建設物価調査会

データ連携、オープン化で官民連携を促進するインフラマネジメント基盤DoboX(ドボックス)

広島県土木建設局

左から
土木建築局 建設DX 担当 主査 廣重德之さん、土木建築局 建設DX 担当 岡本建人さん
土木建築局長 上田隆博さん、土木建築局 建設DX 担当課長 野浜慎介さん
土木建築局 建設DX 担当 主査(GL) 岡崎太一さん、土木建築局 建設DX 担当 主任 森永雄一朗さん

広島県では、2022年から、公共土木施設等に関するデータを一元化し、誰でも利用できるようにオープンデータ化し、外部システムとのデータ連携を可能とするインフラマネジメント基盤「DoboX(ドボックス)」を運用している。構築の背景や運用、今後についてうかがった。


県の将来像を実現するためのDX

 広島県では、デジタル化の進展による社会変化に対応するため、2019年7月に全庁横断的な組織「広島県DX 推進本部」を設置し、30年後の目指す姿を示し、それを実現するためにデータやデジタル技術を活用したDX の推進を掲げ、公共インフラ、健康づくり、交通、農林水産など各部局が連携して、取り組みを加速している。

 建設分野においては、2021年に目指す県土の将来像とそれを実現するための社会資本分野のマネジメント基本方針である「社会資本未来プラン」を策定し、その効果を高める施策としてDX を位置付け、先駆的に取り組むこととしており、目指す姿や具体的な取組案をとりまとめたものが「広島デジフラ構想」である。

 広島デジフラ構想では、①デジタル技術を最大限に活用、②データ利活用を推進、③人材育成と官民連携を推進するという3つの基本的な考え方を示し、50項目の具体な取組案を掲げている。

 広島県土木建築局の上田隆博局長は、「DX は、業務の効率化をはじめ、働き方改革や生産性向上、建設業の魅力づくりに大きく関わってきます。デジタル化を進めることは行政においても建設業界においても重要なことだと認識しています。建設分野のあらゆる段階において、デジタル技術を最大限に活用しながら、県民のみなさんの安全・安心、利便性の向上や、建設分野の生産性向上など、広島デジフラ構想で掲げる目指す姿の実現に向けて、さまざまな取り組みを進めています」とDX推進の重要性を語る。

 広島デジフラ構想は、若手職員が中心となり策定された。県民起点で考える、縦割りの壁を越える、さまざまな関係者を巻き込む、小さく始めて改善を繰り返す、失敗を恐れないという5つの取り組み姿勢が示されている。「社会経済の大きな変化に対応するには、行政においても新たな発想が必要です。DX を進める上で、5つの取り組み姿勢は大きな指針になります」と建設DX 担当主査の岡崎太一さん。

土木や防災に関するデータを一元化し、公開

 全国に先駆けたDX の取り組みとして注目を集めているのが、インフラマネジメント基盤
「DoboX(ドボックス)」である。県が所有する土木やまちづくり、防災に関連するデータを管理者の枠を超え一元化し、公開して誰でも利用できるようにした。さらに外部とデータ連携することで多様な活用や質の高いサービスの展開が可能になる。「DoboX は、広島デジフラ構想の目指す姿を実現するために2年をかけて開発し、2022年6月に運用を開始しました。県や市町などが保有するさまざまなデータの一元化、オープン化を進めるとともに、3D マップの公開や県内全域の3次元点群データがダウンロードできるサービスなどを提供しています」と上田局長。

 道路や河川、砂防、港湾、都市計画などの土木建築局各課が管理するデータを中心に、危機管理監や農林水産局などが所有しているデータも含め、部局を超えてデータが一元化された。公開するデータの選定に当たっては、庁内で運用している関連システムの情報を洗い出し、その中からDoboX に公開するデータを絞り込んでいった。県民の更なる利便性向上や、官民連携によるサービスを向上させるには、データの一元化により、県民や企業へ分かりやすい情報提供が不可欠であることから、ユーザーファーストの視点に立ったデータ公開のあり方について時間をかけて庁内関係者と協議を重ねた。連携候補となる庁内の約50システム・データの所有者に対し、各システムの構成や、インターフェースの有無、取扱いデータなどの確認を行い、約20システム・データをDoboX に連携・搭載することとした。

