~人手不足時代に束で立ち向かう!群マネ、全国展開へ~
国土交通省では、2012年の中央自動車道笹子トンネルの天井板崩落事故を契機に、翌2013年を「社会資本メンテナンス元年」として位置づけ、点検・診断、対策実施というメンテナンスサイクルの確立をはじめ、インフラメンテナンスの抜本的な強化に向けて様々な取組を進めてきた。
しかしながら、笹子の事故から10年以上が経過し、インフラ老朽化や人手不足といった課題はより深刻化しており、将来、一つ一つのインフラを個別に管理する従来の考え方では限界が来てしまうことも懸念される。
そこで今、大切になってくるのが、インフラを大きくまとめてマネジメントする、「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」という新たな視点である。
例えば、バラバラだったインフラを、自治体の枠やインフラ分野の枠を越えて、一つの「群」として捉え、効率的・効果的にマネジメントしていくことを目指すものである。
群マネの具現化に向けて、国土交通省では、2023年8月に有識者検討会(以下、群マネ検討会)を設置し、先行事例調査やモデル地域(11地域)での試行等をもとに議論を進め、2025年10月には「群マネの手引き Ver.1(群マネ入門超百科)」を公表したところである。
こうした中、2025年1月28日、埼玉県八潮市の県道において、下水道管破損に起因するとされる道路陥没事故が発生し、トラック運転手1名の命が失われた。
このニュースによって、インフラメンテナンスへの危機意識がインフラ管理者のみならず、広く国民に再認識されることとなった。
八潮市の事故を受け、国土交通省において設置した有識者委員会から、2025年12月1日には、下水道のみならずインフラ全般を対象として、「新たなインフラマネジメントに向けた5つの道すじ」に関する提言が国土交通大臣に手交され、さらに、この提言の具現化に向けて、同月25日には、国土交通省の審議会の下に「インフラマネジメント戦略小委員会」が新たに設置された。
この提言においても、群マネ推進の必要性が言及されているなど、群マネへの期待が一層高まる中、本稿では、群マネの概念や期待される効果等について、具体事例を交えて紹介する。
インフラメンテナンスを巡っては、インフラ老朽化と人手不足が同時に進行していく中、自治体や事業者の双方で、現場の悩みが深まっており、これまでの制度や慣習のままでは、近い将来、インフラを守っていけないという不安が高まりつつある(図-1,2)。

「群マネ」には、自治体の枠を越えてマネジメントする「広域連携の群マネ」と、インフラ分野の枠を越えてマネジメントする「多分野連携の群マネ」がある。

広域連携には、市区町村同士が連携する「水平連携」や、県も関与する「垂直連携」があるが、技術系職員が不足する自治体においても県や近隣の市と連携することで技術的知見を補完できることが期待される。
多分野連携では、道路や河川、公園など、一つの自治体の中であっても、場合によっては部署が異なるものもあるが、一括して発注したり、巡回や除草などの作業をまとめて実施することで効率化が期待される(図-3)。

「群マネ」と聞くと、全く未知のものという印象を受けるかもしれないが、インフラメンテナンスにおける広域連携や多分野連携の先行事例は存在する。
1)広域連携
【橋梁関係(点検、計画策定、補修設計、修繕工事)】
橋梁関係を対象とした広域連携事例として、奈良県(奈良モデル)が挙げられる。
点検、計画策定業務では、県と市町村が協定書を締結し、県が、県と複数市町村の業務をとりまとめて一括発注している(市町村は県へ事務費を負担)。
これにより、技術系職員が不足する中、県内全体のインフラ長寿命化が促進されている。
また、補修設計、修繕工事では、上記に加えて、市町村が県へ職員派遣を実施(併任辞令)し、県職員のサポートを受けながら、自らの市町村の橋梁の補修設計や修繕工事に係る積算、現場立会、完了検査等の一連の業務に従事する(図-4)。
これにより、派遣職員が技術的なノウハウを習得することで、各市町村の技術力向上にも寄与している。

【日常維持管理(巡回、除草、舗装修繕等)】
日常維持管理を対象とした広域連携事例として、静岡県と下田市が挙げられる。
県と市で覚書を締結し、県道と市道の日常維持管理を同一の事業者へ委託している(巡回、舗装補修、小規模修繕等)。
契約としては、県と市が同一の仕様書で公告し、県が事業者を選定した後、市は覚書に基づき同一事業者と随契する形式を取っている。
県道と市道が一体管理されることで、例えば、往路は市道、復路は県道といったパトロール効率化や県道・市道を区別せず近隣箇所をまとめた作業実施など、事業者側の業務効率化が図られている(図-5)。

