建設物価調査会

セメント業界の現況と今後の展望

セメント業界の現況と今後の展望

一般社団法人 セメント協会
調査・企画部門 統括リーダー 青木尚樹


1.現況

 2024年度のセメント生産は45,874千t、前年伸び率▲2.8%と7年連続のマイナスとなった。国内需要は32,656千t、同▲5.6%と6年連続のマイナス、輸出については8,207千t、同+19.7%となり3年ぶりのプラス、輸入は23千t、同+54.9%となった。また、セメント系固化材の販売量は7,065千t、同▲0.7%と3年連続のマイナスとなった。

(1)国内需要

 2024年度のセメント国内需要は32,656千tと前年に比べ▲1,921千t、▲5.6%の減少となった。これは58年前の1966年度(36,956千t)よりも低い水準である。

 地区別に見ても、すべての地区で前年比マイナスとなった。近年の慢性的な人手不足を背景とした工期の長期化や建設コストの上昇などの影響に加え、建設業の2024年問題に関連した働き方改革の影響が想定以上に大きく、特に土曜日の出荷が減少した。

 セメント国内需要は特に官需の減少が続いている。2024年度国の公共事業当初予算は補正予算と合わせて金額ベースでは微増となったものの、労務費や資材費の高騰が続き、実工事量が減少したことから前年比マイナスとなった。また、民需については、2年連続のマイナスとなった。住宅投資は建設コストの高騰により減少したものの、設備投資は企業の投資意欲が引き続き堅調であることから増加した。しかし、建設現場の人手不足による工期の長期化や資材費高騰による設計変更や建設計画見直しなどの動きによりセメント需要は伸び悩み、結果、住宅投資の落ち込みをカバーしきれず、民需は前年比マイナスとなった。

(2)輸出

 2024年度の輸出は8,207千t、前年伸び率+19.7%と3年ぶりのプラスとなった。

 アジア向けが全体の約60%を占め、4,861千t、同+22.9%、オセアニア向けは2,771千t、同+3.6%となった。

 主要な輸出先であるアジア、オセアニア向けが底堅く推移したことに加え、中南米、アフリカなど他の地域への輸出も増加した。

 輸出は、2022年度、2023年度とセメント製造に欠かせない石炭やエネルギーの価格高騰により、採算が合わなくなり2年連続で減少していた。現在は円安の影響もあり、輸出環境は整いつつあるが、主要マーケットのアジアは供給過剰の状態にあり、今後については不透明な状況である。

(3)輸入

 2024年度のセメント輸入は23千t、同+54.9%で、韓国、中国からの輸入となっている。このところのセメント輸入は、低調な国内需要を反映し、低水準で推移している。

(4)セメント系固化材

 2024年度のセメント系固化材の販売量は7,065千t、同▲0.7%となった。3年連続のマイナスとなったが、能登の復興工事や国の国土強靱化対策もあり、引き続き地盤改良工事は一定水準確保されるものと思われる。

2.今後の展望

(1)2025年度セメント需要見通し

 2025年度の国内需要は前年伸び率▲2.0%の32,000千tと見通している。

 官需については、2025年度国の公共事業予算は当初比で前年度から微減している。また、防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策についても緊急防災枠を除くと前年比マイナスとなっている。加えて、労務費や資材費の上昇により実工事量は減少すると見ており、防衛関連工事や能登震災復興需要は堅調に推移すると思われるものの、前年を下回ると想定している。 

 民需については、住宅投資は建設コストや住宅ローン金利の上昇により減少すると想定した。また、2025年4月に改正建築物省エネ法・建築基準法が施行され、戸建住宅にも省エネ基準適合が義務化されたことにより着工遅れが予想され、下振れ要因となる可能性がある。設備投資については、一部で建設コストの高騰を理由に計画を見送る動きが見られるが、引き続き企業の設備投資意欲は旺盛であることから前年を上回ると想定している。

 同輸出は前年伸び率+9.7%の9,000千tと見通した。アジア地域については、低価格の余剰品の影響が懸念されるものの、オセアニア地域を含め、今後も堅調な需要が期待できることから、増加予想となった。

(2)中期的なセメント需要見通し

 防災・減災及び国土強靱化対策、防衛関連工事、リニア中央新幹線沿線地域での関連需要、都市再開発事業、サプライチェーンの国内回帰による設備投資の増加など、中期的には一定水準の需要が見込まれる。

 一方で、働き方改革による工期の長期化、建設コスト上昇による実工事量の減少など、近年の工事環境の変化は、引き続きセメントの需要動向に影響を与えると考えられる。

3.コンクリート舗装の普及活動

 コンクリート舗装のメリットとして、ライフサイクルコストの低減、高い耐久性、ヒートアイランド対策(路面温度の低減)、大型車の燃費向上などに寄与することが挙げられる。

 政府のカーボンニュートラルの実現に向けた動きのなかで、トラックからのCO2排出量を減らすことが求められている。また、物流業の働き方改革の影響から積載量の最大化あるいは車両の大型化が進むことで、道路に対して高い耐久性が求められることになると考えられる。コンクリート舗装は地球環境問題だけでなく、物流の効率化にも有効な手段である。

 日本国内の道路は、そのほとんどがアスファルト舗装となっており、コンクリート舗装はわずか5%程度である。セメント協会として、道路工事の発注元の国や都道府県へ、引き続き採用を働きかけていく。

4.関係各署へ要望書を提出

 首都直下型地震や南海トラフ巨大地震などの災害発生が懸念される中、国土強靱化や老朽化したインフラの再整備など、防災・減災対策にはセメントは必要不可欠なものである。また、セメント産業はその生産工程において廃棄物・副産物を受入れ有効活用する静脈産業でもあり、循環型社会の構築の一翼を担うとともに、様々な災害廃棄物も受入れ、被災地復興の一端も担っている。

 こうした役割を果たすためにセメント産業は日頃から安定供給に努めているが、これには一定水準の生産規模を維持する必要があり、国土交通省等関係各署へ、公共事業量の確保のため積極的な予算増額とコンクリート舗装の採用、カーボンニュートラル促進に向けた継続支援などをお願いする次第である。

(国土交通省不動産・建設経済局2024年6月13日)
https://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/240613.html

(国土交通大臣2024年11月28日)
https://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/241128.html

 また、毎年、国土交通省へ公共岸壁や航路等の現状説明を行い、浚渫や港湾設備の補修等を行っていただいており、船の安全運航およびセメントの安定供給の一助となっている。

(国土交通省港湾局2024年12月13日)
https://www.jcassoc.or.jp/cement/1jpn/241213.html

 セメント産業は、これからも安全で安心、魅力ある都市づくりに貢献していく。


建設物価2025年7月号

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