建設物価調査会

自動物流道路の構築に向けた検討について

自動物流道路の構築に向けた検討について

国土交通省 道路局 企画課 道路経済調査室


1.はじめに

 急速に進む人口減少と少子高齢化、激甚化・頻発化する自然災害など、我が国は歴史的・構造的な変化と課題に直面している。一方で、カーボンニュートラルの実現や持続可能な経済社会の構築など、新たな課題への対応が求められている。
 令和5年10月、社会資本整備審議会道路分科会国土幹線道路部会においてとりまとめられた「高規格道路ネットワークのあり方中間とりまとめ」において、物流危機の克服、温室効果ガス排出削減の切り札として、道路空間をフル活用したクリーンエネルギーによる自動物流道路(オートフロー・ロードAutoflow Road)の構築に向けた検討の必要性が提起され、逼迫する物流の状況を鑑み、10年での実現が提言された。

 この提言を受け、国土交通省では、令和6年2月に有識者などで構成する「自動物流道路に関する検討会」(委員長:羽藤英二東京大学大学院教授)(以下、「検討会」という。)を設置した。令和6年7月には「自動物流道路」のあり方中間とりまとめを実施した。本稿においては、「中間とりまとめ」において提言されている自動物流道路のコンセプト、実現に向けた検討の方向性、想定ルートや実験線の設定などについての考え方について紹介する。

2.物流の現状と課題

 我が国の物流は、国内貨物の9割超をトラックが担っており、物流量はトンベースでは微減傾向だが、1件あたりの貨物量が直近20年で半減している。一方で、宅配便取扱実績が1989年度に10億個を超えて以降、2022年度には初めて50億個を超えるなど物流件数は増加しており、物流の小口・多頻度化が急速に進行しているものの、貨物自動車の積載率は40% 以下の低い水準で推移している。
 このような状況下において、生産年齢人口の減少に伴う労働力不足を背景に、物流事業者の担い手不足が懸念されている。特に、2024年4月からはトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用される、いわゆる「2024年問題」に直面しており、何も対策を講じなければ、輸送力が2024年度には14%、2030年度には34%が不足し、今のようには荷物を運べなくなる物流危機が強く懸念されている。

 このような中、物流の機械化・デジタル化(物流DX)を進めることで生産性の向上や非効率な物流の改善が可能となるが、その前提となるパレットや物流データ等の物流を構成するソフト・ハードの各種要素について、物流全体としての最適化に資する標準化には至っていない。加えて、トラックから鉄道・船舶へ輸送手段を転換するモーダルシフトが進まないことや、我が国のCO2排出量のうち約2割を運輸部門が占めており、そのうち約45%を物流分野で占めていることから、物流分野におけるCO2排出量の削減は急務である

3.海外の事例

 海外においては、運輸部門からの温室効果ガスの排出抑制や将来的な物流需要の増加への対応のため、新たな物流形態の検討が進められており、人が荷物を運ぶという概念から、人は荷物を管理し、荷物そのものが自動で輸送される仕組みへの転換を図ろうとしている。

① スイス:地下物流システム

 例えば、スイスでは、スイスの民間企業CST社(Cargo Sous Terrain 社)が、主要都市間を結ぶ物流専用の地下トンネルを建設し、自動輸送カートを走行させる物流システムの構築を検討している。スイスは今後も人口の増加が予測され、貨物輸送量も2040年までに約4割増加することが予測されており、現在の輸送ルートだけでは今後増加する貨物輸送に対応することができないため、その一部を地下物流システムが担うことを想定している。

 民間企業の取組を背景に、スイス政府(連邦政府)は、貨物の地下輸送のための都市間施設の建設・運営やこれらの施設での車両の運行を規制する「地下貨物法」を制定している(2021年12月成立、2022年8月施行)。

 地下物流システムにより、スイスの物資輸送の持続可能な発展に貢献するとともに、環境保護、交通量の削減に伴う道路の負荷の緩和といった効果が期待されている。また、地下トンネルは自動輸送カートの走行空間機能だけでなく、カートの仕分け・滞留・追い越しを行うバッファリング機能を果たすことにより、地上での保管スペースの削減を可能としている。