2)多分野連携
多分野連携(日常維持管理業務)の事例について、対象分野の組み合わせ別に示す。
この他の切り口としても、契約年数や性能規定の適用有無等の違いにより、様々なバリエーションが見られる。
【道路+河川+公園】
新潟県三条市では5年契約(総価契約)で、秋田県大館市では3年契約(総価契約)で実施している。
【道路+河川】
三重県四日市市では1年4か月契約(単価契約のみ)で実施している。
【道路+公園】
三重県明和町では3年契約(総価契約+単価契約)で実施している。
3)事業者連携
広域連携や多分野連携の事例について、事業者側の連携スキームに着目すると、以下のパターンが存在する。
【域内業者のみのJV】
地域要件において、構成企業を市内業者として設定することで、従前から地域で活動してきた建設会社や舗装会社、造園会社、清掃会社、電気工事会社等によってJVが構成される事例が見られる(静岡県、秋田県大館市(図-6)、三重県四日市市)。
このうち、静岡県と三重県四日市市では、地域維持型JVを適用している。

【域外業者を含むJV等】
地域要件において、構成企業を市外を含む県内業者としたり、構成企業のうちコンサルタントのみは市外の県内業者も含めること等により、地域業者を中心としつつも、市外業者もJVに参画する事例も存在する(新潟県三条市、三重県明和町)。
新潟県三条市では、現場作業や事業者間の調整は地元の建設会社が担いつつ、市外コンサルタントが蓄積データ(補修履歴や市民からの苦情・要望等)を分析し、舗装補修をどのように進めていけば良いかの技術的な提案を行うことで、業務全体のパフォーマンスを向上させている(図-7)。

1)先行事例における効果事例
先行事例における効果事例について、発注者・事業者・市民の視点から整理する。
【発注者】
・発注作業や業務指示等にかかる対応時間が減少した(直営+委託でのトータルコスト削減)。
・広域連携により、技術的知見が補完されるだけでなく、職員の技術力が向上した。
・不調・不落件数が減少した。
【事業者】
・複数業務をまとめることで効率化された(パトロールを一括化、同じ現場で舗装補修と清掃等を同時作業、足場の共同利用等)。
・書類作成や事務手続き等の手間が削減された(特にJV等の代表企業以外の構成企業)。
・創意工夫を発揮しやすくなった(事業者提案による新技術導入、蓄積データ分析による先回り対応等)。
・事業者間の連携により、地元業者の技術力向上につながった。
・人員や資機材を確保しやすくなった(他工事との調整、事業者間の融通等)。
・経営安定化により新たな雇用や設備投資が実現した。
【市民】
・従前よりもサービスレベルが向上した(対応の迅速化、先回りの対応等)。
2)効果の試算例(新潟県三条市)
上記の効果のうち、「直営+委託でのトータルコストの削減」については、効果試算を実施している事例がある。
新潟県三条市では、窓口対応や維持作業の委託化や性能規定導入等によって、直営対応時間が大幅に縮減されるとともに、直営(対応時間を人件費換算)+委託のトータルコストでも1%削減されると試算された(図-8)。
このとき、包括化に伴い、アウトソーシング費用や全体マネジメント業務など必要な経費を適切に計上することで、委託費用そのものは増額している点に留意すべきである。
また、窓口業務の委託化による効果について、職員人数に換算すると約14人分の直営対応時間縮減に相当すると試算された。
この試算から、単に土木部署の職員数を減らすということに向かわせるのではなく、例えば、これまで手が付けられなかった計画策定(公園の配置適正化計画等)に着手できたり、マンパワーが増えたことで工事発注件数を増やせるようになったり(発注規模で約8倍)、直営班(現業職員)が建設部の包括的民間委託業務では対応できない新たな作業(従前は保育士自らが実施していた保育所の草刈りなど)をカバーできるようになったりするなど、生み出された時間を有効に活用し、新たな業務に注力することに繋げている。

群マネ導入を検討する際に直面する悩みについて、モデル地域における試行等を通じて、以下の共通項が見られた。
【自治体】
・業務効率化のために、どのような発注内容にするか?
・自治体間や内部他部署との調整をどのよう進めるか?
・事業者側とのコミュニケーションをどのように進めるか?
【事業者】
・業務範囲が広がった場合、事業者として対応できるか?
・事業者同士でどのように連携を進めるか?
このように、群マネを全国展開していく上での課題としては、「メリット」が十分浸透していない一方、導入までの実施手順や調整方法を巡る「不安」が先行していることが想定される。
そこで、2025年10月「群マネの手引き Ver.1(群マネ入門超百科)」を公表した(図-9)。
以下、手引きのポイントを解説する。

