地球温暖化に伴う気候変動の影響により、自然災害の激甚化・頻発化等が懸念されている。気候変動対策の推進は、我が国のみならず地球規模での対応が求められる喫緊の課題となっている。
2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、昨今、我が国でも動きが活発化している。2025年2月18日に「地球温暖化対策計画」が閣議決定され、パリ協定(2015年12月採択、2016年11月発効)等に基づき、温室効果ガス削減に関する新たな「日本のNDC(国が決定する貢献)」を国連気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)へ提出した。また、エネルギー基本計画の改定や、2040年に向けた脱炭素化や産業政策の方向性を盛り込んだ新たな国家戦略である「GX2040ビジョン」の策定など、2050年カーボンニュートラルの実現に向けての動きが活発化している(図-1)。
道路は、我が国の経済成長を支え安全安心な暮らしを確保する重要な社会基盤であるが、国内のCO2排出量の約18% を占めており、道路分野が脱炭素に関わる役割と責任を積極的に果たす必要がある。こうした背景を踏まえ、2050年カーボンニュートラルの実現に貢献し、道路の脱炭素化の取組を推進するため、2024年12月に策定・公表した「道路の脱炭素化政策集Ver.1.0」(以下、政策集)の策定や、「道路法等の一部を改正する法律」(以下、改正道路法)により、道路の脱炭素化政策を展開した。
本稿では、政策集や改正道路法を踏まえ、今後の道路分野で進めていくべき脱炭素化の取組や今後の展開について述べる。
2023年度の我が国の温室効果ガス排出・吸収量は約10億1,700万トン-CO2、2013年度比27.1% 減少となり、過去最低値を記録し、2050年ネット・ゼロの実現に向けた減少傾向を継続しているところである。
一方、2022年度断面におけるCO2排出量の概ね3分の2が道路、河川、港湾、鉄道等のインフラ分野にかかわりのある排出となっており、このうち道路分野については、道路整備、道路利用、道路管理を合わせて約1.8億トン-CO2を排出し、国内のCO2排出量の約18% を占めている。特に、自動車からの排出が含まれる道路利用が、大部分を占めている(図-2)。
「地球温暖化対策計画」において、道路施策のうち定量的な削減目標(2030年度)を設定した施策は、LED 道路照明の整備促進等の3施策で、約241万トン-CO2の削減に留まり、またその他の道路施策については、削減目標や指標に関する個別の設定はせずに、各施策の推進により、包括的な対策の削減目標に貢献することとしている。今後道路が脱炭素に関わる役割と責任を積極的に果たすために、更なる道路管理者の協働の促進や、関係者との共創領域の深掘り等による施策内容の具体化や拡充が必要となった。
前述の流れを受け、道路分野においても、脱炭素の取組を推進するため、政策集を2024年12月に策定した。
WISENET2050等も踏まえながら、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、具体的には、①道路交通のグリーン化を支える道路空間の創出、②低炭素な人流・物流への転換、③道路交通の適正化、④道路のライフサイクル全体の低炭素化の4つの基本的な政策の柱に沿って、取組の目標を設定し、脱炭素化の取組を計画的に推進する(図-3)
国の直轄道路では、脱炭素化目標として設定した道路関係車両の電動車化率100%、道路照明のLED 化率100%、再生可能エネルギー活用60% を達成することで、道路管理者の事業活動によるCO2排出量(Scope1とScope2) について、2030年度までに2013年度比でCO2排出の約7割を削減することを目指す。また、高速道路会社や地方自治体等の道路管理者との協働により、道路分野全体のCO2排出量の削減を推進するとともに、その他の関係機関とも連携し、政府の削減目標達成に貢献する。なお、道路の建設・管理のために調達する工事等によるCO2排出(Scope3上流) の削減について、技術基準や調達の見直しなど脱炭素化に配慮した道路構造に転換するための検討を行うなどの取組も行う(図-4)。
また、以下のとおり、道路管理者の協働や関係者の連携により推進する「協働による2030重点プロジェクト」を実施し、脱炭素化の取組を積極的に推進する(図-5)。
① LED の道路照明への導入(国+高速会社+自治体)
道路の日常管理における電力使用量のうち、道路照明が約7割を占めている。このため、従来の照明よりも消費電力を約56%削減できるLED への転換を促進する。また、LED を標準化するための技術基準を改定、センサー照明など新技術の活用を進める。
②再生可能エネルギーの活用(国+高速会社)
道路の日常管理のエネルギー消費のうち電力使用が約8割を占める。このため、CO2排出量が石油火力発電に比べて約9割削減可能な再生可能エネルギーの活用について、電力調達時の入札要件とすることや道路空間への太陽光発電設備の設置により推進する。また、技術開発状況を踏まえ、ペロブスカイト太陽電池の活用を検討する。
③ 低炭素な材料の導入促進(国+高速会社+自治体+民間企業)
アスファルト混合物の製造温度を30℃低減し、CO2排出量を7~18%削減可能な「低炭素アスファルト」の導入を高速道路会社や自治体と協働で推進する。国直轄道路では、製造プラントの整った地域から、早期開放が求められる修繕工事等で導入を推進する。また、セメント代替材料としての産業副産物(高炉スラグ等)の利用や「CO2固定化コンクリート」の活用にも取り組む。
