建設物価調査会

BIM/CIMモデル活用のメリットは利益の源泉と工期短縮

株式会社橋本店

(右から)
株式会社橋本店 専務取締役 土木本部長      相原 真士さん
株式会社橋本店土木部 業務効率推進課 課長補佐  菊地 佑磨さん
株式会社橋本店土木部 業務効率推進課       藤本向日葵さん

5年間の猶予期間が終わり、2024年4月からは建設業においても「働き方改革関連法」が適用になった。担い手不足が進む中で時間外労働の上限が規制され、生産性を上げていくことが課題となっている。宮城県を拠点にする総合建設業の株式会社橋本店は、2024年問題の対策として5年ほど前からBIM/CIMを導入し、成果を上げている。同社の先進的な取り組みについて話をうかがった。

 

145年にわたり、東北地方のインフラを支える

 2023年に創業145周年を迎えた株式会社橋本店は、宮城県を拠点にした総合建設業の会社。土木部は、宮城県内を中心に国や自治体などから発注された道路や橋梁、トンネル、湾岸や河川における構造物の建設や維持管理を行っている。東日本大震災の復興道路の整備や津波被害を受けた市町の防潮堤整備などの事業に携わり、東北地方の復興を支えてきた。
 同社は、創業以来、常に先進的な技術を取り入れて成長を続けてきた。近年はBIM/CIM、ICTを実装し、2023年には東北地方おけるインフラ分野のDX に係る優れた取り組みを表彰する「みちのくインフラDX 奨励賞」を受賞。2024年には第12回「富県宮城グランプリ」のデジタル・トランスフォーメーション(DX)部門賞を受賞している。

2024年問題解決のためにBIM/CIM を導入

 同社専務取締役で土木本部長の相原真士さんは「本格的にBIM/CIM を導入したのは5年ほど前です。2024年問題対策として、3次元モデルを活用して業務効率化や高度化を図り、働き方改革や生産性向上を実現することが目的です」とBIM/CIM 導入の理由を明快に語る。BIM/CIM を内製化するために建築と土木それぞれにデジタル推進課を開設して専任の社員を配置した。バックオフィスを設けることで現場の負担を軽減する狙いもあった。「人材育成でスキルアップが図れたので、土木のデジタル推進課に菊地を配置して2人体制にしました」と相原さん。入社11年目の菊地佑磨さんは、大学で情報通信工学を学んだ。大学在学中に東日本大震災を経験し、地元の復興に携わりたいという思いから同社に就職した。「現場を経験してからBIM/CIM 担当になりました。入社当初は土木の知識がなく、何をいっているのかさっぱり分かりませんでしたが、現場で仕事の流れを覚えていきました。それがBIM/CIM モデル作成に活かせています」という。菊地さんは通常のBIM/CIM 業務の他に冬期は仙台市から受託している除雪業務も担当している。相原さんは「もう1人のメンバーも災害復旧事業の現場に出ています。基本的にBIM/CIM の業務はデスクワークですので、できるだけ多くの経験をさせたいという思いがあります」という。

 2024年4月からデジタル推進課は業務効率推進課に名称が変わり、土木分野では新たに1人が加わった。「現場の生産性や高度化をサポートするバックオフィスとしての効率性を高めるための体制を組んでいます。年間の業務の流れや仕事量から適正人数は3人だと考えています」と相原さん。4月からは、これまで外注していたレーザースキャナーによる測量を内製化していく。ドローンも新たに購入した。「土木部は90%以上が公共の仕事ですので、準備段階の起工測量が多くなり社内のマンパワーだけでは賄いきれない場合は、外注することも視野に入れています」と相原さん。新たにメンバーとして加わった藤本向日葵さんが起工測量や点群処理を担当していくという。藤本さんは大学で土木を学び、入社1年目で災害復旧の護岸工事の現場に配属され、昨年は宮城県の上水道・工業用水道・下水道を一体的に運営する「みずむすび」に携わった。今後はドローンオペレーターとして測量の第一人者として活躍していく。

BIM/CIM の活用は3D モデルの作成だけではない

 相原さんは「BIM/CIM の活用は3D モデルを作成するだけではなく、もっと大きく捉えるべきです。BIM/CIM の本来の目的は業務効率の改善です」と強調する。

