~フランス建設大手VINCIの取り組み~
前回までのコラムでは、日本の大手建設会社(大成建設#07、竹中工務店#08)による建築物ライフサイクルCO₂評価の取り組みを紹介しました。
今回のコラムでは、欧州最大級の建設会社であるフランスのVINCI(ヴァンシ)が実践するライフサイクルアセスメント(LCA)の具体例に焦点を当てます。
#バックナンバー
第1回【 #01 建設業が脱炭素化を求められる背景 】
第2回【 #02 Scope3排出量と建物のライフサイクルCO2 】
第3回【 #03 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況① 】
第4回【 #04 建物のライフサイクルCO2をめぐる状況② 】
第5回【 #05 土木・インフラ工事のCO2排出量算定】
第6回【 #06 建物のライフサイクルCO2に関する具体例① 】
第7回【 #07 建物のライフサイクルCO2に関する具体例② 】
第8回【 #08 建物のライフサイクルCO2に関する具体例③】

VINCIはフランスに本社を置き、約100カ国で事業を展開する欧州最大規模の総合建設企業です(従業員数18万人以上)。
建設事業のみならず、空港・鉄道・高速道路などのインフラ運営も手掛け、英仏海峡トンネルやポルトガル・ヴァスコ・ダ・ガマ橋、ルーヴル美術館の拡張、エッフェル塔改修など、欧州を代表するプロジェクトの施工実績を有しています。
同社はカーボンニュートラルの達成に向け、
スコープ1・2(直接・間接排出)の温室効果ガスを2030年までに2018年比で40%削減、
スコープ3(バリューチェーンからの間接排出)も2019年比で20%削減する
という野心的な目標を掲げています。
SBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)によって、科学に基づく削減目標(SBT)として認定されています。
図:VINCIのCO2排出量削減目標と進捗状況(Scope1+2)

図:VINCIのバリューチェーン(スコープ3)排出量の内訳

出典:VINCI ウェブサイト
VINCIは建築・土木工事で使用される低炭素コンクリートの比率を2020年代末までに50%に引き上げることを目指しています。
Exegy®などの低炭素コンクリートは、従来比で最大60%のCO₂削減効果が見込まれ、全現場の90%への普及を目標としています。*1
さらに木材・複合構造材の活用や、リサイクル材・再利用材の利用を通じたサーキュラーエコノミー戦略も推進しています。
木造建築は、二酸化炭素排出量の削減と美観の向上に加え、強度と持続可能性の面でも優れた利点を備えています。

