建設物価調査会

CIMモデルを活用した事業監理プラットフォームを構築により、生産性向上を目指す

国土交通省東北地方整備局鳴瀬川総合開発工事事務所



国土交通省 東北地方整備局 鳴瀬川総合開発工事事務所は、i-Constructionモデル事務所として、鳴瀬川総合開発事業において3次元モデルの活用を推進している。さらに発注者として統合CIMモデルを活用した事業監理を行うため、プラットフォームを構築。長期、かつ多岐にわたる工事の事業監理を統合CIMにより、一元化、見える化することで、業務の効率化やきめ細やかな監理を目指している。プラットフォームの構成や運用ルール、職員が継続して使うための仕組み作りなど、統合CIMによる事業マネジメントのポイントについてうかがった。

※鳴瀬川総合開発工事事務所ホームページ(https://www.thr.mlit.go.jp/naruse/




多目的ダムの新設と既存ダムの再開発

 鳴瀬川総合開発事業は、鳴瀬川流域の洪水調節、流水の正常な機能の維持、かんがい用水の補給、水力発電などを目的に、鳴瀬川ダムの新設と漆沢ダムの再開発を1つの事業として総合的に進めるもの。鳴瀬川流域は、2022年7月の豪雨をはじめ、これまで幾度も甚大な浸水被害が発生しており、治水対策が急務となっている。また世界農業遺産に認定されている「大崎耕土」のかんがい用水の安定供給など、地域からの期待も大きい。事業完了は2036年度の予定で、2022年度には工事用道路工事に着手した。「鳴瀬川流域の安全安心のために一日も早い完成を目指して、事業を着実に進めていきます」と副所長の樋川満さんはいう。



出展:鳴瀬川総合開発工事事務所ホームページ(https://www.thr.mlit.go.jp/naruse/



 同事務所は、2019年に3次元データを活用した取り組みをリードする全国10カ所のi-Constructionモデル事務所に選ばれた。「長期間の事業ですが、初期段階からi-Construction に取り組んでいます。現在は、事業監理を中心にBIM/CIM の活用を進めていますが、将来的には事業の進捗に応じて、施工や維持管理でも活用を拡大し、建設業全体の業務効率化と生産性向上に貢献することを目指しています」と専門調査官の久保田篤さん。



事業監理プラットフォーム

 ダム事業は事業期間が長く、ダム本体工事のほか、調査、設計、用地取得、付替道路工事、管理設備工事など多岐にわたり、事業監理が煩雑になる。さらに台形CSG 形式の多目的ダム新設と1981年に建設された漆沢ダムを洪水調節の専用ダムに改造する2つの事業を総合的に進めることから、事業エリアは広域で事業監理はより複雑になる。そこで、全体を俯瞰できる統合CIM モデルを構築して事業監理のプラットフォームとして活用していくことで、業務の効率化、生産性向上を図ることにした。一般的にダム事業ではCIM モデルを工事に活用しているが、全国の事務所の中でも統合CIM を活用した情報共有や事業監理はこれまであまり例がないという。

 職員は、人事異動により2~3年で担当を入れ替わることがある。事業監理プラットフォームを活用することで、業務の引継ぎや伝達をスムーズにしていくことも目的のひとつである。そのため、技術職員だけでなく、事務職員など全職員がアクセスできるように、アカウントを付与し、事務所全体で取り組んでいることも大きな特長だ。

 運用に先立ち、2021年度に全職員にアンケートを実施した。どういう場面で活用したいかという問いに対しては、地元説明会や広報などで事業概要や設計説明に使っていきたいという声が多かった。課題としては、パソコンのスペックといった利用環境があげられた。またデータを工事や維持管理に引き継いでいくことが大事だという意見もあった。収集された意見を参考にプラットフォーム構築や運用の方針を定めていった。


鳴瀬川総合開発事業の統合CIM モデル




情報共有とデータの蓄積

 2022年度に構築し、2023年度から事業監理プラットフォームの試行を開始した。統合CIM モデル作成にはNavisworks(NWD 形式)を使っている。しかし、データ容量が大きく、汎用のパソコンではスペックが不足する課題があった。そこで、全職員が快適に閲覧できるようにWeb ブラウザで共有・閲覧できる環境を構築するため、モデルの閲覧にはBIM/CIM 共有クラウドKOLC+(コルクプラス)を使い、ファイル共有のアプリケーションには、多くの実績があるJACIC ルームを採用した。

 航空レーザ測量(LP)により取得した点群データはデータ量が膨大なため、読み込みに時間がかかる。そこでポータルサイトには、国土地理院の地理情報システム(GIS)を使い軽量化を図り、ストレスなく操作できるようにした。事務所内のサーバーやクラウド上にある様々なデータは、3次元モデルに紐付けられ、直感的な操作でアクセスできるようになる。「調査、設計、用地買収、工事という流れで業務は進捗しますが、それぞれの担当ごとのデータの受け渡しが必要になります。CIM モデルには座標データもあるので、うまく共有できればと思います」と久保田さん。

 これまでは、所内のサーバーに保存されていた3次元モデルに同時にアクセスできないことがネックだったが、ポータルサイトから設計担当者と工事担当者がシームレスにアクセスできるようになったことも大きなメリットだという。