 相原さんは、土木本部長に就任する前は、技術管理部長として全社の新技術導入を推進してきた。「会社がソフトへの投資を認めてくれたことが、現在につながっています」と相原さんはいう。幕張メッセで開催されるCSPI-EXPO に足を運び、最新の技術やサービスをチェックするという。「毎年どんどん新しいアプリケーションが出ています。その中から、これだと思うものを導入しています。今までドローン測量の内製化は考えていませんでしたが、今年になり、当社に使いやすい技術が出てきたことで、今だったらできると確信しました」という。

 これまで土木の世界は熟練した技術者の経験に頼ってきたが、これからはデータを活用して業務を効率化していく必要がある。相原さんは「データの蓄積ということでは、現場の流れが簡単にわかるタイムラプスは有効です。最近は、各現場でWeb カメラにタイムラプス機能をつけています」という。現場でも4D 化のメリットが認識されている。

時間軸とコストを付与した5D で合意形成を促進(図1~3)

 仙台河川国道事務所発注の仙台地区橋梁下部工工事では、合意形成を円滑にするため4D 化、5D化を行った。具体的には、地上レーザースキャナーで取得した現況の点群データに作成した3Dモデルを反映させ、時間軸を設けることで4D 化する。4D 施工シミュレーションを行うことで施工ステップやスケジュールを事前に検討することができ、作業員や若手の教育資料としても活用できる。設計変更があったことから、4D に材料要素のコスト事項を付与した5D 化を行い、最適な施工方法や施工範囲の検討を行った。5D の活用により、施工範囲ごとのコストを見える化し、比較検討を行った。発注者との協議や合意形成が円滑に進み、最終的に工事金額も増額になった。また数量算出、設計変更業務の効率化・コスト削減も実現した。さらに当初の工期18か月を0.8カ月短縮し17カ月に、業務時間を130時間短縮した。

設計照査や施工計画、設計変更も容易に(図4~6)

 公共工事はBIM/CIM 原則適用になり、発注者から3D モデルを提供されるケースも増えてきた。設計照査でもBIM/CIM 活用の効果が発揮されている。宮城南部復興事務所発注の内川流域山下堰(左岸工事)は、台風19号の災害復旧事業として阿武隈川水系内川左岸に河道堰をつくる工事。BIM/CIM 活用工事ではなかったが、設計が活用業務だったことや当初から自発的にBIM/CIM モデルを作成していたことから受注者希望型として実施した。

 設計BIM/CIM モデルと契約図書(2次元図面)の照査と施工計画の検討で、いくつかの不整合箇所が見つかった。作成したBIM/CIM モデルを利用することで照査の時間短縮や手戻りの防止を図ることができた。また協議資料にそのまま使用することで資料作成時間が短縮でき、イメージ共有による打ち合わせ時間の短縮にもつながった。

 契約図書が最終図面でなかったため、BIM/CIM モデルのつくり直しが必要になった。同社では、起工測量として地上レーザースキャナーによる現況点群データを取得し、それをもとに地形モデル、土工形状モデル、さらに2次元図面をもとに構造物を3次元化して、すべてのモデルを組み合わせて統合モデルを作成した。施工範囲外については、受領した3D モデルをそのまま使った。BIM/CIM モデル活用により、工期全体の時間の約7%にあたる0.9カ月、140時間が短縮できたという。

 この工事では、リクワイヤメントとしてBIM/CIM モデルを活用した対外説明を行うことになり、より現実に近い形で周辺地形を含めた完成イメージを作成した。水面の揺らぎや光の反射、背景の樹木など再現度が高い。菊地さんは「ゲームエンジンを元にビジュアライゼーション向けに開発されたTwinmotion というソフトを使っています。必要なところは詳細に作り込みますが、作成にかける時間を見極めることも必要です」という。

 さらにAR(拡張現実)技術の利用とイメージアップ看板の掲示を行った。AR の活用では、アプリの入ったスマートフォンを現地でかざすと3D モデルを高精度で現実空間に投影できる。試行段階で現地確認したところ、施工範囲の確認や構造物の位置を正確に把握することができ、完成イメージの共有や支障物、進捗確認などに効果的であることがわかった。

