建設物価調査会

#07 建物のライフサイクルCO2に関する具体例②

#07 建物のライフサイクルCO2に関する具体例②

―――大成建設が描く「脱炭素建築」の未来図

 前回までのコラムでは、不動産会社による建物ライフサイクルCO₂削減への取り組みを紹介しました。今回は視点を建設会社に移し、先進的な取り組みを続ける大成建設の事例を取り上げます。

 本コラムでは、建設分野における脱炭素、カーボンニュートラルに関する役立つ情報や気づきとなる話題(制度動向、技術革新、取組事例、用語解説など)を10回にわたり紹介していきます。


#バックナンバー
第1回【 #01 建設業が脱炭素化を求められる背景  】
第2回【 #02 Scope3排出量と建物のライフサイクルCO2 】
第3回【 #03 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況①  】
第4回【 #04 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況②  】
第5回【 #05 土木・インフラ工事のCO2排出量算定  】
第6回【 #06  建物のライフサイクルCO2に関する具体例①  】





「T-LCAシミュレーターCO₂」― 建築物のCO₂を見える化


大成建設は2022年5月、建築物のライフサイクルCO₂を概算計算できる評価ツール「T-LCAシミュレーターCO₂」を開発しました。


建物の調達・施工・運用・修繕・解体といったライフサイクル全体を対象に、CO₂排出量の概算値や削減効果を手軽に算出できるのが特徴です。これにより、施主が掲げる削減目標に沿った建設計画の立案を支援できるとしています。


従来の算定は入力項目が多く、時間もコストもかかる作業でした。大成建設は、こうした「算定のハードル」を下げることが、脱炭素建築の普及に不可欠だと判断したのです。また、カーボンニュートラル実現に向け、建築物のライフサイクルCO2の把握、削減は、施工者だけでなく建築物を所有・運用する顧客にとっても必要不可欠な取り組みであることも理由の一つとして考えられます。

出典:大成建設プレスリリース(2022年5月30日)





背景にある国際的な約束


同社の姿勢を裏付けるのが、国際的な科学的根拠に基づく目標認定「SBT 」の存在です。

注)SBT: Science Based Targets(科学的根拠に基づいて設定された温室効果ガス削減目標)の略称


大成建設は2019年2月にSBT認定を取得し、
2030年までに施工段階のCO₂を62%、運用段階の予測CO₂を55%削減(1990年度比)
という野心的な目標を掲げました。

出典:大成建設プレスリリース(2019年2月1日)



さらに現在の長期目標「TAISEI Green Target 2050」では、

2030年までにScope1+2を42%、Scope3を25%削減(2022年度比)

2050年にカーボンニュートラル達成


を明確に打ち出しています。これらの数値が、ツール開発の強い推進力となっています。

出典:大成建設 グループ長期環境目標 「TAISEI Green Target 2050」


なお、現在認定されているSBTでは、スコープ1+スコープ2の排出量を2030年度までに42%削減、2050年度までに90%削減、スコープ3排出量を、2030年度までに25%、2050年度までに90%削減するとしています(いずれも2022年度比)。
 




評価ツールに込められた工夫


「T-LCAシミュレーターCO₂」は、日本建築学会の「建物のLCA指針」に準拠しつつ、40項目に絞り込んだ評価体系を採用。短時間で算定できる実用性が大きな特徴です。


●省エネ設備や施策の入力による性能評価

●各段階ごとの削減率をランキング形式で表示

●計画初期段階から削減策をシミュレーション


といった機能が揃い、設計段階から「CO₂を意識した建物づくり」を可能にしています。


出典:大成建設プレスリリース(2022年5月30日)


大成建設は、新規・改修案件で本ツールを積極的に利用しながら、脱炭素技術の提案・導入を推進していくことを目指すとしています。





「T-ZCB」― ゼロカーボンビルへの道筋


さらに2022年9月には、建物全体のCO₂削減効果を体系的に評価する「T-ZCB(ゼロカーボンビル)」を開発しました。


T-ZCBでは、建物のライフサイクルごとに累積CO₂排出量を可視化する「T-ZCBチャート」を生成。削減状況を一目で把握できる仕組みを整えています。


「T-LCAシミュレーターCO₂」で得られた算定データを基盤に、削減効果を定量的に評価することが可能。これにより、大成建設は単なる測定から一歩進んで、“ゼロカーボン建築”を体系的に実現する体制を整えつつあります。

出典:大成建設プレスリリース(2022年9月9日)





戦略と技術をつなぐ脱炭素のアプローチ



大成建設の事例から見えてくるのは、
ツール開発を単なる効率化の施策としてではなく、
長期環境目標の実現に直結する戦略的施策
として位置づけている点です。

2030年、そして2050年に向けて。
大成建設が取り組む「見える化」と「体系化」は、建築業界全体の脱炭素に向けた道筋を照らす灯台になるかもしれません。


次回予告





今回のコラムでは、建物のライフサイクルCO2に関する事例を紹介しました。

——————次回のコラムでも
ゼネコンの先進的な取り組みを紹介していきます。

それでは、また。


Sustineri株式会社 代表取締役
 針生 洋介

大学院で気候変動に関する研究に従事。
卒業後は、シンクタンクで気候変動対策の政策実施支援やカーボン・オフセットの指針・ガイドライン策定などを担当。
さらにコンサルティング会社にて、気候変動対応の戦略策定や実行支援に携わる。
2021年、Sustineri株式会社を設立。
建物のCO2排出量算定サービスの開発・運営を行う。


<< #06  / コラムサイトTOPへ >>

2025年12月25日公開