 「想像していた以上に反響が大きく、運用開始直後は1か月のデータダウンロード数が約5,000でしたが、今では、試行運用中のデータ連携も含めると約30倍になっています」と岡崎さん。データカタログやマップ上から用途や目的に応じてデータを検索でき、利用者からも使いやすく、アクセスしやすいと好評だ。

 また、広島県では、国土交通省が推進しているi-Construction の取り組みの1つであるBIM/CIM の活用を拡大している。2025年度には主要な土木構造物の詳細設計を行う場合、すべての業務においてCIM モデルを作成する目標を掲げており、地形モデル作成にあたっては、DoboX において公開している3次元点群データを活用することで、時間やコストの短縮につなげている。

 DoboX は進化を続け、公開データの種類や数が増えている。2023年9月に公開した都市計画基礎調査データでは、地図上に建物の利用状況などをダウンロードできるサービスの提供を開始した。企業が進出する際に立地条件の傾向を掴んだり、SNS の情報と組み合わせて人気飲食店が集中する地域の傾向を解析するなど、企業のマーケティングや大学の研究でも活用され始めている。

 また2014年度から2018年度に航空レーザー測量で取得した県全域の3次元点群データをDoboXで公開している。さらに2018年7月の豪雨災害後と2022年度に航空レーザー測量で取得した3次元点群データも新たに公開した。広島県は平成30年豪雨災害による被害実態を把握するために航空レーザー測量による3次元点群データを取得し、データを多方面に貸し出し、被害の状況の解析や、災害復旧申請等に活用し、早期復旧につなげていった実績があることから、これらを公開することで、大学や民間企業などで土砂災害の発生原因の研究やシミュレーションなどで活用されることを期待している。

AR を活用した防災ツール

 DoboX には、河川やため池などの浸水想定区域や土砂災害警戒区域など、防災関連情報が充実しており、実際、防災関連データのダウンロードが多いという。広島県は、平成30年7月豪雨災害により県内全域で土砂災害や河川の氾濫が多数発生し、甚大な被害があったことから防災には力を入れている。県では被災状況や県民の避難行動について詳細な調査を行い、防災・減災政策に生かしている。計画的なハード整備を着実に推進するとともに、調査結果から、事前の準備が災害時の避難行動につながることがわかってきたので、災害リスク情報の的確な発信や防災教育の高度化など、デジタル技術やデータを活用したソフト対策のさらなる充実・強化が必要となる。

 県民に土砂災害のリスクを正しく認識してもらい、適切な避難行動を促すために開発されたのが「キキミルAR」だ。AR(拡張現実)やGPS 機能を使い、スマートフォンのカメラ映像上に土砂災害警戒区域等を表示するもので、土砂災害リスクを可視化し感覚的に、直感的に認識できる。

 砂防課砂防企画グループ主任の向井悠貴さんは「従来の2D 地図による情報提供のみでは、土砂災害リスクを自分ごととして認識しにくいことが課題の1つでした。日頃から周囲の土砂災害リスクを確認し、適切な避難行動に繋げていただけるよう、スマホをかざして土砂災害警戒区域等を確認できるキキミルAR を普及させていきたいと思います」。令和4年のリリース以降、継続して改修に取り組んでおり、「地域の砂防情報アーカイブ」と連携させ、過去の災害写真等を同カメラ映像上で確認できる機能も新たに搭載している。キキミルAR を使った広島工業大学の学生からは、利用促進のために防災イベントでの活用やスタンプラリーといった提案もあった。毎年、梅雨前線や線状降水帯の発生などで土砂災害リスクが高まる6月は土砂災害防止月間として、重点的に広報していることもあり、冬場の約4倍のアクセスがあるという。2023年度は平成30年西日本豪雨で土砂災害が発生した現場が近い、海田南小学校でキキミルAR やVR を使った疑似体験型防災教育を実施した。その他にも、広報課と連携してキキミルAR のPR 動画を作り、広島県のSNS 公式アカウントで配信している。

キキミルAR

 県では、自らの防災行動計画シート「ひろしまマイ・タイムライン」の作成を呼び掛けている。県内の全小学生に配布することで、子どもとその保護者にも関心をもってもらえる。さらにデジタル化してPC やスマホで作成できるようにした。

 また建設DX 担当は、スマートフォンアプリの「ヤフー防災速報」の「防災タイムライン」の開発に企画段階から協力するなど、平成30年7月豪雨災害の経験を活かし、官民連携による災害リスク軽減策にも取り組んでいる。