④自転車の利用促進(国+自治体+民間企業)
乗用車による移動の約4割が5㎞以下の短距離利用で1人乗りが中心となっている。このため、走行時にCO2を排出しない自転車利用への転換を促進する。また、電動アシスト自転車の普及への対応やDX による施策促進も行う。
⑤ 渋滞対策の推進(国+高速会社+自治体+民間企業)
渋滞等により約4割の移動時間のロスが生じており、経済損失につながっている。また、渋滞はCO2の排出量を増加させ、渋滞等によるCO2排出量は、日本の総排出量の1.3%に相当するため、主要渋滞箇所の対策を行う。また、TDM(交通需要マネジメント)や自動車ボトルネック踏切への対策等の渋滞対策を推進する。
⑥ ダブル連結トラックの導入促進(国+高速会社+民間企業)
1台で通常の大型トラック2台分の輸送や、走行時のCO2排出量の約4割削減が可能な「ダブル連結トラック」の導入を促進する。また、ダブル連結トラックの通行区間やSA・PA の優先駐車マスの拡充など、利用環境の整備を推進する。
その他、政府目標達成に向け、各道路施策に関する指標を設定し、適宜フォローアップを実施することにより道路分野の脱炭素化の取組を着実に進める。
2030年度に温室効果ガス2013年度比46% 削減、50% の高みに向けて挑戦を続けるとの目標を踏まえ、2024年12月に政策集を策定したところであるが、前述の通り2025年2月に「地球温暖化対策計画」が改定され、我が国全体として2035年度、2040年度において、温室効果ガスを2013年度からそれぞれ60%、73%削減するとされ、更なる道路管理者の協働の促進や、関係者との共創領域の深掘り等による施策内容の具体化や拡充が必要となった。
今後、地球温暖化対策計画をはじめとする政府の各計画の改定を踏まえ、政策集のバージョンアップを検討する。
また、道路の脱炭素化の推進について盛り込んだ改正道路法が2025年4月に公布された。改正道路法にて、国が道路の脱炭素化の推進の意義や目標等を定めた道路脱炭素化基本方針に基づき、道路管理者が脱炭素化の目標や脱炭素化推進を図るための施策を定める道路脱炭素化推進計画を策定する枠組みを導入することとなり、道路管理者が協働して、目標に向け積極的に脱炭素化を推進するための枠組みが導入されることになり、更なる脱炭素化への取組を推進する(図-6)。
道路の脱炭素化を進める上では、まずは道路管理(道路管理者自らの事業活動)によるCO2排出量削減を、道路管理者が皆で取り組むことが重要であると考える。その上で、排出量の大部分を占める道路利用について自転車利用への転換等を行う他、道路整備について低炭素アスファルトの導入促進等を行うことで、道路分や全体に関する取組を進める。
道路分野全体の脱炭素化を進める上では、これまで述べてきた取組の他に、脱炭素化の新技術を効果的に活用することも重要と考える。新技術の活用に際しては、道路構造上の基準等の適合について検討する必要があり、現行基準では設置可能性の判断がつかない場合は、基準等の整備が必要となる。
近年、民間企業を中心に、脱炭素に資する設備の技術開発が進展している。例えばEV 向けの非接触型給電設備、路面に設置する太陽光発電施設や、軽量で柔軟な特徴を持つ次世代型太陽電池(ペロブスカイト太陽電池)などである。これらの技術を最大限活用していくことによる、脱炭素化・GX 推進が期待されているところであり、活用可能性については積極的に検討をしていく。道路局では、「道路技術懇談会(座長:東北大学大学院教授 久田真氏)」にて策定した新技術導入促進計画において、例示した給電インフラに関する技術や路面太陽光発電技術に関し、リクワイヤメントの視点を示して民間企業より技術を公募し、実証実験を行った上で、適宜技術基準等に反映することとしているところである(写真)。
また、改正道路法に位置づけた、道路脱炭素化推進計画に基づく脱炭素化に資する施設等の占用許可基準の緩和により、道路空間へ更なる脱炭素技術の導入を図る。
さらに、電動車の進展を見据え、大雪時に電動車への充電対応ができるような災害時における道路管理者としての対策導入も推進する必要がある。
社会情勢の変化によって、道路の果たす役割も変化していかなければならないと考えている。これまでは、道路の役割として、ネットワークの機能が最も注目されてきたところであるが、改正道路法に今回初めて基本理念として位置づけられたとおり、今後は脱炭素化の推進等による環境への負荷の低減への配慮が必要である。
道路の脱炭素化についてはまさに今取組を加速化させる時であり、道路局が旗振り役となって、各道路管理者ほか関係者との連携を進める。2050年カーボンニュートラルの実現に向けてはまだまだ道半ばである。道路分野も2050年カーボンニュートラルにしっかり貢献できるよう、政策集、改正道路法、改正道路法に基づく道路脱炭素化基本方針や道路脱炭素化推進計画を通して、初志貫徹、継続して道路の脱炭素化の取組を推進して参る。
現在世界的危機として取り上げられている気候変動、生物多様性の損失、汚染に対しては、ここまで紹介してきた炭素中立(カーボンニュートラル)への取組だけではなく、自然再興(ネイチャーポジティブ)、循環経済(サーキュラーエコノミー)の政策を統合し、相乗効果を図ることが重要とされている。今後道路分野においても、ネイチャーポジティブ、サーキュラーエコノミーへの政策についても統合的に推進していく所存である。
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