明治大学で今夏開催された日本建築学会大会の学術講演会で、女性技能者をテーマにした発表があった。建築生産の研究分野では新鮮な題材で注目を集めた。その内容は、大工、左官、内装、電気、他の各職種で経験を積む20代から40代、13名の女性職人へのインタビュー調査をまとめたもので、入職動機、女性同士のつながり、男性との身体差や工具・装備、現場設備、就業上の悩み、仕事と育児、今後などの多方面の聞き取りから得た課題を分類・考察したものだった。筆者がセッション司会役だったこともあって、海外事情も含め周辺状況を少し調べた。一昔前の本欄で関連テーマを書いたのも覚えていたが、その時は2005(H17)年の国勢調査を分析していた。今回はデータを改めて、その後の展開をみることにしたい。
2005(H17)年の国勢調査では建設業女性就労者数は78.8万人で、 男女計544万人の14.5 % を占めていた。それが2010年には15.0%(68.3万人)、2015年16.0%(70.7万人)、そして2020年17.6%(75.0万人)と推移している。ちなみに、英国は15.8%(ONS;2023年)、米国は10.8%(BLS;同)、EU27ヶ国は10.5%(Eurostat;2024年)である。ここ5年間の変化を詳しく表1にまとめた。男性は職業大分類の殆どで減るなか、女性は増えたものが多い。とくに目立つのが、「B.専門的・技術的職業従事者」と「J. 建設・採掘従事者」の2つの大分類、言い換えれば、技術者と技能者の各カテゴリーにおける女性就業者の躍進だ。5年前から男女とも増となった技術者では、男性の8.0%に比し女性の伸び34.1%は突出する。一方、技能者は全体で▲4.9%(男性▲5.3%)だったが、逆に女性は17.7%も増えた。このようにジェンダーバランスは変化している。
では、女性が携わる具体的な職種は何か?表2は最新の職業小分類別集計であり、建設業女性数順に並べなおしてある。表2を上から見ておこう。総務・経理・人事などの事務系職種は女性比71%~88%で男性が少数派の一方、技術系(青色)と技能系(黄色)の各職種では女性比は数%と逆に女性が少数派である。ここにはかなりの不均衡がある。よく見ると技術者でも技能者でも上位の職種には女性人数が増えたものがいくつかある。詳しく黄色の技能系職種をみると、土木系(表2の職種名冒頭記号で68a 及び681)、電気工事(同679)、大工(同661)の順で千人を超える増加、また、青色の技術系職種では建築技術者(同091)の2,730人増、土木・測量技術者(同09a)の2,070人増があった。技術系は、建築・土木の高等教育卒業者に占める女性比が高まったことの現れであろう。
建設業の女性技能者を焦点に欧米諸国の状況を調べてみた。EU27の最新統計では0.67%(9.5万人)と少ない。国別で北欧やスイスなどの7か国で0.4~3.6%の報告があるが、他の20ヶ国はゼロである。英国は、かつての英国建設業にあった「力仕事と屋外作業、悪天候、汚い言葉遣いへの耐性が要る男性中心の業界」(Agapiou, 2002)というイメージが変わったようだ。今や秋恒例イベントになったWomen in Construction は相当な盛り上がりをみせている。
また、米国の建設労働系シンクタンクCPWR のサイトで建設業界における女性の採用と定着戦略、あるいは、女性技能者の個人用保護具・安全靴サイズがテーマのYouTube ウェビナーを視聴できた。また、大工の2.7%(6.2万人)、電工の2.7%(3.7万人)、ペインターの18.8%(21.9万人)が女性との2023年米政府データもあった。
参考文献:
拙稿「建設業の「ダイバーシティー」に想う」、本欄、2013.11.
松村秀一著『新・建築職人論』学芸出版社、2023.3.10.
A. Agapiou (2002), ‘Perceptions of gender roles and attitudes toward work among male and female
operatives in the Scottish construction industry’, CME, 2002, pp.697-705.
CPWR, Women in Construction(https://www.cpwr.com)
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