2年3月、国に先駆けて2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことを宣言し、環境と経済・社会が調和しながら成長を続ける「ゼロカーボン北海道」の実現を目指すこととしました。令和3年8月には国の各機関の連携による支援体制(「ゼロカーボン北海道」タスクフォース)も整備されています。
 北海道の豊富な地域資源を活かして我が国の脱炭素化を先導することが期待されており、以下の取組を進めてまいります⁽³⁾。

(1)持続可能な脱炭素社会の形成

 ゼロカーボン北海道の実現に向けては、まずは北海道自体が持続可能な脱炭素社会を形成する必要があります。原子力・水力の活用、火力発電所のCO2 排出量削減への取組の推進等による既存の発電所等の活用によりエネルギーの安定供給を図りながら、再生可能エネルギーの導入を拡大していきます。

 導入拡大に当たっては、自然環境・景観との調和、地域との共生に留意しつつ、地域資源の有効活用やエネルギーの地産地消等により地域の活性化につなげることが重要となります。

(2)我が国のエネルギー基地の形成

 2050年カーボンニュートラルの実現及びエネルギー安全保障の観点から、北海道に豊富に賦存する再生可能エネルギー等を道外においても活用できるようにすることが求められています。

 我が国における「エネルギー基地の形成」を図るため、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた切り札と期待される洋上風力発電の導入促進や、北海道と本州の大消費地を結ぶ送電インフラの整備を進めるとともに、水素の製造から貯蔵、輸送及び利用に至るサプライチェーンの構築等、水素社会の実現に向けた取組を推進します。

(3)再生可能エネルギーを活かした産業振興

 再生可能エネルギーを最大限活用して脱炭素化の取組を進めることにより、全国の脱炭素化に貢献するのみならず、雇用の創出等により地域も豊かになることが重要です。既に北海道における再生可能エネルギーの導入拡大を期待して企業進出が始まっています。

 次世代半導体の国産化を目指すラピダス社は千歳市に製造拠点を建設中であり、ソフトバンク社は国内最大級のデータセンターを苫小牧東部地域に建設すると発表しました。北海道へのデジタル産業の集積など、経済安全保障に貢献する先端産業拠点の形成を図ってまいります。

北海道型地域構造を支え、世界を見据えた人流・物流ネットワークの形成

 生産空間を支えるためには、人流・物流ネットワークの形成が不可欠です。都市間距離が長大である北海道において、高規格道路、港湾・空港施設、北海道新幹線の交通ネットワーク整備や輸送モード間を含む交通結節機能強化を進めていくとともに、産業を支える物流基盤の整備と物流システムの維持・効率化等を図ってまいります。

 特に、物流については、長距離・長時間輸送、季節変動、片荷輸送といった北海道特有の課題、事業者の減少やドライバー不足等による輸送力の低下に加え、トラックドライバーの時間外労働の上限規制、所謂「物流2024年問題」の影響で、地域物流の確保や生産空間からの食料供給等が困難になるおそれがあります。北海道開発局では、今年度開通予定の北海道横断自動車道の阿寒IC~釧路西IC 間(17.0km)をはじめ物流効率化に資する交通ネットワーク整備を重点的かつ効率的に進めています。また、これまでに、道の駅等を活用した共同・中継輸送の実証実験や、事業者間のマッチングを促すイベント「ロジスク」などに取り組んできたほか、令和6年2月19日(月)~22日(木)の期間を「北海道物流WEEK」とし、「物流2024年問題」をともに乗り越えるため、行政機関・関係団体・事業者等が連携して「共同・中継輸送を考えるシンポジウム」などのイベント・取組を実施しました。引き続き、各機関の連携によって、地域を支える効率的な物流システム構築のための多角的な検討に取り組んでまいります。

生産空間を守り安全・安心に住み続けられる強靱な国土づくり

 さらに、生産空間を守り安全・安心に住み続けられる強靱な国土づくりに向け、気候変動に伴い激甚化する水災害に対する北海道の地域特性を踏まえた流域治水プロジェクトの推進や日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震等の大規模災害に対する生産・社会基盤の強靱化、冬期災害や複合災害に対する防災力の強化等を図ってまいります。

計画性の実効性を高めるために

 北海道の価値を高め、地域が直面する課題の解決を図るためには、多様な主体が分野の垣根を越えた連携・協働により新しい価値を生み出す取組を進めていくことが重要です。第9期計画では、計画の実効性を高めるため、官民の垣根を越えた「共創」を進めることとしており、計画で掲げる内容を地域性も踏まえて強力に展開するため、今年度から北海道開発局の全ての開発建設部に、計画の推進を主たる目的とした組織として「地域連携課」を新設しました。地域連携課が先導的な役割を果たしながら、地方公共団体、住民、NPO、企業、教育機関等と協働・連携し、官民共創により地域の課題解決や価値向上の取組を推進してまいります⁽⁴⁾。

おわりに

 第9期計画の理念は、計画の「前文 第9期北海道総合開発計画の策定に当たって」に凝縮されています。是非御一読いただければと思います。

 今後は、国土交通省北海道局、北海道開発局及び各開発建設部において、様々な方と密接に連携しながら、計画の推進に向けた取組を実施してまいります。

 計画推進の初年度となる今年度内に、北海道内各地域で計画のキックオフイベントが順次開催されます。今後も北海道開発局や各開発建設部のホームページ等で紹介してまいりますので、是非御参加ください。

【参考資料】

■国土交通省ホームページ「第9期北海道総合開発計画について」

■国土交通省ウェブマガジン「Grasp(グラスプ)」

vol.49日本を支える豊かな大地!共に北海道の未来を創る!

※1)生産空間:主として農業・漁業に係る生産の場(特に市街地ではない領域)を指す。生産空間は、生産のみならず、観光、脱炭素化に資する森林資源、豊富な再生可能エネルギー導入ポテンシャル、その他多面的・公益的機能を提供し、北海道の価値を生み出している。


※2)ゼロカーボン北海道:2020年3月、北海道は国に先駆けて2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指すことを宣言し、環境と経済・社会が調和しながら成長を続ける「ゼロカーボン北海道」の実現を目指すこととした。(人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出量と吸収作用の保全及び強化により吸収される温室効果ガスの吸収量との間の均衡が保たれていることを「ゼロカーボン」と定義している。)


建設物価2024年9月号

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