② イギリス:Magway 西ロンドン線プロジェクト構想

 イギリスでは、イギリスの民間企業(MAGWAY社)が、西ロンドン地区において、現在開発中の電磁気力を動力として、物流輸送用に開発した低コストのリニアモーターを使用した完全自動による物流システム(Magway システム)により、地区内物流の効率化を図るプロジェクトを計画している。

 西ロンドン地区においては、既存の鉄道敷地内のレール横スペースを活用し、 全長16km のMagway 専用線を設置することにより、大手物流事業者の物流施設から小売業者等の物流施設や店舗等へ自動で荷物を輸送することが検討されている。実現にむけて検討中の段階ではあるが、トラック輸送に変わる安全かつ持続可能な代替手段を提供することを目的としており、物流の脱炭素化・効率の向上・渋滞の緩和等への貢献が可能とされている。

4.自動物流道路の必要性

 検討会において、自動物流道路の実現に向けて議論が行われ、道路、物流それぞれの目指すべき姿が示された。

(1)道路の目指すべき姿

 「高規格道路ネットワークのあり方中間とりまとめ」においては、「技術創造による多機能空間への進化」として国土を巡る道路ネットワークをフル活用し、課題解決と価値創造に貢献していく必要があると提言されている。道路の姿として、インフラが下部構造たる社会資本として経済を支える従来の発想を超え、道路ネットワークそのものがDX やGX など成長分野を取り込むことで多様な価値を生み出し、道路分野にとどまらず、社会全体の構造革新へ貢献することを目指していくべきである。

(2)物流の目指すべき姿

 現在の物流危機の状況下を踏まえると、これまで進捗しなかった物流の構造改革や生産性向上の取組を加速度的に促進させる大きな好機となる可能性がある。国際競争に伍していくためにも、我が国の物流において、DX、フィジカルインターネットといった最先端の技術や概念を取り入れた物流システムを構築していくことが重要である。

 また、これまで「競争領域」とされる部分が多かった物流分野において、効果的に「協調領域」を産み出すことにより、物流モード間、事業者間、官民間の垣根を越えて、標準化をはじめとした物流効率化の取組を進め、物流モードで適切に役割を分担し、物流全体の最適化を目指すべきである。

(3)自動物流道路の必要性

 我が国の産業の生産性向上、国際競争力強化の観点からは、トラック輸送・鉄道輸送・海上輸送・航空輸送など各物流モードにおける、個々の輸送の効率化にとどまらず、物流全体として効率化・生産性向上を図ることが重要である。このためには、可能な限り省人化を目指すこと、モード間・事業者間の協調領域の拡大による効率化を図ること、各物流モードで補完し合うことに加え、道路が各物流モードをつなぐ機能を担っていくことが解決に向けたポイントとなると考えられる。

 このため、道路空間を活用して専用空間が構築され、デジタル技術を活用して無人化・自動化された輸送手法により物流を担う新しい物流形態として、「自動物流道路」を構築することが必要であるとされた。

5.自動物流道路のコンセプト・方向性

(1)コンセプト

 上記のとおり、社会の変化を踏まえた道路の転換・物流の転換の中で自動物流道路の構築が求められている。その際、2024年問題を始めとする人手不足などの物流危機の抜本的解決に加え、カーボンニュートラルへの対応、他モード連携・支援を含めたモーダルシフトの推進、標準化などのロジスティクス改革の促進、持続可能な道路交通の実現、大規模災害に備えたリダンダンシーの確保といった多岐にわたる目的を同時に果たせるものとして実現していくべきであるとされた。

 このため、自動物流道路は「持続可能で、賢く、安全な、全く新しいカーボンニュートラル型の物流革新プラットフォーム」をコンセプトの柱として、物流の全体最適化、物流モードのシームレスな連結、カーボンニュートラルの方向性で実現を図るべきものであるとされた。具体的な方向性は以下のとおりである。

(物流の全体最適化)

 自動物流道路は、
・ 徹底的な自動化による省人化・無人化による小口・多頻度での輸送への対応
・ 小口輸送に対応するためのインフラとすることでの輸送空間の省スペース化
・ 24時間稼働し、自動物流道路の走行空間等において仕分けや保管、時間調整を行うバッファリング機能を持たせることでの物流需要の平準化により、物流全体の効率化を図るべきものとされた。

 特に、バッファリング機能を設けることで、物流の商習慣・行動を変容させることが可能となると同時に、バッファリング機能を十分に生かすためにも商慣習・行動変容を促していく必要がある。