人材育成や連携による新たな共創

 「DoboX は、デジタル庁が推奨しているデータ連携基盤で、国や市町、民間企業と、インターネット上でデータ連携する仕組みです」という建設DX 担当主任の岡本建人さんの言葉を受けて、岡崎さんは「我々が目指しているのは、データを広く使っていただき、県民サービス向上につなげていくことです」と強調する。

防災施設の情報や過去に発生した災害のアーカイブ、県内の道路規制情報などの公開データを民間事業者が運営しているアプリと連携することで付加価値を高めたサービスの提供が可能となる。自前でデータを取得できる大企業だけでなく、スタートアップや県内の中小企業にとってもビジネスチャンスになる。実際、民間事業者がDoboX のデータを使って新しいサービスを始めたことでデータのダウンロードが一気に増えたという。

DoboX のデータは土木やまちづくり以外にもさまざまな分野で実装されている。例えばJR 西日本の観光情報のアプリ「tabiwa by WESTER」では、DoboX の瀬戸内海の航路情報やビューポイント写真情報が使用されている。

 データ利活用の有用性を広く発信することや次世代を担うデジタル人材の育成等を目的にイベントを実施している。2023年9月には、国土交通省の都市デジタルツイン実現プロジェクトPLATEAU と連携して、アプリ等開発の支援イベントである「DoboX × PLATEAU HackChallenge2023 in 広島」を開催した。学生や県内の建設コンサルタント、スタートアップなどから多様な人が参加し、都市モデルと個人情報を融合させて避難状況を可視化する提案や、コミュニティバスの情報をGTFS に変換させて情路線検索サービスで活用できるようにする提案など、防災、ユニバーサルデザイン、交通に関するアイデアが出された。

 また「DoboX」のデータを活用して、地域課題の解決に有効なアプリケーションやアイデアなどを募集し、優秀作品を選考するコンテスト「DoboX データチャレンジ2023」が開催された。応募のあった14作品のうち、学生グループによる浸水シミュレーションモデルを活用した避難行動支援アプリ「Forecast HazardMap」と熊平製作所の「自主防災組織支援アプリ」が大賞に選ばれた。

熊平製作所のアプリは、気象情報センターや県、市が公開している情報を自動取得する仕組みを構築し、それをDoboX にAPI 連携することで県内の自治会ごとに必要な防災情報を一元化して提供するサービス。

今後は自治会にすべてに無償で提供していく予定だという。地域の防災力向上につながり、防災用カメラの設置など自社のビジネスにもメリットがある。「民間の方々も活動を巻き込んでいくことで新たなサービスに展開しています。行政がリスク情報をどんなに提供しても限界があります」と岡崎さん。

岡本さんは「発想が柔軟で、ユーザー目線のご提案はとても刺激になりました。ビジネスモデル化の重要性など審査委員の先生方の示唆に富むコメントも印象的でした」。

 大学の教材や研究にもDoboX のデータが活用されているが、工学系だけでなく、情報系、都市計画系や文化財の発掘調査など、幅広い分野で活用されている。文化財を発掘するために、点群データを使って今まで未報告だった人工地形物を発見できたという。

 進化を続けるDoboX の今後について、上田局長は「運用開始後も利用者ニーズに応じて改善を繰り返しながら、県民サービスの向上に取り組んでおり、民間事業者から新たなサービスが開発されるなど、インフラマネジメント基盤としての成果が着実に表れています。今後もデータの拡充や各種プラットフォームとの連携、データ利活用の利便性向上や情報発信など、さまざまな取り組みを進め、民間事業者のみなさんの自由な発想とアイデアから生まれる新たなサービスや付加価値の創出につなげていきたいと考えています」。

 取材を通して感じたことは、インフラマネジメントのDX を推進するためには、データの公開や連携だけでなく、人や組織の連携、人材育成が重要になることだ。広島県の建設DX 担当は、「広島デジフラ構想」で示された5つの取り組み姿勢を実践し、県庁内外のさまざまな場とつながり、オープンな交流を通して共創を進めている。自治体からの視察も多く、上田局長は「先進事例として全国から反響があります。スタッフもモチベーションを上げて、さらにステージを上げていきます」と語る。

建設物価2024年4月号