建設物価調査会

国土交通省が描く脱炭素の未来図

国土交通省が描く脱炭素の未来図

 2025年4月21日、「国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン-建設現場のカーボンニュートラルに向けて-」が公表されました。
本記事では、国土交通省の岡本由仁氏にアクションプラン策定の背景や重点施策、今後の展望について熱く語っていただいた様子をお届けします。


国土交通省 大臣官房 技術調査課
課長補佐 岡本 由仁氏

■略歴
奈良県出身
2010.4     国土交通省 入省
2019.4-2021.3 環境省出向
2021.4-2022.3 関東地方整備局企画部施工企画課長
2022.4-2023.3 総合政策局公共事業企画調整課施工企画室課長補佐
2023.4-    現職


建設現場からゼロミッションへ新たな挑戦

———国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン(以下、アクションプラン)」は、国土交通省が発注する土木工事(直轄工事)におけるCO2の削減方針や脱炭素化のリーディング施策を示している。

岡本  由仁 課長補佐(以下、岡本氏):
発注者である国土交通省が脱炭素のビジョンを示して自ら取り組むことで、
公共工事に関連するすべての企業、さらに地方公共団体が脱炭素化に寄与する資材や機械、工法の技術開発や導入が促進されることを期待しています。

従来の環境対策が社会課題への対応に留まっていたのに対し、
今回のアクションプランは脱炭素を経済成長の原動力として位置づけ、積極的な産業政策として展開していく姿勢を示しています。

———こう語る背景には?
2023年度に成立した「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」がある。
経済産業省主導で成立したGX推進法は、2050年カーボンニュートラルの実現と経済成長の両立(GX:グリーントランスフォーメーション)を実現するために、脱炭素を消極的な環境対策ではなく、日本の産業競争力強化と海外展開の機会として前向きに捉えるという新たな視点を提示している。
さらに今年2月には、2040年を見据えた新国家戦略「GX2040ビジョン」の策定と「地球温暖化対策計画」の改定があり、政府全体の脱炭素戦略が大きくアップデートされた。



品確法により、建設工事における脱炭素施策の法的基盤が確立

———アクションプラン策定のもう1つの重要な背景として、2024年6月の「公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)」改正がある。
岡本氏は法改正の意義について前向きに語る。

岡本氏:
今回の品確法の改正により、公共工事の品質確保において、脱炭素化を価値として扱い、経済性に配慮しつつも、総合的に価値の高い資材等の活用に努めることが基本理念として明記されました。

これまでの公共工事では、経済性と技術のバランスに配慮した調達が行われてきましたが、脱炭素への取り組みが公共工事における正当な価値として認められたことで、発注者の責務として、コストに見合った環境施策を積極的に進めていくことができます。

公共工事の事業者であり、最大のクライアントである国土交通省が明確な脱炭素方針を打ち出すことで、建設業界全体の技術開発や設備投資に対する予見性を高め、民間企業が安心して脱炭素技術への投資を進められる環境が整いました。



3つのリーディング施策

———インフラ等の建設段階においては、これまで民間による取り組みに委ねられている面が強く、全体の計画的な取り組みはなされていなかった。アクションプランの公表に伴い、国土交通省が建設業全体の取り組みを先導・けん引していく。


岡本氏:
公共工事におけるCO2排出は、「現場でのエネルギー消費(燃料や電力)」と「資材の製造・運搬などに伴う排出」の大きく2つに分類されます。
国際的な温室効果ガスの算定基準であるGHGプロトコルにおいては、前者がスコープ1および2、後者がスコープ3に該当します。

スコープ1、2に該当する現場のエネルギー消費は施工者側で工夫が可能な領域です。それこそ、燃料を使うのか?電気を使うのか?電気を使うにしても一般電力を使うのか?それとも再生エネルギー電力を使うのか?など、現場で工夫できるものがあります。

一方で、現場外のスコープ3に該当する製造段階の排出削減については、現場では直接工夫はできず、資材メーカーとの連携が必要になります。
国土交通省として今後使用原則を図っていくなどし、消費者が脱炭素な製品を選びやすいような環境を整備することで脱炭素化を後押しすることが出来ると考えています。


——–この建設現場におけるCO2排出過程をベースに
①建設機械の脱炭素化、②低炭素型コンクリートの活用、③その他の建設技術の評価・活用の3つをアクションプランではリーディング施策として掲げている。

リーディング施策①建設機械の脱炭素化
建設現場における最大のエネルギー消費源である建設機械について、燃費性能の優れた機械の使用を原則化していく。
また、電動建機(GX建設機械)の普及・導入促進を図る。
これらには燃費基準の明確化、技術開発目標の設定、そして発注者による低燃費機械の指定という段階的なアプローチが含まれている。


リーディング施策②低炭素型コンクリートの活用
コンクリートは建設工事で大量に使用される基幹資材。
その製造過程でのCO2排出量削減は大きなインパクトを持つ。国土交通省はこれまでの試行を通じて、低炭素型コンクリートのコストパフォーマンスを検証してきた。その結果、約半数の現場においては、Jクレジット*の取引価格と比較して遜色ない水準にコストを抑えられていることが確認されている。中には、よりコストパフォーマンスに優れた事例もあり、今後さらに適用可能な条件や対象を精査していく方針である。