そのため、子会社アルボニスでは、木造建築ソリューションの開発に取り組み、学校・オフィス・高層ビル、駐車場などのプロジェクトに構造材としての採用が広がっています。
VINCIにおける構造物のCO₂排出量削減は、設計段階で最適な技術を比較・選定するため、建設・運用・廃棄段階を考慮したエコデザイン手法の一環として位置付けられています。
また、材料・資源・生態系・廃棄・水・人の健康影響などを含めた包括的なエコデザイン(Eco-design)を進めており、LCA(ライフサイクルアセスメント)がその中核にあり、設計初期に実施されています。
出典:2023 WORKFORCE RELATED, ENVIRONMENTAL AND SOCIAL INFORMATION
VINCIでは、EUタクソノミー(欧州連合における持続可能な経済活動の分類体系) に基づいて、事業活動やプロジェクトが環境に与える影響を多角的に評価し、持続可能性を測定しています。
その中でも、特に以下の6つの環境目的への貢献度を評価の軸としています。
1.気候変動の緩和:温室効果ガスの排出削減と脱炭素化
2.気候変動への適応:異常気象や温暖化によるリスクへの対策
3.水および海洋資源の持続可能な利用と保護:節水や排水管理
4.サーキュラーエコノミー(循環経済)への移行:
廃棄物の削減とリサイクル、資材の再利用
5.汚染の防止と管理:大気、水、土壌への有害物質排出の抑制
6.生物多様性と生態系の保護および回復:建設現場周辺の自然保護。
出典:VINCE “EXTRACT 2024 UNIVERSAL REGISTRATION DOCUMENT ENVIRONMENTAL PERFORMANCE”
1つめの目標である温室効果ガスの排出削減と脱炭素化に関しては、グループ各社向けの具体的な行動計画策定と、財務的メリットおよび排出削減量の推定を目的とした炭素排出量管理ツール「NExT」導入しています。
2024年には、このツールが事業部門の温室効果ガス排出量の70%をカバーし、投資承認のための戦略的事業計画の年次レビューに活用されました。
出典:VINCE “EXTRACT 2024 UNIVERSAL REGISTRATION DOCUMENT ENVIRONMENTAL PERFORMANCE”
また、LCAの取り組みに関しては、同社開発のカーボンフットプリント測定ツール「CO₂NCERNED」が、グループ全体(建設/エネルギー/公共施設の運営)で導入されています。
建設分野では2年間で452プロジェクトのエコデザイン調査を実施され、設計初期からLCAを組み込むことで、最適な材料・構法・設備の選定に活かしてきました。
フランスのVINCI Constructionでは、顧客に適切な解決策を提案するために、ラベルの基準適合性を評価するためのE+C-(プラスエネルギー・マイナス炭素)計算ツールを活用しています。
また、2023年には、VINCI Energiesがプロジェクトの炭素影響を測定し、顧客向けの低炭素代替案の創出を導くことを目的としたeco2VE (VINCI Energies carbon calculator)を開発しました。
さらに、VINCI Autoroutesは、特定のサービスに対する金銭比率とカーボンフットプリントに基づき、調達品のリアルタイム炭素フットプリントを算出するツールを導入しています。
他にも、コンクリートの製造、輸送、設置プロセスにおける炭素排出量を数値化するツールであるCO2CRETE IMPACT、工事現場の温室効果ガス排出量を推定するツールであるGEStim、環境ソリューションやグリーンオファーを集約したプラットフォームであるCOlistikなど様々なカーボンフットプリント測定ツールを開発し、事業に活用されています。
出典:VINCI ウェブサイト 、VINCI ウェブサイト(Protecting our environment)、 THE AGILITY EFFECT記事
VINCIは、VINCI Construction FranceおよびVINCI Immobilierを通じて、建物の脱炭素化とインフラの脱炭素化に取り組んでいます。
フランスには「RE2020」という環境規制があり、建設から解体までの50年間にわたるライフサイクル全体におけるエネルギー消費量とカーボンフットプリントを考慮し、建築物の環境負荷削減を目指しています。
そのため、RE2020対象プロジェクトの入札条件にLCAを体系的に組み込んでいます。
VINCIは、気候変動に伴うリスクをより適切に予測するため、Leonardワーキンググループが実施する気候レジリエンスおよび気候変動適応に関する将来予測調査を活用しています。
また、VINCI-ParisTech環境研究所(パリ鉱山学校-PSL、国立橋梁道路学校、アグロパリテックの連携により設立)は、2008年以降、建築物とインフラの適応に関する科学的知見に貢献した約85件の博士課程・博士研究員プロジェクトを支援してきました。
近年では、研究者にとっての実験場を提供するVINCIのプロジェクトが、建設におけるLCAの活用などの分野における科学的知見の創出に貢献しています。
VINCIのレザリエンス事務所は、特定プロジェクトに対する気候変動の影響を定期的に評価しています。
また、鉄筋コンクリート構造物の潜在的な腐食判定、都市ヒートアイランド現象の測定、洪水発生リスクの高い都市・都市部における洪水の予測・可視化、インフラに対する気候変動コストの評価などを行うソフトウェアプログラムを複数運用しています。
出典:EXTRACT 2024 UNIVERSAL REGISTRATION DOCUMENT ENVIRONMENTAL PERFORMANCE
交通インフラ運営を担うVINCIオートルーツでは、2030年までに工事のカーボンフットプリントを2018年比で50%削減する目標を設定。
2024年までにプロジェクトのカーボンフットプリントは1件あたり平均25%削減されました。

脱炭素化と循環型経済の目標を両立させるため、高度なリサイクル施策も導入されています。
例えば、チェコ共和国のD4高速道路プロジェクトでは、旧区間のアスファルト全量と、地域の鉱山活動から発生する90万トンの鉱滓が、新インフラの建設に再利用されています。
VINCI建設は、循環型経済戦略の一環として、道路建設・維持管理プロジェクトにおいて、特に掘削土や解体現場から発生する再生骨材の活用を推進しています。
同社は、2030年までにリサイクル材由来の骨材生産量を倍増させることを目指しています。
この目標達成のため、200以上の材料リサイクル・回収プラットフォームからなるネットワークを活用し、循環型経済アプローチ「Granulat+」を実践しています。
2023年には、最高品質の配合を保証する骨材「Ogêo」の発売により、新たなマイルストーンを達成しました。
出典:VINCI ウェブサイト
今回のコラムでは、欧州最大の建設会社VINCIの取り組みを紹介しました。
次回のコラム(最終回)では、連載コラムのまとめとして、社会動向や関連制度および国内外の先進企業(大成建設、竹中工務店、VINCIなど)事例から特に参考になるポイントや示唆をまとめたいと思います。
それでは、また次回お会いしましょう。
*1:VINCI ウェブサイト

大学院で気候変動に関する研究に従事。
卒業後は、シンクタンクで気候変動対策の政策実施支援やカーボン・オフセットの指針・ガイドライン策定などを担当。
さらにコンサルティング会社にて、気候変動対応の戦略策定や実行支援に携わる。
2021年、Sustineri株式会社を設立。
建物のCO2排出量算定サービスの開発・運営を行う。
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