~「防災気象情報に関する検討会」取りまとめ~
気象庁、国土交通省水管理・国土保全局や都道府県等(以下「国等」)では、自治体等の防災機関が行う防災対応や住民自らの防災行動に資するよう、注意報、警報、特別警報、土砂災害警戒情報、指定河川洪水予報など、気象、土砂崩れ、高潮、波浪及び洪水に関する様々な情報(以下「防災気象情報」と総称する)を段階的に発表し、災害への警戒を呼びかけている。
わが国では近年、数々の自然災害を経験しており、その都度、防災気象情報やその伝え方を改善する取組を行ってきた。その結果として、個々の情報の高度化や市町村の防災対応への支援強化に一定の効果があったと考えられる一方、情報数の増加や運用の複雑化にも繋がっていた。
そのような中、令和元年に、災害発生の危険度ととるべき避難行動を住民が直感的に理解できるよう、5段階の「警戒レベル」が導入され、洪水等、土砂災害及び高潮に関連する防災気象情報は警戒レベルに相当する情報(警戒レベル相当情報)として位置づけられた。これにより、警戒レベル相当情報の体系整理及びその伝え方、警戒レベル相当情報を補足する解説情報の体系整理、その他の警報・注意報・気象情報の体系整理等が検討課題となっていた。
以上のような状況を踏まえ、シンプルでわかりやすい防災気象情報の再構築に向け、警戒レベル相当情報を中心に、情報の体系整理や個々の情報の見直し・改善方策、情報のより一層の活用に向けた取組等について検討を行うため、学識者、報道関係者等を構成員とする「防災気象情報に関する検討会」を、令和4年1月から令和6年5月まで、計8回にわたり開催した。本検討会での議論の成果については、令和6年6月に「防災気象情報の体系整理と最適な活用に向けて」と題したとりまとめとして公表したところである。
本稿では、この防災気象情報に関する検討会での議論やとりまとめについて紹介する。
まず、防災気象情報の役割は、気象現象の正確な観測及び予測に閉じるのではなく、どのような状況になり得るかという情報、すなわち、「いま何が起きているのか」、「今後どうなるのか」、「いつからいつまで危険なのか」、そして「どの程度の確からしさでそのようなことが言えるのか」という情報を科学的に、迅速に伝えることで、情報の受け手の主体的な判断や対応を支援するものであるとされた。
また、防災気象情報は、警戒レベル相当情報やそれ以外の警報・注意報等のような、気象現象に対して誰もが直感的に状況を把握し対応を判断できるよう、対応や行動が必要な状況であることを端的に伝える情報と、これまで主に「気象情報」として総称されてきた解説情報のように、警報・注意報等が発表された背景や根拠を示すことによって情報の伝え手の活動を支援するとともに、情報の利用者一人ひとりが我が事感、納得感をもって具体的な対応や行動を判断できるよう、丁寧に解説する情報に分類できるとされた。
本検討会での議論は、以上の基本的な整理をもって行われた。
現行の警戒レベル相当情報は、「洪水等に関する情報」、「土砂災害に関する情報」及び「高潮に関する情報」に整理されている。この情報体系は、令和元年の警戒レベル導入時に既存の情報を各レベルの相当情報として位置づけられたものであり、同じ現象を対象とした情報でも相当する警戒レベルによって発表主体や発表基準が異なる等の課題があった。
このような課題を解決し、本検討会では、シンプルでわかりやすい情報体系になるよう、それぞれの情報の改善案について検討が行われた。
(1)洪水等に関する情報の体系整理
洪水に関する情報については、氾濫による社会的な影響が大きい河川(洪水予報河川及び水位周知河川)の外水氾濫を対象とした河川ごとの情報として整理し、これまでの市町村ごとの情報発表(洪水警報、洪水注意報) は行わないこととする案が示された。これに加えて、洪水予報河川及び水位周知河川以外の河川(その他河川)の外水氾濫については、内水氾濫と併せて市町村ごとに発表する「大雨浸水に関する情報」として整理するとまとめられた(図1)。
なお、大雨浸水に関する情報を警戒レベル相当情報に位置付けること等については、今後の検討課題とされた。
(2)土砂災害に関する情報の体系整理
土砂災害に関する情報については、相当する警戒レベルごとの発表基準作成の考え方を統一(土壌雨量指数と60分雨量)し、災害発生の確度に応じて段階的に発表する情報とする案が示された。
