建設物価調査会

全国の標高成果の改定~衛星測位を基盤とする標高体系への移行~

全国の標高成果の改定~衛星測位を基盤とする標高体系への移行~

国土地理院 測地部 測地技術調整官
古屋 智秋


1.はじめに

 明治以来、我が国の標高は、日本水準原点から全国の水準点に水準測量を実施することで決めてきました。しかし、全国の水準測量には多くの時間と費用を要する等の課題があり、より効率的な標高決定の手法として衛星測位の活用に向けた取組を進めてきました。

 国土地理院では、新たに、水準測量による標高を用いない重力ジオイドのみから構築されるジオイド・モデルを構築し、このジオイド・モデルを用いて、全国の電子基準点の高精度な標高を衛星測位で算出しました。また、電子基準点に付属している測量標(以下「電子基準点付属標」という。)からの水準測量データ等を用いて水準点の標高を算出する等、全国の標石基準点についても、最新の標高を算出しました。

 今回算出した最新の標高は、長年の地殻変動による標高のズレや、水準測量の距離によって累積していた誤差等を解消するものであり、国土地理院は、令和7年4月1日に、電子基準点、三角点、水準点等の基準点における測量成果の標高(以下「標高成果」という。)について、この衛星測位を基盤とする最新の値に改定しました(図1)。

2.高さ(標高)の基準

 我が国における土地の高さ(標高)は、測量法第十一条に定められており、原点の地点や原点数値も政令で定められています。この測量法令に基づき、基本測量及び公共測量は行われます。

3.水準測量を基盤とする標高体系の課題

 我が国では近代測量開始から約150年の間、日本水準原点(写真)から全国の一等水準路線にある水準点に水準測量をつないでいくことで標高成果を定めてきました。しかし、水準測量は、時間と費用を多く必要とし、全国の測量には10年以上の歳月がかかります。日本は地殻変動が激しく、全国の測量に要している歳月の間にも地殻変動が生じ、標高成果にはその影響が累積します。また、水準測量には距離に応じて誤差が累積する特徴があり、日本水準原点から離れるほど測量成果の誤差が大きくなります。さらに、水準測量を基盤とする標高体系では、大規模地震に伴う水準点の標高成果の改定時に、地震の影響がなく測量成果を停止していない水準点から長距離の水準測量を行う必要があることから、成果提供までに時間を要していました。これらの課題を解消するため、衛星測位で決定する標高を基盤とする新たな体系へ移行しました。

4.「ジオイド2024日本とその周辺」の構築

 衛星測位で標高を決定するためには、精密なジオイド・モデルが必要です(図2)。令和7年3月以前に測量で用いられていたジオイド・モデル「日本のジオイド2011」は、重力データから求められた重力ジオイドと、衛星測位による楕円体高と水準測量による標高の差から求めた実測ジオイド高の2つを組み合わせた混合ジオイドとして構築されています。そのため、「日本のジオイド2011」には、水準測量を起因とした誤差が含まれており、このジオイド・モデルを用いて新たな標高体系を構築したとしても、水準測量に起因する誤差が内在することになります。

 そこで、国土地理院では、従来の混合ジオイドではなく、水準測量による標高を用いない重力ジオイドのみから構築されるジオイド・モデルの作成を目指し、令和元年度から航空重力測量を実施してきました。航空重力測量は、航空機に重力計を搭載し、上空から重力を測定する測量です。地上重力測量と比べて、広範囲を効率的に測量することができ、山岳部や沿岸域等の地上重力測量では測定が困難な場所でも測量することができます。

 新たなジオイド・モデルは、航空重力測量による航空重力データや地上重力データのほか、最新の衛星重力データ、海上重力データを活用して構築し、名称を「ジオイド2024日本とその周辺」(以下「ジオイド2024」という。)(図3)として令和7年4月1日から国土地理院のホームページで公開しています。このジオイド2024と衛星測位(電子基準点)を基盤として、全国の標高成果の改定を実施しました。

5.衛星測位を基盤とする標高体系へ

 令和7年3月以前の標高体系は、前述のとおり、日本水準原点からの水準測量により構築された一等水準路線の標高を基盤としており、電子基準点や水準点等の標高成果はこれと整合しています(図4)。

 一方、衛星測位を基盤とする標高体系は、全国の電子基準点の衛星測位で得られる楕円体高とジオイド2024で得られるジオイド高から求められる標高を基盤とし、近傍の電子基準点付属標からの水準測量等により水準点の標高成果を決定します(図5)。

6.標高成果の改定による効果

<迅速な標高成果の提供>

 衛星測位を基盤とする標高体系では、従来よりも迅速かつ高精度に現況に合った標高が取得可能になります。例えば、平成28年熊本地震では、本震により測量成果を停止した電子基準点について、地震から約1か月後に緯度・経度・楕円体高を提供しましたが、高精度(3級水準測量の既知点として利用可能)な標高成果の提供は地震から約5か月後でした。しかし、全国の標高成果を改定し、衛星測位を基盤とする標高体系になることで、電子基準点の高精度な標高成果は、衛星測位で得られる楕円体高とジオイド2024で決定できるため、楕円体高と同じタイミングでの提供が可能になります(図6)。