 また、自動物流道路というインフラの導入をきっかけに、物流の標準化や事業者間・物流モード間の連携強化といったロジスティクス改革を進めるものとすることが重要である。それに伴い、トラックドライバーの働き方についても、夜間の長距離の輸送から、真に人の手が必要な輸送にシフトし、労働環境の改善につながるものとなる。

(物流モードのシームレスな連結)

 モーダルシフトに際しては、既存の輸送モードに加え、自動物流道路を新たなモードの一つとして位置づけ、トラック輸送をサポートするものとして活用すべきである。加えて、自動物流道路をトラック輸送から鉄道輸送・海上輸送・航空輸送へのモーダルシフトをサポートするものとすることで、トラック輸送・鉄道輸送・海上輸送・航空輸送の活用の支障となる積替えバリアを解消し、それぞれの輸送モードの強みを活かすサポートをするものとして、物流モードのシームレスな連結を目指すべきものとされた。

(カーボンニュートラル)

 自動物流道路での輸送については、低炭素技術を導入し、クリーンエネルギーの活用を前提としたハード設計とするとともに、更なる技術開発を促し、エネルギー利用の効率化を追求し、環境負荷を最小限に抑制する。

 また、効率的な輸送の実現や、物流モードのシームレスな連結によりモーダルシフトを推進することで、物流全体からの温室効果ガス排出量を削減し、環境負荷の低減を目指す。

(2)実現に向けた検討の方向性

 前述のコンセプトを踏まえ、海外事例を参考にしながら、自動物流道路を設定するルートや規格、必要な機能や技術に関して以下の考え方が示された。

(想定ルート)

 自動物流道路を設定する想定ルートは、人手不足解消の観点から最も効果的と考えられる区間として、長距離幹線輸送での設定を検討すべきである。具体的には、物流量が最も多く、我が国最大の大動脈である東京―大阪間での設定を念頭に、段階的な運用開始も含め、実現方法を検討すべきである。その際、一部区間の運用でも効果が発揮されるよう区間設定していくべきであり、第一期区間は、物流量も考慮しつつ、大都市近郊の特に渋滞が発生する区間から構築すべきである。モーダルシフトの推進・他モード連携の観点から、モード間のシームレスな連結のため、物流拠点(貨物鉄道駅、港湾、空港、高速道路IC、物流倉庫等)間での設定を検討すべきであるとされた。

(実験線の設定)

 自動物流道路の実現に向け、実験線として、早期にフィールドを設定し、必要な技術開発・オペレーションの検証等を行うことが重要である。その際、自動走行システム、走行中給電、AI・IoTによるスマートロジスティクス等の現在発展中の新技術の積極的な活用を図るべきである。

 実験線は、将来的に先行的に運用される区間(先行ルート)とすることも想定し、設定にあたっては、将来的な完成形の一部区間や物流拠点間を結ぶ区間などを想定して候補地となる区間を設定すべきである。その際、現在の物流の危機的状況を鑑みて、既存インフラの活用ができる箇所でスピード感をもって実施する必要があること、10年での社会実装を目指すため、前提となるフィールドの構築に大規模な整備や時間を要さない、新東名高速道路の建設中区間(新秦野~新御殿場)や小規模な改良で実装可能な区間などを活用して社会実験を行うことも考慮すべきであるとされた。

(輸送対象荷物の規格)

 物流の小口・多頻度化の進行、積載効率、他モードとの役割分担の観点も踏まえ、自動物流道路の対象とする荷物は、小口の荷物をターゲットとし、パレット等に積載したサイズを輸送単位とすることが適当である。その規格については、拠点での積替えの自動化・機械化によるスムーズな実施を考慮すると、統一した規格の採用が必要であり、具体的には、官民物流標準化懇談会パレット標準化推進分科会において標準的な規格として推奨されている11型パレット(平面サイズ:1,100mm ×1,100mm)の規格を平面サイズの土台とした上で、土台も含めた輸送対象物の高さを1,800mm までの大きさとして設定し、物流需要や使いやすさ、輸送時の安定性を含めたインフラ設計、搬送技術開発などを議論・検証していくべきであるとされた。

(道路空間の利活用)

