下水道事業における標準歩掛は、各地方公共団体に参考送付されている国土交通省土木工事積算基準(以下「土木工事積算基準」という。)を基本としている。合わせて、下水道事業特有の現場環境や施工条件等で行われる工種については、国土交通省上下水道審議官グループ(以下「上下審G」という。)が中心となり、下水道用設計標準歩掛表(以下「白本」という。)により補足している。
白本は、第1巻管路、第2巻ポンプ場・処理場、第3巻設計委託で構成され、老朽化施設の増加や情報通信技術の活用による生産性向上等の社会環境の変化、施工技術の向上・省力化等の現場の施工実態に対応するため、適宜改定を行っている(写真-1)。
下水道事業の最も特徴的な工種として、管路掘削が挙げられる。土木工事積算基準に掘削に関する標準歩掛は掲載されているが、家屋や地下埋設物などと近接する道路上の施工では、使用機械、作業効率等が異なることから、管路掘削の標準歩掛を策定し、白本に掲載している。
本稿では、白本に掲載されている標準歩掛の新規制定・改定までの流れとともに、令和7年度の主な改定内容を紹介する。
(1)標準歩掛の検討体制
地方公共団体における下水道事業の円滑な事業運営の一助として、白本を作成・発刊している。
白本の作成・発刊にあたっては、地方公共団体の要望・提案を反映するため、下水道事業積算施工基準適正化会議(以下「適正化会議」という。)などを活用している(図-1)。
適正化会議では、新工法等に対応した標準歩掛の新規制定や、適用範囲の拡大に関する要望、積算基準に関する考え方などについて、議論・意見交換を行っている。近年では、耐震化や改築更新に関する議題・要望が多くなっている。
地方公共団体からの要望・提案のほか、建設業における働き方改革や生産性向上に関する取組等の社会環境の変化を踏まえ、標準歩掛の新規制定・改定が必要と判断された場合には、下水道用歩掛検討委員会(以下「歩掛検討委員会」という。)に検討を指示している。
歩掛検討委員会には、専門の歩掛等検討小委員会(以下「小委員会」という。)を設けており、小委員会において、標準歩掛に関する具体的な検討を行っている。
小委員会は、委員である政令指定都市、事務局である上下審G・下水道協会などにより構成され、委員には多忙な通常業務の中、多大な協力をいただいている。
小委員会における検討の結果、標準歩掛の新規制定や改定が必要と判断された場合には、歩掛検討委員会での審議を経て、最終的に上下審Gから各地方公共団体に対して改定内容等について参考送付・情報提供している。
(2)検討内容・方法
白本には、施工合理化調査の結果に基づき定められた労務、材料、機械などの規格や所要量などが記載されており、設計積算の参考図書として、下水道工事の積算担当者に広く活用されている。
施工合理化調査は、標準歩掛の新規制定や改定の要望を受けた工種、前回の調査や改定から一定期間経過した工種などを対象に実施している。
標準歩掛の新規制定・改定に向けた具体的な作業・検討内容は、以下のとおり。
① 検討する標準歩掛を想定し、調査すべき労務・材料・機械などに関する調査票を作成
② 作成した調査票は、施工合理化調査として、上下審Gから地方公共団体に記入依頼
③ 施工合理化調査の結果を作業内容別などに集計し、統計的解析を実施
④ 解析結果とともに、現場の施工実態を勘案した上で、規格や所要量、適用範囲などを設定
前記の施工合理化調査以外にも、下水道機械・電気設備工事においては、共通仮設費や現場管理費等の実態を確認するための諸経費実態調査を実施し、その調査結果をもとに諸経費の改定検討も合わせて行っている。
(1)第1巻 管路
第1巻管路において、以下の工種について、前回の改定から一定期間経過したことから、施工合理化調査を実施し標準歩掛を改定した。
① 管布設工
管布設工は、下水道の管路開削工事における管きょの布設や接合を行う作業である(写真-2)。
白本における硬質塩化ビニル管布設工の適用範囲(呼び径)は150~600㎜である(ただし、呼び径150~350㎜は市場単価を適用する)。
令和5年度に行った施工合理化調査の解析結果と現行の施工歩掛を比較すると、硬質塩化ビニル管の呼び径400~600㎜の日進量の減少が見受けられたため、施工歩掛の改定を行った(図-2)。
② 泥濃推進工
泥濃推進工は、泥濃式先導体に推進管の先端を接続し、切羽安定のために掘進機全面のカッター後方に隔壁を設け、カッターがチャンバー内に地下水圧に対抗する高濃度の泥水を充填圧送しながらカッターの回転により掘削を行い、掘削土砂を高濃度泥水と撹拌流動化し真空搬送により搬出する推進工法である。
白本における泥濃推進工の適用範囲は呼び径800~2,200㎜である。
令和5年度に行った施工合理化調査の解析結果と現行の施工歩掛を比較すると、送・排泥設備工における高濃度泥水注入設備工、吸泥排土設備工の編成人員に変化が見受けられたため、施工歩掛の改定を行った(写真-3、図-3)。
その他、泥濃推進工・泥水推進工については、令和5年度に行った施工合理化調査の解析結果と現行の施工歩掛を比較すると、坑外作業工、推進用機器据付撤去工における使用機械の規格に変化が見受けられたため、施工歩掛の改定を行った。
③ その他
上記①、②以外にも、補助地盤改良工における薬液注入工について、「国土交通省土木工事標準積算基準書」に記載される歩掛等との乖離が無いと判断した部分の摘要欄の記載内容の見直しを行った。また、管きょ更生工法における管きょ内面被覆工(反転・形成工法)に使用する空気圧縮機・発動発電機やトラック(クレーン装置付)・本管用TV カメラ車・高圧洗浄車の規格、鋼製ケーシング式土留工における圧入掘削積込み工に使用するクラムシェルの規格などを改定した。
詳細な改定内容については、上下審GのHP(新旧対照表を掲載)や、今後発刊される白本において確認していただきたい
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/mizukokudo_sewerage_tk_000466.html
積算基準・標準歩掛は適正な予定価格を算出するための手段であることから、客観性・公平性・経済性の観点などにおいて、現場の施工実態を反映するとともに、建設業を取り巻く社会環境の変化に的確に対応したものでなければならない。
そのためには、施工合理化調査や諸経費動向調査などの調査票に高い精度で記入いただくことが重要になってくることから、地方公共団体の皆さまにおかれましては、多忙な日常業務の中、引き続き各種調査にご協力いただきたい。
また、設計積算を行う際には、現場状況と用いる標準歩掛の適用条件・範囲などを十分確認の上、適正な設計積算に努めていただきたい。
特に、改築工事の設計にあたっては、現場条件に制約が多く新設工事と比較して標準歩掛に馴染まない現場も多いことから、適用に当たっては事前に調査や検討を行っていただきたい。また、施工後に、当初設計時に想定していた現場状況に差異が生じた際は、設計変更を行うなどして柔軟に対応する必要がある。
上下審Gとしては、今後も地方公共団体と意見交換や情報共有を図りながら、不調・不落の防止や工事品質の確保などの観点を踏まえつつ、工事費積算の適正化と積算業務の効率化に努めていきたい。
最後に施工合理化調査等に協力いただいた皆様、標準歩掛の改定に向け協力いただいた各種委員の皆様に感謝申し上げる。
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