1)インフラメンテナンスの「見える化」
本章では、インフラ老朽化や人手不足に関する全国的なデータを紹介するとともに、各種指標をあえて空欄で示すことで自分のまちの現状を把握できているか問いかけている(図-10)。

2)群マネのコンセプト
本章では、「群マネの概念と目指す姿」や「先行事例における効果の声」などを紹介している(図-11)。

・群マネの目指す姿としては、自治体職員の技術的な知見が補完されたり、住民対応や現場対応など直営での対応時間が縮減されることで、インフラ管理者としての計画・マネジメントに注力できるようになることを強調している。
・先行事例における効果としては、発注者だけではなく、事業者からも多くの声が実感されていることを紹介している。
3)群マネの実施プロセス
本章では、具体の一歩を踏み出すために、群マネの「標準的なステップ」や「各ステップのQ&A」、「先行事例におけるエピソード」などを紹介している(図-12)。

・標準的なステップとして、導入検討から事業実施までの7ステップに整理している(各ステップはチェックボックス形式でタスクを細分化)。
・各ステップのQ&Aとして、想定される具体シーン毎に全41問を収録している。
例えば、「束ねる業務」と「束ねない業務」の見極め方や導入効果の試算方法、新たに必要となる経費の計上方法、事業者とのコミュニケーション方法など、先行事例の具体例を交えて解説している。
・苦労話などのエピソードについて、先行事例の自治体職員からの声(新たな取組を検討したきっかけ、壁を乗り越えられた秘訣、これから検討する自治体へ伝えたいこと)を掲載しており、ノウハウとは別に群マネに挑戦する際の心の支えとなることを期待している。
4)群マネの計画策定
本章では、「群マネの計画策定で検討すべき項目」や「自治体計画への位置づけ方法」を紹介している(図-13)。

・群マネの計画策定としては、過度な作業負担となることや形式的なものになることを避けるため、群マネを計画的に推進する上での「必要最小限」の項目に絞り込んでいる。
・「群マネの実施方針」として、直近の業務発注に関わる「業務のマネジメント戦略(群マネの対象範囲や発注上の工夫)」や「自治体の束(広域連携スキーム等)」に加えて、中長期的な「技術者連携、データ連携」の具体策を組み合わせることが考えられる。
5)人の群マネ(技術者の束)
本章では、「人の群マネ」の考え方を解説した上で、全国や各地域の取組例を紹介している(図-14)。

・小規模自治体の職員は、周りに技術系職員がほとんどおらず、技術の伝承や蓄積はもとより、自己研鑽の余裕もない。
こうした自治体職員にとっては、組織と組織がつながる前段として、所属の枠を越えて技術者が「個人」としてつながる「人の群マネ」も重要である。
・例えば、近隣自治体の経験豊富な職員に相談して、経験やノウハウ、悩み改善のためのアイデアが共有されるなど、一人一人の職員が横のつながりを得て、質的にパワーアップしていくことが期待される。
また、部署間や自治体間での人と人のつながりが、将来的には共同発注など、組織と組織がつながる「群マネ」の素地となることが期待される。
・国土交通省が参画するプラットフォーム例としては、インフラメンテナンス国民会議や各地方整備局自治体メンテ相談窓口が、地方公務員の発意によるプラットフォーム例としては、「一般社団法人行政エンジニア支援機構(そらゑ)」がある。
いずれも、技術者が束となる取組例であり、気軽にご活用・参画いただければ幸いである。
6)手引の付録編
群マネの各ステップの具体的な検討をサポートするため、「付録編」として、検討支援ツールのExcel(現状把握、効果試算、アンケート調査作成等)や先行事例のサンプル集(自治体間の協定書や発注図書等)を用意している。
職員直営でも、できる限り負担を軽く、効率的に概略検討ができるよう用意したものであり、適宜活用いただければ幸いである(図-15、16)。


手引きの裏表紙にて、おもちゃのパッケージをもじって、最後の「警告と注意」を記載している(図-17)。
ちょっとした遊び心からの発案であるものの、意外と内容としては、これから群マネに携わる皆様へ伝えたいことの本質が詰まったメッセージとなっている。
国土交通省から出された正真正銘、「真面目な手引き」であるが、こうした表紙や裏表紙のテイストも話のネタに、同僚や上司にもご紹介いただければ大変ありがたく、それがあなたの「群マネの一歩目」かもしれない。

