令和6年能登半島地震で被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。また、被災地復興のために日夜尽力されている皆様に敬意と御礼申し上げます。
今般の地震では約14万戸で断水するなど、上下水道施設に甚大な被害が生じました。国土交通省では、今般の被害を踏まえ、令和6年3月に当時水道事業を所掌していた厚生労働省とともに、「上下水道地震対策検討委員会」(委員長=滝沢智東京大学大学院工学系研究科教授)を立ち上げ、今後の地震対策のあり方や上下水道一体の災害対応のあり方等を検討し報告書としてとりまとめました。
本稿では、今般の災害対応の取組や上下水道地震対策検討委員会報告書の概要をご紹介します。
(1)令和6年能登半島地震の概要
令和6年1月1日にマグニチュード7.6、深さ16km の地震が発生し、石川県輪島市、志賀町で震度7を観測したほか、北海道から九州地方にかけて震度6強から1を観測しました。気象庁では、石川県能登地方で発生している令和2年12月以降の一連の地震活動について、「令和6年能登半島地震」と定めたところです。
本地震により、能登半島西部では約4m隆起するなどの大きな地殻変動も見られています。
防災科学技術研究所強震観測網(K-NET)の各地域の地震計と下水道施設の耐震対策指針と解説 2014年版((公社)日本下水道協会)に示される標準加速度応答スペクトルとを比較すると、今回の地震の地震動は、能登半島地域では、レベル2地震動と同程度であったと想定されます。なお、震度7を記録した地域等では、一部の周期帯でレベル2地震動を上回るところもありました。
(2)上下水道施設の被災概要
今般の地震により、新潟県、富山県、石川県、福井県、長野県、岐阜県の6県で最大約14万戸の断水が発生するなど、上下水道施設に甚大な被害が生じ、特に石川県の能登地方6市町(七尾市、輪島市、珠洲市、志賀町、穴水町、能登町)では、近年の主要地震を上回る管路の被害率となるなど特に多くの被害が発生しました。
レベル2地震動相当の強い地震動であったことや、耐震化未実施等により浄水場や配水池、下水処理場に直結する管路等の基幹施設が被災した(図-1)ことにより、広範囲での断水や下水管内の滞水が発生するとともに、半島地域特有の限られた交通手段が被災したことや悪天候による作業時間の制約等が重なり、復旧に長い期間を要しました。水道本管は輪島市、珠洲市の建物倒壊地域等を除き、5月末をもって漸く復旧したところであり、長期間を要しました。
(3)耐震化の効果
多くの被害が生じた中であっても、耐震化実施済みであった浄水場や下水処理場等では施設機能に決定的な影響を及ぼすような被害は確認されませんでした。同じ浄水場や下水処理場内でも、池によって耐震化の有無に違いがあった箇所では、機能確保にも顕著な違いが生じ、事前防災としての施設の耐震化の効果・必要性が再確認されました(図-2)。
令和6年4月から水道整備・管理行政が厚生労働省から国土交通省に移管されることに先んじて上下水道一体での災害対応を試み、早期復旧に努めました。
(1)上下水道一体の調整体制の構築
石川県に設置された現地対策本部に厚生労働省(当時)及び国土交通省の職員を派遣し、両省が連携した全体調整を行うこととしました。また、地方整備局等の水道整備・管理行政移管準備室の職員を被災地へ派遣し、日本水道協会と連携して被災自治体支援を行うこととしました。(図-3)
特に多数の機関が活動する応急給水活動について、給水ニーズや補給点等の情報共有・調整を図りました(図-4)。
(2)断水解消優先の応急復旧
水道が復旧しても下水道が復旧していなければ自由に水を使うことはできません。このため、一刻も早い断水解消を行うために水道の復旧と連携した下水道の復旧を試みました(図-5)。これまでの災害対応では災害復旧工事(災害査定)を念頭に、概略(一次)調査を完了したところから順次詳細(二次)調査を実施していたところ、今回は、水道復旧の優先地区の確認や復旧工程を把握し、給水開始に遅れることがないよう、必要に応じて仮配管を設置するなどの応急復旧を二次調査より優先して実施することとしました(図-6)。
(3)災害対応で見えた教訓
