限られた資源である土地に関する基本理念、土地所有者及び国等の責務、土地の適切な利用・管理・取引等の在り方等について定めた法律として土地基本法がある。この土地基本法において、国は土地に関する施策の総合的な推進を図るための方針として「土地基本方針」を定めることとされている。
本稿では、昨年6月に閣議決定された土地基本方針(図1)及び同年7月に本方針に基づき具体的施策等を取りまとめた土地政策研究会の中間とりまとめ(図2)の主な内容について、令和6年版土地白書に掲載している事例を交えて紹介する。
昨今、土地政策の課題は、高度成長期の都市拡大とスプロール化への対処、宅地の大量供給を経て、バブル期の投機的取引及び地価高騰の抑制、更には適正な利用と管理の確保へと移ってきた。近年では、土地の管理不全や放棄される土地による外部不経済が政策課題として顕在化しており、空き家対策や所有者不明土地法制により一定の成果があるものの、低未利用の土地全般を対象とした施策が十分に講じられてきたとはいえない。また、これまでは宅地が最終的な土地利用の形態として扱われてきたが、近年は市街地でも低未利用の宅地が発生しており、政策の転換が求められている。
こうした状況を踏まえ、利用可能性のある土地については活用方策を追求しつつ、「非宅地化」を含めた最適な土地管理の在り方等について検討し、広域的・長期的な視点をもって、限られた国土の土地利用転換や適正管理等を進める“「サステナブルな土地の利用・管理」の実現”を目標に施策を総合的に推進することなどが新たなに方針として定められることとなった。
(1)空き地等の発生状況
全国の総人口は平成20年をピークに減少し、一方で、特に高齢単身世帯の割合が増加する傾向にある。また、全国的に有効利用されていない空き地等が増加している(図3)。地域類型別では、中心市街地や郊外住宅地など幅広い地域で空き地が発生しており、特定の地域に限らない問題となっている。今後、特に非集約エリア(都市計画区域外や、都市計画区域内のうち居住誘導区域を除く区域等)を中心に、相続などを背景として低未利用土地が増加するおそれがある。
(2)空き地等の発生要因
空き地の発生要因としては、土地の需要と供給のミスマッチや、土地所有者が高齢又は遠隔地に住んでいるなどの理由で土地の利活用や売却に関心がないこと、売却等にかかる手間への抵抗感があること等の理由が考えられる。
(3)空き地等の外部不経済
空き地や未利用土地の存在は地域の賑わい創出等の妨げとなる。また、適切に管理されていない空き地は、雑草の繁茂やゴミ投棄、害虫の発生など周辺環境に悪影響を及ぼし、野生動物の住処となる場合もあり、周辺の不動産価値の低下を招くことも報告されている。
(4)土地の利活用・管理を取り巻く諸情勢
近年の土地利用を巡っては、災害の増加を踏まえた災害リスクの高いエリアにおける開発抑制と、脱炭素や循環経済の実現に向けたグリーンインフラの活用が求められている。
国土政策に目を移せば、国土形成計画(全国計画)・国土利用計画(全国計画)(令和5年7月28日閣議決定)に基づき、地域の目指すべき将来像を見据えた上で、優先的に維持したい農地をはじめとする土地を明確化し、粗放的な管理や最小限の管理の導入など、管理方法の転換等を図る「国土の管理構想」を通じて、最適な国土利用・管理を選択していくことが求められている。
1)基本的な考え方
空き地等による外部不経済の抑止に加え、空き地の発生防止対策が必要であるが、空き地のグリーンインフラとしての活用など、新たな活用可能性にも注目すべきである。また、土地の有効利用と継続的な管理を実現するため、「管理」の概念を国土・土地利用の体系に明確に位置付けるとともに、空き地等の積極的な活用を推進するなど、新たな制度の創設を含め、総合的に施策を推進する。
(空き地等の利用と管理)
需要が低下した土地であっても、将来の再利用の可能性や土地の潜在力をできる限り維持することが重要であり、他の用途での利活用の可能性を追求するほか、低コストで管理を継続する粗放的管理や、定期的に現状を確認するのみの点検管理などにより、再利用が不可能な状態となることを避けることを目指すべきである。このため、より管理コストが低い土地利用を促すといった視点が必要であり、検討が求められている。
(空き地等の対策を行う際の役割分担と担い手の確保)
土地基本法において、土地の適正な利用・管理等に関する土地所有者、国及び地方公共団体等の責務等について規定されている。このため、空き地等の対策を講じる際には、地域の実情に精通し、土地利用の方針を定める市町村が主たる役割を担うことが求められ、また、広域的な観点から都道府県の役割も大きい。
さらに、国は、国土利用・管理に関する政策の提示、必要な制度等の構築、国民の理解を深めるための普及・啓発活動等を進める必要がある。
加えて、自治会や民間事業者、士業団体等に協力を求めることが、空き地等の対策の推進には重要である。
空き地等の農園・菜園、緑地等への転換や土地の適正な利用及び管理の推進に向けて、信頼性の高い機関が所有者と利活用希望者の間に入って調整を行うことが有効である。また、今後、土地の管理を第三者に委託するニーズが高まることが想定されることから、所有者が安心して管理を任せられる環境の構築が必要である。