 これにより、大地震直後の復旧・復興工事において迅速に標高成果を利用することができるようになり、作業の効率化・生産性向上等が期待されます。

<地殻変動により累積したズレの解消>

 我が国では地殻変動が激しく、時間経過とともに現況と標高成果とのズレが大きくなります。全国の標高成果を改定することで、長年の地殻変動(累積変動量)によるズレを解消します。

< GNSS 標高測量の導入>

 全国の標高成果の改定に合わせて公共測量に導入された「GNSS 標高測量」は、電子基準点及びジオイド2024を用いて、水準点の標高を定める水準測量の一種です。GNSS 標高測量の作業方法については、3級水準測量が作業規程の準則で、4級水準測量及び簡易水準測量が「GNSS 標高測量による4級水準測量及び簡易水準測量マニュアル」で示されています。GNSS 標高測量では、以前の作業規程の準則で定められていた「GNSS 測量機による水準測量」にあった制限を一部緩和する内容となり、またセミ・ダイナミック補正を適用することで、地殻変動の影響を受けない標高の決定等が可能になります。

 このGNSS 標高測量の導入により、レベル等による水準測量と合わせて、利用者は目的に応じた測量方法を選択することができ、効率的・効果的な標高決定を実現します。

7.標高成果の改定に伴う測量の仕組み等の変更

<離島における基準面補正量の導入>

 ジオイド2024は、東京湾平均海面に一致した陸海シームレスジオイドであり、これを使用して楕円体高から求めた高さは、東京湾平均海面からの高さ(=標高)となります。しかし、測量法第十一条第一項第三号の規定により日本水準原点とは異なる原点(独自の平均海面)を定める離島においては、東京湾平均海面からの高さを標高とはしておらず、離島独自の平均海面からの高さが標高となります。そのため、ジオイド2024を使用しただけでは、当該離島の標高に整合する高さを得ることができません。

 そこで、東京湾平均海面と離島独自の平均海面の差を「基準面補正量」と定め、一部の離島において衛星測位によって標高を求める際には、ジオイド高と基準面補正量を使用します(図7)。なお、基準面補正量が必要な離島は、南西諸島では吐噶喇列島以南、伊豆・小笠原諸島では八丈島以南の離島となり、基準面補正量の計算が可能な「基準面補正パラメータ」は、ジオイド2024と合わせて公開しています。

<標高成果の元期の設定>

 水準測量を基盤とする標高体系では、全国の一等水準路線の測量を終えるのに10年以上を要していたため、標高成果の時点(元期)を定めることができませんでした。一方、衛星測位を基盤とする標高体系では、衛星測位とジオイド2024から基盤とする電子基準点の標高を決定することから、標高成果の時点(元期)を定めることができ、今回の改定では「令和6年6月1日」と定めました。

 これにより、元期以降の標高の時間変化を電子基準点によって監視することが可能となり、例えば全国の電子基準点の標高成果をいつでも矛盾なく利用することができるようになったり、地殻変動の影響を受けない標高の決定ができるようになったりします。

8.標高成果の改定に伴う高さ情報の補正

<旧標高の補正>

 令和7年4月1日以降の衛星測位を用いた測量では、基準点の新しい標高成果とジオイド2024をセットで用いて標高を求めることが必要となります。これは令和7年3月以前の測量で求められた標高(以下「旧標高」という。)とは異なる値となりますが、旧標高については国土地理院が提供する標高補正パラメータを用いて新しい標高に補正することができます。

 標高補正パラメータは、三角点標高補正パラメータと水準点標高補正パラメータの二種類があり、三角点標高補正パラメータは、旧標高が三角点の標高または電子基準点の楕円体高を既知点として求めた標高に対して、水準点標高補正パラメータは、旧標高が水準点または電子基準点の標高を既知点として求めた標高に対して適用します。

<高精度測位サービスによる測位結果の補正>

 ネットワーク型RTK-GNSS 等の電子基準点の観測データを用いた高精度測位サービスの測位結果については、測位結果が標高成果の改定前後で高さ情報にズレが生じる可能性があります。そのため、4月1日の標高成果の改定をまたいで利用する際には、改定前後の高さ情報が混在しないよう留意する必要があります。方法としては、前述の標高補正パラメータによる補正のほか、例えば、ネットワーク型RTK-GNSS を利用した建機の場合、ローカライゼーションを行うことで、高さ情報のズレが解消します。

9.おわりに

 国土地理院では、みちびき(準天頂衛星システム)やGPS 等を使用して、現況にあった正確な標高が迅速に取得できる社会の実現を目指しており、令和7年4月1日に、国土地理院が管理する全国の基準点の標高成果について衛星測位を基盤とする最新の値に改定するとともに、衛星測位を基盤とする標高体系への移行を行いました。これにより、最新の標高を用いて高さ情報の管理が可能になるとともに、衛星測位の活用によって、測量や公共工事等の効率化・生産性向上、新たなサービスの創出が期待されるところです。

 全国の標高成果の改定に関する情報や、改定に伴う公共測量成果への対応については、国土地理院のホームページにおいて公開しておりますので、ぜひ御覧ください。

【全国の標高成果の改定】
https://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/hyoko2024rev.html


建設物価2025年7月号

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