建設の常識が、静かに変わり始めています。
AIによる見積りの自動化、CO₂排出量の“見える化”、そして、現場の感覚に「データという根拠」を加える新しい取り組み。
それを実現に向けて共創しているのが、AI超概算システム「BURM」を手がける燈(あかり)、脱炭素算定ツール「Susport建設」を開発したSustineri、そして両者の技術を現場に導入し、実践を重ねる木内建設の3社です。
AIと環境データを結びつけ、コストと環境負荷の最適化を同時に目指す——。
この3社が挑む“データで変える建設の未来”は、業界全体に新しい風を吹き込もうとしています。先日、この3社の代表が一堂に会し、建設の「これから」をテーマに語り合いました。
その熱い対談の模様を、前編・後編に分けてお届けします。
今回は後編をお送りいたします。
TOPICS
▷前編
▶後編
Speakers
木内建設株式会社 望月 寿人さん、栗林 直哉さん
静岡を拠点とする総合建設会社。
地域密着型のゼネコンとして、公共施設から民間建築まで幅広く手がける。
現場の声を重視し、デジタル技術や環境対応の導入にも積極的。
AIや脱炭素の仕組みを自らの実務に取り入れながら「現場にデータを生かす」取り組みを推進している。3年前より地域建設コミュニティ「ON-SITE X」を静岡三社でスタート。
2025年12月現在、47都道府県117社が参画。
同業者地域交流の活性化とスタートアップと地域ゼネコンをつなぐ活動をしている。
燈株式会社 岩隈 啓悟さん
過去実績の収集・蓄積を目的とした、実績管理ツール「BURM」を開発・運営。
保存方法が確立されていなくデータ再利用が困難であった過去の施工実績データを共通データベース化し、同じものを管理運用しながら継続してデータを保管していく仕組みを提供。
過去物件情報検索の省力化をはじめ、機械学習型のAIによる超概算システムを発展させたCO₂排出量予測システムの開発・技術検証を行う。
建設業界の“勘と経験”を数値で裏付けることを目指し、設計初期段階からコストと環境を両立する意思決定支援に取り組んでいる。
Sustineri株式会社 針生 洋介さん
建設・不動産領域の脱炭素支援を目的としたデジタルツール「Susport建設」を開発。
見積書データから自動でCO₂排出量を算定し、削減シミュレーションを行う仕組みを提供。
行政や民間企業と連携し、設計初期からの“アップフロントカーボン”評価の実践を推進している。
「数字で示すことで、誰もが納得できる脱炭素の判断を支援したい」と語る。

写真左から
燈 岩隈さん
木内建設 望月さん
Sustineri 針生さん
木内建設 栗林さん
――BURMの概算AIとSusport建設の算定を導入することで、どんな変化が起きますか?
木内建設:
今回の構想は、燈さん、Sustineriさんの技術が1つのシステムに統合されるわけでなく、それぞれで分担して進んでいく形を考えています。
当社としてはとにかくまず地域で活躍する建設会社の皆さんが、算定を行いやすい環境を整えることを重視しています。
先導することで興味を持ってもらえるようになったらうれしいなと思います。
燈:
これまでは費用を出してからCO₂を考える、という順番が一般的でした。
でも、そこをもう少し同時に見ていけるようにしたいと思っています。
BURMでは、建物の概要を入れると、AIがいくつかの概算パターンを出してくれます。
どの構造や規模にすると費用や工期がどう変わるか、その違いを早い段階で把握できるようにしたいと考えています。
まだ発展途中ではありますが、設計の初期からコスト感を共有できる仕組みをつくることで、より良い判断ができるようになると思っています。
Sustineri:
現在は企業単位でCO₂排出量を算定しているケースが多いですが、今後は建物単位や商品単位での算定がより重要になってくると思います。
東京都でも“アップフロントカーボン”として、設計初期から排出量を算定し、削減する取り組みを評価する動きが始まっています。
私たちも、建設の初期設計段階からCO₂排出量を予測し、その結果を意思決定に反映できるようにしていきたいと考えています。
こうした仕組みを現場に根付かせていくことで、設計の段階から脱炭素を意識する文化が少しずつ広がっていくはずです。
木内建設:
やはり建設はライフタイムが長いです。
10年、数十年先を見据えると、いまから脱炭素を考えておかないといけません。
データを活用して見えてきたのは、「いまのままではいけない」という課題です。
顧客の方も、CO₂排出量を可視化していく必要性を感じ始めています。

