建設物価調査会

建設DX推進と職員の働き方改革



山口県 土木建築部 技術管理課
建設DX推進班 主査 中越 亮太さん

山口県庁1 階のテレワークオフィス「YY! SQUARE」にて


建設ICTを推進するため、2019年11月に先進技術や製品、サービスを紹介する建設ICTビジネスメッセを主催し、地方公共団体としては初の試みとして2020年度i-Construction大賞を受賞した山口県。建設ICTの活用について県の取り組みを取材して2年が経った。これまでの成果や課題、新たな取り組みについてあらためてうかがった。


ICT 活用工事の実施数が増加

 山口県は、2017年7月からICT 活用工事試行の運用を開始し、これまで対象工事の工種を法面工や舗装修繕工などへと拡大してきた。またICT 施工の部分活用を可能とするなど、ICT 活用工事の普及推進に取り組んできた。山口県土木建築部技術管理課建設DX 推進班主査の中越亮太さんは「ICT 活用工事の実施件数は右肩上がりで伸びています。ICT を実施していない事業者は危機感を持ち、実施している事業者からは、もっと発注して欲しいという声があります」という。県東部の岩国地域ではICT 活用工事の実績が多い一方で、ほぼ実施していない地域もあり、地域間の格差を少なくすることが今後の課題になっている。

 実施企業数も増え、2022年上半期速報値では81社となった。その内訳は、Aランク59社、Bランク18社、Cランク4社、Dランク0社となっており、比較的規模の小さい企業の実績は少ない状況である。裾野を広げていくには小規模現場での活用が重要となるため、2022年10月1日に小規模現場でも対応できるようICT 活用工事試行要領を改正した。


 

建設DX の加速化

 山口県は2021年に「やまぐちデジタル改革基本方針」を策定し、デジタル化に向けた取り組みを進めている。インフラ分野では、本県の建設産業におけるDXを推進することで、建設現場の生産性向上やインフラメンテナンスの高度化・効率化を推進。「重点プロジェクト」として「日本一の安心インフラやまぐちの実現」を掲げ、頻発・激甚化する自然災害や進行する施設の老朽化等の課題に対応するため、AI による橋梁の点検・診断システムや、ドローン等による河川の変状監視手法の構築等に取り組んでいる。

 またi-Construction の推進としては、BIM/CIM、冒頭のICT 活用工事、CALS/EC などのインフラデータ基盤の構築やオープンデータ化への取り組みを進めている。





DX 推進班の設立

 中越さんが所属する建設DX 推進班は、2022年4月、土木建築部技術管理課に新設され、情報通信技術の活用の促進に関する施策の総合企画と調整を行っている。班長と班員3人の計4人の組織で、「未来を創造する、既成概念にとらわれない、失敗を恐れない」という理念のもと日々、活動をしている。

具体的には、「山口県建設DX 推進計画」の策定、建設DX に係る人材育成、公共事業関係者の連携強化のために組織された「山口県建設DX 推進連絡協議会」や山口県土木建築部の建設DX に関わる方針、実施内容、体制などを決定する「建設DX 推進会議」の運営を行う。

 また所属を横断して組織する建設DX 活用ワーキングループやディスカッショングループの運営を通して部内のコミュニケーション活性化にも寄与している。

 全庁でデジタル改革を進める山口県では、村岡知事をCIO(Chief Information Officer:情報システムの責任者)として、IT 分野で活躍する3人のCIO 補佐官とオンラインCIO ミーティングを実施している。通常は非公開だが、2022年11月に「やまぐちのデジタル社会の未来」をテーマに公開でのCIO ミーティングを行った。CIOミーティングに向けて、知事に直接、建設DX の進捗報告や提案をすることもDX 推進班の役割である。


セミナーや現場体験会の開催

 継続している取り組みとしては、建設企業の技術者を対象に2020年度から「建設維新ICT セミナー」を開催している。ICT 技術に興味はあるが触れる機会がないといった施工者を対象にした「基礎編」とICT 活用工事に取り組む予定がある、3次元データを活用する方法を知りたいといった実務者向けの「応用編」を年2回ずつ実施している。

2022年度の基礎編は、小規模工事で活用できるICT 技術の紹介や普段の工事で実施することが多い位置出し作業を、3次元データとトータルステーション(TS)を用いて演習を行った。応用編は、3次元データ作成・照査に関する実習や、3次元データの応用事例の紹介・演習を行った。座学と実習を組み合わせ、実務に役立つ内容になっており、毎回すぐに定員が埋まるほど人気が高い。

 またCONTACT(建設戦略会議)との共催で、国・県・市町職員等向けに「はじめの一歩体験会」、「ホンキの一歩体験会」を実施している。11月2日には全国的にも珍しい政令指定都市以外の発注者の現場での体験会を実施した。

また11月10日にはドローンの操作技術を競う「UAV やまけんカップ」が開催され、県内各地から山口県建設技術協会会員の18チームが参加した。山口県土木建築部では、災害時の情報共有にドローンを活用するために今後もドローンの操作技術を向上させ、業務の効率化を進めていくという。