また、現行の警戒レベル3相当情報である大雨警報(土砂災害)は発表回数が多く、これが発表されても警戒レベル4相当の土砂災害警戒情報の発表基準に到達しない事例が多いという課題があった。このため、警戒レベル3相当情報については、警戒レベル4相当情報の基準に到達すると予想される時刻から相応のリードタイムを持って発表するものと整理され(図2)、これにより警戒レベル4相当情報に至らない警戒レベル3相当情報の発表回数が大幅に減少することを確認した。
(3)高潮に関する情報の体系整理
高潮に関する情報については、陸域の住民への高潮による浸水の影響を考慮し、潮位だけではなく沿岸に打ち寄せる波浪(うちあげ高)を考慮した発表基準をもって運用する案が示された(図3)。この基準について、高潮は水位の上昇が早いため、基準となる水位を段階的に設定するのではなく、災害発生または切迫までのリードタイムに応じて情報を発表することが適切であり、予想水位(潮位+波浪のうちあげ高)が堤防天端高に到達するまでの時間等に応じて、警戒レベル2から警戒レベル4相当情報までを段階的に発表することが適切であるとまとめられた。
(4)警戒レベル相当情報の名称案
警戒レベル相当情報の名称については、危機感が適切に伝わり、相当する警戒レベルを連想しやすい名称とすることが望まれる。現行の情報名称は、現象ごとに各レベルに相当する情報の名称を見ても、また、現象間の情報名称の横並びを見ても、必ずしも統一感がなく、シンプルにわかりやすく危機感を伝えるには一定の整理が必要であるとされた。
そこで、一般向け・市町村向けアンケート調査、都道府県や報道機関等へのヒアリングを実施したうえで、望ましい名称案の検討を行い、以下の方向性のもと、表1に示す名称案がまとめられた。
・ 一般向けアンケート調査の結果を重視し、社会に定着した「特別警報」「警報」「注意報」のワードを活かして名称の「横並び」を揃えるイメージを基本とする。
・ 警戒レベルの数字が高い方が危険度も高いという認識が定着している等の一般向けアンケート調査の結果と、警報・特別警報のような社会に定着したワードと相当する警戒レベルの数字を共に名称に用いることが有効といったヒアリングの結果を踏まえ、名称に相当する警戒レベルを示す数字を「レベル○」の形で置く。また、警戒レベルを容易に連想できるよう、相当する警戒レベルの数字と日本語の順序については、レベルの数字を前に、主役にした名称とする。
・ 警戒レベル4相当及び3相当の名称については、レベルの数字以外のワードでも区別がつくようにするべく、警戒レベル4相当の名称については「危険警報」のワードを用いる。
・ 警戒レベルと警戒レベル相当情報の関係について、表1のような解説資料等に明示してしっかり周知することとし、名称には「相当」のワードは用いない。
表1の案を踏まえた警戒レベル相当情報の名称の最終的な決定は、法制度や実際の情報の運用、
伝え方などもふまえ、気象庁及び国土交通省にて行うこととされた。
なお、表1に示す名称案は、「シンプルにわかりやすく」するという観点からは改善の余地があり、表1のポイントについて、現象を2文字で統一して表現するなど本検討会として最大限シンプルな形で表現したものが表2のとおり示された。将来的に「警戒レベル」が社会に十分に浸透した際には、表2に示すようなシンプルな形の名称を検討することも一案であるとまとめられた。
警戒レベル相当情報以外の警報・注意報は、社会経済活動に大きく関わる判断を支援する情報であるとも言え、様々な分野で活用されている。これら警報・注意報を活用する分野によって、防災対応が必要となる現象の強さが異なるものと考えられる。このため、例えば、当該警報・注意報の発表基準が分野によっては適していない(防災対応に十分につながらない)、といった場合もあり得ると想定される。
このため、これら警報・注意報の体系整理に際しては、関連分野の情報利用者や有識者等と検討を進めていく必要があり、改めて検討の場を設けて議論を進めることが望ましいとされた。
これまで「気象情報」と総称されてきた各種情報(解説情報)は、大きく、災害発生の危険度が高まっている状況で警戒感を一段高めて速やかな防災対応や行動の判断を後押しする情報と、現在の気象状況と今後の見込みを伝え災害への備えや今後の防災対応の検討・判断を後押しする情報に二分されると整理された。前者は、「極端な現象を速報的に伝える情報」として整理でき、警戒レベル相当情報やそれ以外の警報等を補足するものとしてその根拠を示して解説する、速報性の高い情報となる。また、後者は「網羅的に解説する情報」と整理でき、現在及び今後の気象状況や災害発生の危険度の見通しを網羅的に伝える情報となる。