建設用3D プリンターの活用

 宮城南部復興事務所発注の宮城県丸森町の内川(右岸工事)の河川魚道工事では、魚道内に設置する隔壁の製作に建設用3D プリンターを活用した。従来は、複雑な曲線に合わせたプレキャストコンクリートの工場製作が必要だが、熟練した型枠職人の確保がむずかしくなっていることや現場までの輸送コストが課題だった。3D プリンターを活用することで複雑な形状にも対応でき、型枠も不要になる。現場近くに3D プリンターを設置することで輸送も不要になる。省力化、省人化、工事期間の短縮など生産性の向上が図れる。公共工事で建設用3D プリンターを採用するのは宮城県では初めてという。2023年12月には国土交通省東北技術事務所で製作見学会が開催され、大きな話題となった。

フロントローディングによる施工の効率化(図7~9)

 同社のBIM/CIM 活用事例では、工事規模にもよるが、1か月程度工期を短縮している事例も多く、会社の収益にも貢献している。「CIM モデル活用のメリットは利益の確保と工期短縮です」と相原さんはいう。工期短縮には、完成形のイメージが事前に共有できることで手戻りがなくなったことが大きいという。また相原さんは「施工前半に労力をかけることで、工程が滑らかになるようにフロントローディングの仕組みづくりを意識しています。それが成果として現れています」とフロントローディングの重要性を話してくれた。

 宮城県企業局発注の姥ケ懐調整池(躯体・配管)工事では、4D 活用による施工手順の最適化・工期短縮、重機稼働範囲の検証による安全性の向上、フロントローディングによる手戻りの防止を目的にBIM/CIM が活用された。ナビスワークスのタイムライナーを利用した4D 施工シミュレーションで施工ステップを可視化した。特に補強土壁工ではパネルごとの施工手順など、図面だけでは理解できなかった施工の流れをイメージできるようにし、施工の効率化、手戻りの防止を図った。また現地測量で取得した点群データと土工モデルの比較により土工数量を算出し土配計画・設計変更業務の時間を短縮することができた。また3D 建機シミュレーターによるクレーンの配置計画を行い作業半径や安全率を可視化し効率的に配置を検討した。BIM/CIM 活用により、当初26カ月の工期が1.1カ月、170時間短縮できた。

AR による施工ステップの見える化(図10・11)

 楽天スタジアム西側の幹線道路の現場では、埋設する地下構造物の形状や施工ステップをわかりやすくするために、現実の動画にAR の機能をつけた。「BIM/CIM はAR との相性が良い」と相原さんはいう。施工手順の可視化、働き方改革、生産性向上、コスト削減を考えてタイムラインの機能を使い時間軸を付与し、さらに属性情報をつけて5D 化した。AR や地下構造物の施工ステップの見える化は近隣住民への説明にも大いに役立ったという。

今後の展望や計画(図12)

 BIM/CIM 活用業務では、3D モデルに属性情報を付与することが求められている。従来は3D作成ソフトに部材1つひとつの情報を手入力しなければならず作業量が膨大だった。同社では、エクセルで入力した属性情報を「Civil 3D」モデルに自動で付与できるARK CIVIL を活用していく。大幅に時間が短縮でき、エクセルデータから数量拾い出しもできるため、数量算出の省力化にもつながる。今後は、数量計算書へのリンクや5D コスト管理での展開を検証していくという。

 最後に今後の展望についてうかがった。相原さんは「起工測量の内製化をうまく進めていきたいですね。ただ、バックオフィスが忙しくなりすぎて残業時間が増えてしまっては本末転倒ですので、調整しながら2024年問題をうまく解決していきたいと思っています」。

 さらに「今後のBIM/CIM 活用で重要なことは、
①施工管理体制の効率化、
②安全で確実な施工方法の確立、
③5D 活用によるコスト管理、設計変更へのスムーズな対応

の3つだと考えています。新しい時代に向けてさらなる挑戦を続けていきます」と相原さん。

 業務の効率化・高度化のためにBIM/CIM モデル活用を推進している同社の取り組みは、まさに建設業のDX のあるべき姿だといえる。

建設物価2024年7月号