(空き地等の対策を講じるエリア)
空き地等の対策を講じるに当たっては、政策資源をどこに投入すべきかを整理し、重点エリアを絞るため、空き地等の発生状況を面的に把握・分析することが望まれる。空き地等の対策は、非集約エリアに焦点を当てた議論が重要な一方、居住誘導区域等の集約エリアについても検討の射程に入れた上で、課題や対策を精緻に整理することが必要である。
2)空き地等の農園・菜園利用や緑地等への土地利用転換
(新たな宅地化の抑制)
これまで、農地等を収益性の高い住宅地等の宅地への土地利用転換が進められてきたが、人口減少時代を迎え、これ以上の宅地の拡大は適当ではない。このため、都市計画等の適切な運用により、農地等から住宅地等への不適切な土地利用転換を抑制し、需要のある土地については、市場での流通を促す必要がある。
特に、非集約エリアでの開発については、今後低未利用土地等の発生につながる懸念が高いことから、地方公共団体が利用・管理に関する方針を提示するなど、行政のガバナンスを働かせる必要がある。
(宅地の適正な利用・管理の転換)
一方で、利便性が低く居住ニーズが乏しい地域では、空き地の発生が避けられない。こうした空き地は、周辺の居住環境の維持の観点から管理不全による外部不経済の発生防止を図る必要があり、隣地統合の他、農園・菜園、緑地・広場等としての利用が求められている。
空き地等を農園・菜園、緑地・広場等として活用した場合、気候変動対策や生物多様性保全、防災対策などのグリーンインフラとしての効果も期待できる。
(非宅地の適正な利用・管理の転換)
中山間地等の農地については、耕作地としての利用が当面見込めなくても、将来の再利用の可能性を維持するために粗放的な利用をすることが考えられる。
人工林は間伐や再造林等を適切に行うなど、公益的機能の発揮を図っていくことが考えられる。個々の土地の利用・管理の選択肢の検討に当たっては多面的な議論が必要であり、また、用途横断的な視点でのコーディネートも必要である。
(土地の適正な利用転換を実現する手段)
非集約エリアでは、地域の低未利用土地の利用・管理の方針を示す地域ビジョンの策定が求められ、公的支援の仕組みが必要である。地域ビジョンの策定に当たっては、地域住民参加のワークショップなど、丁寧な合意形成が求められるが、これは同時に、地域の活動や担い手の育成にもつながるものである。
3)空き地等の利活用・管理の担い手の確保
(土地所有者への働きかけ)
土地の適正な利用と管理は所有者の責務であるが、土地所有者に対する管理手法等に関する情報提供・相談窓口の設置による負担軽減・普及啓発が必要である。しかしながら、遠隔地居住者や高齢者などが自発的に管理するのは困難な場合も多いため、第三者に管理を委託する仕組みが求められる。また、「相続土地国庫帰属制度」への関心の高まりを踏まえると、費用負担を伴ってでも土地を手放したいというニーズはあり、管理コストの軽減や少額でも収入の可能性があれば、他の利用等に供するニーズは十分にあると推測されることから、各種制度の活用を含め、土地の利活用を促進することが必要である。
(多様な担い手・人材の関わり)
空き地等の利活用に当たっては、行政、専門家、民間事業者、NPO、地域団体等の幅広い参画が必要になる。空き地等の利活用・管理が持続性のある事業として成立するためには、民間の創意工夫により新たなビジネス機会として捉えられることが期待される。
それには、課題の交通整理ができるワンストップ相談窓口の存在が効果的であり、これを担うマネジメント人材には、前広に相談を受け止めるカウンセリング、関係者の役割分担等を調整するコーディネート、解決に向けて様々な提案・助言をするコンサルティングにより課題の解決に導く力が求められる。
(所有者等と関係主体をつなぐ中間組織)
土地利用転換を円滑に進めるため、特に中間組織による所有者と利用者の橋渡しが求められている。土地の保有を負担に感じる人々の要請に応えるためにも、相続土地国庫帰属制度を補完しつつ、土地の寄付や管理を受け入れるランドバンク機能や土地利用のコーディネート機能を担う中間組織と、これに税制等を組み合わせた政策が必要である。
(地域コミュニティの役割)
市場で流通・利活用の見込みがない空き地等については、地域コミュニティの関わりが強く求められるが、近年のコミュニティの希薄化に留意する必要がある。そのため、外部人材との連携や、活動費用への助成、専門家の派遣等の行政による継続的な支援が重要である。
各主体の継続的な活動のため、自らでの資金調達が原則となるが、空き地等については、地域共有の土地・建物資源として、その維持管理を通じて収入(管理受託等)を得られる可能性がある。また、地域住民や民間事業者が担い手となるエリアマネジメント組織に、財産処分や公物管理等の権限が付与されることで、自立的な活動が展開する可能性がある。
国土交通省では、土地基本方針と土地政策研究会の中間とりまとめを踏まえ“「サステナブルな土地の利用・管理」の実現”を目標に、今後施策の検討と実現を総合的に推進してまいります。
おすすめ書籍・サービス