そうなると、もう手作業だけでは対応しきれない。
設計や見積の段階でデータを取り込み、
システムを使って削減シミュレーションや最適な建物提案を行う――
そうした動きがこれからは当たり前になっていくと思います。
最適化の定義は難しいですが、複数のパターンを提示して、お客様と一緒にシミュレーションを見ながら考えていく。
そんな提案の形を目指しています。
実際に使ってみると、データが裏付けとなって意外と現実的な提案となっていて「現場でも十分に実現可能だな」 と感じます。
工事費も環境性能も両立できる案が出せるようになり、“勘と経験”に頼っていた世界に、数字という確かな根拠が加わりました。
――実際に現場で導入してみて、どんな変化がありましたか?
木内建設:
排出量の算定にかかる時間がかなり短くなり、数値で見えるようになったことで、現場の会話も変わりました。
これまでは“感覚”で話していた部分が、定量的に議論できるようになったんです。
燈:
過去物件DBによる「類似案件の提示」も好評です。
木内建設:
提案スピードが格段に上がり、根拠のある提案ができるようになりました。
ただしデータ入力形式や運用ルールをそろえるといった標準化や、担当者がツールを使いこなすまでの慣れといった課題もまだありますね。
こうした基盤を整えることで、より確かなデータ活用が進むと考えています。
Sustineri:
逆に、数字が見えるようになったことで“削減に前向き”な文化が広がっている。
「どこまで減らせるか」を意識するようになり、チーム間での議論も活発化しているのは嬉しい変化です。

――次の目標や展望を教えてください。
Sustineri:
今後はヨーロッパを中心とした国際的な動きだけでなく、日本でも本格的にCO2排出量の見える化や脱炭素の施策が本格的に導入されていきます。
これからは多くの企業がCO₂算定を求められてくるので今から準備が必要です。
最終的には、CO₂を意識しながら設計・判断する”文化“を業界全体に広げていきたい。
そう考えています。
燈:
企画・計画の初期段階から、設計・施工計画、実際の調達の段階でも使えて 、最終的には竣工後どうだったという振り返りにも使えるデータにしたいなと考えています。
建設プロセス全体のデータ連携を目指して、より一層活用できるデータとなるように、AIエージェントによるデータ変換や受け渡しの自動化も含めて検討を進めています。
データの蓄積が進めば、「設計〜施工〜運用」まで一気通貫でCO₂を見られる時代が来る。
私たちはその“入口”を作る役割を担いたいです。
木内建設:
目標は算定物件1000件の達成です。
建設業は長年、人の経験や勘に支えられてきた“属人的な産業”であり、体系的に蓄積・共有できるデータがまだ十分に整っていない。
現場ごとに条件や判断が異なるため、使えるデータがなかなか揃わず、データが経験として人の頭の中にしかないことが多いのも現状です。
そこで、日常の中でデータを集めて、検索や実施した物件数が増えるほどAIが学習し、算定精度が高まっていくような仕組みを目指します。
現場のリアルなデータをAIが学び、AIの提案が現場を磨いていくような循環ができたとき、建設業は本当に強くなると思います。
「AI×脱炭素」はもう特別なことではなく、これからの建設業における“当たり前の判断軸”になるはずです。

燈:
感覚や経験を否定するのではなく、それをデータで補強する。
日本の建設業の強みは現場のノウハウにあります。
その強みを生かしながらも、AIをプロセスに取り入れることで実践的に磨いていきたいです。
AIは人の判断を“より良くする”ツールです。
デジタルとAIの時代に、建設業の新しい可能性を拓いていきたいと思います。
Sustineri:
脱炭素は、単なる環境対応ではなく、コスト削減と両立できる経営戦略です。
数字で効果を“見える化”すれば、感覚ではなく根拠をもとにした判断ができる。
誰もが納得し、持続的に取り組める未来が見えてきます。
木内建設:
この共創で見えたのは、「データが人の意識を変える」ということ。
いままで手作業でやっていて1週間かかっていたことが5分で終わるなんていう変化はなかなかないので、まずは触ってみて便利だと実感してほしいです。
そして、今後は図面上で簡単に3DとかBIMができて、数量をひろって積算ができる、CO₂の算出ができるというところまでいきたいですね。
もちろん、いま取り組んでいる建築だけでなく、土木分野でも…!

BURM・Susport建設・木内建設の共創は、
「データ×AI×脱炭素」で建設業の意思決定を再定義する挑戦である。
業界に新しいスタンダードを築く、この3社の歩みは――
建設業を、持続可能でデータ駆動型の産業へ導く第一歩だ。