 高速道路空間の利活用にあたっては、地上部及び地下部の活用が考えられる。その際、事業スピード、費用対効果、既存の交通への影響等を踏まえた検討が必要である。

 地上部の活用の場合、中央分離帯及び路肩の活用が考えられるが、それぞれに本来必要な機能があるため空間の確保が必要であることや供用中の高速道路への影響を考慮する必要がある。また、地下空間の活用の場合、現地状況により工事期間や整備コストが大きく変動する可能性がある。

 想定ルートの具体的な区間での空間確保にあたっては、自動輸送カートの寸法や重量、走行速度、走行頻度などの諸条件を踏まえて検討する必要があり、具体的な規格を早急に設定した上で、実現に向けて更なる詳細な構造検討を進めることが必要である。

 また、安全性・安定性の観点から、頻発する大規模災害の発生を前提としたインフラの設計を行うべきである。自動物流道路は物流専用空間を確保し、人の侵入や、風雨等の影響を可能な限り排除することで平常時は気象等に左右されず、災害時には自動物流道路が非常手段の一つとして物流ネットワークの確保に資するなどBCP の観点からも有効となる。

(拠点配置・機能)

 自動物流道路が既存物流モードと接続し、荷物の積み替えを行う拠点の配置にあたっては、既存の物流倉庫の集積状況や、高速道路のSA・PAやIC、貨物鉄道駅、港湾、空港等の物流拠点の配置や、既存の道路ネットワークとの接続によるシナジー効果、周辺の道路交通への影響も踏まえ、具体的な地点を設定すべきであるとされた。また、自動物流道路の拠点での効率的・合理的な積替え手法について技術開発を図るべきであるとの指摘がされた。

(搬送手法)

 自動物流道路で走行する輸送カートについて、カーボンニュートラル実現の観点からクリーンエネルギーを活用することや、エネルギー利用の効率化を図ること、自動荷役に対応した設計とすること、走行中給電などの最新技術を取り入れたものとすべきである。また、荷物の輸送時の安定性の観点から、規格化された荷物を1台の自動輸送カートで運ぶ個数についても検証が必要である。

(実施主体)

 自動物流道路は、多くの企業が利用する社会インフラとしての役割を果たすことが求められる一方で、将来にわたって持続可能なスキームを構築する必要があることを踏まえた建設・運営主体とする必要がある。

6.引き続き検討すべき課題

 前述のように、自動物流道路のコンセプト・検討の方向性が提示されたが、自動物流道路を真に使いやすく、かつ持続可能な社会インフラとするために、以下について更なる検討が必要であるとされた。

(1)効果・影響

 自動物流道路の構築による道路交通や各物流モード、複合一貫輸送、さらには物流全体に与える効果・影響について、交通分析、物流事業者・荷主等へのヒアリングなどにより、詳細に分析を行う必要がある。

(2 )需要分析、ビジネスモデル、官民連携、制度設計

 具体的なルートの決定に当たっては、初期投資(建設コストなど)やランニングコストを含め、詳細な需要分析・事業性の分析を行う必要がある。その際、既存他モードを参考にしつつ、リードタイム等の荷物特性も踏まえ、自動物流道路への物流需要の転換率や料金などを設定する必要がある。特に、料金設定については、他モードも含めた物流需要の平準化の観点から、ダイナミックプライシングの導入についても検討すべきである。

 また、実施体制について、自動物流道路は、多くの企業が利用する社会インフラとしての役割を果たすことが求められることから、建設・運営主体に対する一定の公的コントロールが必要であり、その具体的な仕組みについて検討する必要がある。また、実現にあたっては、民間資金を想定するとともに、民間の活力を最大限活用する。

(3)技術的課題、技術開発

 自動物流道路の実現にあたっては、現状の技術に留まらず、新技術の導入はもとより、行政が開発の方向性を示すことで、開発リソースの集約が可能となり、更なる技術開発が可能となる。その際、アジャイルアプローチで技術・ノウハウの確立を図っていくべきである。特に、拠点での荷役の自動化・スムーズな積替えは自動物流道路の利便性に直結する重要な課題であるとの指摘がされた。

7.おわりに

 自動物流道路は、東京―大阪間の長距離幹線構想を念頭に、まずは実験を実施し、2030年代半ばまでに先行ルートの運用開始を目指していくこととしている。今後は、実現に向け、技術的な課題への対応、ビジネスモデルの構築など引き続き検討を進めていく。有識者、民間企業などと連携し、スピード感を持って検討を進めていく。


建設物価2024年11月号

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