 CIM 活用の目的としてデータの蓄積がある。設計が進んでいく中で、概略設計、詳細設計と更新していくことで、最新のもので引き渡しができ、手戻りがなくなる。CIM モデルがあれば、工事事業者がICT 施工にも乗り出しやすくなるなど、各段階でのメリットが期待できる。

アプリケーションの要件




DX データセンターの活用

 受発注者が3次元データを円滑に活用するプラットフォームとして、国土技術政策総合研究所が構築したDX データセンターの運用が2022年4月から始まった。同事務所もモニター事務所として昨年度、プラットフォーム構築業務の受注者である八千代エンジニヤリング・日本建設情報総合センター(設計共同体)とともに活用を検討した。DX データセンター上でCIM モデルを共有することでデータの閲覧や受け渡しができる等のメリットを活かす検討を実施した。

 これまでデータの受け渡しは、コンサルタント会社が準備したクラウド経由、もしくはハードディスクやSSD などの電子媒体で行っていた。データの入ったハードディスクをA社に渡して作業が終わると、A社からB社に渡していった。DX データセンターを活用することで郵送によるハードディスクの破損やセキュリティリスクも避けられる。受け渡しにかかっていた時間も削減でき、途中段階の確認もスムーズになるなど業務効率は格段に上がる。また打ち合わせ資料や受注者向け説明会資料なども共有する仕組みである。DX データセンター上での統合CIM モデルの更新をルール化し、マニュアルも作成した。

 今年度も引き続き活用していくが、定期的なデータのバックアップが必要なことや契約期間が終了すると共有フォルダ自体がなくなってしまうため、ダム工事のような長期にわたる事業でのデータ共有には課題もあるという。



日常使いできる仕組みづくり

 事業監理プラットフォーム導入にあたり、2022年1月に職員に研修を行いアプリケーションの使い方などを解説した。今年度も新たな職員に説明会を開催した。前述した通り、事業監理プラットフォームは、業務改善の手段でもあり、いかに使っていくかが重要になる。まずは触ってみることからスタートして、継続して使うことで操作方法も習得できる。2022年からは、アプリケーションの操作方法の問い合わせや不具合の報告ができる職員向けサポートデスクも開設した。

 久保田さんは「職員が日常的に使っていくための仕掛けが課題だという認識を持っています」という。樋川さんも「CIM があるから使ってくださいといっても直接業務に関係ない人は、なかなか使いません。日常使いすることでCIM を身近に感じてもらうことが大切です」という。さらに「人が替わっていく中で、プラットフォームの運用を継続していくためにも事務所全体で日常的に使っていく仕組みづくりが必要です」と強調する。CIM を体験した職員が異動先で広めてくれることを期待しているという。「それがi-Constructionモデル事務所としての役割です」と樋川さん。久保田さんも「うちの事務所がきっかけになって他の事務所でも導入が進むことを期待しています」。

 対外的にも、東北地方整備局やダム事業を行う事務所にも取り組みを紹介する説明会を実施してきた。受注者向けにはDX データセンターでのCIM の更新についての説明会を行った。「事業の予算要求の際にも、資料を3次元にすることで、現場を見たことがない方からもわかりやすいと好評でした」と久保田さん。地元説明会でも3次元化した画像を見ながら説明することでイメージが伝わりやすくなったと好評を得ている。

事業監理プラットフォームの構成




工事や維持管理にも活用

 今後も、データをどう保存していくかを検討しながらプラットフォームの改善を継続していく。久保田さんは「運用の基本的なルールは必要ですが、使う側の視点に立つことが大切です。これがいいに違いないと思って作ったルールは押しつけになってしまい、うまくいきません。今の段階で完全なルールをつくるよりも、使いながら見直しをしていくことが大切だと考えています」という。

「施工計画はこれからですが、本体工事に入ると、道路やトンネル工事など複数の工事が同時に動いていきますので、施工計画を統合CIM の中に入れて4次元モデルをつくり施工管理を強化していければと考えています」と久保田さんはいう。また道路管理や河川管理で使われているGIS カメラの活用も検討しているという。施工段階で現場の写真やCCTV の映像をプラットフォームで共有できれば、現場の進捗管理や遠隔監視にも使え、データとしても蓄積できる。

 維持管理では、自然災害や漏水などの事象が発生した時にすぐに蓄積された設計データ、工事データが引き出せるようになる。久保田さんは「見たいデータは、段階ごとに変わっていきますので、画面構成を含めて使いやすいようにトランスフォーメーションしていくことが必要です。2022年に枠組みをつくりましたが、これが完成形ではなくアップデートしながら創り上げていくものだと考えています」。

 各段階や分野ごとに3次元データの活用により部分最適化は進んでいるが、生産性向上や業務効率化を図るためには、それらを統合し、事業全体のプロセスをマネジメントして全体最適化を図ることが求められる。同事務所の統合CIM による事業監理プラットフォームの構築と運用はその好事例だといえる。

DX データセンターの
活用による統合CIM モデルの更新イメージ

建設物価2023年7月号