注釈 *Jクレジット;
省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や適切な森林管理によるCO2等の吸収量をクレジットとして国が認証する制度 (https://japancredit.go.jp/


リーディング施策③その他の建設技術の評価・活用
今後、新たな脱炭素技術が出てきた際にそれらを迅速に評価し、活用していくための仕組みづくりである。
CO2削減効果と費用を定量的に評価し、施工者にインセンティブを提供することで、技術開発と普及を促進していく。


2027年を起点とする戦略的ロードマップ

———アクションプランのロードマップは、政府の計画である地球温暖化対策計画の2030年目標、2040年目標、2050年目標に向けた段階的な取り組みが示されているが、2027年は重要な節目として設定されている。

岡本氏:
2027年は、GX推進法に基づく排出量取引制度の本格稼働が予定されており、排出権価格の上限・下限といった政府による指標が示されることになります。

炭素の経済的価値が具体的に可視化される重要な節目となります。


———2027年を機に、公共工事においても適正な炭素価格を参照しながら、合理的な脱炭素投資を実施していく計画がアクションプラン上でも示されている。
施策を進めるにあたり、上限値や技術の将来性をも視野に入れていくという。

岡本氏:
人口減少や経済の停滞、インフラ老朽化、気候変動といった複合的な社会課題に対応するため、短期間での社会実装を目指し、2027年から2030年の間に主要な脱炭素技術の使用原則化を図っていく方針です。




———岡本氏の言葉からも、スピード感を重視していることがうかがえる。


産業界との連携と技術開発の促進

———アクションプランは、建設会社、建設機材メーカーなど建設業界全体の協力なくしては実現できない。


岡本氏:
明確な需要見通しを示すことで、民間企業の技術開発を促進していきます。

脱炭素技術の標準化により、技術力のある企業が適切に評価される環境を整備することで、
業界全体の技術水準の向上と健全な競争促進を図っていきます。

さらにアクションプランは、技術開発の動向や新技術の登場、
排出量取引制度を契機とした炭素価格の動向を踏まえて、適宜見直しを行っていく予定です。
必要に応じて、柔軟性をもって計画を更新していきます。

アクションプランで将来的なビジョンを示し、
さらに脱炭素に対する技術開発の支援とか現場活用の支援とか
積極的なアピールとか、そういったところも協力いたします。

ただし、さらに市場を動かしていくのは民間の力だとも思っています。
私ども国土交通省が市場性を示したことに対して、民間の活力でしっかりと取り組んでいただきたいというのが、願いになりますかね。



———建設機械メーカーに対しては、低燃費機械や電動機械の開発目標を明示し、将来的な調達方針を示すことで、研究開発投資の予見性を高めている。また水素燃料など新たなエネルギー源を活用した建設機械の可能性も視野に入れ、技術革新の方向性を示している。
 また、コンクリート業界に対しては、低炭素型製品の需要拡大を通じて、製造技術の改良と量産化による価格低減を促している。これまでの試行的活用で得られたデータをもとに費用対効果の優れた製品の特定と普及拡大を図っていく。
 建設事業者に対しては、脱炭素技術の活用実績を適切に評価し、インセンティブを付与することで、積極的な取り組みを促進していく。同時に、新たな技術や工法の提案機会を拡大し、イノベーションの創出を支援していく。


社会全体の脱炭素化を加速させる

———短期的には、3つのリーディング施策の着実な実行が求められている。中期的には、排出量取引制度との連携を通じて、市場メカニズムを活用した効率的な脱炭素投資の実現が期待される。そして長期的には、カーボンニュートラルの実現に向けて、建設業界全体の構造転換を主導する役割が問われてくるだろう。
こうした展望のもとで打ち出された今回のアクションプランは、建設分野の脱炭素政策における重要な一歩である。その成果は建設業界にとどまらず、日本社会全体の持続可能な発展にも大きなインパクトを与える可能性を秘めている。

岡本氏:
公共事業も脱炭素に向かって歩んでいきます。
脱炭素化は、私ども国土交通省だけがやりたいといって実現できるようなものではないと考えています。
公共事業は地域の皆様のご理解をいただいた上で、ご協力いただいてる建設業者さん、建材メーカーさん、製造業者さん、そういった方々がいて、初めて成立している事業です。
ぜひ公共事業にご協力をいただいている皆様と一緒に、建設業界の総力をあげて取り組んでいきたいと考えています。

———国土交通省の先導的な取り組みが、民間企業の技術革新を促進し、最終的には社会全体の脱炭素化を加速させることが期待されている。

【参考】技術調査:建設分野のカーボンニュートラル – 国土交通省

国土交通省土木工事の脱炭素アクションプランは、建設物価2025年9月号に詳細解説を掲載する予定です。
ぜひ、そちらもあわせてご覧ください。