建設物価調査会

自社のDX戦略としてBIMプロセスを構築し、全案件のBIM/CIM対応を可能に

ヒロセ株式会社

前列左から
DX 推進本部DX 戦略部BIM 推進 谷口千紘さん、DX 推進本部DX 戦略部BIM 推進 馬場凪沙さん、DX 推進
本部DX 戦略部BIM 推進責任者 加藤俊さん、DX 推進本部DX 戦略部BIM 推進 森本大士さん
後列左から
キャデック(株)BIM/CIM 推進室 課長 倉内彰仁さん、DX 推進本部DX 戦略部BIM 推進 押川亮さん、技術
工事本部施工支援部兼技術支援部 大越力丸さん


重仮設・仮設橋梁の計画から施工、材料のリース・販売事業を展開しているヒロセ株式会社は、2021年12月に社内にDX戦略室を開設し、BIM/CIMを活用した業務の効率化、最適提案やDX推進に適した人材育成を行っている。2024年度中には、全案件でBIM/CIM対応が可能な体制、環境を目指し、重仮設の専門工事会社として施工の生産性向上に貢献していく。




BIM による自社の業務効率化

 ヒロセ株式会社は、2021年にDX 推進室(現DX 戦略室)を開設し、自社の業務改善の取り組みを開始した。そして、2022年5月にはBIM 推進チームを立ち上げ、すべての案件でBIM/CIM対応が可能な環境を構築し、2024年度中にBIM/CIM の本格運用を目指している。

 これまでの経緯を振り返ると、DX 戦略室課長であり、BIM 推進責任者の加藤さんは、早い時
期からBIM/CIM の重要性を認識して、重仮設における3次元モデルの作成を進めてきた。2018年頃からBIM/CIM という言葉が一般的になり、社内に分科会を立ち上げ本格的に取り組んでいくことになった。「それまではお客様目線で考えていましたが、社内にフォーカスしてBIM を使ったスキームを組んでみると、社内の業務効率化に大きく貢献できることがわかりました。BIM プロセスが構築できれば、お客様の業務効率化、生産性向上にも寄与できます。また専門工事会社の中でいち早くBIM 対応ができれば、優位性があると考えました」と加藤さんはいう。システム開発には大きな投資が必要だが、経営層の理解や強力なバックアップがあったことで全社的なDX 施策が実施できることとなった。

BIM/CIM 活用の課題と解決策

 DX 戦略室のBIM 推進チームでは、2022年度に約40件のBIM/CIM 案件に対応したが、実案件での検証を通して、いくつかの課題が出てきた。
まずは業界全体の人材不足の中で、専門性の高いBIM/CIM 人材の確保がむずかしいこと。また設計段階では3次元モデルの活用が進んでいるが、施工段階になると2次元図面が求められ、BIMモデルが活用されていないケースが多いこと。さらにデータのやり取りやクラウドの活用など、BIM を使用したプロセスの確立が必要なことがある。

 これら3つの課題に対して、山留や橋梁の仮設といった重仮設の専門企業として、どのようなことができるかを考え、「お客様の省力化」「BIMモデルを育てていく」「実案件を使用した検証」という3つの解決策を打ち出した。

 お客様の省力化は、山留、仮設橋梁の3次元モデルを作成し、材料の管理や計測器をオンタイムで連動させ、BIM 上で確認できるサポートシステムを提供する。現在、営業サイドとBIM 推進チームで一緒にスキームを検討し、パッケージとして提案できる準備を進めている。

 建設業界では、2024年4月から「働き方改革関連法」が適用され、時間外労働時間に罰則付きで上限が設けられる、いわゆる24年問題への対策が急務になっており、ゼネコンからは、専門会社に3次元モデル作成の要望があるという。そこで同社では、自社で山留や仮設橋梁に関連する商材はすべてモデリングし、提供できる体制を確立した。

 「BIM モデルを育てていく」では、専門工事会社として、山留、仮設橋梁の施工レベルの3次元モデルを提供していく。事前協議をして、使い方に合わせたモデルを作成することでさまざまな活用が可能になる。

 「プロセスの確立」は、3次元モデルのデータの受け渡しや確認にはクラウドサービスが活用されているが、顧客企業によってクラウド環境が異なる。そのため、施工におけるBIM/CIM の本格導入をする前にトライアルとして、プロジェクト検証を一緒に行う提案をしている。

 同社では、検討段階の引き合いを含めて年間に2,500件から3,000件の案件がある。2024年度中には、これらの案件すべてをBIM/CIM で対応できる体制を構築していく。それを実現するために、システム開発による効率化、教育環境サポート体制の構築、人材開発の3つの施策を進めている。

BIM対応を10倍にするための方策

 システム開発による効率化では、BIM/CIM ソフトのRevit のモデル作成を補助するアドイン「Hi-YMS(ヒロセ山留モデリングシステム)」をグループ会社キャデックと連携して開発しており、24年度には社内にリリースする予定だ。パラメーターを入力すると半自動的に部品の配置ができ、僅かな工程でモデルができるように既存の計算プログラムとの連携を進めている。さらに数量表に結びつけるための開発も進めている。