以上を踏まえ、解説情報の利用者が情報の特性を理解しやすく、また、利用する情報にアクセスしやすくなるよう、現行の情報の性質に応じて、「極端な現象を速報的に伝える情報」と「網羅的に解説する情報」に分類して提供することとし(図4)、それぞれについて統一的な名称とすることが望ましいとまとめられた。名称案については、前者を「気象防災速報」、後者を「気象解説情報」とし、名称には「気象防災速報(線状降水帯発生)」のように、情報内容を把握できるキーワードを付すことにより、情報へのアクセスを改善することとされた。
「気象防災速報」については、現行の記録的短時間大雨情報、顕著な大雨に関する気象情報、顕著な大雪に関する気象情報、竜巻注意情報及び顕著な現象を知らせる全般/地方/府県気象情報(短い文章で伝えるもの)が該当するものと整理されるとともに、短時間の顕著な大雨だけではなく、例えば24時間降水量や48時間降水量等が記録的となった場合も災害発生の危険度が高まっている状況であることから、「気象防災速報」の対象とすることが適切であるとされた。
「気象解説情報」については、現行の全般/地方/府県気象情報及び全般台風情報が該当するものと整理された。顕著な現象が予想される場合の解説にあたっては、その精度を踏まえつつ、予想される現象や災害のイメージが伝わるよう、地元の気象台から「地域に根差した」内容で情報を発信することが重要であり、その内容については、防災対応を担う地元自治体や、伝え手である報道機関等から意見をいただいたうえで検討することが重要であるとされた。
防災気象情報が改善されたとしても、情報の受け手に適切に活用されなければ意味がない。そこで、本検討会では、防災気象情報の最適な活用に向けた取組についても議論を行い、以下のとおりまとめられた。
① 防災気象情報の基盤となるデータの提供の更なる推進と共に、コンピュータで容易に処理できるよう機械可読性の改善も進めることが必要
② 「プッシュ型」の防災気象情報とあわせて、ホームページ等に掲載する「プル型」のコンテンツの活用を推進すると共に、当該コンテンツの充実を図ることが重要
③ 防災気象情報を受け取った者が自ら考え主体的に行動することができる社会の実現を目指し、
防災気象情報の特徴・特性に対する理解が社会において深まるよう、平時から知見を積み上げられる環境を構築(ホームページへの解説資料の掲載等)するとともに、国による普及啓発活動に加え、様々な関係主体(教育機関、専門家、報道機関等)による普及啓発活動の推進することが重要
③について、平時に防災気象情報の利活用について学ぶことができるコンテンツとしては、令和5年5月に、近年の主な気象災害発生時に気象庁ホームページに掲載した防災気象情報や気象データをまとめて閲覧できるページ(https://www.data.jma.go.jp/yoho/review/)が公開されており、気象災害発生時の状況の振り返りや、災害対応のシミュレーションなどに広く活用されることが期待されることから、今後も掲載事例の充実や、コンテンツの利用促進を図ることが望ましいとされた。また、防災気象情報に関する普及啓発活動については、国が取り組むのはもちろんのこと、その効果を社会に広く普及させるためには、関係機関・者と連携し、これら機関・者が主体的に普及啓発活動を担う、言わば「担い手」として取組を進めることが効果的であるとまとめられた(図5)。
本検討会では、受け手の立場に立ったシンプルでわかりやすい防災気象情報を目指し、その体系整理及び一層の活用に向けた検討をし、成果を取りまとめた。
防災気象情報の継続的な精度向上の取組が重要であることは言うまでもないが、その一方で、防
災気象情報をいくら改善したとしても、情報を受けとった住民が自らの問題と認識しないと効果はない。このため、今回取りまとめた防災気象情報が、社会において一層活用され、避難行動をはじめとした防災対応に結び付くよう、周知広報・普及啓発活動はもちろんのこと、住民自らが情報を活用し行動する社会気運の醸成に向けた取組が進展することが望まれる。そして、社会における認知度や理解度を継続的に調査し、更なる取組に繋げていくことが重要であるとされた。
本検討会の取りまとめを受け、気象庁及び国土交通省では、新たな体系に基づく防災気象情報の運用を令和8年度出水期(令和6年11月時点)より開始することを目指し、具体の検討・準備を進めている。加えて、新たな防災気象情報を適切に活用できるよう、周知広報等の取組についても、関係機関と連携しながら進めていく予定である。
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