建設物価調査会

【建設時評】工期は長期化したのか?

【建設時評】工期は長期化したのか?


一般財団法人 建築コスト管理システム研究所
総括主席研究員 岩松 準

 いくつかの要因から、最近は実質的な工期は長期化しつつあるのかもしれない。まず挙げるべきは「2024年問題」によるマン・アワーの減少である。建設業でも労働基準法の時間外労働の上限規制が適用されて、建設現場の稼働時間が短くなった結果、従来に比べ長い工期を見込まざるを得なくなった。また筆者の実感でも首都圏では昨年後半くらいから働き方改革による週休2日の工事現場が確実に増えている。

 加えて、深刻な人手不足がある。厚生労働省の職業安定業務統計によれば、建設業の有効求人倍率は図に示すように高水準で推移している。パートを除く常用の昨年11月時点の数字では、建築・土木・測量技術者は7.12倍、建設・採掘従事者のうち、建設躯体工事従事者は8.62倍もの高率だ。こうした技術者や技能労働者の不足が一部工事の工期遅延に結び付いた可能性がある。


 建設業法上も工期の長期化に直結する規定が順次整備されてきた。2019(令和元)年6月公布の「新・担い手3法」を根拠に、中央建設業審議会(中建審)は、翌年7月に「工期に関する基準」を作成し、実施を勧告した。約5年後の2024(令和6)年6月公布の「第三次・担い手3法」では、同年4月からの罰則付き時間外労働規制の遵守の徹底を図るべく、「工期に関する基準」の見直しが行われ、翌年4月から施行されている。

 この建設業法の法文に「著しく短い工期の禁止」が設けられたのは2019(令和元)年のことで、当初は注文者(発注者)のみだったが、昨年12月の改正では建設業者に対する規定が追加された。こうして、受発注者ともに工期ダンピングが明確に禁止された。このような法改正の効果は全国の建設工事契約において徐々に浸透してきたはずである。

(著しく短い工期の禁止)

第十九条の五 注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

 建設業者は、その請け負う建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない。

(注)https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC0000000100


 以下、建築工事関係のみとなるが、主な動きを見ておきたい。国土交通省大臣官房官庁営繕部では、2015(平成27)年3月に「営繕工事における工期設定の基本的考え方」を、さらに同年10月に「公共建築工事における工期設定の基本的考え方」を発出した。この文書は法令改正に対応しつつ2018(平成30)年2月、そして昨年7月にも見直された。

その基本方針では「発注者は、工事目的物の品質確保はもとより工事の安全性、経済性等の確保に配慮し、当該工事の規模及び難易度、地域の実情、自然条件、工事内容、施工条件等を踏まえ、適切に施工計画を想定し、その施工計画と整合の取れた工期を設定するものとする」とうたう。


 具体的な工期の算定法は、日本建設業連合会(日建連)の協力で検討された経緯がある。日建連は2016(平成28)年以降、会員企業の歩掛データを持ち寄った策定WGが「建築工事訂正工期算定プログラム」を作成し、バージョンアップを重ねている。「短工期による受注競争に歯止めをかけ、適正な工期、即ち一日8時間労働、完全週休2日制を前提とする工期に基づく受注を推進する」という決意が書かれた文書がある。

最新バージョンのパンフレットを見ると完全週休2日、特別休暇などの休日設定機能に加え、雨天・台風・猛暑日や冬季補正が行えるなどの機能を有する。日建連の策定基準を満たす工程表にはお墨付きのマーク「日建連適正工期」の表示が出る仕組みになっている。


 以上述べた幾つかの要因や関係事実を見る限りでは、全体として建設現場における工期の長期化は必然とも思える。一方、大手企業を中心に建設DXの進展も顕著であって、建設現場の生産性向上の結果、工期が短くなったケースもあるのではなかろうか。それでは、工期の長期化傾向が果たして事実か否かを、どう捉えればよいのだろうか?

 この問題を正面から考えて調べ始めると、適切な調査や統計情報が乏しいことに改めて気が付いた。工事内容が違えば造られ方も違うのが当然であって、例えば土木と建築の工期長短を一律に比較することなどできない。また、予算規模が小さな工事は大きな工事に比べると短工期になるのが普通だから、同規模の工事同士でなければ、比較は意味をなさない。

このように、同一かそれに近い規模・内容の工事があって両者を比べることで、はじめて工期の長短を判定できるのだが、一品生産の建築物と土木構造物でそうした比較条件を満たすのは甚だ難しい。予算規模が大きくなりがちな工事は一度しか作ることがないため、当該工事の工期長短を示す具体的な数字は得られない。あくまで標準的な工期に対して長いか短いかが認識されるのみである。

 一方、例えば毎年、建設工事を大量に発注する不動産業者ならば、工期の長短についての明らかな見解を持ちうるかもしれない。しかし、その一業者の経験をすべての建設工事に敷衍(ふえん)することはできない。

 この点を少しだけカバーする調査がある。国土交通省不動産・建設経済局建設業課が公表する「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」がそれで、民間発注工事の工期設定の実態や課題把握を目的にここ数年間、継続実施されている。最新の令和6年度結果を参照すると、不動産業が多く含まれる民間発注者においては、その6割が「長い工期の発注が増えた」と感じる、と回答しているデータを確認した。


 統計データで考えてみよう。建設工事の工期に関するものはそれほどない。政府統計サイトe-Statの検索窓で「工期」を入れて、唯一出たのは「建設工事進捗率調査」だった。この調査は建設総合統計や産業連関表作成作業とも絡み、5年に一度の頻度で行われる。

2024(令和6)年12月20日発表資料が最新で、2020(令和2)年度から2022(令和4)年度までに完成予定の工事約1万件を対象に、工事種別・予定工期毎に工事の出来高率の実態を調べて取りまとめたものとなる。月別出来高の発生の特徴が近しい工事種別・予定工期を統合し、工事費加重平均により工事種別・予定工期毎等の「工事進捗率」を算出している。

予定工期毎の各月の出来高率の調査結果から得られる推計モデルでその累計値を求めて「工事進捗率」としている。着工時0%から始まり工期末には100%に至る値を示す。工事種別は、公共土木14種類、民間土木6種類、建築工事8種類に分けている。

 各データの5年前の工事進捗率の数値との差分をみることで工期の長短の変動傾向が分かりそうだ。筆者の手作業では、工事種別で微妙に違うが概ねこの5年間で、小規模工事は長期化する一方、大規模工事は工期の短期化の傾向が見えた。ただ、統計調査方法の詳細を確認すると、モデル推計法に変更点があることから、結果を鵜呑みにして良いのか、残念ながら確信を持てないでいる。


建設物価2026年3月号

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