 加藤さんの話では、従来のAutoCAD を使って2次元図面を描く作業量を1だとすると、その後、新たにBIM モデルを作成するには3倍の作業量が必要になる。BIM/CIM 対応案件は、これまでの2次元図面作成に比べてトータルで約4倍の労力がかかることになる。しかし、「Hi-YMS」を導入することで、3次元モデル作成時間の大幅な削減ができ、試算では約75% の時間が削減可能になるという。現在は山留版のみだが、今後は橋梁版などにも拡大していく計画だ。

 加藤さんはBIM/CIM がなかなか普及しない原因のひとつに業務量の増加を指摘する。新しい技術の必要性や効果は理解していても、導入することで負荷が増えることは避けたいと思う人は多い。「BIM/CIM を使うことで作業量が減る、もしくは同等レベルでないと使ってもらえません。業務量が増えないようにシステムによる効率化を徹底的に考えました」という。

人材育成とサポート体制の構築

 システムによる効率化の徹底には、システムを使える人材が必要になる。これまでは、BIM 推進チームですべてのBIM 案件に対応してきたが、全案件に対応するためには、社内や協力会社のBIM 人材を増やしていくことが必要となる。研修を実施し、社内と協力会社にBIM モデルを作成できる人材を20人以上にした。2023年9月からは、全本支店の設計者、技術者、オペレーション担当者の計60人にRevit 講習を実施している。


 さらに今年度からは、各本支店でも対応ができるように、人材育成を行いBIM 推進の担当者を配置した。今年度はOJT を進め、24年度からの本格稼働を目指していく。「国土交通省が、2023年から小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用することを決定したことで、各支店でもBIM/CIM に対応できる人材が必要だという認識があり、横展開も順調に進んでいます」と加藤さん。それを受け、DX 戦略室の森本さんは「お客様との会話の中にもBIM/CIM という言葉が登場することが増えてきました。BIM の知識を持つことで、お客様の要望を理解し、対応することができます」という。

 それに加え、社内向けのBIM のポータルサイトを構築し、eラーニングによる学習機会の提供や参考情報を掲載している。さらに昨年1月からは、外部のサポート会社と契約して、社員が疑問点などをいつでも問い合わせができる環境もつくり、バックアップ体制も万全だ。

概略設計と詳細設計

 設計コンサルタント会社と施工をするゼネコンでは、求める3次元モデルの詳細度が異なるため、これまでは設計データを施工に活用することがむずかしかった。「Hi-YMS」は、BIM モデルが概略設計にも対応していることが大きな特徴だ。概略設計も詳細設計と同様の高い詳細度でモデルを作成することで、その後の工程でも同じモデルを活用できる。


 これが大きな効率化につながると加藤さんはいう。概略設計は、大枠を決めるためのものなので、形状がわかればよく、複数案を提案することもあるため、できるだけスピーディに対応する。詳細設計は、概略設計で作成したモデルに在庫状況に合わせて部品を割り付けていくことで手戻りも少なくなる。これが実現できれば、目標の全案件BIM/CIM 対応が可能になる。さらに24年度になると、Hi-YMS が2次元CAD システムと連携できるようになり、2次元データを3次元モデルに変換するなど、幅広い業務が可能になる。

 施工においては、BIM モデルを活用したサポートで新たな価値を提供していく。例えばEC サイトや計測器などとオンタイムで連携していくことで、現場管理の効率化が実現できる。


業界全体での取り組みを

 「お客様である建設会社やその協力会社を含めて、当社のサービスを享受できるようなシステムを提供したいと考えています。まだ構想段階ですが、「管理」との連携を進めていきたいですね」と加藤さん。

 DX 戦略室の谷口さんは、今年4月に入社した。前職の設計業務でBIM/CIM を活用しており、「BIM 導入が業界全体の人手不足、長時間労働を解決する一番の方法だと思っています」という。一方で、取り組みのスピードが遅く、現場になかなかBIM/CIM が広がらないと感じていた。専門特化したDX 戦略室のメンバーとして、社内、さらに建設業の業務効率化に貢献していきたいと思いを話してくれた。

 森本さんは「BIM/CIM を取り入れることで、組織の縦割りに横串を通すことができます。フロントローディングでも組織を超えた連携が必要です。そういった意味で、BIM/CIM はコミュニケーションツールの一つにもなり得ると考えています。」

 最後に加藤さんは「今はBIM 案件が増えています。長い目で見ると10年後にはBIM に対応できないと仕事が受注できなくなるでしょう。これは会社の存続に関わることです。また重仮設業界全体で推進していくためにはスタンダードが必要です。協調領域として、標準をつくり、公開する準備を進めていきたいと考えています。当社グループは、BIM モデルを活用したDX のパイオニア的な存在として、お客様、建設業界、さらには社会に価値を提供していきたいと考えています」。



建設物価2023年12月号