建設物価調査会

土木技術者のBIM/CIM活用をソフトとハードの両面から支援

一般社団法人 Civilユーザー会


一般社団法人Civilユーザ会は、人材育成やCIMインストラクターの認定制度など、土木技術者の技術向上を支援しBIM/CIMの推進、発展のために活動を続けている。代表理事の藤澤泰雄さんと監事の長谷川充さんにBIM/CIM普及の課題や今後の活動についてうかがった。




3次元モデル導入を目的に発足

 代表理事の藤澤さんは、2005年から設計にAutodesk Civil 3D というソフトウェアを導入してきたが、土木業界の発展のためには、より多くの技術者に3次元モデルの利活用を促していく必要があると考え、2007年にアーリーアダプターを支援するための任意団体として、Civil 3D UserGroup を立ち上げた。
 その後、2012年に土木技術者の集まりとしてCivil User Group(略称:CUG)へと発展した。
 最初は、オートデスク社のサポートを受けて、新しいソフトやその使い方を紹介していた。次第に参加者も増え、知名度が上がり、講習会の講師やCIM の部品作成といった依頼が増えていった。そこで2015年に一般社団法人Civil ユーザ会を設立。現在もCUG は任意団体として活動を続けており、Civil ユーザ会と両輪で動いている。
 現在は、東京、札幌、新潟、大阪、広島、福岡に分会があり、会員数は約5,000人。会員の所属の半数以上が建設コンサルタント会社で、次に建設会社が多い。会員の職種は多岐にわたるが、土木調査・設計技術者が最も多く、CAD オペレータがそれに続く。分会ごとに東京は毎月、その他は隔月、オフラインミーティングを行い、講習会、現地見学会なども開催し、会員の交流を深め、技術向上に貢献している。今年は、コロナ禍で開催できなかった合宿形式の講習会を再開させた。
 監事の長谷川さんは「設立当初と比べ、会員数は約5倍に増えています。今年10月には岩手でも分会を開催するなど活動が広がっています」という。





CIM インストラクターの認定制度

 BIM/CIM を普及させるためには、使える人を増やしてボトムアップを図ることが必要だ。BIM/CIM の理解や習得には、まず実際に操作をして体験することが肝要だ。そこでCivil ユーザ会では、初心者からCIM スペシャリストまで、CIM の人材育成を体系化し、それぞれのレベルに合わせた研修プログラムを実施している。また講師を養成するためにCIM インストラクターの認定制度を創設した。現在、認定インストラクターは32人。一般社団法人建設コンサルタンツ協会から依頼を受け、CIM ハンズオン講習会に講師として派遣している。さらに上位のCIM スペシャリストは、技術だけでなく、Civil ユーザ会の理念や活動、BIM/CIM の可能性といったソフトを教え、伝道師として活躍できる人材を想定しているという。

BIM/CIM は発注者に一番メリットがある

 2023年度から国土交通省直轄の業務・工事でBIM/CIM が原則適用になり、3次元モデルをどう活用するかが重要になってきた。長谷川さんは、「私が直接関わっているところでは、関東地方整備局の取り組みがあります。同局は、以前からBIM/CIM の試行業務や普及を目指す研修などに着手していましたが、最近は、特に発注者が自らの業務に落とし込むべく本腰を入れて取り組みはじめていると感じています」という。
 これに対し、藤澤さんは「今は、3次元モデルをつくることが目的化し、ガイドラインの通りにすればいいといった間違った認識もあります。民間に任せておけば進展していくだろうといった風潮もありましたが、発注者側がBIM/CIM を理解し、自分たちのために使うという考え方が少しずつ定着しています」。
 藤澤さんも長谷川さんも「BIM/CIM は発注者に一番メリットがある」という。発注者自身がどう活用するかを決め、それをしっかり受注者に伝えていくことで効果が発揮できる。事業や予算の検討にもっと活用すべきだという。3次元モデルを設計から施工、維持管理に活用していく流れを思い描きながら進めていくことも必要だ。

3次元部品モデルの公開

 「今のコンサルタントの仕事の大半は、図面をつくることです。そしてそれが仕事だと思っています。しかし、それは本当の意味での設計ではありません。20年前から思っていたことは、設計者がデザインを考えることに注力して欲しいということです。国土交通省が導入を進めているからではなく、3次元の設計で新しいことができるという考え方で進めて欲しいと思っています」と藤澤さん。
 設計者が3次元モデルをつくる時は、設計の上では関係のないパーツモデルもつくらなければならない。藤澤さんは「クレーンの3次元モデル作成に時間をかけるより、デザインを考えてもらいたい。共通して使えるものがあれば、みんなが同じ施工機械や部品のモデルをつくる手間が省けます」。そこでCUG では、3次元部品モデルを公開して、利用できるようにしている。