建設維新ICT セミナー
ICT 現場見学会
UAV やまけんカップ



戦略的広報やプラットフォームの活用

 戦略的な広報に力を入れ、SNS を活用して積極的に情報を発信している。まだ表立った効果は出ていないというが、建設業界から山口県土木建築部のFacebook やInstagram、YouTube を視聴しているという声を聞くようになった。「情報をより効果的に伝えるためにSNS のアクセス数や『いいね』の数と掲載した動画や写真の相関関係を分析しています」と中越さん。

 YouTube には、「笠戸大橋_ 点群データの公開」動画が掲載されており、QR コードから「MyCity Construction」のサイトにアクセス可能。My City Construction は、2020年度から本格運用がはじまったオンライン電子納品システム。受注者が検査前に電子納品成果をアップロードすることで、3次元点群データや3次元モデルなどの大容量データを円滑にプレビュー表示や検索できる。

山口県でも情報共有の迅速化、電子媒体作成の効率化や提出の手間軽減、保管管理作業の軽減や登録漏れの防止、資料貸与の効率化を目的として、2022年4月から一部の事務所の工事及び業務等で試行運用を開始した。2023年度は土木事業全てで試行、2024年度から本格運用を目指している。中越さんは「プラットフォームの活用は、建設DX、i-Construction の普及につながると考えています」という。





職員の働きやすい職場環境

 2年前の取材では、建設業の担い手不足、高齢化が大きな課題となっていた。現在も状況は変わらないが、山口県建設業協会との共催による土木・建築系学科の高校生を対象にした現場見学会や小中学生の親子見学会などを実施し、建設業の魅力発信と多様な人材の就業促進に力を入れてきた。その成果として、徳山高専の土木建築工学科は、女子の入学者が増え、2022年4月現在で女子の割合は約50%になった。さらに県内の建設技術者・技能者の若年者比率も微増しているという。

 しかし、山口県の土木職への入職希望者が減少していることが課題になっている。女性職員の割合も3%(16名)と低く、7年連続で女性技術職員の入庁がないという。またこの10年ほどで離職者が増えており、特に35歳以下と女性の割合が高い。「建設産業の入職者不足に加えて県職員の入庁者不足への対策も急務と考えています。2022年度からリクルートの強化、インターンシップの強化を実施しています」と中越さんはいう。また離職した職員にヒアリングを行い、働きやすい環境づくりへと改善を図っていくという。


テレワーク実施状況を見える化

 新型コロナウイルス感染症拡大によってテレワークが加速した。山口県でも環境を整備し、2020年6月から職員のテレワークがはじまった。中越さんも月に2~3回程度、自宅からテレワークをしている。「1人1台モバイルPC が貸与され、どこにいても仕事ができる環境が整備されています。テレワークで通勤時間が削減でき、家族との時間が増えました」という。職員のテレワーク実施率にはばらつきがあることから、課内で各職員のテレワーク実施状況を見える化し、共有している。

「まずは見える化することが大切です。そこからいろいろな課題がわかってきます」という。出勤が必要になる業務のひとつにFAX の利用があるという。部内で「FAX の利用に関する調査」を実施し、メールなど多様な通信手段の中で、FAX を使う理由を問うと「これまで使ってきたから」、「送信元がメールを使っていないから」といった回答があったという。通信手段を代替することができれば、FAX を受けとるために通勤する必要はなくなる。働き方改革やDX を進めるためには、当たり前だと思っている業務の手順などを見直していくことが大切だ。

 建設DX を推進するうえでも同様の手法が使われている。まずは関係者へアンケート調査やヒアリングを実施し、現状の課題や導入の障害になっている原因を明らかにする。そして、その対策を施策に盛り込んでいく。中越さんは「アンケート調査は、新しい技術を導入するメリットや県の方針を周知することにも役立っています」という。決定事項を一方的に伝えるだけではICT の普及はむずかしい。

1 人1 台のモバイルPC でどこでも仕事ができるよう
になった

産学官民の連携と情報共有

 最後に今後、建設業が変わるために取り組むべきポイントについてうかがった。中越さんは「産学官民の連携と情報共有」だと示唆する。「産学官それぞれが建設産業に危機感を持ち、様々なアイデアを出しているが、別々に取り組むと効率も悪く、効果も低いので、目標やそれに向けた取り組みについて情報共有をすることが重要で、さらに、その情報を発信し、民間を巻き込んでいくことが必要」だという。

 2022年8月に設立した山口県建設DX 推進連絡協議会や建設産業担い手確保・育成協議会がこの役割を担う。連絡協議会の意見を踏まえて、2022年度中に「山口県建設DX 推進計画」を策定する予定だ。 


 また「デジタル技術を用いて建設産業の生産性を向上させることは重要な課題であるが、デジタル技術を用いて建設業界以外の人たちに楽しく働いている姿を魅せることが新規入職者を増やす方法と考えているので、デジタル技術の普及促進を加速させつつ楽しい建設産業をアピールしていきたい」と抱負を語ってくれた。


建設物価2023年1月号