前回、前々回のコラムでは、建物のライフサイクルCO2排出量の算定、削減をめぐる国内外の動向について紹介しましたが、今回は、建物ではなく、土木・インフラ工事でのCO2排出量算定に関する話題を紹介します。
本コラムでは、建設分野における脱炭素、カーボンニュートラルに関する役立つ情報や気づきとなる話題(制度動向、技術革新、取組事例、用語解説など)を10回にわたり紹介していきます。
#バックナンバー
第1回【 #01 建設業が脱炭素化を求められる背景 】
第2回【 #02 Scope3排出量と建物のライフサイクルCO2 】
第3回【 #03 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況① 】
第4回【 #04 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況② 】

政府は、カーボンニュートラルを実現するために、「GX2040ビジョン」、「エネルギー基本計画」、「地球温暖化対策計画」などを発表し、カーボンニュートラルやGX(グリーン・トランスフォーメーション)の実現に向けた、様々な取り組みを進めようとしています。
国土交通省が管轄する運輸分野や建築・インフラ分野においても、GXを実現するための政策が進められています。
例えば、2024年6月に「公共工事の品質確保の促進に関する法律(以下、「品確法」)」が改正され、発注者等の責務として、脱炭素化の実現に寄与するために、温室効果ガス排出量の削減に向けた技術や工夫が活用されるように配慮することを求められるようになりました。
参考:「公共工事の品質確保の促進に関する法律」の改正について
この動きに連動して、国会の国土交通委員会(衆議院・参議院)においても、脱炭素化に対する寄与が高い資材や工法等を適切に採用するためのガイドラインの作成や取組事例に関する情報収集等を行うことが決議されました。

これらと同じ時期の2024年6月に、国土交通省 国土技術政策総合研究所が「インフラ分野における建設時のGHG 排出量算定マニュアル案」を作成し、公表しました。
このマニュアル案では、インフラ分野の建設工事において建設現場で発生する温室効果ガス(GHG)排出量や脱炭素技術の排出量削減の算定方法について、統一的な考え方を示しています。
今後は、このマニュアルの試行と排出原単位データベースを整備することにより、脱炭素技術による効果が適切に評価される仕組みを作り、建設施工に係る脱炭素化を目指すとしています。
このマニュアル案では、GHGを算定するにあたり、企業単位のGHG排出量を算定する場合と同様に、GHGプロトコルのScopeの概念を取り入れています(下表を参照)。

GHG排出量の算定は、積算資料から活動量を抽出し、それに排出原単位を掛け合わせて算定することになります。また、排出削減量については、標準排出量から脱炭素技術適用後の排出量を差し引いて算定します。使用する排出原単位のデータベースとして、以下の例が挙げられています。
●温対法 算定・報告・公表制度における排出係数
●LCI データベース IDEA(産業技術総合研究所)
●産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)(国立環境研究所)
●サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(環境省)
2025年4月に、国交省は「国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン ~建設現場のカーボンニュートラルに向けて~」を公表しました。
このアクションプランは、国交省が発注する道路、治水などの土木工事において、脱炭素化に向けた先進的な取り組みを行うことで、建設業界の取り組みをけん引し全体的な底上げを図ることを目指し、カーボンニュートラルに向けたリーディング施策のロードマップを示しています。
アクションプランでは、政府の地球温暖化対策計画との整合を図りながら、分野ごとに以下の3つのロードマップを示しています。
①「建設機械の脱炭素化」に向けたロードマップ

②「コンクリートの脱炭素化」に向けたロードマップ

③「その他建設技術の脱炭素化」に向けたロードマップ

出典:国土交通省「国土交通省土木工事の脱炭素アクションプラン ~建設現場のカーボンニュートラルに向けて~」P.8
国交省による土木・インフラ分野の具体的な施策については、以下の資料のP.3~P.5をご参照ください。
国土交通省「環境行動計画 (別冊)分野別・課題別環境関連施策一覧」
参考:国土交通省のインフラ分野における カーボンニュートラルに向けた取組
今回のコラムでは、土木・インフラ分野のGHG算定に関する動向を紹介しました。
——————次回のコラムでは…!
建物のライフサイクルCO2に関する具体的な事例を4回にわたって紹介していきますので、
これから取り組みを始める方はぜひ参考にしてみてください。
次回もお楽しみに!

大学院で気候変動に関する研究に従事。
卒業後は、シンクタンクで気候変動対策の政策実施支援やカーボン・オフセットの指針・ガイドライン策定などを担当。
さらにコンサルティング会社にて、気候変動対応の戦略策定や実行支援に携わる。
2021年、Sustineri株式会社を設立。
建物のCO2排出量算定サービスの開発・運営を行う。
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