設計と施工の新たな協働

 建設プロセス全体の生産性を上げるためには、設計、施工、維持管理などの各段階をシームレスにデータでつなぐことが必要になる。さまざまな試みが行われているが、実際には課題も多い。藤澤さんは、どんなケースで何が使えるかというユースケースワーキングが必要だという。「重要なのは、次の工程で何が欲しいかという情報が欠落していることです。そこは民間の力だけではむずかしい。国土交通省のBIM/CIM 推進委員会等でも検討を進めていますが、現場でどういうケースでどんなデータが使われているのか、事例を集めて公開することで、共通の認識ができてきます」。公共工事を受注した地方の建設会社が施工のための3次元データ作成や活用の支援を設計コンサルタント会社に依頼するといったこれまでとは違う流れも生まれている。
 設計コンサルタントからすると、設計は数量を出すためのもので、施工のためのものではないという。最近では、設計データがそのまま施工で使えると思っている人が増えていると藤澤さんは嘆く。そうであれば、データのつくり方や設計費用の見直しも必要になる。さらに設計ミスによる施工の瑕疵責任を設計者が負うことになれば、業界として成り立たなくなるとも。「今後は、概略設計は建設コンサルタントが行い、詳細設計からは施工者が参画するECI 方式のような形で、現場の方々と一緒に進めるという流れが増えていくだろうと考えています」。


今後求められるBIM/CIM のマネジメント

 発注者は、土木技術者が少ない中で、3次元データの確認など、これまで以上に業務の量も難易度も上がっている。藤澤さんは、発注者側に立ってBIM/CIM のマネジメントをする仕組みが必要だと提案している。米国では、発注者の代行をするBIM マネジャーがいるという。データの管理や検証、受注者とのデータの受け渡しなどを発注者の側に立って行っている。発注者も業務を効率化させるために自分たちがやるべきことと、民間に任せるところを区分けしていくなど、仕事のやり方を変えていくことが必要だという。藤澤さんは「国土交通省ではインフラ分野のDX を推進しているが、3次元データを使うだけでは、DX ではありません。何を変えていくかを一緒に考えて、改革していかないと、新しいことは生まれません」と示唆する。

数量積算の自動化と部品の標準化

 BIM/CIM を活用した発注者の積算関係作業の効率化が検討されているが、BIM/CIM ソフトを活用した数量積算の自動化において、自動算出機能の正確性などが問題になっている。実は、2次元CAD が出てきたとき時にも同じようなことがあったという。「新しい技術を導入する時には心配が必ずついて回ります。数量積算の自動化には、部品の標準化が不可欠であり、部品にコードをつける話とセットで考えるべきです」と藤澤さんはいう。米国と英国では、コード体系ができていて、部品には製品コードが付いているという。日本でも標準化が検討されているが実現できていない。
 建設コンサルタントは標準的な施工で積算をする。仮にA社は、標準的な方法で施工するが、B社は違う方法で施工費が半分になるとすると、最初からその情報が伝われば、コンサルタント側はB社の施工方式で積算できる。ECI 方式のように設計と施工が結びつくことで、工事費が正しく出せるといったメリットも生まれる。


柔軟な発想こそが必要

 藤澤さんは、3次元モデルの利活用推進をはじめた頃は、数年で普及していくと考えていた。
「20年前に思い描いていた世界とはかなり違っています。米国では、最初からきっちり決めずに一番いいやり方でどんどん変えていく。日本人は従来の仕組みにがんじがらめになって、そこを打ち破れない。2次元のやり方のまま3次元にしようとしてもうまくいきません」。
 道具が変わることで、これまでの発想ややり方も変わっていくべきなのだろう。藤澤さんはわかりやすい例えとして次のような話をしてくれた。「橋梁の3次元モデルを最初からつくるのは大変ですが、今までつくった形状をベースにいろんな部品を組み合わせる、あるいは、すでにある別のモデルをおいて、足りないところを伸ばしたり、広げたりすれば、新たな橋梁の3次元モデルがつくれます。そんなことはできないという人がいますが、考え方としては間違っていません」。


建設業界全体でよい流れをつくる

 23年1月にはCUG の会員を対象にBIM/CIMアンケート調査を実施した。「調査結果を見ると、CIM をよくわかっている人は意外と少ない。この結果を受け、BIM/CIM の基本を説明する講習会を各分会で開催することになった。来年以降も継続していく計画だ。また「会社にいわれてCIM に取り組んでいる若い人たちは、何のためにCIM を使っているのかあまり理解をしていないように見受けられます。積極的に取り組んで、新しいやり方に変えていって欲しいですね。考える力を育てることも必要だと思っています」と藤澤さんはいう。
 今後の活動としては、これまでの知見をまとめた本を出版する。また土木技術者向けのRevit 入門書も改訂する計画だ。
 「建設業界全体の人がみんなで一つのものをつくるときに、面白くていいものができたと言えるような流れになれば、若い人も参入し、達成感を得られるようになるでしょう。今後は、最終的には維持管理で使うことを考えて、柔軟に対応できる仕組みをつくっていくことが必要です」と藤澤さんは抱負を語ってくれた。

建設物価2023年11月号