上下水道一体での調整体制や断水解消優先の応急復旧は早期復旧に一定の効果があったと考えます。また、被害が集中した区間においては、仮設として露出状態で配管(転がし配管)して活用することで応急的な通水を図ること(図-7)や、可搬式浄水施設・設備を設置・活用することで応急給水を行うこと(図-8)などは早期対応に寄与しました。
一方で、災害対応を行う中で試行的に取り組んできた今回の対応を今後に活かすためには、予め体制や対応方法を定めて備えることが必要です。実際に支援に入った自治体にアンケートをとったところ、「応急復旧優先するにあたっては土工班が不足した」、「宿泊や作業拠点が不足した」「管路台帳データが電子活用できず悪天候での作業に支障が生じた」等の課題が掲げられていました。
前述の上下水道一体の災害対応を検証するとともに、地震被害を踏まえた今後の地震対策のあり方などを議論するため、厚生労働省(当時)と国土交通省が連携し、有識者、地方公共団体、関係団体からなる「上下水道地震対策検討委員会」を設置しました。委員会での審議事項は、
①被災市町の復興に向けた上下水道の整備の方向性(地域への助言)、
②上下水道施設の被害をふまえた今後の地震対策のあり方、
③上下水道一体での災害対応のあり方、
の3点とし、施設被害の状況や今般の取組を振り返った上で、災害に強く持続可能な上下水道システムの構築に向けた議論を行いました。
3月12日に開催された第一回委員会では、各審議事項に関して今後必要な取組等に関する意見が出されたほか、多くの被害が生じている中でも耐震化を実施した施設では概ね機能が確保されていることから、被災地の1日も早い本復旧に向けて現行の耐震指針を適用して復旧に取り組んでいくことが適当であることを確認し、早速3月22日に被災地向けに事務連絡を発出しました。
5月10日に開催された第二回委員会では、中間とりまとめを行うとともに、被災自治体における復興に向けた上下水道施設整備の留意点をとりまとめ、5月29日に被災地向けに事務連絡を発出しました。
そして、8月27日に開催された第三回委員会での議論を踏まえ、9月30日に最終とりまとめを公表しました。最終とりまとめの概要は以下のとおりです。
(1)被災市町の復興に向けた上下水道の整備の方向性
・ 復興まちづくりや地域住民の意向など様々な観点を踏まえつつ、分散型システム活用も含めた災害に強く持続可能な将来にふさわしい整備
・ 代替性・多重性の確保と、事業の効率性向上とのバランスを図ったシステム構築
・ 人口動態の変化に柔軟に対応できる等の新技術の積極的な導入
・ 台帳のデジタル化や施設の遠隔監視などのDXの推進
・ 広域連携や官民連携による事業執行体制や災害対応力の更なる強化 等
(2)上下水道施設の被害を踏まえた今後の地震対策のあり方
・ 上下水道システムの「急所」となる施設の耐震化
・ 避難所など重要施設に係る上下水道管路の一体的な耐震化
・ 地すべりなどの地盤変状のおそれのある箇所を避けた施設配置
・ 可搬式浄水施設・設備/汚水処理施設・設備の活用などによる代替性・多重性の確保
・マンホールの浮上防止対策・接続部対策
・人材の確保・育成や新技術の開発・実装 等
(3)上下水道一体での災害対応のあり方
・ 国が上下水道一体の全体調整を行い、プッシュ型で復旧支援する体制の構築
・処理場等の防災拠点化による支援拠点の確保
・ 機能確保優先とした上下水道一体での早期復旧フローの構築
・点検調査技術や復旧工法の技術開発
・DX を活用した効率的な災害対応
・ 宅内配管や汚水溢水などの被害・対応状況の早期把握、迅速な復旧方法・体制の構築 等
今般の能登半島地震での甚大な被害を受け、「水が使えることの重要性・公共性」が改めて認識されました。災害に強く、持続可能な上下水道システムの構築に向けて、上下水道地震対策検討委員会の最終とりまとめで掲げられた事項に関係者一丸となって取組を進めていきたいと考えます。皆様のご理解・ご協力を引き続きよろしくお願いします。
なお、本稿で紹介しきれなかった最終とりまとめの本文は国土交通省HP(https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000874.html)にてご参照ください。
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